これは報われない恋だ。

朝陽天満

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667、サラさんヤバい

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 魔王のいる廃都市からほど近い村の一つに俺たちは出た。

 勇者とエミリさんが懐かしいわと言っているのが妙に印象深かった。



「ここね、私達が最後にゆっくり休めた場所だったの。教会の中でサラが料理を作ったんだけどね、体力を回復するためにって、錬金釜で作ったその料理が見た目物凄くて。皆で笑いながらこれ食べれるのかよって」

「懐かしいな。あの料理は今でも忘れられない。美味いんだよ。確かに美味いんだけど、あの黒と緑のまだらなスープはインパクト抜群でな……」

「ほんとに。しかも素材をこの村から集めてね。かなりどす黒いものになったのよね。セイジがキュアポーションを作ってくれなかったら私達魔王の前にも行けなかったかもしれないわね」



 勇者とエミリさんの言葉に、皆が戦慄した。

 え、サラさん、ここにある穢れまくった素材をそのまま使ったんだ……そりゃ見た目物凄いものになるよ。真っ黒になるんじゃないかな。恐ろしい。そしてそれをちゃんと食べるこの人たちも恐ろしい。セイジさんが実は生命線だったとは。一番の常識人はセイジさんだったんだ……。

 苦笑しているセイジさんを尊敬のまなざしで見る。

 でも今の話、もしかして薬膳スープがここの素材で作れるってことかな。魔道具設置するついでに見て回ろうかな。



「じゃあ俺、頼まれた魔道具設置してきますんで」



 俺はそう言ってカバンからアリッサさん作の魔道具を取り出した。

 ユキヒラとクラッシュが一つずつ手に取る。



「これを置いて、ここに魔力を注げばいいんでしょ。俺、奥の方に設置してくる。設置するところ見てるから、任せといて」

「じゃあ俺は反対側だな」



 2人に数人の護衛が付き、村の中を移動していく。

 俺も二か所、と思ったら、エミリさんが一つを手に取った。



「じゃあ向こうの設置は私に任せて。アリッサに色々聞いてるからやり方はわかってるから」

「あ、はい」



 エミリさんがにこやかに一つを持って行ってしまう。

 残る一つを俺が一番近い場所に設置することになった。

 俺の護衛は雄太たち。

 村の隅に移動して、地面に置く。すると、MP注入の表示が出たので、満タンにする。なるほど。弄れる人はこんな風にMPを注げるんだ。まんま錬金釜。

 だいぶ減ったMPを回復した俺は、さっきの場所に戻るついでに、素材を探した。

 荒れ果てた村には、所々に自生している素材があった。薬草もあるし、錬金素材も普通に生い茂っている。なるほどこっちは素材が豊富だったんだな、と思えるラインナップに、俺はホクホクと素材を集めた。もちろん雄太たちも手伝ってくれた。

 皆すでに元の場所に戻っていて、俺たちの手に素材の山があるのを見ると、呆れたような視線を向けてきた。でも、この素材で作れるよ。『薬草の色とりどり薬膳スープ』。ナナフサはこっちの大陸では普通に自生する素材だった。向こうではエルフの里にしかないけど、こっちには普通にカクカクした草が生い茂っていて、なかなかに愉快だった。



「サラさんが作ったスープ、もう一度飲みますか?」



 俺が声をかけると、その味を味わった三人がさっと顔を青くした。え、待って。めっちゃ効能高いスープだよ? 美味しいよ? って、ああそうか。素材そのまま使ったから、猛毒のような物だったんだ。



「遠慮しとこうかしら……魔王の所に行く前に瀕死になるのはちょっと……」

「俺は、ジャスミンが食い物を持たせてくれたから」

「遠慮しとくぜ」



 三人が三人、即断ってきた。思わず吹き出しそうになる。



「素材は洗うので大丈夫ですけど。エルフの里の長老様お墨付きの美味しさですし、一定時間状態異常耐性とスタミナ減少無が付きますけど」



 そう言うと、皆が目を瞠った。

 雄太たちはすぐさま手をあげて「食いたい!」と騒ぎだし、ワクワクした顔をする。そういえば一回雄太たちは食べてたんだった。

 まずは素材を洗うところから始めて、錬金釜をセットするころには、皆が興味津々の顔つきで見ていた。『白金の獅子』はユーリナさんしか一緒に行動しなかったから、錬金術自体初めてなのかも。

 素材を一つ一つ入れて溶かし、グルグル掻き混ぜる。

 出来上がりを瓶に入れて渡すと、セイジさんたちは「サラの時と違う……」と興味深そうに瓶を眺めた。外見も綺麗だよね。サラさんの場合まだら模様だったから俺の多層構造的な色合いとはまた違った見た目をしていたはず。しかも黒かったってことは見た目めっちゃエグかっただろうし。

 恐る恐るといったようにエミリさんが飲んで、目を輝かせる。



「すごいわ、状態異常にならない。それにマックの料理は相変わらず美味しい」

「嘘だろ……」

「毒にならねえ……」



 三人の感想に、思わず苦笑する。だって素材を洗ったから。

 『色とりどりの薬膳スープ』は、かなり好評だった。見た目もね。





 ブレイブ先導の元、せっかくだからと村を浄化する。

 これでHPは減らなくなったはず。

 教会にお邪魔して、ここの教会をリスポーン場所にする。これなら死に戻りしても、すぐに転移で戻れる。

 俺はやられた人を蘇生する係だから、死に戻るわけにはいかないけど。前線でキラキラしてる人に蘇生薬をかけるのは多分無理だから、その時は仕方ないから、お迎え係ってことで落ち着いた。

 教会はそこまでは広くなかったけれど、辛うじて全員入れたので、教会内で魔王の所に行った時の確認を再度行う。なんか、戦争時のブリーフィングみたいだ。

 打ち合わせを終えると、少しだけ休憩してから出発、ということになった。なので、俺は素材を集めに行くことにする。

 それに雄太たちが付き合ってくれるというので一緒に行動することにした。



「そういえば聞いてマック。ブレイブが、新しいスキルゲットしたの」

「ああ。海里の愛のこもったスキルを」

「何それ」



 二人がふふん、という顔をして、これよ、とブレイブの腕を見せてくれた。

 そこには、蔦のような花のような刺青が入っていた。なんか、見たことあるような。





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