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758、俺の心臓は瀕死です……
しおりを挟む今日は現実世界でヴィデロさんとデート。
と言っても、結婚式の衣装合わせのようなもの。
ヴィルさんが予約を取ってくれていて、俺とヴィデロさんは時間までに行くだけ。
歩いても行ける距離なので歩いていくことになっていたんだけど、ビルから出たら外にうちの両親が待っていた。父さん車を出してくれるんだって。
にこやかに運転する父さんは、ヴィデロさんを助手席に乗せてちょっと浮かれている。
ヴィデロさんはおっかなびっくり車に乗ったけれど、父さんの運転にすぐに安堵の表情を浮かべていた。アリッサさんの運転どれだけすごかったんだよ。乗りたくはないけど気になる。
「ラウロさんから日程を聞いて、一緒に行っちゃおうかって父さんと相談してたのよ」
母さんも俺の隣に座ってにこやかにそういった。そういう相談は俺本人ともして欲しいんだけど。
そう零すと、母さんはカラカラ笑って「だって健吾に聞いたら来なくていいよって絶対に言うでしょ」って。読まれてる。
時間もかからずに衣装屋さんに着いて、4人で店に入ると、ガラスで仕切られた奥の部屋にはずらりと色とりどりな衣装が並んでいた。主に着物が多いのは、沢山のセレモニーで貸し出しをするからなんだって。
「今時神社でのお式は珍しいですね。あそこはとても親しみのある神社ですので、素晴らしいと思いますよ。景色に映える衣装のお探しをお手伝いさせてもらいますね。この度は大変おめでとうございます」
受付のお姉さんににこやかにそう言われて、ちょっとだけ赤くなる。全然知らない人におめでとうって言われるの、なんか不思議な気分だ。
母さんたちが手前の部屋でお茶を飲んでる間に、俺とヴィデロさんは衣装がずらりと並んだ部屋に通されて、あれよあれよという間に数点の着物を目の前に突き出されていた。
試着室らしきところに連れて行かれて、あっという間に俺は袴を身にまとっていた。まるでインベントリから着替えしたような早業だった。
白い着物と羽織、そして水色から濃紺に色が変化する袴。
少しだけ伸びてもう少しで目にかかる前髪を上げればとても素敵になりますよ、と言われてカーテンの外に連れ出された俺は、そこで心臓を鷲掴みにされた。
ヴィデロさんが、黒の着物と灰色の袴を身に着けていた。
「……っ」
ぐわっと心臓が跳ね上がる。
なにこれ。俺夢の中にいるのかな。なんか素敵な人が目の前にいる。
心臓の動きが激しすぎて辛い。眩暈がしそう。素敵すぎる。俺今日天国にいるのかな。
心臓をバクバクさせて身動き取れないでいると、ヴィデロさんがフワッと笑顔になった。
その場で頽れる俺。
周りのスタッフさんが「大丈夫ですか!?」と焦ってたけど、ダメです。俺もうダメです。天国にいます。
「……か……っこよすぎて無理。辛い……」
「ケンゴ」
スッとヴィデロさんの手が差し出されて、心臓バクバクしながらその手を掴むと、ふわっと身体を引き上げられた。
「ケンゴがとても神秘的だ。和装というものは素晴らしいな」
「それはこっちのセリフ……」
改めて見ると、筋肉の乗った身体に和装って、鼻血が出そうなほどにかっこいい。好き。今までの和装のイメージが俺の中で覆っていく。スーツの時も思ったけれど、ヴィデロさんってホント何を着ても素敵すぎて困る。これ、本番の時に初めて見る状態だったら、式にならなかったかもしれない。好き。
ガラス越しの待合室では、俺たちの様子を見て母さんが大笑いしていた。そして父さんは苦笑いしていた。
俺の身に着けた袴の色だけ数度直して、レンタル手続きを済ませた俺たちは、そのまま二人とご飯を食べに行くことになった。
席に着くと、母さんが「今日はありがとね」とわけのわからないお礼を言ってきた。
「なんで? むしろ俺たちが連れてってくれてありがとうでしょ」
「すごく楽しい物を見せてもらったわよ。ほんと健吾はヴィデロ君が好きよね」
含み笑いをしながら母さんがちらりと俺を見る。そりゃ、好きだけど。
「あんな状態じゃ、当日あんたてんぱって歩けなくなるんじゃないかって父さんと言ってたのよ。だって、ああいう衣装が式場とマッチするとね、衣装合わせした時なんか目じゃないくらい感動しちゃうから。ね、お父さん」
「あ? ああ、そうだな……」
「父さんもね、結婚式当日、母さんを迎えに来るはずの花道で動けなくなっちゃったのよ。感激しすぎて。丁度さっきの健吾とそっくりの顔して」
「母さん、それは、内緒に」
「いい思い出じゃないの。あの時本当におかしくて嬉しくて、化粧が崩れるのも忘れて神父様の前で声を出して笑っちゃったんだから」
ね、と同意を求める母さんに、父さんが苦り切った顔を向ける。
俺、絶対に同じことをしそうだ。
ヴィデロさんも二人の話をすごく楽しそうに聞いている。
「ヴィデロ君。健吾、絶対に当日身動き取れなくなるから、その時はよろしくね」
「はい。その時は俺が抱えて歩きます」
「ふふ、素敵ね。よろしくね。その体つきだったら、きっと健吾なんて片手で持てちゃいそうね」
「ちょ、母さん酷い」
「持てますね」
「ヴィデロさん!?」
言外に俺は小さいって言ってない?
口を尖らせていると、父さんが小さな声で、「当日は頑張れよ。もし何か粗相でもしたら、今みたいにずっと言われ続けるからな……」と警告してくれた。肝に銘じます……。
母さんがはしゃぐ姿を見ながらご飯を食べて、ついでに皆で買い物をしてビルまで送ってもらった俺たちは、父さんの車を見送ってから、部屋に戻ってきた。
ホッとしながらお茶を淹れて、ヴィデロさんと並んでソファーに座ると、スッと腰にヴィデロさんの腕が回された。
見上げると、ちゅ、と軽くキスが振ってくる。
「今日のケンゴ、最高によかった。一瞬見惚れた」
それは俺も、と答えながら、苦笑する。だって、自分の姿を見たけれど、どう見ても七五三だったもん。自分でいうのもなんだけど、七五三。ヴィデロさんと並ぶと目線に頭が入らないという大きさの差が、更に俺の七五三感を出してた気がする。千歳飴持ったら出来上がりだ。……なんか悲しくなってきた。
はぁ、と溜め息を吐くと、ヴィデロさんが笑った。
「俺のために着飾ってくれる、っていうのがいいな。ここの婚姻の儀はとても華やかで……素晴らしいと思う」
「ヴィデロさん」
そうだね。向こうはたった二人で祝福を貰うっていう儀式だからね。こっちではそういう儀式じゃないから。
でもね、俺はあの婚姻の儀がとても好き。これからは、ヴィデロさんと二人で生きていっていいんだって。それを世界から祝福してもらえたんだって、感覚でわかるあの儀式が凄く尊いと思う。そしてあのおじいさんの言葉も。すごく心に染み込んだから。あれだけの感動を、こっちの式でも味わえるのかな。
「俺は幸せ者だよ、ヴィデロさん」
ん? と首を傾げるヴィデロさんの身体にくっついて、笑いを零す。
だって、二度もヴィデロさんと将来のことを誓えるんだもん。
そう零すと、いきなり視界が変わった。
ソファーに押し倒されて、口を塞がれる。
いつにない性急な感じで口をむさぼられて、心臓が高鳴る。
「……ケンゴが可愛すぎて、理性が飛びそうだ……」
散々口をむさぼられた後ポツリと零された言葉に、俺はノックアウトされた。
ベッドじゃない場所での愛の確認は、いつも以上に刺激的だった。背もたれをあんな風に使うなんて知らなかった。押し込められるような感覚の中で最奥にヴィデロさんの熱を受けるのは息が止まるほどにヨすぎてヤバかった。背もたれに手をついたヴィデロさんを見上げながら、その閉塞感がたまらなく気持ちよさを引き出してきて、俺の方が先に理性が飛んだ気がする。
何度か身体の向きを変えて愛し合った俺は、ヴィデロさんの二度目の熱を奥で感じるころには、何度出したかわからない体液で、ソファーのカバーをドロドロにしていた。
ずるっとヴィデロさんが抜けていく感覚にも身体が震える。
羽織ってる服もそのままに、下半身だけ素肌を晒した俺と、ただ結合する場所だけを出して愛し合ったヴィデロさんの姿は見られたもんじゃなくて、いかにも我慢できなくてヤっちゃいました感がすごい、なんてあほなことを、息を整えながら思っていると、ヴィデロさんがもう一度俺に覆いかぶさって来て、軽いキスをした。
「幸せ過ぎて、どうしていいかわからない」
キスを繰り返しながら、戸惑った顔をしてそんなことを言うヴィデロさんに、俺はついつい笑ってしまった。
「じゃあ、もっと一杯愛し合ってもっと幸せになろうよ」
だって俺も幸せだもん。
まずは二人で洗濯しよう。俺の背中、自分で出した物で多分汚れちゃったから。
でも汚れても幸せなのって、すごいことだよね。ヴィデロさんにしかこんな気分味わわせてもらえないよ。
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