724 / 830
721、???の卵
しおりを挟む「その卵さ、一度異邦人の手に渡ったんだけど、結局は孵らずに戻ってきちゃったものなんだ。でもマックなら何とかしてくれるよね」
「え、何でそんな無駄にプレッシャーかけて来るの。っていうかこの卵、そもそもどうやって手に入れたんだよ」
「前にね、ヴィルと出歩いてた時に、中央山脈の東側の隠れた洞窟で見つけたんだ。一角獣ユニコーンが闇に染まりながらも護ってたから結構なものが生まれると思うんだけど。楽しみにしてたのに、それを買った異邦人がリタイアしちゃって凄く残念だったんだ。だから、俺の中で一番信頼度の高いマックに託すね」
ニコッと笑ったクラッシュに、苦笑しながら「こういうことで信頼度高いって言われても」と突っ込むと、セイジさんのお母さんが「あらあら」と俺の手のひらの卵を見て微笑んだ。
「クラッシュは本当にいいお友達を持ったわね。嬉しいわ。でもクラッシュ、あまりわがままは言わないのよ。わがままが言いたくなったら、おじいさんか私に言ってね」
「おばあちゃん、これはわがままじゃないんだよ。俺なりの祝福。だって二人の子になるかもしれない卵って、いいかなって思って」
「世の中色々な考えの人がいるのだから、あなたが良かれと思っても、相手にとっては迷惑だということもあるのよ。子供と生活に関しては特にそう」
諭されて、クラッシュがシュンとしながら「はーい」と返事をした。
そして、ちらりとこっちを見て、マック、と俺を呼ぶ。
「子供、いらない? もしその卵が迷惑なら違うお祝いを考えるよ。工房の一部屋増築がいい? それとも、最新の調薬に役立つ魔道具?」
「それこそそっちの方が受け取れないよ! 魔道具とか増築とか高いじゃん! 商人はまずその元手を増やすことが大事でしょ。俺に使わないで。それに、卵ありがとう。本当に俺が孵せるのかわからないけど、ヴィデロさんと頑張ってみるから。もし孵ったら見せに来るね」
クラッシュがとんでもないことを言い出したので、俺は慌てて手の中の卵を胸に抱いた。
普段プレイヤーから笑顔でぼったくるクラッシュが増築お祝いとか、あとでどんな難題が降りかかるかわからない、なんてのは冗談だけど。
「でもお祝いって、クラッシュ前に俺たちに祝杯あげてくれたじゃん。あれ、嬉しかったんだけど」
「あれだけで?」
「もちろん」
心意気がね、嬉しかったんだ。と本音を言うと、クラッシュが今度こそ嬉しそうに「よかった」と満面の笑みを浮かべた。
その顔を見て、セイジさんのご両親も嬉しそうに笑みを見せたの、クラッシュは気付いてるのかな。
今度魔大陸の雑貨屋に卸すアイテムをたんまり作ってね、というお願いを聞いて、ついでにそれがクエストになったところで、俺はクラッシュの所を辞した。あとは家族水入らずで。
夜道を歩いていると、向こうの方からヴィデロさんが歩いて来るのが見えた。俺を見つけると、顔を綻ばせて手を振ってくれる。同じ顔をしながら走り寄った俺は、その勢いでヴィデロさんに抱き着いていこうとして、ふと目の前でとどまった。そういえば今、卵を持ってるんだった。
抱き着いていかなかった俺にちょっとだけショックを受けたらしいヴィデロさんは、手を広げたまま「マック?」と俺を覗き込んできた。
「ごめん。あのね、今クラッシュから、俺とヴィデロさんの婚姻祝いを貰っちゃって、それを持ってたから抱きつけなかったんだ。潰れそうで」
「潰れるもの? クラッシュから? アイテムか何かか?」
「ううん、なんかの卵」
そっと手の平の卵をヴィデロさんに見せる。すると、ヴィデロさんは「へぇ……」と不思議な物を見るような目で卵を見下ろした。
「魔物でないことは確かだけど……」
そう言って俺の手ごとその大きな手で包み込む。
「ちゃんと生きてるみたいだな。温かいし、仄かに魔力を感じる気がする。鑑定眼で見てみたのか?」
「あ、見てない。見てみるね」
ヴィデロさんの助言でようやく鑑定眼を思い出した俺は、そっと手の中の卵を視てみた。
『???の卵:中で???の雛が眠っている。目覚めると孵化する』
決定的なことが全くわからない。
鑑定眼で見えたことをヴィデロさんに教えると、ヴィデロさんもお手上げ、というように肩を竦めた。
「ヴィルさんと聖域に行ったときに見つけた卵なんだって。ユニコーンに守られてたんだって言ってたよ」
「なるほど。じゃあ兄に聞くか」
ヴィデロさんは手慣れたように宙を見据えると、指を動かし始めた。
もしかして仕事でチャット多用する? すごく手馴れて来てる気がする。最初はおっかなびっくりだったのに。身に付き方のスピードがアリッサさんの家族って俺たちとは別次元にいるような気がするよ。
遠い目をしながらヴィデロさんを見ていると、ヴィデロさんが画面を閉じたのがわかった。
「どうやら聖獣の卵じゃないかと兄は言ってる。聖獣と言うと、オランか?」
「オランさんだね」
「じゃあ、行ってみるか」
「ヴィデロさん頼まれごとは?」
「ジャル・ガーの所だから、丁度いい。馬を借りようかと思っていたんだ」
馬に乗って一緒に行かないか? と言われて、俺は一も二もなく承諾した。転移魔法陣で跳べば一瞬だけど、最近そんな移動ばっかりでデートらしいデートできなかったから嬉しい。
馬屋に行って黒毛の馬を一頭借りた俺たちは、ジャル・ガーさんの洞窟までしばし馬デートを楽しんだのだった。
馬は一人でトレに帰れるそうなので洞窟前で馬と別れた俺たちは、久しぶりに洞窟の入り口からまっとうな道を通ってジャル・ガーさんの所まで行くことにした。
とはいえ、ヴィデロさんにとっては出てくる魔物は雑魚も雑魚。軽い一撃で倒してしまうし、途中ですれ違うプレイヤーたちが喜んで駆逐していくので、苦も無く奥までたどり着いた。もしかして長光さんの刀があれば俺一人でも奥まで来れるかもしれない、と思える呆気なさ。挨拶をするプレイヤーに挨拶を返しながら、ジャル・ガーさんの部屋に入っていくと、丁度数人がケインさんと共に消えたところだった。御一行様獣人の村にご案内だったんだね。
『よう、元気そうだな』
酒に濡れたジャル・ガーさんが俺たちに手を上げる。
ヴィデロさんは早速インベントリから何か手紙の様な物を取り出して、ジャル・ガーさんに渡そうとしたところで、ジャル・ガーさんの手が酒に濡れていることに気付いたらしい。
ジャル・ガーさんも苦笑して、口の周りをベロでぺろりと舐めた。
『マック、わるい、石化といてくれねえか? 今乾かすから離れてろ』
言われた通り少し離れると、ジャル・ガーさんが身体中をブルブルと震わせた。あ、水を切る犬みたい。周りに水滴が飛んだところで、広がった毛のまま石化していく。
ちょっとブワッとしているジャル・ガーさん可愛い。ちょっとスクショ。
しっかりとその姿を一枚ファイルに収めてから、俺は石化解除の魔法陣を飛ばした。
920
お気に入りに追加
9,306
あなたにおすすめの小説
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~
柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」
テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。
この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。
誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。
しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。
その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。
だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。
「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」
「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」
これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語
2月28日HOTランキング9位!
3月1日HOTランキング6位!
本当にありがとうございます!

付き合って一年マンネリ化してたから振られたと思っていたがどうやら違うようなので猛烈に引き止めた話
雨宮里玖
BL
恋人の神尾が突然連絡を経って二週間。神尾のことが諦められない樋口は神尾との思い出のカフェに行く。そこで神尾と一緒にいた山本から「神尾はお前と別れたって言ってたぞ」と言われ——。
樋口(27)サラリーマン。
神尾裕二(27)サラリーマン。
佐上果穂(26)社長令嬢。会社幹部。
山本(27)樋口と神尾の大学時代の同級生。

学園の俺様と、辺境地の僕
そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ?
【全12話になります。よろしくお願いします。】

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】テルの異世界転換紀?!転がり落ちたら世界が変わっていた。
カヨワイさつき
BL
小学生の頃両親が蒸発、その後親戚中をたらいまわしにされ住むところも失った田辺輝(たなべ てる)は毎日切り詰めた生活をしていた。複数のバイトしていたある日、コスプレ?した男と出会った。
異世界ファンタジー、そしてちょっぴりすれ違いの恋愛。
ドワーフ族に助けられ家族として過ごす"テル"。本当の両親は……。
そして、コスプレと思っていた男性は……。

【完結】薄幸文官志望は嘘をつく
七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。
忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。
学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。
しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー…
認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。
全17話
2/28 番外編を更新しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる