707 / 830
704、転移した先の
しおりを挟む『白金の獅子』と勇者パーティー、そして長光さんを残して、俺たちはユイに触れた。
ブレイブが詳細をユイに伝えると、ユイは屈託なく「わかった」と答えて、魔法陣を描いていく。
俺はその文字をじっと見つめて、綺麗にセイジさんが教えてくれたワードが収まってることを確認した。
すごい。とにかくすごい。ユイって天然に見えるけど頭はいいんだな、と思い出させるほどの魔法陣だった。多分俺が描いたら文字が余ったりどこにいれたらいいか悩んだりしてこんな風に出来てない。
心の中でユイを密かに尊敬していると、一瞬にして景色が変わった。
魔大陸より濃い魔素っていうのかな。肌に纏わりつく空気が重苦しくて気持ち悪い。常に何かに撫でられてるような不快感が身体を襲う。それは皆感じてるみたいで、ユイなんかは腕をさすっては眉尻を下げている。
「なんつうか、粘着質な場所だなここ。今まで入ったどのシークレットダンジョンより気持ちわりいっていうか」
「ほんとにな。なんつーかむかつく」
ブレイブがぐっと拳を握る。
確かにこの感覚はいやだけど、苛つくならわかるけどむかつくって。
なんか違くないかな、と思ってると、雄太とヴィデロさんが「わかる」と頷いていた。ついでに海里も。俺とユイだけが首を捻っている。
「俺の海里にその汚え手で触るんじゃねえって感じ」
「それな」
「さっさと奥まで行くか」
ブレイブと雄太とヴィデロさんが先に立って前を見据える。
えっと、確かに撫でまわされてるような不快感はあるけど、誰にも触られてないからね。
と思って、ふと気付く。
ヴィデロさんもこの感覚を味わってるってことか。ってことは、あの身体をこの気持ち悪い魔素に撫でまわされてるってことで。
俺のヴィデロさんの身体に何してくれちゃってるんだここの主は。
確かにそう考えるとむかつく。
俺は静かにインベントリから起爆剤を取り出した。
俺のヴィデロさんに触れた似非女神は、これで消し去ろうそうしよう。
ホーリーハイポーションを飲んでも不快感は消えることはなく。じわじわとHPも削られている。もしかして聖属性が弱いのかなと聖魔法で防御をかけてもそこまで効いている感じはせずに不快感はそのまま。
出てくる魔物はグランデではユニークボスくらいの強さがある雑魚だったんだけど。
常にまとわりつく気持ち悪さに機嫌も絶好調に悪い皆は容赦なく瞬殺していく。
俺はたまに起爆剤を投げて補助したり、適当に聖魔法をぶっ放してちょっとだけHP削りに貢献したりして、ぐいぐい進んでいく前衛に付いていく。
ユイが「胸舐められてるみたい」「お尻触られてるみたいで気持ち悪い」と特大魔法をぶっ放すと、それに連携するように雄太も怒りの形相で破壊力抜群のスキルを繰り出していく。
ブレイブは視覚関連スキルを惜しげなく使い、回り道なんかするもんかとひたすら正しい道を選び取っていく。途中アイテムがあるらしいところも「こんなところにある物なんて使いたくもない」とスルー。俺も同感だったから何も言わずにスルーした。後々有用なものかもしれないけど、普通に考えたら自分のテリトリーに自分に不利になるような物なんて置かないよね、と皆で結論付ける。もしあるとしたらそれはどうしようもないドMだからそれこそ関わりたくない、と真顔で雄太が言ったときには、ほんとに一瞬だけ皆和んでいた。
途中道がなくても、雄太たちは問題なくユキヒラを連れて飛翔で空を飛び、俺はヴィデロさんに抱えられてヴィデロさんの羽根で連れて行ってもらう。その時だけはちょっと怒りも収まっていたけれど、皆顔つきは真剣そのものだった。だってほんとに気持ち悪いんだもん。
これが溢れると魔王が誕生するってことは、俺たちは魔王の体内にいるのと同じような物で。
それをふと呟いたら、男ども、一人中身女性もいたけど、がブチ切れそうになっていた。
「ブレイブ、なんつー所に連れてくるんだよ」
「俺に言うなよ。引きこもりの女神が出てこないのが悪いんだろ」
「そこで言い合うくらいなら、さっさと奥に行って元凶をぶちのめすのが先決だ」
言い合う二人の間にヴィデロさんが立って、大人な対応をする。ああ、惚れ直す。
さ、行こう、と促すヴィデロさんを追いながら、俺はさっきまで綺麗な青い羽根の生えていたヴィデロさんの背中を見つめた。
「ヴィデロさんさあ。その背中の羽根のスキル、出し入れ可能?」
「ああ。それに、使う用途によって色や消費魔力も違うみたいだな。スピードを重視する場合と高く飛ぶことを重視する場合でスキルを使い分けるみたいだな」
「ふうん。ってそれ、マックの愛情ゲージのあれだろ」
「ああ」
「そかそか。いいなあそれ。俺もそういうスキル欲しいや」
「そのうち手に入るだろ」
「ああ、うん」
途中、魔物を蹴散らす最中に、雄太がヴィデロさんに話しかけているのが聞こえてきた。
多分、俺もこのローブを着てなかったら聞こえなかった会話。
そっか。ユイと海里、同じ時に愛情ゲージ付きのアクセサリーを貰ったんだよな。海里たちも俺たちも贈った人に有用なスキルに変わったけれど、相手の危機に発動するというそれは、雄太たちはまだ発動してなくて。もしかして雄太は愛情が足りないとかそんなことでも考えていたのかな。でもそういうことは俺には全然言わないんだよな、雄太。
「気に病むな。高橋がそこまで危ない目に遭ってないということで、それは喜ばしいことだろ。ユイはきっとお前に安心しているんだ。危機を感じるほどの焦燥なんて、本当はない方がいいんだ。それをしない高橋は凄いと思う。俺は……沢山泣かせたから」
ポツリと零れるヴィデロさんの言葉も、俺の耳には飛び込んできて。
雄太は瀕死の魔物に大剣を叩きつけると、くるりと振り返ってヴィデロさんを見た。
「あー……ヴィデロさんがあいつの相手で、良かった」
「光栄だ。たまには弱音を吐くのも悪くないぞ。でもな、その弱音はユイにも言うといい。かっこつけるべき時と力を抜く時、間違えるなよ」
「でもさ、男ってばずっとかっこつけたいもんじゃん」
「ああ……はは、そうだな、わかる」
二人は共闘して結構遠い場所の魔物を屠っていたから、この会話はこっちで戦ってるメンバーには聞こえてないとは思うし、今の俺は耳がいい状態なの忘れてるのかもしれないけど。
なんていうか、ああ、雄太に嫉妬をする日が来ようとは、とちょっとだけ悔しくてなぜか笑えた。
940
お気に入りに追加
9,306
あなたにおすすめの小説
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~
柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」
テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。
この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。
誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。
しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。
その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。
だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。
「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」
「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」
これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語
2月28日HOTランキング9位!
3月1日HOTランキング6位!
本当にありがとうございます!

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

学園の俺様と、辺境地の僕
そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ?
【全12話になります。よろしくお願いします。】
出戻り聖女はもう泣かない
たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。
男だけど元聖女。
一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。
「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」
出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。
ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。
表紙絵:CK2さま

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる