これは報われない恋だ。

朝陽天満

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 『白金の獅子』と勇者パーティー、そして長光さんを残して、俺たちはユイに触れた。

 ブレイブが詳細をユイに伝えると、ユイは屈託なく「わかった」と答えて、魔法陣を描いていく。

 俺はその文字をじっと見つめて、綺麗にセイジさんが教えてくれたワードが収まってることを確認した。

 すごい。とにかくすごい。ユイって天然に見えるけど頭はいいんだな、と思い出させるほどの魔法陣だった。多分俺が描いたら文字が余ったりどこにいれたらいいか悩んだりしてこんな風に出来てない。

 心の中でユイを密かに尊敬していると、一瞬にして景色が変わった。

 魔大陸より濃い魔素っていうのかな。肌に纏わりつく空気が重苦しくて気持ち悪い。常に何かに撫でられてるような不快感が身体を襲う。それは皆感じてるみたいで、ユイなんかは腕をさすっては眉尻を下げている。



「なんつうか、粘着質な場所だなここ。今まで入ったどのシークレットダンジョンより気持ちわりいっていうか」

「ほんとにな。なんつーかむかつく」



 ブレイブがぐっと拳を握る。

 確かにこの感覚はいやだけど、苛つくならわかるけどむかつくって。

 なんか違くないかな、と思ってると、雄太とヴィデロさんが「わかる」と頷いていた。ついでに海里も。俺とユイだけが首を捻っている。



「俺の海里にその汚え手で触るんじゃねえって感じ」

「それな」

「さっさと奥まで行くか」



 ブレイブと雄太とヴィデロさんが先に立って前を見据える。

 えっと、確かに撫でまわされてるような不快感はあるけど、誰にも触られてないからね。

 と思って、ふと気付く。

 ヴィデロさんもこの感覚を味わってるってことか。ってことは、あの身体をこの気持ち悪い魔素に撫でまわされてるってことで。

 俺のヴィデロさんの身体に何してくれちゃってるんだここの主は。

 確かにそう考えるとむかつく。

 俺は静かにインベントリから起爆剤を取り出した。

 俺のヴィデロさんに触れた似非女神は、これで消し去ろうそうしよう。





 ホーリーハイポーションを飲んでも不快感は消えることはなく。じわじわとHPも削られている。もしかして聖属性が弱いのかなと聖魔法で防御をかけてもそこまで効いている感じはせずに不快感はそのまま。

 出てくる魔物はグランデではユニークボスくらいの強さがある雑魚だったんだけど。

 常にまとわりつく気持ち悪さに機嫌も絶好調に悪い皆は容赦なく瞬殺していく。

 俺はたまに起爆剤を投げて補助したり、適当に聖魔法をぶっ放してちょっとだけHP削りに貢献したりして、ぐいぐい進んでいく前衛に付いていく。

 ユイが「胸舐められてるみたい」「お尻触られてるみたいで気持ち悪い」と特大魔法をぶっ放すと、それに連携するように雄太も怒りの形相で破壊力抜群のスキルを繰り出していく。

 ブレイブは視覚関連スキルを惜しげなく使い、回り道なんかするもんかとひたすら正しい道を選び取っていく。途中アイテムがあるらしいところも「こんなところにある物なんて使いたくもない」とスルー。俺も同感だったから何も言わずにスルーした。後々有用なものかもしれないけど、普通に考えたら自分のテリトリーに自分に不利になるような物なんて置かないよね、と皆で結論付ける。もしあるとしたらそれはどうしようもないドMだからそれこそ関わりたくない、と真顔で雄太が言ったときには、ほんとに一瞬だけ皆和んでいた。

 途中道がなくても、雄太たちは問題なくユキヒラを連れて飛翔で空を飛び、俺はヴィデロさんに抱えられてヴィデロさんの羽根で連れて行ってもらう。その時だけはちょっと怒りも収まっていたけれど、皆顔つきは真剣そのものだった。だってほんとに気持ち悪いんだもん。

 これが溢れると魔王が誕生するってことは、俺たちは魔王の体内にいるのと同じような物で。

 それをふと呟いたら、男ども、一人中身女性もいたけど、がブチ切れそうになっていた。



「ブレイブ、なんつー所に連れてくるんだよ」

「俺に言うなよ。引きこもりの女神が出てこないのが悪いんだろ」

「そこで言い合うくらいなら、さっさと奥に行って元凶をぶちのめすのが先決だ」



 言い合う二人の間にヴィデロさんが立って、大人な対応をする。ああ、惚れ直す。

 さ、行こう、と促すヴィデロさんを追いながら、俺はさっきまで綺麗な青い羽根の生えていたヴィデロさんの背中を見つめた。





「ヴィデロさんさあ。その背中の羽根のスキル、出し入れ可能?」

「ああ。それに、使う用途によって色や消費魔力も違うみたいだな。スピードを重視する場合と高く飛ぶことを重視する場合でスキルを使い分けるみたいだな」

「ふうん。ってそれ、マックの愛情ゲージのあれだろ」

「ああ」

「そかそか。いいなあそれ。俺もそういうスキル欲しいや」

「そのうち手に入るだろ」

「ああ、うん」



 途中、魔物を蹴散らす最中に、雄太がヴィデロさんに話しかけているのが聞こえてきた。

 多分、俺もこのローブを着てなかったら聞こえなかった会話。

 そっか。ユイと海里、同じ時に愛情ゲージ付きのアクセサリーを貰ったんだよな。海里たちも俺たちも贈った人に有用なスキルに変わったけれど、相手の危機に発動するというそれは、雄太たちはまだ発動してなくて。もしかして雄太は愛情が足りないとかそんなことでも考えていたのかな。でもそういうことは俺には全然言わないんだよな、雄太。



「気に病むな。高橋がそこまで危ない目に遭ってないということで、それは喜ばしいことだろ。ユイはきっとお前に安心しているんだ。危機を感じるほどの焦燥なんて、本当はない方がいいんだ。それをしない高橋は凄いと思う。俺は……沢山泣かせたから」



 ポツリと零れるヴィデロさんの言葉も、俺の耳には飛び込んできて。

 雄太は瀕死の魔物に大剣を叩きつけると、くるりと振り返ってヴィデロさんを見た。



「あー……ヴィデロさんがあいつの相手で、良かった」

「光栄だ。たまには弱音を吐くのも悪くないぞ。でもな、その弱音はユイにも言うといい。かっこつけるべき時と力を抜く時、間違えるなよ」

「でもさ、男ってばずっとかっこつけたいもんじゃん」

「ああ……はは、そうだな、わかる」



 二人は共闘して結構遠い場所の魔物を屠っていたから、この会話はこっちで戦ってるメンバーには聞こえてないとは思うし、今の俺は耳がいい状態なの忘れてるのかもしれないけど。

 なんていうか、ああ、雄太に嫉妬をする日が来ようとは、とちょっとだけ悔しくてなぜか笑えた。



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