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728、師匠って呼ばれると
しおりを挟むヴィデロさんが工房に顔を出したのは、ヴィルさんがフルーツポンチもどきを大量にインベントリに保管して姿を消してからすぐだった。
というか玄関前ですれ違ったらしい。
「今兄が出て行ったけれど、あいつは向こうの仕事があるんじゃないのか?」
怪訝な顔で外の方を見るヴィデロさんは、ヴィルさんの仕事をある程度把握しているみたいだった。それに合わせてこっちで動いているんだとかなんとか。いつの間にやら二人の間に出来ている連携が凄い。
「多分エルフの里に行くんじゃないかと思うよ。さっきのお菓子滅茶苦茶気に入ってたから、素材を買いに行くとか言ってたし」
「……先を越された」
ポツリと呟いたヴィデロさんの言葉に、顔が綻ぶ。
もちろんヴィデロさんの分はしっかりとキープしてるよ。
「じゃあヴィデロさんには俺特製愛情たっぷりのフルーツポンチを出すね」
特製とは言っても、果実を増量してお酒をヴィデロさん好みの辛めのやつに変更して飾る果物を変えるだけだけど。愛情は際限なくたっぷり入れるよ。おいしくなあれ。
早速作って出すと、ヴィデロさんは嬉しそうにテーブルに着いた。
一口食べて、ん、と目を大きくする。
「甘いのにドリンクは甘みが少なくてすごく美味い」
嬉しそうに口に運ぶヴィデロさんを見て俺も大満足。ヴィルさんには甘みの強いペスカの実を飾って、あんまり甘いものはそこまで好きじゃないヴィデロさんにはまだ辛うじて残ってたアランネの澄果実を使ったんだ。俺はまろやかな味になるピエラの実が一番お気に入り。果物をちょっと変えるだけで全然違う風味になるのにどれも美味しいとか、やっぱりあの豆は最高。
ニコニコとみていると、ヴィデロさんと目が合った。
ヴィデロさんはグラスからゼリーを掬うと、スッと俺の前に差し出した。
「あーん」
あ、ごちそうさまです。まだ口に入れてないけど。ヴィデロさんに「あーん」してもらうだけで最高に美味しくなります。好き。
蕩けそうになりながらヴィデロさんと一緒にモグモグした俺は、テンション爆上がりとなったのだった。
ヴィデロさんと一緒に心行くまで卵に回復魔法を掛けた俺は、ヴィデロさんの希望で錬金を教えることになった。
っていっても、いつも俺が作ってるのを見ていたからか、あんまり戸惑いはなく、教えることもそんなになさそうなんだけど。
ということで、俺はサラさんのレシピをヴィデロさんにプレゼントすることにした。
俺にはもう一つのレシピがあるし。空白の所はヴィデロさんに埋めてもらえれば満足だし、と思って。
錬金術師ではないけれど、スキルがあるってことは問題なく釜に認められてるってことだもんね。それに釜だってヴィデロさん好みの形に変わっちゃってるし。
「マックに教わるっていうことは、マックは俺の師匠ってことだな」
「ヴィデロさんが俺の弟子!?」
ヴィデロさんの笑いを含んだ言葉に、俺は心臓が高鳴った。師弟関係とか! うわあなんか、なんか。
「なんか凄く興奮する……」
ダメだ俺。なんか変態っぽい。でもヴィデロさんに師匠とか呼んでもらうのが新鮮すぎてドキドキが止まらない。
顔を押さえて悶えていると、ヴィデロさんがくすくすと笑いながら、そっと耳元で、すっごくいい声で「師匠……」と囁いた。ダメージ大。
「ヴィデロさん……」
「ほらほら、師匠が弟子にさん付けとかダメですよ。ヴィデロって呼んでください」
「ええええ!?」
ノリノリで囁いてくるヴィデロさんに、俺は追い打ちを掛けられまくった。もう瀕死に近い。
「ヴィ、ヴィデロ……さ」
どうにも慣れなくてさん付けをしようとしたところで、ヴィデロさんの人差し指が俺の唇に押し当てられてさん付けを阻止されてしまった。
「マック師匠。ヴィデロ、と呼んでください……」
「……ヴィデロ……」
ヴィデロさんの声の響きに負けて、呼び捨てで名前を呼んだ瞬間、ヴィデロさんがフワッと笑顔になった。見惚れるほどの笑顔だった。
「ん、嬉しい。マック……ケンゴにそう呼ばれるの新鮮でドキドキするな。さん付けって他人行儀っぽいから。でもケンゴから『ヴィデロさん』って呼ばれるのは、愛情が詰まってる気がしてすごく好きだけど」
ちゅ、とそのまま軽いキスを耳にされて、俺はとうとう撃沈した。
でもきっと、俺の心臓が持たなそうだから、呼び捨ては無理かも。
釜を錬金工房のテーブルに並べたまま、俺はヴィデロさんにベッドに連行された。
マックの姿でのえっちはなんだか久しぶりな気がする。
俺の口の中で、舌と舌を絡め合いながら溶けだした固形媚薬が、脳内の熱を上げていく。
口と口をくっつけながら器用に脱がされた服が、ベッドの足元にパサッと落ちる。
久しぶりに嗅ぐ潤滑香油の香りが気分を盛り上げていく。
手の平で感じるヴィデロさんの身体の凹凸に、理性が溶けていく。
くち……とヴィデロさんのヴィデロさんを受け入れるところが音を発する。咥え込んだ指に絡まる香油が、滑らかに俺の中を暴いていく。
指先が俺のイイところを擦り、腰が跳ねる。
くぐもった声と高ぶる快感を逃がすためにヴィデロさんの背中にまわした腕についつい力を込めると、ヴィデロさんの口から「ふ……」と悩まし気な吐息が洩れた。
「……ん、なんだ、背中が変だ」
口を離して、ヴィデロさんが眉根を寄せて呟く。
特に傷があるわけじゃないよな、と手の平を動かすと、またしてもヴィデロさんの口から悩まし気な吐息が洩れた。
「気持ちいい……?」
「ん……、なんていうか、そこを撫でられるといてもたってもいられない気分になるっていうか……ケンゴを滅茶苦茶に愛したくなるような……」
熱に浮かされた様に目を潤ませ、ヴィデロさんが壮絶な色気を放ちながらそんなことを言う。
もう一度背中を撫でると、今度こそヴィデロさんが背を逸らして「あ……っ」と明確な喘ぎを零した。
見てるだけで身体が疼く様なヴィデロさんの色っぽさに充てられながらも、どうしてなのか気になった俺は、腕を離して、身体を起こした。
ヴィデロさんに背を向けてもらうと、そこには。
「羽根の刺青……」
それはそれは綺麗な羽根の刺青が、ヴィデロさんの背中に描かれていた。俺の胸にあった刺青と、全く同じものだった。
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