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617、目に大打撃聖魔法
しおりを挟む「ユイ、今の魔法の説明、もう一回」
そこでラブラブの邪魔が入った。
ブレイブがちょっとだけ険しい顔をして、質問をぶつける。
「あのね、魔素って至る所にあるじゃん。それをたくさん火種に変換して、それを一斉に爆発させるの」
「火種……って、それ、火薬みたいな感じか?」
「あ、うん。連鎖させるみたいに、火種を作っちゃうと後は小さな火球一つで大爆発なんだよ。時間差もできるみたいで、実際にはその火種を作る魔法なんだって前に読んだ魔導書に書いてあった。すっごく実用的だよね。いつでも爆発させられるとか」
「ああ……わかった。サンキュ、ユイ」
「よくわからないけどどういたしまして」
ブレイブはユイにお礼を言うと、俺の方に視線を向けた。
「マック。起爆剤って何個くらいある?」
「起爆剤? 30個くらい。素材切れちゃってそれ以上作れてない」
「30個か……魔素濃いからギリ大丈夫かな。もし失敗したら、今度はもっと作って持ってこようぜ。素材集めは手伝うから。じゃあ出せよ」
ブレイブに手を差し出されて、俺は起爆剤をありったけ出した。
「これをあの浄化の魔法が届くぎりぎりに仕掛けていって、一度の浄化魔法で全体的に行きわたるようにすりゃいいんじゃねえの」
起爆剤を手に、ブレイブがそう提案した。
なるほど!
皆がブレイブの提案に歓声を上げた。
そうと決まれば早速設置。俺が立っていた場所から、大体ここら辺まで浄化された、って場所を実際に海里が測ってみて、それをブレイブが鷹の目を使って計算。それで起爆剤を置くのにちょうどいい位置を割り出していく。す、すげえこのカップル。
ブレイブの指示の元全ての起爆剤を置いた俺たちは、ここで浄化魔法を唱えるのがいい、とブレイブが割り出した場所まで移動した。
「まあ失敗してもこの手は使えるっていうのがわかればいいさ」
「今日木を植えなくてもいいんでしょ。気楽にね、マック」
「マック君頑張って!」
「っつうか詠唱噛むなよ」
噛むなよって言われると噛みそうで怖いからやめてくれ、と雄太を一度睨んでから、俺はもう一度短剣を構えた。
『この世界を見守る最上の神よ。その気高き聖なる神気でこの禍なる気を包みこみ給え。円状鎮魂歌サークルレクイエム』
またしても気合いの入った短剣が共鳴する。
すっごい光が俺の周りで光ったと思うと、連動するように光に触れた起爆剤が次々爆発するように同じ光を発していった。
途中誰かの「ぐわあ、眩しい!」という悲鳴が聞こえたけど気にしない気にしない。でもほんと眩しい。この規模の浄化の光、目に優しくないよ。
ようやく目を突き刺すような光が消えていくと、村は静寂に包まれた。
「あー……まだ目がチカチカする」
「目の前真っ白になったよ……」
「すごいわねえ、浄化魔法のダイナマイト」
「ああ……まだ視界回復しねえ」
雄太たちも全員目を擦っている。目に大打撃だね。
俺もまだ回復しない視界で何とか周りを見回すと、村の中の空気は、普通の空気と変わりない物となっていた。
そろそろホーリーハイポーションの効果も切れるはずなんだけど、あれだけ感じてた重圧もなく、息苦しさもなくなっていた。
「成功、なのかな。でもちょっとでも残ってたらまたじわじわ外の魔素みたいに戻りそうだよな」
「それはしばらく待ってみないとわからないんじゃないか?」
「だね」
でも、一応成功したってことかな。
ホッと肩の力を抜くと、手に持ったままの聖短剣がビビビと震えた。
そして、手の中で、いきなり彫り込まれた絵柄が動き始めた。
「うわ!?」
金属のはずの花の蔦が伸び、葉が茂り、咲いている花の横に新たな蕾が現れる。
俺の悲鳴で集まった雄太たちも、息を呑んで俺の手の中の聖短剣を見つめていた。
慌てて聖短剣を鑑定眼で見てみると、どうやら経験値が貯まったみたいだった。
『ルミエールダガールーチェ・オーロ【13/****(-4)】:闇を吸収変換し、聖を吸収しおのれの力とする聖なる短剣。闇属性以外のものを傷つけると少しずつ力を失っていくので注意が必要。祭典儀式用であり、装備したものは特有の聖魔法『サークルレクイエム』が使えるようになる。状態異常回避率+15% 魔力+3%』
「進化した」
「見た。っつうか剣が進化するとかやべえな……」
「すごい神秘的だね」
「この短剣段々と派手になってくわよね」
「綺麗だからいいんじゃないか? やっぱり『金オーロ』になったなあ。それにしても面白い進化方法だな。前はここまで派手に変化しなかったよな」
そう言われてハッとする。そういえば前墓場浄化した時にアルジェントになったんだった。前に次はオーロになるんじゃねって言ってたのはブレイブだったよなあ。
それよりもこの村一つ浄化した経験値がとんでもないっていうのはすごくよくわかった。4桁あった経験値が全て埋まったってことなんだよね。
魔大陸半端ない。そこら辺を無造作に浄化して回れば、すぐにレベルアップするってことなんじゃなかろうか。
指を動かしてステータス欄を見ると、聖魔法スキルもレベルアップしていた。しかも今ので2も。それだけ魔法レベルが低いってだけなのかもしれないけど、経験値うまうまだよ。一人で来る気には絶対にならないけど。
ちょっと休憩しようってことになって、皆で教会に移動する。
ガランとした建物の中に座り込んで、お茶にすることにする。
「軽く何か食べたい人」
そう訊くと、全員が一斉に勢いよく手を上げた。
サンドイッチを配って、ついでだからと最上級の聖水茶を作って皆に出す。
もしかしてお茶の影響もあったりして、さっきの浄化魔法の威力。
ってことはだ。もし俺が聖水茶を飲んでいなかったら、たとえ聖魔法を覚えていたとしても、こんな風に浄化をすることは出来なかったってことか。飲んでてよかった聖水茶。
「しばらくここで村の中が元に戻らないか確認だな。ついでに何日か後にももう一回来て確認とかした方がいいかもな」
「それにしても面白いね。綺麗になった魔素がドーム状になってる。魔道具の威力があそこまで効いてるってことなんだよね」
教会の扉の付いていない入り口から外を見て、空と村の空気の色があからさまに違うのを観察する。
どういう原理でこうなってるんだろう、魔道具。どうして俺たちが入れるのに魔物が入れないのかとか、色々疑問に思うと次々考えてしまう。ヴィルさんに訊いたら全て納得いく答えをくれそうな気がしたので、今度聞いてみることにした。
「それにしても、HPの減らない村って貴重だね。もっと魔王に近い村に、もう一つくらいこういう所が欲しいよね」
「そん時はまたマックを連れて来て、起爆剤大量に持ち込んで村中を爆破する勢いで浄化して貰えばいいんじゃねえ? 魔道具は……ヴィルさん、何とかしてくれないかな。足がかりにするからってことで」
「そうだね。私達だけじゃどうにもならないもんね。魔物を倒すくらいしかできないよね」
魔大陸の魔物を倒せるならそれはそれで凄いことなんだよ、と思いながらも口を挟むことなくお茶をすする。はぁ、美味しい。
そこで2時間ほど周りの魔物を倒しながら待ってみたけれど、村は汚れた魔素に戻ることはなかった。
ちなみに、雄太たちに臨時メンバーにしてもらった俺は、魔大陸にいた時間だけでパーソナルレベルが3も上がった。恐ろしや、魔大陸。
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