これは報われない恋だ。

朝陽天満

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609、更なるクエスト

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『【NEW】芽吹かせよう



 守護樹の枝を彼の地に移植し

 彼の地と守護樹を繋げよう

(守護樹の枝は弱く脆いので 植える場所を清浄にし安全を確保すること)



 クリア報酬:魔の総力低下8% セーフティポイントの出現 彼の地との連携 地脈の歯車

 クエスト失敗:移植に失敗したもしくは枝を枯らした セーフティポイント消滅』



「お願いというのはね、2人に、守護樹の手当てをして欲しいのよ。きっとこの子も喜ぶわ」



 長老様の言葉に、俺は首を傾げた。

 さっきチラッと見た新しいクエストと内容が違う。

 お願いってこの樹をどこかに植えることじゃなかったのかな。

 そう思いながらも、守護樹がわさわさ揺れたので、ヴィデロさんと共に立ち上がって、そっと中庭に降りる。



「マック君はやり方がわかるでしょう。手を添えて、その子のことを考えるのよ。ヴィデロ君も、よろしくね」



 穏やかな顔でお願いされて、俺とヴィデロさんは頷いた。

 そっと太くなった木の幹に手のひらをくっつけると、錬金釜を触った時みたいにMP譲渡が出てきた。

 たくさんあげるよ。俺のMPならすぐ回復できるから。そう思って大分ギリギリまで注ぐ。

 そして、目を閉じて、守護樹のことを考えた。

 この地に魔王の力が入ってくるのを防いでくれてありがとう。

 心の中で思うと、樹の葉が俺の頬を撫でるように落ちてきた。

 手のひらの感触はとても滑らかで、みずみずしい感じが伝わってくる。



『ありがとう』

『力をくれてありがとう』

『僕の分身を大きな地に植えて』

『そうすれば僕はもっと守れるから』

『お願いね』

『僕の一部をお願いね』



 すうっと何かが語りかけて来た。

 耳元で囁かれているような、遠くで叫ばれてるような、不思議な感じの声だった。

 ハッとして目を開けた俺は、目の前の守護樹を見上げた。



『僕の一部を育ててくれたらきっと君たちを守るよ』

『だからお願いね』



 ああ、と納得した。この樹が守ってくれるからセーフティポイントになるんだ。セーフティポイントってことは、そこでログインログアウトもできるようになるってこと、なんじゃないかな。

 本格的に、魔大陸攻略が始められるってことか。

 俺、ちゃんと枝を育てるから。絶対枯らさないから。

 「頑張るから」と守護樹を見上げながら口に出すと、守護樹が笑ったような気がした。

 あ、でももしかして、今の会話、ヴィデロさんも聞いてたりするのかな、とちらりと横を見ると、ヴィデロさんはヴィデロさんで真剣な顔をして守護樹を見上げていた。



「ああ。俺の力でよければ。礼になればいいんだが」



 ヴィデロさんがそう言った瞬間、守護樹が全体的にふわっと一瞬だけ光った。

 ヴィデロさんも力を貸したのかな。

 俺にはヴィデロさんと守護樹の会話が聞こえなかったから、ヴィデロさんも俺たちの会話は聞こえてなかったのかも。



「いらっしゃい。新しくお茶を淹れたのよ。一緒に飲みましょう」



 長老様に呼ばれて、俺たちは守護樹から手を離した。



「あの子も満足そう。ありがとうね。私の我が儘を聞いてくれて」

「こちらこそ、ありがとうございます」



 長老様に、ヴィデロさんがすぐさまそう言って頭を下げた。

 どんな話をしてたんだろう。あのヴィデロさんの真剣なまなざしがちょっと忘れられない。気になるけど、なんとなく訊くのは憚られた。





 ついでに、ではないけど、エルフの里で採れる錬金素材を採取させてもらってトレの工房に帰ってきた俺たちは、今度こそ、ゆっくりと愛し合うために寝室に向かったのだった。







 ヴィデロさんと半分こにした守護樹の枝を手に、俺は唸っていた。

 鑑定眼で見ると、なんだかすごいことが書かれている。



『守護樹の分身枝:聖なる場所に挿し聖なる水を注ぐことでその地に根を張ることのできる希少な枝 中央から分けることが出来る 成長するまでに少しでも穢れると途端に枯れてしまうため繊細な手入れが必要 227/301』



「この最後に付いた数字は何だろう……そして繊細な手入れ……確かに俺、草花薬師だけど。そんなに知識ないんだけど!」



 なんか上手くいく気がしない。しかも穢れはダメ。でもって、きっと魔物に襲われる場所もダメなんだよなあ。彼の地ってどう考えても魔大陸でしょ。ってことは穢れない魔物に襲われない場所。それは、小さな教会の中。そこには土がない。なんかいきなり難しいクエスト来たんだけど。

 枝は丁度二つに分かれていて、多分ここから中央に分けるんだろうなとわかるんだけど、そして、その分けた枝を魔大陸にぶっさせってことなんだろうけど。

 盛大に溜め息を吐いてしまう。どういうことなのか攻略サイトが欲しいと最近は切実に思う。錬金しかり、クエストしかり。こんな時にはレガロさんから情報を売ってもらおうかな。



 枝をインベントリにしまい込んで、俺は腰を上げた。

 皆は情報とかどこで手に入れるんだろう。最先端を行く人は、皆手探り状態なのかな。ってことは、今まさに手探り状態の俺は、最先端のプレイヤーなのか。……ってパーソナルレベル雄太の半分しかいってない俺が最先端のわけないか。

 ステータス欄に現れる時間をチラ見して、俺はもう一度溜め息を吐いた。

 今日はバイトがあるから、ヴィデロさんと一緒に食べた後はヴィルさんのご飯を作りに行かないといけない。

 時間はまだもう少し余裕があったけど、ここで枝とにらめっこしていても何もいいことが浮かばないので、レガロさんとはまた違う情報通ヴィルさんに相談してみようかと思い立って、寝室に向かった。



 自転車を漕いでヴィルさんの会社まで行く。ビルに入って会社のドアを開けると、珍しく日暮さんもいた。でも見る限りヴィルさんはいない。きょろきょろしていると、佐久間さんが「あいつは今日は昼頃来る」と教えてくれた。



「お、ラッキー! 今日は飯が美味い日か」



 ギアを被ったまま喜んだ日暮さんに、佐久間さんが「取り分が減るから帰れ帰れ」なんて言っていた。大丈夫なんだけどなあ。こういう場合も想定して、食料は多めに買ってあるし、追加分はいつでも請求してくれと大分余裕のある予算を組んでくれてるから。俺は了承の意を伝えると、荷物を所定の位置にしまって早速キッチンに向かった。

 昼飯を作ってフロアにいる人たちに声を掛けると、いつの間に来ていたのか、ヴィルさんもしっかりとキッチンに来た。4人でテーブルを囲んで手を合わせる。

 食べながら、そうだ、とヴィルさんに視線を向けた。



「魔大陸で穢れがなくて、魔物に襲われない土のある場所?」



 俺の質問に、ヴィルさんが首を傾げる。さすがのヴィルさんでも知らないかな、と小さな手掛かりでもいいからと思っていると、ヴィルさんが朗らかに答えた。



「大丈夫じゃないか? 健吾がいれば」

「はい?」

「魔物に襲われない場所は俺と天使が作ったから、そこを綺麗にすれば、普通に植えれるだろ」

「……」



 簡単に言ってくれた。

 そうだった。あの洞窟から繋がる魔大陸、近い村数か所はヴィルさんが魔道具を置いて魔物に襲われないようにしたんだった。



「あの魔道具は魔物を入れない効果がある。その効果っていうのが、実は、外からの魔素を遮る効果なんだ。魔物っていうのは魔素の塊だろ。魔素を阻害出来たら、魔物も入ってこないんじゃないかという母の発想で出来上がった魔道具でな」

「アリッサさん天才か……」



 思わず呟くと、ヴィルさんは遠い目をしながら、「まさに母の頭脳はよくわからない構造をしている」とのたまった。っていうか俺はヴィルさんの脳みそもたいがいよくわからない構造をしてると思うけど。もしかして、血のつながったヴィデロさんも……。ゴクリと唾を呑み込むと、佐久間さんが口をもぐもぐさせながら話しだした。



「あれだろ。健吾のアバターは浄化できるんだろ。健吾がヴィルの魔道具の所に行って浄化して地面に植えてくりゃいいんだろ。簡単じゃねえか」

「そう言われると……簡単なような気がしてくるけど……」



 そんなに上手くいくんだろうか。でも、確かにそう考えると単純すぎて笑えて来る。



「で、あの守護樹の枝を魔大陸で育てると、セーフティポイントが出来上がるのか……そうなったら、本格的に魔大陸攻略が出来るな。な、日暮」

「なんだよ、俺に行けってのかよ。さすがにソロで魔大陸的な強さの魔物は倒せねえよ。魔大陸の魔物がどんなもんか知らねえけど」

「大丈夫大丈夫。日暮なら大丈夫」

「その笑顔が胡散臭いんだよ。てめえの方がもう俺よりパーソナルレベル高いじゃねえか」



 呆れたような視線を向ける日暮さんに、ヴィルさんはははははと笑って答えた。そこ、笑うところかな。っていうかいつの間にそんなにレベル上げてるんだよヴィルさん。そうじゃなくてもログインする時間とかなさそうなのに。





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