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658、失敗作の使い道……?
しおりを挟む後日、雄太から失敗作をくれ、と連絡があった。
あんなごみ、何に使うんだろう、と失敗作を抱えて行ってみると、雄太は大胆なことを始めた。
「見てろよ、マック。撒き餌!」
辺境の外で魔物を見かけると、雄太は楽しそうに失敗作を魔物に投げつけた。
すると、魔物がそれを食べ始めた。何あれ。
更に、雄太が次々と失敗作を投げつけていく。そこらへんにいる薬師の失敗作もかき集めてみたらしい。使い方が思いつかなかったから魔物に投げたら食べたので、面白くなって失敗作を集めたんだとか。
「あれを餌だと思うのか、ちょっと足が止まるんだよ。そこに攻撃すると、先制されずに倒せるんだよなあ」
そんなことを言ってたけど、待て。
魔物を鑑定眼で見てみると、失敗作を食べた魔物は、ほんとに微量だけど、MP回復してる。
そういえば、物には内包魔力みたいなものがあるんだっけ。それは失敗しても同じことで。
「高橋……すごく楽しそうなところ悪いけど、魔物のMPちょっとずつ回復させてるよお前」
「は? MP回復?」
「失敗作も、多分魔力は内包されてて、しかも多分内包魔力が一定数より高くなっちゃうと失敗するとか前に師匠が言ってた気がするから、下手すると通常アイテムより魔力はあるから……あんなゴミみたいな失敗作でも、魔物のMP回復に役立つんだね……」
ため息とともに実情を伝えると、『高橋と愉快な仲間たち』のメンバーが雄太をジト目で見た。
「でも、じゃあ俺らがこれを食ったらMP回復するのか?」
「その発想はなかった」
だってレトロなゲームと違って、自分の口でこれを摂取しないといけないとか。真っ黒で何やら焦げ臭い様な匂いのするこの物体を食うなんて、視覚嗅覚味覚が否定する。
「高橋やってみたら?」
「え、俺?」
「言い出しっぺの法則ってあるでしょ」
にこやかに海里に突っ込まれて、雄太はしまった、という顔になった。
「あ、魔物に状態異常『不調(弱)』ってついてるから、もし高橋が食べてMPが回復したとしても、状態異常はつくと思うよ」
付け足すと、雄太がこっちをキッと見て、「不調ってなんだよ! どんな状態異常なんだよ!」と騒いでいた。
「不調って……なんとなく怠いとか、なんとなくヤル気出ない、とか? だから失敗作を食べた魔物は攻撃に消極的になるのかな」
ユイの言葉に、皆がそれかも、と頷く。
もしかしてMPが減って好戦的になってる魔物に食べさせるとちょっとは有利になるってことかな。MP減ってるなら食いつくだろうし。魔物にとって回復薬の一つっぽいから。
ところで雄太は食べてみないのかな。
じっと見ていると、雄太が眉根を寄せた。
「そんな期待した顔で見てても、食わねえよ」
「言い出しっぺの法則ってあるだろ」
「すいません迂闊なことを言いました俺絶対こんなヤバいもん食えません」
すんませんした! と体育会系のノリで頭を下げられて、思わず声を出して笑う。
失敗作、微妙に使えそうで使えない物だった。もっと有効活用できないのかな。まだまだたくさんあるんだけど。
ついでに、と言ってはアレだけど、ユイに魔大陸に連れて行って貰った俺。
クラッシュの店の様子を見ようと村を歩く。
結構なプレイヤーが村を出入りしてたのには驚いた。
「お、マック!」
向こうからレインさんが俺を見つけて走ってくる。
「来てたんだな。俺らは今日で依頼の薬草採取全て終わりで辺境に戻るんだ。ここの魔物が強すぎて、三人じゃちょっとまだ太刀打ちできないから、活動は4人で辺境かな」
「そうなんですか。あ、この間は沢山アイテムありがとうございます。でもあんなに貰ってよかったんですか?」
「受け取ってもらえないと俺が困る。今日は高橋たちと一緒に来たのか?」
「はい。ついでに、ここの雑貨屋の様子見に」
「ああ……早速品薄になってたぞ。入荷未定予約受付の札が貼ってあるのまであった」
「マジですか」
村の外に出るなら気を付けろよ、との忠告をありがたく受け取って、俺はクラッシュのいるところを目指した。
雄太たちは既にもういない。俺はプレイヤーの間を縫って、雑貨屋魔大陸支店に顔を出した。
「クラッシュ、どう? 調子は」
「絶好調だよ。いらっしゃいマック。納品に来てくれたの? 思った以上にホーリーハイポーションが売れちゃって、さっき品切れになっちゃったんだ」
「素材があるなら作ってくけど。手持ちにはないんだごめん」
「なんの素材? 薬草なら沢山持ってるけど、魔大陸薬草使える?」
「洗えば使えるよ。ただし、効能が向こうのより上がっちゃうと思うけど」
「その時は適正価格にするから大丈夫。効能向上大歓迎」
ということで、仕切りもない店の奥のテーブルで早速調薬をする俺。上級調薬キットで一度にたくさんのディスペルポーションを作ると、早速薬草を洗った。月見草持っててよかった。薬草はすぐなくなるのが辛いね。
店に来たプレイヤーが興味津々で俺を見守る中、俺は調薬をサクサク進めた。
調薬途中で祝詞を入れるのが受けたのか、気付くと周りは人だかり。クラッシュが椅子でバリケードを作ってくれた向こう側で、かなりのプレイヤーが俺を見ていた。
うわあ、と思いながら出来上がったホーリーハイポーションを瓶に詰めていく。
「ありがとうマック。ほい、出来立てほやほや入荷だよー。一人二本まで。効能高いらしいから、ちょっと値上げするね」
一斉に欲しい! と手が上がったので、更に追加分を作っていく。
何度か瓶詰を終えてクラッシュに差し出すと、ようやく欲しい人に行きわたったらしい。
更に店に置く分を作って納品すると、俺は一度クラッシュに穢れた魔素を飛ばす聖魔法をかけた。
「村の外に出てないから大丈夫なのに」
「そうは言っても一応ね。クラッシュの場合は少しずつでも溜まってくんでしょ。エミリさんたちみたいに普通に平気なわけじゃないんだから自覚してね」
「うん。ありがとう。そういえば」
クラッシュが店に人がいなくなったことを確認してから、いったん閉じた口をまた開く。
「セイジさんに、最後のクリアオーブを渡したよ。ねえ、もしセイジさんに声を掛けられたら教えて。多分俺はセイジさんに誘われないから。でも俺、絶対に一緒に戦いたいんだ」
「クラッシュ……俺も声がかかるかわからないけどね。高橋たちは確実に声がかかるだろうけどさ。いいよ。声が掛かったら教える」
「ありがと」
クラッシュは嬉しそうに笑うと、早速棚にホーリーハイポーションを並べ始めた。
クラッシュは、自分が絶対に皆に連れて行って貰えないのをわかってるんだ。ここで店をしているだけで、心配なんだよね。俺も同じ道を通ったからわかる。クラッシュには来て欲しくなかったもん。大事な友達だから。
でも、ヴィデロさんがクラッシュに自分が出来ないことを託してたら、応援するしかなくなるよね。
棚にアイテムを並べるクラッシュを見ながら、俺はふへへ、と笑った。
もしかしたら、ヴィデロさんも一緒に魔王と戦えるかもしれない。
そう思うと、魔王退治も悪くない気がした。
「そういえばクラッシュ聞いて。クラッシュの店で、セイジさんとセイジさんのご両親がばったり顔を合わせたところに居合わせちゃったよ」
「あはは、お互い驚いてた? 後でセイジさんに怒られちゃったんだけどね。でも前にちゃんと俺宣言してたから。それに悪いことはしてないよ」
「まあ、そうだけどね」
「だって。お互い生きてて顔を見せないなんてもったいないじゃん。今度こそ命を落とすかもしれないんでしょ。そんなこと起こらないとは思いたいけど、二度と会えなくなってからじゃ遅いもん。セイジさんここまで乗り込んできて、ついでにマックのアイテム買ってったよ。その後、おじいちゃんたちとちゃんと飲んだのかな」
「そこまでは知らないけど。居合わせた俺の居たたまれなさをわかってよ」
「想像すると笑いしか出てこないね」
にこやかにそんなことを言うクラッシュの目は、すごく嬉しそうに細められていた。
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