これは報われない恋だ。

朝陽天満

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721、???の卵

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「その卵さ、一度異邦人の手に渡ったんだけど、結局は孵らずに戻ってきちゃったものなんだ。でもマックなら何とかしてくれるよね」

「え、何でそんな無駄にプレッシャーかけて来るの。っていうかこの卵、そもそもどうやって手に入れたんだよ」

「前にね、ヴィルと出歩いてた時に、中央山脈の東側の隠れた洞窟で見つけたんだ。一角獣ユニコーンが闇に染まりながらも護ってたから結構なものが生まれると思うんだけど。楽しみにしてたのに、それを買った異邦人がリタイアしちゃって凄く残念だったんだ。だから、俺の中で一番信頼度の高いマックに託すね」



 ニコッと笑ったクラッシュに、苦笑しながら「こういうことで信頼度高いって言われても」と突っ込むと、セイジさんのお母さんが「あらあら」と俺の手のひらの卵を見て微笑んだ。



「クラッシュは本当にいいお友達を持ったわね。嬉しいわ。でもクラッシュ、あまりわがままは言わないのよ。わがままが言いたくなったら、おじいさんか私に言ってね」

「おばあちゃん、これはわがままじゃないんだよ。俺なりの祝福。だって二人の子になるかもしれない卵って、いいかなって思って」

「世の中色々な考えの人がいるのだから、あなたが良かれと思っても、相手にとっては迷惑だということもあるのよ。子供と生活に関しては特にそう」



 諭されて、クラッシュがシュンとしながら「はーい」と返事をした。

 そして、ちらりとこっちを見て、マック、と俺を呼ぶ。



「子供、いらない? もしその卵が迷惑なら違うお祝いを考えるよ。工房の一部屋増築がいい? それとも、最新の調薬に役立つ魔道具?」

「それこそそっちの方が受け取れないよ! 魔道具とか増築とか高いじゃん! 商人はまずその元手を増やすことが大事でしょ。俺に使わないで。それに、卵ありがとう。本当に俺が孵せるのかわからないけど、ヴィデロさんと頑張ってみるから。もし孵ったら見せに来るね」



 クラッシュがとんでもないことを言い出したので、俺は慌てて手の中の卵を胸に抱いた。

 普段プレイヤーから笑顔でぼったくるクラッシュが増築お祝いとか、あとでどんな難題が降りかかるかわからない、なんてのは冗談だけど。



「でもお祝いって、クラッシュ前に俺たちに祝杯あげてくれたじゃん。あれ、嬉しかったんだけど」

「あれだけで?」

「もちろん」



 心意気がね、嬉しかったんだ。と本音を言うと、クラッシュが今度こそ嬉しそうに「よかった」と満面の笑みを浮かべた。

 その顔を見て、セイジさんのご両親も嬉しそうに笑みを見せたの、クラッシュは気付いてるのかな。





 今度魔大陸の雑貨屋に卸すアイテムをたんまり作ってね、というお願いを聞いて、ついでにそれがクエストになったところで、俺はクラッシュの所を辞した。あとは家族水入らずで。

 夜道を歩いていると、向こうの方からヴィデロさんが歩いて来るのが見えた。俺を見つけると、顔を綻ばせて手を振ってくれる。同じ顔をしながら走り寄った俺は、その勢いでヴィデロさんに抱き着いていこうとして、ふと目の前でとどまった。そういえば今、卵を持ってるんだった。

 抱き着いていかなかった俺にちょっとだけショックを受けたらしいヴィデロさんは、手を広げたまま「マック?」と俺を覗き込んできた。



「ごめん。あのね、今クラッシュから、俺とヴィデロさんの婚姻祝いを貰っちゃって、それを持ってたから抱きつけなかったんだ。潰れそうで」

「潰れるもの? クラッシュから? アイテムか何かか?」

「ううん、なんかの卵」



 そっと手の平の卵をヴィデロさんに見せる。すると、ヴィデロさんは「へぇ……」と不思議な物を見るような目で卵を見下ろした。



「魔物でないことは確かだけど……」



 そう言って俺の手ごとその大きな手で包み込む。



「ちゃんと生きてるみたいだな。温かいし、仄かに魔力を感じる気がする。鑑定眼で見てみたのか?」

「あ、見てない。見てみるね」



 ヴィデロさんの助言でようやく鑑定眼を思い出した俺は、そっと手の中の卵を視てみた。



『???の卵:中で???の雛が眠っている。目覚めると孵化する』



 決定的なことが全くわからない。

 鑑定眼で見えたことをヴィデロさんに教えると、ヴィデロさんもお手上げ、というように肩を竦めた。



「ヴィルさんと聖域に行ったときに見つけた卵なんだって。ユニコーンに守られてたんだって言ってたよ」

「なるほど。じゃあ兄に聞くか」



 ヴィデロさんは手慣れたように宙を見据えると、指を動かし始めた。

 もしかして仕事でチャット多用する? すごく手馴れて来てる気がする。最初はおっかなびっくりだったのに。身に付き方のスピードがアリッサさんの家族って俺たちとは別次元にいるような気がするよ。

 遠い目をしながらヴィデロさんを見ていると、ヴィデロさんが画面を閉じたのがわかった。



「どうやら聖獣の卵じゃないかと兄は言ってる。聖獣と言うと、オランか?」

「オランさんだね」

「じゃあ、行ってみるか」

「ヴィデロさん頼まれごとは?」

「ジャル・ガーの所だから、丁度いい。馬を借りようかと思っていたんだ」



 馬に乗って一緒に行かないか? と言われて、俺は一も二もなく承諾した。転移魔法陣で跳べば一瞬だけど、最近そんな移動ばっかりでデートらしいデートできなかったから嬉しい。

 馬屋に行って黒毛の馬を一頭借りた俺たちは、ジャル・ガーさんの洞窟までしばし馬デートを楽しんだのだった。





 馬は一人でトレに帰れるそうなので洞窟前で馬と別れた俺たちは、久しぶりに洞窟の入り口からまっとうな道を通ってジャル・ガーさんの所まで行くことにした。

 とはいえ、ヴィデロさんにとっては出てくる魔物は雑魚も雑魚。軽い一撃で倒してしまうし、途中ですれ違うプレイヤーたちが喜んで駆逐していくので、苦も無く奥までたどり着いた。もしかして長光さんの刀があれば俺一人でも奥まで来れるかもしれない、と思える呆気なさ。挨拶をするプレイヤーに挨拶を返しながら、ジャル・ガーさんの部屋に入っていくと、丁度数人がケインさんと共に消えたところだった。御一行様獣人の村にご案内だったんだね。



『よう、元気そうだな』



 酒に濡れたジャル・ガーさんが俺たちに手を上げる。

 ヴィデロさんは早速インベントリから何か手紙の様な物を取り出して、ジャル・ガーさんに渡そうとしたところで、ジャル・ガーさんの手が酒に濡れていることに気付いたらしい。

 ジャル・ガーさんも苦笑して、口の周りをベロでぺろりと舐めた。



『マック、わるい、石化といてくれねえか? 今乾かすから離れてろ』



 言われた通り少し離れると、ジャル・ガーさんが身体中をブルブルと震わせた。あ、水を切る犬みたい。周りに水滴が飛んだところで、広がった毛のまま石化していく。

 ちょっとブワッとしているジャル・ガーさん可愛い。ちょっとスクショ。

 しっかりとその姿を一枚ファイルに収めてから、俺は石化解除の魔法陣を飛ばした。



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