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654、ヴィデロさんが決意したことは
しおりを挟むじっくりと、俺たちは愛を確かめ合った。
獣みたいなのも好きだけど、こういうゆっくりするのも好き。でも、焦らされるのが一気に高みに登らされるよりも実は辛いってことを身をもって実感している。
あまり動かずただ手と唇で俺の傷とか刺青とかを愛撫するのが震えるほどに気持ちいい。何度目の前が真っ白になったかわからない。ずっとイってる感じがするのに、俺のモノはなんかもうぐったりしていて、全然出す物も出してない。でも、いつもよりも気持ちよすぎて何も考えられなくなる。
「……っ、ぅ、ふ……」
声にならない喘ぎを出す度、ヴィデロさんも顔をうっと顰めるから、多分締め付けちゃってるんだと思うけど、もう自分でもどうしていいかわからない。
ただゆっくりと最奥にヴィデロさんを感じて、優しく揺さぶられて、愛撫されて、ヴィデロさんの背中に必死でしがみつくだけ。
動いて欲しい、けど、今動かれたら俺、どうなるかわからない。
またしてもジワリと湧き上がる熱に浅い息を吐きながら、ヴィデロさんの背中に回した腕を震わせた。
ちゅ、という軽いキスの感触で、ハッと目を開ける。
目の前には、ヴィデロさんの顔があった。
大きな手が優しく俺の汗を拭いとる。
「マック、今、意識飛んでたか?」
「え、あ……寝てた、かも」
大きく息を吐くと、俺の中でヴィデロさんのヴィデロさんが存在を主張している。
俺が寝てたと言ったことで、ヴィデロさんが苦笑した。
「寝てた……わけじゃないと思う。ごめん、無理させたか? ゆっくりしたつもりなんだけど」
「ゆっくりするのって、なんかずっと気持ちいいのが続くんだね……」
正直、未だに腹の中はじくじくと熱が溜まってる気がする。射精のスッキリ感がないからか、まだ階段を昇り詰めてる途中っていうか。
無意識にお腹を撫でていると、ヴィデロさんがそっと力ない俺のモノを握りこんできた。
「あ、あ……、直接だと、ん……っ」
ゆっくりと撫でる様に慈しむように俺のモノを扱き始めたヴィデロさんの手を、俺は慌てて押さえた。
だって、じわじわが直接気持ちいいのに変わるとまたすぐダメになりそうだから。
ヴィデロさんは俺の手ごと動かし始め、更には今度こそ俺の中を熱いので擦り始めた。
「あ、は、あぁ……っ、や、待って、すぐ、すぐイっちゃうから、待って……っ!」
「さっきまで、全然出してなかっただろマック」
「出てないけど……っ! 違う、違うんだって……!」
中と前と両方がダイレクトな快感をもたらして、すぐに俺のモノも硬くなる。すぐイっちゃうってば!
段々動きが早くなって、俺が声にならない声を上げながら体液を飛ばすと同時くらいに、ヴィデロさんのヴィデロさんも俺の中で一層存在を主張し、じわっと熱を感じた気がした。
手を放されて、ヴィデロさんが抜けていくと、俺の身体も力が抜けた。
いつも以上にぐったりだ。でもここで寝ちゃうわけにはいかない。
ヴィデロさんがタオルで下半身を拭ってくれたので、なんとか身を起こす。なんか後ろから出てきた感触にちょっとだけうっとなりながら、スタミナポーションの方に手を伸ばすと、ヴィデロさんがすぐに取ってくれた。そして、自分でも口に含んで、その口を重ねてきた。口移しだとヴィデロさんも回復するから一石二鳥だね。
なんとか怠さも取れると、俺は脱ぎ捨てられたズボンを拾って身に着けた。ヴィデロさんは前だけ寛げたらしく、すでに身なりは整ってるのが何とも悔しい。あの胸はだけたい……っていうのは後回しで。
ベッドから降りると、ヴィデロさんに抱き着いた。
「ヴィデロさんがやろうとしてること、教えて。知らない方が心臓に悪い。絶対に止めたりしないから教えて」
抱き着きながらそう言うと、ヴィデロさんは俺の身体を持ち上げて、ソファに運んだ。
俺を横抱きにしたままソファに座ったヴィデロさんは、俺の目を覗き込んで、フッとその綺麗な目を細めた。
「魔力のない俺が、どうやったらマックと一緒に魔大陸に行って魔王と戦えるか考えていた」
「……うん」
最初の一言で心臓がどきんとなる。
否定をしないように、俺は相槌しか打たない決心をしながら、頷いた。
「最初はマックに魔力を底上げしてもらうことを考えたんだ。でも、きっと俺が魔力を最大まで上げたとしても、魔大陸までついていくことは出来ないのはわかり切ってた。だったら、どうしたらいい、とずっと考えて」
俺の額にキスをして、俺を抱く腕に力を込める。
確かに、この腕が、魔王と対峙した時に隣にいたら、すごく安心する。でもそれは同時にすごく怖い。死に物狂いになって魔王と戦うとは思うけど、それでも力及ばずヴィデロさんが倒れたらと思うと、めちゃくちゃ怖い。それだったらヴィデロさんがどんな思いをしようと絶対にここで待っていてもらおうと思ったんだ。
「俺は、すごく恵まれてる。母の子供に生まれて、これほどよかったと思ったことはなかった。子供の頃は煩わしくてキツいばっかりだったけれど、俺は確かに、『幸運』を持ってるんだ」
「うん」
「俺は」
ヴィデロさんの手が、俺の手をギュッと握る。
「マックの世界に行ける要素を持ってる」
「……っ!」
ヴィデロさんの一言に、俺は衝撃を受けた。
俺はずっと、ヴィルさんたちの研究が進んだら、俺がこっちに渡ってくることばっかり考えていたんだ。でも、それが限りなく無理に近いこともわかってて、その後何も言われないから、なかなか研究も進んでないんじゃないかって、わかってた。でも、ヴィデロさんが俺たちの所に来る、っていうのは、全然考えたことがなかった。
「幸い、母に色々教えてもらえたし、レガロさんにも、ジャル・ガーにも色々と聞いた。そして俺は、母と、兄と、マック……健吾と、固い絆があると信じてる。これだけは絶対だ。だから、俺がマックの所に渡って、そこからマック達の言うゲーム、というものでこっちに来れば、俺も異邦人の様に魔大陸に行けるんじゃないかって、考えたんだ」
「……う、ん」
そんなこと、考えもしなかったよ。そっか。アリッサさんっていう前例があったんだ。だから、その血を受け継いでるヴィデロさんも、もしかしたら。
心臓がどきどきと動き出す。
そんなこと、可能なのかな。
もし可能だったら、ヴィデロさんは俺たちの世界に来て、そして。
ヴィルさんもアリッサさんも、もちろん俺も大歓迎で。
それはとても夢のような提案で。
でも、と幸せな思考が止まる。
アリッサさんはもともと生粋の地球人で、でもヴィデロさんはハーフ、ってわけで。アリッサさんの『幸運』は自分に向けたもので、ヴィデロさんの『エッジラック』は周りに向けたもので。似ているようで、どこかが違う。その状態で、俺たちの世界に渡るなんて、出来るのかな。成功するのかな。狭間で迷う、とかジャル・ガーさんは言ってなかったっけ。絆と信じる心だけで、それはカバーできるものなのかな。
俺が思うんだから、ヴィデロさんがそんなことを考えなかったはずもないのはわかるけど、高揚した気分がふと沈む。
もともと世界を渡るのは大変なことだって、ジャル・ガーさんは言ってなかったっけ。
向こうから物を送れるのは、こっちの魔素とあっちの何かが繋がって安定してたからで。アリッサさんが帰ったのって、それとはまた別なことだよね。
グルグルと思考が回り、つい色々な疑問点が口をついて出そうになってハッとする。
「絆は、絶対に大丈夫。すごく太い絆があるよ絶対。自信ある。俺は……誰よりヴィデロさんを待ってる」
疑問を全て隅に押しのけて、俺はそれだけを口にした。きっと、俺が思うことは、ヴィデロさんの中ではもう解決済みなんじゃないかな。だって、レガロさんとジャル・ガーさんが背中を押したんだから。
俺がヴィデロさんのすべてを信じることでその可能性が少しでも上がるなら、ずっと信じる。
「マック」
ヴィデロさんは、俺の言葉を聞くと、ふわっと笑った。
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