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688、クエスト確認とそれから
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「おはようヴィデロさん。でもなんで俺……」
「昨日、兄と勉強していたら、隣でケンゴが健やかに寝ていたから、俺のベッドに運んだんだ。隣の部屋まで廊下を通って運んでいたら起こしそうで可哀そうだと」
「なるほど寝落ち……」
「ねおち?」
「えっと、何かをしてる時に、いつの間にか寝ちゃうこと……かな」
知らない言葉に首を傾げるヴィデロさんに悶えそうになりながら、俺は身を起こそうとヴィデロさんの身体から腕を解いた。朝ご飯作らないとね。
「朝ご飯は何食べたい? パン? ご飯?」
「朝はアキチャンがホッケが食べたいと言ってなかったか?」
「アキチャン?」
「ケンゴの職場のケンゴに胃袋掴まれたやつだ」
ヴィデロさんが誰を指しているのか一瞬わからなかったけれど、真顔で佐久間さんのことだと指摘された瞬間、俺は吹いた。
とうとう「あきちゃん」って呼んでくれる人が現れたんだ。よかったね佐久間さん。でも嬉しいからってヴィデロさんを好きにならないでね。
「そういえばそんなことを言っていたような」
「ホッケってなんだ?」
「魚の種類だよ。さっぱりした味で美味しいんだ」
「じゃあ俺もそれが食べてみたいかな」
ゆっくりと俺の頭を撫でながら、ヴィデロさんが優しい顔をする。
座った状態で寝転がったヴィデロさんを見下ろした俺は、身を屈めてヴィデロさんの頬にキスをすると、ヴィデロさんを乗り越えてベッドを降りようとして、ヴィデロさんの腕に捕まった。
腰を掴まれて、ヴィデロさんの身体の上に転がる。重くない? と聞くと、ヴィデロさんは笑いながら「軽い」と返してきた。
「こうして腕の中に愛しい人がいてくれることが嬉しい」
ちゅ、と軽く唇を食まれて、解放される。
ああ、なんか。なんか。
俺、朝ご飯作るよりヴィデロさんとくっついていたい、かも。
ずるっとベッドから落ちて、その場にしゃがみ込んでしまった俺は、笑いながら俺を見ているヴィデロさんに熱くなった顔を向けて、必死で欲望を打ち消した。
朝ご飯朝ご飯。ヴィデロさんもお腹空いてるかもしれないしね。今はとりあえずヴィデロさんに三食ご飯を作ってあげれる幸せを堪能しよう。
一度部屋に帰ってシャワーを浴びて着替えてから戻って来た俺は、キッチンに立つヴィルさんとヴィデロさんを発見して近寄っていった。
「ヴィルさんおはようございます。昨日はお泊りしちゃってすいません」
俺が声をかけると、ヴィルさんは俺の頭をひと撫でして、「おはよう」とヴィデロさんにそっくりな顔で微笑んだ。
「今、器具の使い方を習っていたんだ。向こうのキッチンとこっちじゃ全然違うから」
「こっちの方が扱いが簡単だから、すぐ覚えるだろ。健吾が来たからあとは健吾に習えばいい」
「教えてくれるか?」
「喜んで」
一緒にキッチンに立てるとか、嬉しい以外の何物でもない。
俺はヴィデロさんと並んで、これはこう、それはこう、とウキウキとレクチャーしながら朝ご飯作成に勤しんだ。
ホッケの塩焼きとベーコンエッグとコンソメスープとご飯という和洋折衷の朝ご飯を終えた俺たちは、早速ログインして王宮のアリッサさんの所に向かうことにした。
ヴィデロさんのマーカーを隠す魔道具を受け取るために。っていうか魔道具ってそんなに簡単に出来るもんなのかな。なんか楽しそうだけど、機械類は俺の目にはどれも同じに映るんだよなあ。
アリッサさんからログインしてるからいつでも来てというチャットを貰った俺たちは、手を繋いで直接アリッサさんの部屋に跳んだ。
いつもながら魔道具であふれている部屋に出た俺たちを、アリッサさんは笑顔で迎え入れてくれた。
「ヴィデロ、お疲れ様。大変だったでしょう。あの時の苦労をヴィデロにまで背負わせちゃうなんてね……」
感慨深くヴィデロさんの頬を手の平で挟んだアリッサさんは、ほんのり涙目になっていた。
「俺は大丈夫。マック、いや、ケンゴともう一人の偉大なる魔導士が手を貸してくれたから」
「そう、ありがとう、健吾君。ごめんね向こうでは顔を出せなくて。ちょっとしたトラブルがあって、本社から出れなかったのよ。電波の揺れとかも気になるから、あとでジャルさんのところに行ってくれるととても助かるわ。健吾君が担当になってるのでしょ」
「あ、そういえばそうです。最近は全然そのことを頼んでなかったんですけど」
「ジャルさんが率先して調整してくれてたのよ。お礼に獣人の村に魔道具を進呈したりお酒を贈ったりしているのだけど、最近貰い過ぎだって言って受け取ってもらえないの」
次はどうしようかしら、と考え込むアリッサさんは、俺とまったく同じ対応をされてしまったらしい。
それはそうと、と話を変えたアリッサさんは、手元の小さな魔道具をヴィデロさんに差し出した。
ピンバッチの様なそれは、魔素のなんだかを遮断して変換してどうのこうのと説明してくれたけれど、俺にはさっぱりわからなかった。ヴィデロさんは理解したのかわからないけれど、うんうん頷いてたから、もしかしたら理解してるのかもしれない。すげえ。カッコいい。好き。
アリッサさんはそれを腰にあるカバンに取り付け、そして宙を睨んでは魔道具を何か器具で弄っていた。
「ここならどんな服に着替えても持ち歩くでしょうから、つけ忘れもないわよね。よし、マーカーが現れないわ。調整完了よ。あとは自分でもチェックして、もし見えてしまった場合はここに来て。すぐに直すから。その際、一言連絡をくれるとすぐに対応するわ」
「相変わらずだな、母さん」
「え、何が?」
「魔道具に対する対応が。自分の時間もあるだろ。もし調子が悪くなったら母さんの都合のいい時に直してもらうから、何かを投げ出して魔道具の対応をするのはやめてくれよ。向こうの仕事も。あまり寝る時間もないんだろ」
ヴィデロさんの労わりの言葉に、アリッサさんが驚いたような顔をする。
「やだ、顔に出てた? 元気な顔だけを見せていたつもりなんだけど」
「向こうに行ってわかった。夢で母さんを見ていたんだ。母さんが帰ってしまってから。白い壁の部屋で、沢山の魔道具に囲まれながら、母さんは忙しそうに働き続けていた。その姿はこっちにいて魔道具技師として働いていたころと全く変わりなくて、父さんが「働き過ぎだ」と心配していたそのままの姿だった。その時に見た時間が、夜中を指す時間で、時に兄と行動していたり、時に一人薄暗い部屋であの機械に囲まれていたりしていて。あれは俺が寝ている時間に母はまだ働いていたということだろ。今もそれは変わっていないんじゃないか? それなのに、俺のためにこんな大変な物を作って」
アリッサさんを見下ろすヴィデロさんは、それでも、付けられた魔道具を大事そうに手で撫でた。
「夢に、見て……?」
「ああ。俺はずっと、母さんの持っていた携帯端末? というものを所持していた。手に入れたのは偶然だったけれども、見つけた瞬間母さんの物だと確信できた。あのジャル・ガーの洞窟で母さんは消えたのだとわかった。最悪だと呪いにやられて倒れたか、魔物に襲われたのかと思っていたから、あの夢は俺の願望だと思っていたけれど。端末を通して繋がっていたんだって、今なら理解できる。無理だけはしないで、母さんは長く生きて欲しい」
淡々と話すヴィデロさんを見上げたアリッサさんは、口元に手を当てて肩を震わせたあと、手を外してから、困ったように笑った。
「そうね。長生き頑張る。家族も増えたことだしね」
アリッサさんはそれだけ言うと、ちょっと待ってて、と奥の部屋に消えた。
そしてすぐに飲み物を持ってきて、俺たちに振舞ってくれる。
「ごめんなさい。用件が先になってしまって、おもてなしできてなかったわ」
どうぞ、と勧められて、ありがたくいただくことにする。
お茶に手を伸ばすと、アリッサさんが改めてこれからヴィデロさんがログアウト後にしないといけない手続等の説明を始めた。
アリッサさんの会社は俺たちの住んでいる場所から、高速に乗って車で一時間程かかる場所にあるので、そこまで遠いってわけでもないのかもしれないけど、忙しすぎてあまり頻繁には行き来出来てないんだ。もっぱらヴィルさんが佐久間さんに仕事を丸投げしてアリッサさんの元に行っているような状態なので、一番手っ取り早い打ち合わせがこの王宮の一室ってことになる。その時は俺もログインが必要になるんだけどね。二人のためなら足になんていつだってなるよ。
明後日の打ち合わせが済むまで、俺はまだ見ていなかったクエスト欄を見ることにした。魔王討伐から、全然開いてなかったから。ずっとエクスクラメーションマークがついてるのが地味に気になる。
指でタップすると、目の前の画面が切り替わり、クエスト一覧がずらっと現れる。
その中でまだ開いてない消化済みクエストを選んで開く。セイジさんのクエストだ。
『蘇生薬を精製しよう
蘇生薬のレシピの断片が見つかった
断片の一つ一つを繋ぎ合わせて、できることを駆使して「蘇生薬」を作り、それを必要としている人物に使おう
クリア報酬:「世の理」 錬金術師 世界の恒久的平和 時の調べ
クエスト失敗:蘇生薬の精製失敗 錬金術師消失 魔の復活 時の完全消失
蘇生薬成功率 100%
【クエストクリア!】
蘇生薬のレシピを再現し、精製に成功した
必要な時、必要な者に的確に使うことが出来た
その者の蘇生に成功した
時の調べを正常値に戻すことが出来た
諧調の力により「世の理」がひもとかれた
クリアランク:S
クリア報酬:「世の理」正常値化 上級錬金術師、世界の恒久的平和へのクエスト 時の調べへの道標』
読みながら、んん? と顔を顰める。なんか、話がさらに大きくなってない? 平和になるわけじゃなくて、平和になるためのクエスト……?
と考えた瞬間、ピロン、と新しい通知が来て、正直ビビった。
ヴィデロさんもハッと顔を上げ、辺りをきょろきょろと見回している。もしかして、ヴィデロさんにもクエストが行ったのかな。
「何か音が」
「ああ、クエストが来たんじゃないかしら。でも、そんないきなり来るもの……?」
アリッサさんもヴィデロさんと一緒に首を傾げている。え、来るよ。いきなり来るよ、クエスト。依頼を受けたわけでもないのに来るとか、普通にあるよね。
そう思いながら、クエスト欄をタップする。ヴィデロさんもアリッサさんに教わって、開いたみたいだった。
『【NEW】魔王誕生を阻止しよう
魔王が倒れた今 根源の『神の御使いの欠片』が新たなる力を求めようとしている
『神の御使いの欠片』の力を削ぎ 新たなる魔王誕生を阻止せよ
タイムリミット:300日
クリア報酬:上級錬金術師 世界の恒久的魔王消失 『時の調べ』への道』
今まさに見終わったクリアクエストの連続クエストだった。
「マジか……」
思わず呟く。
なんていうか、内容が不穏。そしてタイムリミット300日。
300日放置すると、また『神の御使いの欠片』が力を貯めちゃうってことでいいのかな。
それにしても報酬。この報酬を見てるとなんとなく嫌な予感しかしないんだけど。
『神の御使いの欠片』の力を削ぐってどうやるんだよ。そして、上級の錬金術師って何!? なんか俺、ほんとに魔王になっちゃったりしないの!?
「昨日、兄と勉強していたら、隣でケンゴが健やかに寝ていたから、俺のベッドに運んだんだ。隣の部屋まで廊下を通って運んでいたら起こしそうで可哀そうだと」
「なるほど寝落ち……」
「ねおち?」
「えっと、何かをしてる時に、いつの間にか寝ちゃうこと……かな」
知らない言葉に首を傾げるヴィデロさんに悶えそうになりながら、俺は身を起こそうとヴィデロさんの身体から腕を解いた。朝ご飯作らないとね。
「朝ご飯は何食べたい? パン? ご飯?」
「朝はアキチャンがホッケが食べたいと言ってなかったか?」
「アキチャン?」
「ケンゴの職場のケンゴに胃袋掴まれたやつだ」
ヴィデロさんが誰を指しているのか一瞬わからなかったけれど、真顔で佐久間さんのことだと指摘された瞬間、俺は吹いた。
とうとう「あきちゃん」って呼んでくれる人が現れたんだ。よかったね佐久間さん。でも嬉しいからってヴィデロさんを好きにならないでね。
「そういえばそんなことを言っていたような」
「ホッケってなんだ?」
「魚の種類だよ。さっぱりした味で美味しいんだ」
「じゃあ俺もそれが食べてみたいかな」
ゆっくりと俺の頭を撫でながら、ヴィデロさんが優しい顔をする。
座った状態で寝転がったヴィデロさんを見下ろした俺は、身を屈めてヴィデロさんの頬にキスをすると、ヴィデロさんを乗り越えてベッドを降りようとして、ヴィデロさんの腕に捕まった。
腰を掴まれて、ヴィデロさんの身体の上に転がる。重くない? と聞くと、ヴィデロさんは笑いながら「軽い」と返してきた。
「こうして腕の中に愛しい人がいてくれることが嬉しい」
ちゅ、と軽く唇を食まれて、解放される。
ああ、なんか。なんか。
俺、朝ご飯作るよりヴィデロさんとくっついていたい、かも。
ずるっとベッドから落ちて、その場にしゃがみ込んでしまった俺は、笑いながら俺を見ているヴィデロさんに熱くなった顔を向けて、必死で欲望を打ち消した。
朝ご飯朝ご飯。ヴィデロさんもお腹空いてるかもしれないしね。今はとりあえずヴィデロさんに三食ご飯を作ってあげれる幸せを堪能しよう。
一度部屋に帰ってシャワーを浴びて着替えてから戻って来た俺は、キッチンに立つヴィルさんとヴィデロさんを発見して近寄っていった。
「ヴィルさんおはようございます。昨日はお泊りしちゃってすいません」
俺が声をかけると、ヴィルさんは俺の頭をひと撫でして、「おはよう」とヴィデロさんにそっくりな顔で微笑んだ。
「今、器具の使い方を習っていたんだ。向こうのキッチンとこっちじゃ全然違うから」
「こっちの方が扱いが簡単だから、すぐ覚えるだろ。健吾が来たからあとは健吾に習えばいい」
「教えてくれるか?」
「喜んで」
一緒にキッチンに立てるとか、嬉しい以外の何物でもない。
俺はヴィデロさんと並んで、これはこう、それはこう、とウキウキとレクチャーしながら朝ご飯作成に勤しんだ。
ホッケの塩焼きとベーコンエッグとコンソメスープとご飯という和洋折衷の朝ご飯を終えた俺たちは、早速ログインして王宮のアリッサさんの所に向かうことにした。
ヴィデロさんのマーカーを隠す魔道具を受け取るために。っていうか魔道具ってそんなに簡単に出来るもんなのかな。なんか楽しそうだけど、機械類は俺の目にはどれも同じに映るんだよなあ。
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いつもながら魔道具であふれている部屋に出た俺たちを、アリッサさんは笑顔で迎え入れてくれた。
「ヴィデロ、お疲れ様。大変だったでしょう。あの時の苦労をヴィデロにまで背負わせちゃうなんてね……」
感慨深くヴィデロさんの頬を手の平で挟んだアリッサさんは、ほんのり涙目になっていた。
「俺は大丈夫。マック、いや、ケンゴともう一人の偉大なる魔導士が手を貸してくれたから」
「そう、ありがとう、健吾君。ごめんね向こうでは顔を出せなくて。ちょっとしたトラブルがあって、本社から出れなかったのよ。電波の揺れとかも気になるから、あとでジャルさんのところに行ってくれるととても助かるわ。健吾君が担当になってるのでしょ」
「あ、そういえばそうです。最近は全然そのことを頼んでなかったんですけど」
「ジャルさんが率先して調整してくれてたのよ。お礼に獣人の村に魔道具を進呈したりお酒を贈ったりしているのだけど、最近貰い過ぎだって言って受け取ってもらえないの」
次はどうしようかしら、と考え込むアリッサさんは、俺とまったく同じ対応をされてしまったらしい。
それはそうと、と話を変えたアリッサさんは、手元の小さな魔道具をヴィデロさんに差し出した。
ピンバッチの様なそれは、魔素のなんだかを遮断して変換してどうのこうのと説明してくれたけれど、俺にはさっぱりわからなかった。ヴィデロさんは理解したのかわからないけれど、うんうん頷いてたから、もしかしたら理解してるのかもしれない。すげえ。カッコいい。好き。
アリッサさんはそれを腰にあるカバンに取り付け、そして宙を睨んでは魔道具を何か器具で弄っていた。
「ここならどんな服に着替えても持ち歩くでしょうから、つけ忘れもないわよね。よし、マーカーが現れないわ。調整完了よ。あとは自分でもチェックして、もし見えてしまった場合はここに来て。すぐに直すから。その際、一言連絡をくれるとすぐに対応するわ」
「相変わらずだな、母さん」
「え、何が?」
「魔道具に対する対応が。自分の時間もあるだろ。もし調子が悪くなったら母さんの都合のいい時に直してもらうから、何かを投げ出して魔道具の対応をするのはやめてくれよ。向こうの仕事も。あまり寝る時間もないんだろ」
ヴィデロさんの労わりの言葉に、アリッサさんが驚いたような顔をする。
「やだ、顔に出てた? 元気な顔だけを見せていたつもりなんだけど」
「向こうに行ってわかった。夢で母さんを見ていたんだ。母さんが帰ってしまってから。白い壁の部屋で、沢山の魔道具に囲まれながら、母さんは忙しそうに働き続けていた。その姿はこっちにいて魔道具技師として働いていたころと全く変わりなくて、父さんが「働き過ぎだ」と心配していたそのままの姿だった。その時に見た時間が、夜中を指す時間で、時に兄と行動していたり、時に一人薄暗い部屋であの機械に囲まれていたりしていて。あれは俺が寝ている時間に母はまだ働いていたということだろ。今もそれは変わっていないんじゃないか? それなのに、俺のためにこんな大変な物を作って」
アリッサさんを見下ろすヴィデロさんは、それでも、付けられた魔道具を大事そうに手で撫でた。
「夢に、見て……?」
「ああ。俺はずっと、母さんの持っていた携帯端末? というものを所持していた。手に入れたのは偶然だったけれども、見つけた瞬間母さんの物だと確信できた。あのジャル・ガーの洞窟で母さんは消えたのだとわかった。最悪だと呪いにやられて倒れたか、魔物に襲われたのかと思っていたから、あの夢は俺の願望だと思っていたけれど。端末を通して繋がっていたんだって、今なら理解できる。無理だけはしないで、母さんは長く生きて欲しい」
淡々と話すヴィデロさんを見上げたアリッサさんは、口元に手を当てて肩を震わせたあと、手を外してから、困ったように笑った。
「そうね。長生き頑張る。家族も増えたことだしね」
アリッサさんはそれだけ言うと、ちょっと待ってて、と奥の部屋に消えた。
そしてすぐに飲み物を持ってきて、俺たちに振舞ってくれる。
「ごめんなさい。用件が先になってしまって、おもてなしできてなかったわ」
どうぞ、と勧められて、ありがたくいただくことにする。
お茶に手を伸ばすと、アリッサさんが改めてこれからヴィデロさんがログアウト後にしないといけない手続等の説明を始めた。
アリッサさんの会社は俺たちの住んでいる場所から、高速に乗って車で一時間程かかる場所にあるので、そこまで遠いってわけでもないのかもしれないけど、忙しすぎてあまり頻繁には行き来出来てないんだ。もっぱらヴィルさんが佐久間さんに仕事を丸投げしてアリッサさんの元に行っているような状態なので、一番手っ取り早い打ち合わせがこの王宮の一室ってことになる。その時は俺もログインが必要になるんだけどね。二人のためなら足になんていつだってなるよ。
明後日の打ち合わせが済むまで、俺はまだ見ていなかったクエスト欄を見ることにした。魔王討伐から、全然開いてなかったから。ずっとエクスクラメーションマークがついてるのが地味に気になる。
指でタップすると、目の前の画面が切り替わり、クエスト一覧がずらっと現れる。
その中でまだ開いてない消化済みクエストを選んで開く。セイジさんのクエストだ。
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断片の一つ一つを繋ぎ合わせて、できることを駆使して「蘇生薬」を作り、それを必要としている人物に使おう
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クエスト失敗:蘇生薬の精製失敗 錬金術師消失 魔の復活 時の完全消失
蘇生薬成功率 100%
【クエストクリア!】
蘇生薬のレシピを再現し、精製に成功した
必要な時、必要な者に的確に使うことが出来た
その者の蘇生に成功した
時の調べを正常値に戻すことが出来た
諧調の力により「世の理」がひもとかれた
クリアランク:S
クリア報酬:「世の理」正常値化 上級錬金術師、世界の恒久的平和へのクエスト 時の調べへの道標』
読みながら、んん? と顔を顰める。なんか、話がさらに大きくなってない? 平和になるわけじゃなくて、平和になるためのクエスト……?
と考えた瞬間、ピロン、と新しい通知が来て、正直ビビった。
ヴィデロさんもハッと顔を上げ、辺りをきょろきょろと見回している。もしかして、ヴィデロさんにもクエストが行ったのかな。
「何か音が」
「ああ、クエストが来たんじゃないかしら。でも、そんないきなり来るもの……?」
アリッサさんもヴィデロさんと一緒に首を傾げている。え、来るよ。いきなり来るよ、クエスト。依頼を受けたわけでもないのに来るとか、普通にあるよね。
そう思いながら、クエスト欄をタップする。ヴィデロさんもアリッサさんに教わって、開いたみたいだった。
『【NEW】魔王誕生を阻止しよう
魔王が倒れた今 根源の『神の御使いの欠片』が新たなる力を求めようとしている
『神の御使いの欠片』の力を削ぎ 新たなる魔王誕生を阻止せよ
タイムリミット:300日
クリア報酬:上級錬金術師 世界の恒久的魔王消失 『時の調べ』への道』
今まさに見終わったクリアクエストの連続クエストだった。
「マジか……」
思わず呟く。
なんていうか、内容が不穏。そしてタイムリミット300日。
300日放置すると、また『神の御使いの欠片』が力を貯めちゃうってことでいいのかな。
それにしても報酬。この報酬を見てるとなんとなく嫌な予感しかしないんだけど。
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