これは報われない恋だ。

朝陽天満

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678、終戦

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 覇王の剣を手にした勇者は、物凄かった。

 気迫が全然違った。

 剣と一体化してるような気すらしてくるくらい、覇王の剣と波長が合ってるっぽかった。

 とうとう魔王の爪を二本切り落とし、身体に剣を叩きつける。流石に切り刻むとかは出来ないみたいだけど、頭上のHPがひたすら減ってるから一撃でとんでもないダメージを与えてるみたいだった。



 魔王の弱体化は、全然解除にならなかった。皆にボコボコにされつつ何とかやり返す魔王は、すでに威圧も何も発してはいなかった。

 もうすぐゲージがなくなる、というところで、勇者たちが追い打ちをかけ、魔法攻撃陣営も追撃する。

 俺も聖魔法をガンガン打ちまくり、ほんの少しは魔王のHPを削る手伝いをして。

 最後の力を振り絞って全体攻撃を開始した魔王を雄太たち前衛が押さえつける中、勇者が剣を振りかぶったところでそれは起きた。



 切り離された腕と爪が、宙に舞って無差別に攻撃を開始したんだ。





 腕は後ろの方で魔法攻撃をしていた人たちを無造作に斬りまくり、最初にユイが膝をついた。

 次の瞬間にはサラさんがお腹を斬られて血が吹き出し、ユーリナさんがまたしても死に戻り状態になる。

 すぐ近くにいたブレイブがすぐに蘇生薬をかけて復活させていた中、サラさんはドレインさんに回復してもらっていて。俺もユイに回復の聖魔法を唱えたら、今度は俺が斬り刻まれた。

 一瞬でなくなったHPに、やっぱり俺は防御力弱すぎるんだよな、なんて思いながら前線に視線を移せば、ヴィデロさんがこっちに駆け寄ってくるところが目に入った。

 必死で「すぐ戻るから」と伝えようとするけど、すでに口は動かず、身体は消えていく。やっぱり死に戻りの感覚って慣れないよ。





 見た事のある廃教会で復活した俺は、隣にユイがいることにちょっとだけ驚きながら、アイテムで全快にした。



「最後に死に戻っちゃったね」

「うん。他の人は大丈夫だったのかな」

「今復活してこないってことは、大丈夫だってことだよ。サラさんもちゃんとドレインさんに回復してもらってたし」

「そうだね。じゃあ戻ろうか」

「うん。戻ったらすでに終わってたりしてね」

「あはは……早く倒れて欲しかったけど、それはちょっとシャレにならない……」

「ほんとにね。ここまで頑張ったのに魔王の最後を見れないとかだったら笑えないよね」



 ニコニコとそんなことを言うユイに、何かフラグが立った気がした。

 ホントに笑えない。魔王が倒されたところが見たいじゃん。ここまで頑張ったんだし。

 ユイと共に急いでラスボス戦現場に戻ると。





 既に、魔王の姿はなかった。

 そして、黒く染まったクリアオーブが宙に浮いていて、それをセイジさんがめちゃくちゃ複雑な魔法陣でひとまとめにしていた。



「ああああ……どうして俺はこう、肝心なところで……!」



 頽れていると、ヴィデロさんとヴィルさんが走り寄って来た。

 死に戻りの復活って、タイムラグが少ないと思ったけど、こうしてみると結構経ってるよね!

 5分くらいはかかるよね!

 ユイも雄太たちに囲まれて、残念だったねとか言われている。



「マック! 大丈夫か! 痛いところは? おかしなところはないか?」



 ヴィデロさんがおニューの俺のアバターをつぶさに観察しながら怪我の有無を確かめている。復活すると全て元通りになるから大丈夫だよ。



「ヴィデロ、アバターなんだからそこまで慌てることないだろ」

「え、あ……ああ。そうだな」



 ヴィルさんに嗜められて、ヴィデロさんはハッとしたように俺の身体を確かめる手を止めた。

 そうこうしている間にも、クリアオーブはどこかに消えていた。



「終わったな」

「ええ。ようやく終わり」

「長かったな。ここまで来るの」

「今度こそ本当に終わりよね」



 消えていったクリアオーブの浮いていた場所に視線を向けながら、4人が感慨深げに呟いている。

 これは、邪魔しちゃダメなやつだよね。

 クラッシュも雄太たちもそれはわかってるみたいで、皆遠くから4人を見守っている。



「戻ろうか。トレに。もう魔王は出てこないでしょ」

「そうだな」

「マック、ヴィデロ、あの4人の邪魔にならないように、帰ろう」

「俺が連れてくよ。俺も、あの人たちの中にはちょっと行けないし。家で待ってるよ。皆を」



 クラッシュとヴィルさんが並んで俺たちを手招きする。

 辺境組もユイがまとめて連れ帰るらしい。

 そうだね。きっと俺たちは部外者だよね。

 俺たちはクラッシュの手を取って、ちらりと4人に視線を向けてから、トレに跳んだ。







 なぜか俺の工房で落ち着いた3人にお茶を振舞う。

 濃厚な聖水茶は、身体の中に溜まった悪い魔素を浄化してくれるかのようにすっきりとした味わいで、染み込んでいった。

 飲まず食わずで戦ってたからなあ。

 あっという間だったけど、時間にすると結構長かったんだよな、戦闘時間。

 普通のラスボスならそこまで時間はかからないはずなのに。数時間あの緊迫した中で戦ってたなんてなんとなく夢だったんじゃないかって気になってくる。



「魔王の最後ってどうだった? ドロップ品とか出た?」



 横に座るヴィデロさんにそんな質問を投げかけると、ヴィデロさんはスッと目を細めてから、俺の頭を引き寄せて額にキスをした。



「やっぱり死に戻りはダメだ。心臓に悪い」

「うん。ごめんね。油断してた」

「俺も咄嗟に反応できなかったから守り切れなかった。ごめんな」

「ヴィデロさんは前衛でしょ」

「それでもだ」

「うん。まず俺のレベルが低いからだよ。でもヴィデロさんはレベル凄いね。カンスト……」



 してるんだね、と付け加えようとして、ふと気付く。

 パーティー欄のレベル、ヴィデロさんがLv302になってた。



「え……カンストって、300じゃなかったんだ……」



 呟くと、ヴィルさんが吹き出した。



「ああ、ログインした時のレベルが300だったからな。あれは300相当の強さがあったと判断されたんだろ。正直レベルが1からだったら連れて行く気はなかったが、やはり母の言っていたことは正しかったみたいだな。こちらの経験が全て反映されるというのは」



 見ると、ヴィルさんも数レベル上がっていた。俺はドロップ品だけじゃなくて経験値まで逃してしまっていたってことか。

 悔しいな、と思って顔を上げると、そこには心配そうなヴィデロさんの顔があった。

 久しくこんな近くでゆっくりと見たことがなかった顔が。



 その顔を見ると、ドロップ品とか経験値とかどうでもよくなってくる。

 それよりも何よりも、ここにヴィデロさんがいる。



「……ヴィデロさん」

「どうした、マック」



 俺の呼びかけにすぐさま答えてくれるヴィデロさんに胸がじんわりする。



「おかえり……っていうのは変か。ええと、いらっしゃい、なのかな? それとも」

「おかえりがいい」



 そう言って俺に腕を伸ばすヴィデロさんに、嬉しくなる。

 さっき工房の前でフレンド登録した時も感じたこのじんわりした何かは、とても複雑で、この感情を言葉にして表すことはとても難しかった。

 目の前にヴィルさんとクラッシュがいるのも忘れて、俺はヴィデロさんに抱き着いた。

 なんだか気持ちが複雑すぎて泣きたくなる。



「おかえりなさい。無事でよかった」

「ああ。マックも、元気そうでよかった」



 頭の上にキスが降ってくる。元気だよ。今はすごく。だってヴィデロさんがいるから。



 



 
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