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626、破廉恥な……!
しおりを挟む腰巻であーだこーだと話しながら、奥に進む。すると、手前と奥に二つほどの部屋があった。そして、通路の突き当りには「関係者以外立ち入り禁止」の札がかかったドア。
手前の部屋に入ると、そこには上着やローブやネタ装備やおしゃれ着的な物が沢山飾られていた。
「このローブはかなり性能がいいな。見た目はアレだけど」
ヴィデロさんが、俺たちの世界のパーカー的な服を手にして唸る。
パーカーをローブと呼ぶことに抵抗のあった俺は、そのパーカーの文字を見て苦笑した。背中にでかでかと古代魔道語で『紐下着愛好家』って書いてある。ってことは、あのダイナマイトな店主さんは古代魔道語を習得してるってことか。っていうか文字。他に何かなかったのかな。紐下着って紐パンのことでしょ……。
他にも、インナーと称したTシャツや、ステテコ風な物がぶら下がっている。形的にこっちの世界にはあんまり馴染みがない気がする。こっちの世界って袖が中途半端についてる服ってほぼ見かけないから。肩口から何もないか、長そで、って感じで。しかもご丁寧に前面に古代魔道語でさっきみたいなのがひたすら書かれている。しかも色はカラフル。どうやって染めたんだろう。
「マック、これなんて書いてあるかわかるか?」
「ええとね、『裸一貫』」
ヴィデロさんがTシャツの一枚を指さしたので、その文字を読むと、ヴィデロさんが途端に変な顔をした。
「なぜ裸……」
「こっちにはね『女は度胸』『谷間に愛を込めて』『エイトパック』他にもだいたい身体関係にまつわる変な言葉が書かれてるよ。ちょっとネタにしてはキツいから、お薦めはしない」
思わず死んだ魚の目でそう付け足すと、ヴィデロさんがますます変な顔をした。その顔も可愛い。
「……こんな中途半端な袖の服、流石に買う気はないけどな……さっきの人が作ったんだろ? なんか、異邦人には変なやつが多いのか……?」
兄とか、という小さな呟き、ちゃんと聞こえちゃったよ。こういうのは流石になかなかいないと思うけど。そこまで異邦人変じゃない。多分。
「ヴィデロさん、こっちは?」
レガロさんが着ていそうな感じのスーツを指さしてみる。でも、これはあの執事風じゃなくて、ダブルボタンの3つ揃いのスーツとYシャツだった。これはそこまで違和感はない気がする。レガロさんが似たようなの着てたし。
スッと視線を動かすと、衝立の奥には今度こそローブがあった。
そこで見た物は。
「猫耳ローブ……犬耳ローブ……!」
見たことのあるデザインのローブが、隠れる様に並んでいた。
これ、これってもしかして、あのうさ耳ローブと似たような物……!
衝立には、『特殊効果あり。お薦め品』って書かれている。
……ヴィルさんはもしかして、あのローブをここで作って貰ったのかな。ほぼ形が同じだ。しかも特殊効果ありって。他の動物も何かしら機能が付いてるってことだよな。
「なあマック。これ」
ヴィデロさんが視線を向けたのは、ローブ売り場に飾られている、飾り尻尾だった。
ご丁寧に灰色。
俺はハッとしてヴィデロさんに視線を移した。
「これ、マックのローブと対みたいだな」
全く悪気なくにこっと笑うヴィデロさんに、う、とたじろぐ。買って付けろってことかな。さすがに尻尾は、尻尾はご遠慮したい。
灰色の毛玉のような尻尾を手に取ったヴィデロさんは、本当に他意のない表情で「これにも何か特殊効果があるのかな」なんて言ってるけど、それはそっと棚に戻して欲しい。
鑑定眼でそっと見ると『ソルジャーラビットの尻尾:幸運値+2 身体能力上昇 ズボンに付けて使用が好ましい 直接肌に装着可』となっていた。直肌に付けてどうするんだよ……ズボンの中でモコッとして邪魔なんだよあれ。
俺は興味ない振りしながら、全力でヴィデロさんが何事もなくそれを棚に返すようにテレパシーを送った。
ヴィデロさんはついでに猫耳ローブを取り出して、「これを着たらヨシューとおそろいになるんじゃないか?」なんて言ってる。確かにね。でも、それをするとさらに俺の黒歴史が増えるからね。精神的にゴリゴリ削られそうで怖いね。俺、年頃の男の子だから。無理。
ヴィデロさんの腕に自分の腕を回して、ちょっとだけ強引にその場所を離れる。ヴィデロさんが声を出して笑ったので、多分俺の心は駄々洩れてる気がする。
特にこれ、というものもなかったので、ヴィデロさんが「尻尾は」と呟いてるのを敢えて聞かなかったことにして、俺たちはさらに奥の部屋に進んでみた。
はい、ここでした。海里たち、ここで下着とか買ってたんだ。
部屋の真ん中に衝立があって、男性用女性用がわかれていて、入り口には暖簾が掛けられている。
俺たちは迷わず男性用に入った。
「すごいな。ここは下着ですら防御力高そうだ」
ヴィデロさんが呟く。確かに、股間部分に金属が付いてる下着とかあるからね。でもどう見ても俺にはそれがアダルトグッズにしか見えないんだけど。気のせい気のせい。
その金属付き下着から目を逸らして、トランクス風の下着に目を移す。トランクスもいいけど、ボクサーパンツもいいよね。
ピシッとしたデザインのそれを見ていると、ヴィデロさんが一枚を手に取った。
「これは、下着なのか?」
手に持っていたのは、前だけ布があって、横にゴムが付いているだけで、お尻が丸出しになる下着。これ、なんていうんだっけ。こっちの世界にはない下着であることは確か。こういうネタ下着を蔓延させないでお願いだから。
「一応……?」
見た限り下着に見えないので俺も眉をしかめながら答えると、「それはな」と野太い声が聞こえて来た。
入口の方に視線を向けると、今度はミニスカートじゃなくて、腰の所までスリットの入ったチャイナドレス風の服を着た店主さんが妖艶な笑みを浮かべて立っていた。そのチャイナ服、どうして胸元がそんなに開いてるんだ。やっぱりぎゅうぎゅう詰めされたはちきれんばかりの胸が谷間くっきりで超目立つんだけど!
「それは、ジョックストラップっていう下着だ。前部分をその布で隠して、横の紐でこう、抑えるんだ。慣れるとそれ以外履けなくなるぞ。買ってみるか?」
そう言って、自分の足の付け根に指を這わせる店主さんに、ヴィデロさんは「いや、遠慮する」とそっと返した。
「そうか。俺はもうそれ以外履けないんだけどな。残念だ」
やっぱり中身は男らしい。女性があんな下着付けないもんね。
「じゃあ……こういうのはどうだ? お前さんの身体、最高にキマってるから、似合うぞ。ちょっと来いよ」
店主さんは俺たちの横をすり抜けて、更に奥のカーテンに手を掛けた。
恐る恐る後をついていくと。あったよ。あった。そこには俺が前に不本意にも贈られた系下着がわんさか。
店主さんがその中の一つを手に取って、持ってきた。意外にシンプルっぽくて安心していると、店主さんがぴらっとそれを広げた。
ボクサーパンツを極限まで細くしたような形の下着だった。
あれをヴィデロさんが穿いたら、お尻半分出るよ。引き締まったお尻が。そして、ちょっと股間部分がこんもりしてるのがやたらエロい。
色が黒に濃いめのシルバーのラインが入ってるのが地味に渋い。下の毛がはみ出す程度の布がほんとエロい。
確かに似合う。
店主さんの見る目の確かさに、俺は衝撃を受けた。
ヴィデロさんはとんでもなく微妙な顔をしてたけど。
「でもって、そっちのお客さんには、これだな」
ヴィデロさんにその細いボクサーパンツを握らせると、今度は店主さんが水色の何かを取り出した。
「こいつは『ストリングス』って言って、全体的に身体のラインを下着で壊さないようにできてる奴だ。要するに紐パンみたいなもんだな。そして、後ろ側が俺のオリジナルなんだが……この紐を見ろ。両サイドについてるだろ。穿くとな……」
店主さんは商品棚の下の引き出しを開けて、中から腰だけのマネキンを取り出した。比較的細目なその腰マネキンに、下着を装着していく。
「こうして、後ろは無防備なんだ。興奮すんだろ。これ着けたまま致せちゃうんだ、最高だろ」
紐が左右に分かれていて、普通だったらお尻の割れ目の所に来るはずの紐がお尻を強調するかのように横に流れていた。それ、身体のラインに影響しまくりじゃないのかな。
「もちろん、普段はこの紐を真ん中に持ってきて、尻の間に挟めることで何も履いてないように見せるってのがみそだ。どうだ」
店主さんの説明に、ヴィデロさんは片手で顔を覆った。言いたいことはわかる。破廉恥だ。初対面の客になんていう説明をしてるんだこの人は。
「もちろん、ここにある下着は全て、俺が厳選して選び抜いた着け心地抜群の布を使ってるから、多少はお高くなっている!」
自慢げに両手を広げた店主さんの手の先に、こっそりと大人のアイテムが売ってる棚があったのを見てしまった俺は、サッと店主さんから目を逸らした。
何とかして、ヴィデロさんの手に握りしめられている下着だけ買おうかな、なんてちょっと思いながら。
「ちなみに、彼氏から彼氏へのプレゼントとしても、俺の商品は人気が高いんだぜ。レース物5点セットなんてお薦めだ。ガーターベルトと男性用ブラ、ナイトショーツにガーターリング、そして、ビスチェだ。全部胸なし用に作られているから、着心地は抜群。しかもすべてが統一デザインだから目にも楽しい! 色は白に赤リボン、黒に赤リボン、水色にピンクリボン、白一色、黒一色と5点も揃ってるときた! さあ、買いだ! 彼氏! そっちの彼氏に着て貰おうぜ! 今ならセット価格で2割引き!」
調子に乗った店主さんは、いらぬ下着を次々取り出してきた。そして、ヴィデロさんにそれを次々説明していく。
全て総レース、可愛さ満点で、俺に着せたところでネタにしかならないような下着を。
ナイトショーツってなんだ。あの下着、海里たちに貰った下着とおんなじで、股間部分に割れ目が入ってるよ。下着の意味!
「見たところそっちの子は可愛い系が似合いそうだよな。お薦めはこの水色だ。一番可愛らしさを引き立てるぞ。白一色もまた純情そうで垂涎ものだけど、どっちも買うのもアリかもな。マンネリを防ぐし、見た目も最高。見ろ、これな。身に着けたまま色々出来ちゃうんだぞ。な、これと、これ。うん。今度クリーム色に緑のリボンを用意しとくぜ。兄さんの色の下着をつけたパートナーと楽しみたくないか? 見たところお二人、ラブラブなんだろ! な!」
そう言って、店主さんはヴィデロさんの手に白と水色のセットをサッと入れた袋を押し付けた。にこやかに「毎度! 全部で6万ガルの所を4万8千ガルにしといてやるよ!」と勢いで、ヴィデロさんにお金を払わせていた。たじたじのヴィデロさんは断る間もなく、お金を払わされていた。
店主さんはお金を受け取ると、ヴィデロさんの手にあったヴィデロさんに似合うと言っていた下着を違う袋に入れて、それを俺に持たせた。そして、顔を近づけて「これはおまけ」とニヤリと笑う。俺が欲しそうにしてたの知ってたのか……! 侮れない!
なんだかんだで高い買い物をさせられたヴィデロさんは、店主さんに見送られて店を出ても、変な顔をしていた。困ったような怒ったようなそんな顔だった。
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