これは報われない恋だ。

朝陽天満

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774、レガロさんの実力

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 俺とヴィデロさんは二人で同時にクエスト欄を開いた。

 ヴィデロさんももう慣れたもので、宙で動かす指もかなりスムーズに操作している。



「浄化範囲まで示せちゃうレガロさんのクエストってある意味スゴイよね……」

「この範囲をどうやって調べて俺たちのここに表すのか、ちょっと気になるな……」



 2人とも思ったのはそのことだった。前もパーセンテージが表されるクエストは何個かあったけれど、改めて見るとなかなかに不思議だ。だって浄化された範囲がここにタイムリーに表されるんだよ。レガロさんだからって言われたらそれだけで納得しそうではあるけれど。



「それはですね。すでにクエストとして皆が拾い上げた時点で私の手は離れているので正しくは私の力ではないのですが、魔素の性質を読み取っているんだと思います」

「魔素を読み取る……って、何気なく言ってますがすごいことですよね」

「索敵や探知、感知などのサーチ系統も同じ原理ですよ。そこまですごいことではないのではないでしょうか」



 ニコニコするレガロさんに「いや充分すごいから」と心の中で突っ込み、ため息とともに視線を外すと、俺たちは立ち上がった。

 ノワールとディーも一緒に行動するらしい。

 ニコロさんは魔物の前に出たりして大丈夫なのかな。



「ニコロさんは戦闘は?」

「猊下はもちろん、浄化要員としてお願いいたしましたので、私とネーヴェが僭越ながら前衛を務める気でいました。が、ヴィデロ君がいてくれるのならとても頼もしいです。では、出発しましょうか」



 レガロさんの言葉と共に、俺たちは聖域の奥に移動を開始した。

 それにしても、レガロさんが前衛……なんか無敵そう。





 さすが聖域というべきか、穢れた魔素の無いところは、全く魔物が出てこなかった。

 時々獣の影がよぎるけれど、そこらへんは野生の聖獣らしいのでそっとしておくように三匹の聖獣たちに釘を刺された。あと、ふらっと変な所に行かないように、と。縄張り意識が強い聖獣もいるので、その縄張りに行って余計なトラブルを避けたいんだそうだ。

 ネーヴェにニコロさんが乗り、ディーにレガロさんが乗り、ノワールが俺たち二人を乗せてくれて、聖獣の足で先を進む。速くて快適で、とても乗り心地がいい。俺は手に卵を抱いているので落ちないようにとヴィデロさんが支えてくれているので安心して乗っている。三匹ともとても速くて、程なく穢れた魔素の入り込んだ東の山脈に辿り着いた。山の中の洞窟的なところを移動してるから、実際には現在地はわからないけれど。



「ここら辺は、エルフの里の若木がまだ未熟だった時に入り込まれてしまった場所です。今は成長し、穢れた魔素が入り込む余地はありませんが」



 ディーから降りながら、レガロさんが説明してくれる。

 ニコロさんもネーヴェから降りて、服の乱れを直しながら、周りを見回している。



「確かに、ここら辺は少し空気がよろしくないですね……」



 ニコロさんは少しだけ顔を顰めて、懐から小さな杖を取り出した。

 ニコロさんの口から浄化の詠唱が紡がれると同時に、杖に装着された石が光り輝く。



「『浄化鎮魂歌ピュリファイレクイエム』」



 ニコロさんが杖を振ると、そこを中心に風が吹いた。その風と共に柔らかな光が辺りを包み込む。

 一瞬にして浄化されたことに感嘆の声を上げながら、クエスト欄を開くと、パーセンテージが10%まで増えていた。



「流石猊下です」

「これくらいは出来ないと今の立場として問題ありですから」



 レガロさんの言葉にニコロさんが困ったような顔をする。

 まだここら辺は薄いらしく、魔物は発生していなかった。

 奥に行くほど穢れた魔素は濃くなるらしい。くまなく浄化とか、ニコロさん大変じゃないかな、MP的に、と思ってたら、レガロさんがすかさずマジックハイポーションを渡していた。

 ニコロさんが飲み干し、目を瞠る。



「これは……ずいぶんとフルーティなマジックハイポーションですね」

「はい。特注品を買ってきましたので。セッテの農園で活動している薬師殿が作る回復薬なのですが、そこで採れる果物を混ぜ合わせてこの味を出すことに成功したとか。私も一度飲んでとても気に入ってしまいまして」

「そうなのですね。飲みやすくなるのはありがたいですね。……ですが、美味しくて飲みやすいからと、無茶をし始める方が出ないといいのですが」



 手を差し出したレガロさんの手に瓶を戻しながら、ニコロさんが小さく溜息を吐く。

 きっとその思いは無駄です、ニコロさん。プレイヤーたちはたとえハイポーションが不味くても全く関係なく笑顔で無茶しに行きますから。

 死に戻り出来るからね。でも、たとえ死に戻り出来たとしても、目の前でヴィデロさんがやられるのを見るのはいやだし、ヴィデロさんも同じ気持ちなのは知ってるから、無茶はしません。



 さすがというかニコロさんが唱えた聖魔法の浄化範囲は結構広くて、次の範囲までの移動はまたしても聖獣の背中のお世話になった。

 次の場所に移動すると、俺はカバンから起爆剤を取り出した。これで更に浄化範囲を広められないかな、と思って。魔大陸の村でやった方法で。

 レガロさんがそれを受け取って、自らセットしてくれた。結構遠くに置いて、奥を見て「おや」と呟いている。

 一瞬で剣を抜き、暗がりから飛び出してきた魔物の頭をくし刺しにする。

 待って、レガロさん、今まで腰に剣なんて差してなかったよね。魔物を瞬殺したことよりも、そっちの方が気になってしまった。

 レガロさんは続けざまに三匹の魔物を消し去ると、「セット出来ましたのでお願いします」とこっちに合図した。

 ニコロさんが詠唱する。光の範囲が起爆剤まで届くと、更に先まで聖魔法の効果が伸びた。細長い洞窟だから、起爆剤を使うと面白いくらい範囲が広がっていく。その代わりセットしに行くときに魔物に襲われるというオプション付きだけれども。ヴィデロさんはそっちをレガロさんに任せて、俺とニコロさんのすぐそばに控えている。聖獣たちはレガロさんと共に前線に行ってるんだけど、レガロさんの方が若干聖獣より速い気がするのは気のせいかな。一人で切り伏せていく。



「いやあ、ヴィデロ君がいると安心して猊下のそばを離れることが出来るのでとてもありがたいです」

『我らではいまいち頼りにならぬか』

「そんなことはありません。しかし皆が前線に出れるということは、魔物の殲滅も安心して行えるというもの。思ったよりも早くこの綻びを繕うことが出来そうで嬉しいです」



 レガロさんがにこやかにネーヴェの首を撫でて機嫌を取っている。

 でも本当に俺とヴィデロさんはいらなそうだよね。とほんのちょっとだけ思って、俺は苦笑した。



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