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675、苦戦
しおりを挟むそこからは空中戦の始まりだった。
雄太たちも『飛翔』を使って宙から攻撃を始め、ガンツさん以外はセイジさんに魔法陣魔法で浮かせて貰って攻撃を開始。ガンツさんは槍だから、踏ん張らないと攻撃力が下がるんだとか。そういうものなのか。
魔王が大きいから、空中から攻撃を出来るのはかなり戦いやすいと思う。胸の装飾品なんて、普通に攻撃したらなかなか当たらない高さにあるもん。近くで攻撃していた雄太の頭がへそ位だから、胸の装飾品なんて、大剣を振り回しても掠るくらいの高さにある。
ヴィデロさんは翼をはためかせながら、特攻攻撃を開始していた。飛翔並みに移動速度が速い。流石だ。
俺たち後衛陣はちゃんと地面にいるんだけど、クラッシュは自身で浮遊系の魔法陣を描いて攻撃を開始している。
サラさんは自分で飛翔が使えるらしくて、ユイと共に空の上の方に飛んでいった。
たまに魔王の所に特大の殺傷力抜群な極太魔法の雨が降るから、上からの合図があったら皆素直に一歩引いている。ガンツさんはなんだかんだと魔王を引き付ける役目をしてるっぽいけど。魔王も地に足をつけているガンツさんの方が狙いやすいらしくて、もっぱらそっちに特攻していく。
ユキヒラも宙に浮いて攻撃してるけど、慣れないのかちょっとだけ剣がヘロヘロになっていた。
俺も聖魔法で攻撃に参加。
たいして効いてる気はしないけど、ないよりはまし、って感じかな。
そんなこんなで、前衛が頑張ってるから魔王のHPも順調に削れて行く。
真っ黒い闇で出来た鎧を身に着けた魔王は、周りからのフルボッコにより、後衛陣に手を出すこともなく、ぼこぼこに打ちのめされていた。魔王が移動してもその移動速度に皆ついていけるからね。ちなみに、俺には無理だし、魔王が動く姿はハッキリとは見えてない。目の前に出られたら気付いたときには瞬殺されてると思う。でも皆が魔王の動きを牽制してるから、こうやって呑気に聖魔法を撃ててるんだ。
さっきからかなりの頻度でそこら辺を浄化してる俺の行動により、地面はなんとなーくまだらっぽくなっている。
浄化魔法で一時的に綺麗になった地面の上を魔王が通ることで黒く塗りつぶされ、また浄化したことで地面が綺麗になる、的なことが繰り返されて、もしかして地面の汚れで魔王の位置特定ができるんじゃないかな、なんて思いながら短剣を構える。ルミエールダガーは滅茶苦茶頑張ってて、ひたすら経験値を貯めている。魔王は経験値の宝庫らしい。闇属性ってのも大きいのかも。
浄化を唱えるとヴィデロさんが回復するから、俺頑張るよ。そして目の前の魔王を倒して、早くログアウトするんだ。本当に向こうにヴィデロさんの身体があるのか、確かめないといけないから。
そんな必死さが通じたのか、俺自身の聖魔法レベルもだいぶ上がって、浄化の範囲が目に見えてさっきより増えていた。
今レベルどれくらいになったんだろう、なんて気になってもさすがにゆっくり開いてる時間はないよね。
あとでゆっくりチェックしよ。ついでにヴィデロさんとフレンド登録しないと。
もう一回婚姻の儀とか受けた方がいいのかな。あれ、でも伴侶補正は消えてなかったから、大丈夫なのかな。今度神殿に行って確認してみよ。
なんて考えてたのがいけなかったのか、ヴィルさんがいるから咆哮も安心と思って油断していたからか。
黄色のHPゲージを削り切り、最後の咆哮をヴィルさんのスキルによって効果を消された魔王は、超短くなった一定時間行動不能の後、その姿をかき消した。
そして。
俺とユーリナさんの立っているすぐ近くに現れた。
転移魔法みたいな移動だった。音もなかったから、足で移動したんじゃない、と思う。
けど、真相が定かじゃないまま、俺とユーリナさんは揃って一瞬にしてHPを空にされた。
あまりに一瞬の出来事に、痛いとも感じずに「あ、死に戻りする」と指先のキラキラを気にしながら目の前に現れた魔王に皆が群がるところを見ていると、セイジさんが瞬時に魔法陣を描いて俺たちの方に飛ばす。
すると、蘇生薬をかけた時みたいに、キラキラが元の位置に戻っていった。
あれ、セイジさんも蘇生使えるの? だったら、蘇生薬はいらなかったんじゃ。ちらりと一気に空になったはずの自分のHPを見ると、HP回復状態は3分の1程度にとどまっていた。ってことは、蘇生薬ランクCとかBとかそこら辺と同等ってことだ。だから保険として俺に蘇生薬を頼んだのか。流石セイジさん。
一命をとりとめた俺とユーリナさんは、急いでHPを満タンにすると、さっきの続きとばかりに攻撃を再開した。
っていうか魔王。瞬間移動系使うなんて反則もいいところだ。
それにしてもあの身を翻したヴィデロさんのスピード、飛翔より速かった。カッコいい。
「っつうか瞬間移動とか反則だろ!」
剣を振り下ろすときに魔王が消えて、盛大に空ぶっていた雄太は悪態を吐きながら魔王に剣をガンガン当てている。
ヴィデロさんは近くを飛んでいるヴィルさんと一言二言会話しながら的確に魔王の弱点を突いてるっぽい。次はどこを狙うかヴィルさんに助言を貰ってた。全てこの高性能な耳は会話を拾っちゃうのだ。
だから月都さんが「高橋今の空振りすげえ威力だったな!」とかいう会話も聞こえちゃって、自分が死に戻りしそうだったとかそういう緊迫感がほぼなかったんだよ。それに皆に蘇生薬は渡してたから、なんかあったら誰かはぶっかけて生き返らせてくれるだろ、みたいなノリだったんだよね。
でもここは魔王戦。
身体がもとに戻った俺とユーリナさんを見たヴィデロさんと、セイジさんたちのあの表情を見たら、ぐっと気持ちが引き締まった。
クラッシュもだけど、皆、顔を顰めて本当に「しまった!」みたいな顔をしたから。死に戻り出来るのはわかってても、やっぱり気持ち的にはプレイヤーとは違うんだろうなってくらい、苦渋に満ちた表情をしていた。
ヴィデロさんも、今度は死に戻り出来るのに気持ちはやっぱりこっちの人だから、セイジさんたちと同じ顔をしていて。「マック!」っていう悲壮な叫び声がしっかりと耳に入っていた。
きっと俺も、ヴィデロさんが魔王に怪我させられたら同じ顔をするんだと思う。最後のHPバー、真剣に削り切ろう。これがなくなったら、セイジさんがあの必死で集めたオーブに魔王を閉じ込めるんでしょ。その後どうするのかはわからないけど、もう魔王戦も終盤。気合い入れよう。
身体も強化され、瞬間移動的なものを使い始めた魔王は、最初の頃の縦横無尽な攻撃を再開した。
前衛後衛関係なく攻撃し始めたので、後衛の人たちも空に浮かぶ。
どうやら足の着く地面じゃないと瞬間移動できないっぽいから。
その代わり、誰も攻撃範囲の地面にいなくなると、今度は魔法をバンバン使い始めた。移動しながらだから、狙いも定まらず、最後の最後にしてHPを減らすのが格段に難しくなった。
飛んでくる魔法は軌道修正されるのか、必ず当たるような感じなので、剣よりさらに避けるのが難しくなった。
でも魔法は全て闇属性。ここにきてユキヒラがピンチに陥った。当たるとクリティカルヒットになってしまって、回復ばっかりで攻撃に出れなくなっていた。皆もそう。攻撃は当たらなくなって、そして魔法は必ず当てられてHPを削られる。ユイたちの魔法も当たらなくなってしまったので、連携魔法はお休みにして、サラさんが同じように追撃できる系魔法を単独で打ち始めた。
ユイが目をキラッキラさせてサラさんを見ている。そのうちサラさんに弟子入りしそうな勢いだよ。
俺はというと。
ヴィデロさんの背中に隠れて、ひたすら聖魔法を使い続けている。
何せヴィデロさんが闇魔法吸収の人だから。
魔王の魔法はほぼノーダメージなんだ。どころか、溜まった闇属性が俺の聖魔法でHP回復に変換されるから、ただいま無敵状態。
剣スキルを駆使して、剣の先からエアカッターみたいなものを出し続けている。
動いて攻撃したほうが魔王のHPを削りやすいのにそうしないのは、俺を魔王の魔法から庇ってるから。目の前の青い翼が眼福だけど、たとえダメージが入らないにしても魔法をヴィデロさんに当ててくるのはかなり腹立つ。辛い。
そんなこんなで、最終局面で、対魔王戦は苦戦を強いられていた。
強すぎるよ。流石は魔王ってだけのことはある。
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