これは報われない恋だ。

朝陽天満

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606、ヴィデロさんの首に

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 工房に帰り着いた俺は、一緒に帰ってきたヴィデロさんに、食後のデザート、とペスカパフェを出した。さすがに門番さんたち全員分はなかったから、工房で出すことにした。どうしてもこれはヴィデロさんに食べて欲しかったから。

 ヴィデロさんは相好を崩して、「美味い」と二つほどお腹に収めていた。俺も一緒に食べて、すごく満足だった。

 一緒にベッドに転がって、ヴィデロさんの腕枕を堪能する。

 『スノウイーターラビット』の毛皮シーツは、素肌で転がるともう起き上がりたくなくなるような肌触りで、こっちは素直に喜べた。毎朝起きるのが辛いけど。



 目の前のヴィデロさんの首には、俺が初めて作ったペンダントが掛けられている。

 今回も首から下げるのになっちゃったけど、ヴィデロさん喜んでくれるかな。首なら仕事中も魔物狩り中も邪魔にはならないと思うけど、細身の鎖とシンプルなペンダントヘッドの横にワイルドなチョーカーみたいな物がぶら下がったら、見た目的にどうなのかな。

 インベントリを操作して、今日作ったチョーカーを取り出すと、俺はヴィデロさんに首を上げてもらって、それを首に通した。



「マック、これ……」

「今日、作ってきたんだ。気に入ってくれるといいけど。前に作ったやつとは性能が段違いだから、外したほうがいいかな。じゃらじゃら、気にならない?」



 革紐を弄びながらそう訊くと、ヴィデロさんは「いいや」と軽く首を横に振った。



「すごくいいな、これ。ありがとう、マック」

「どういたしまして。また俺が作ったから、大分下手くそなんだけどね」

「いや、すごくいい。俺は手先が器用じゃないから、自分で作るってまず出来ないから、尊敬する」



 目を細めて微笑むヴィデロさんに、俺は胸が熱くなった。

 喜んで貰えるならすごく嬉しい。

 ヴィデロさんはチョーカーの先の爪の部分をまじまじと見ると、視線を動かして俺と目を合わせた。そして、俺のおでこにチュッと唇をくっつけた。



「大事にする」

「うん」



 ヴィデロさんにギュッと抱きしめられて、俺はへへへと笑いながらヴィデロさんの素肌にくっついた。





 ヴィルさんの所でお昼ご飯を作り、雑用をして、夕方にもう一度夜ご飯を作って家に帰る。

 これが、自由登校になってからの俺のバイトのタイムスケジュールだ。

 雑用はパソコンにデータを打ち込んだり、ギアを使って指示されたことをしたり。

 最近ではメールの返信もしたりしている。大抵テンプレートの文章で大丈夫だから、楽な仕事しかしていない。



「俺はもうだめだ。口が肥えて、健吾が来ない日はサボろうかって思うようになっちまった……」



 佐久間さんがオーバーリアクションでそんなことを言う。しかもヴィルさんの目の前で。

 ヴィルさんはそんな佐久間さんに注意することもなく、声を出して笑った。



「もう少しの辛抱だ。4月からは健吾は毎日ここに来る。休みの日以外は昼夜全て健吾の飯だ。やりがいあるだろ。それでもサボるんなら、佐久間と健吾のシフトをずらすぞ」

「やりがいありまくり!」



 ホントはそんなことをする気はないのに、佐久間さんはハイ! と手を上げてヴィルさんにヤル気アピールし始めた。だからその代わり健吾の休みには俺も休みにしてくれ、と。ヴィルさんはそれについては考慮するとの回答。わかったじゃなくて考える。考えるだけにならないようにして欲しいところだ。

 二人のそんな和やかなやり取りを見ながら、俺も本格的にさらにレパートリーを増やさないとな、と気合を入れた。

 ちなみに、母さんが持ってる料理本数冊は、すでにマスターしている。どれもこれも時間がかかる料理だったけれども。ここでは調理時間を二時間ずつ取ってもらえるから、手の込んだ料理も作れるのが嬉しい。キッチンは俺の城にしよう。キッチンを住みやすくしよう。ヴィルさんには好きなように使っていいってお墨付き貰ってるから。



 あと数日したら、卒業式。

 卒業して1か月したら、今度こそ本当に毎日ここで働くことになるのか、と俺は食器を洗浄機にセットしながら見回した。





 ヴィデロさんに見守られながら、錬金釜をグルグルと回す。すでに何個作ったか忘れるくらいの数を作った『真黒宝石』が、またコロンと出来上がる。

 もしかしたら錬金大成功でこれが欲しかった『真秘黒宝石』になるかも、なんていう希望を胸に沢山作ってみたけど、全然そんなそぶりはなかった。試しにヴィデロさんの魔力を貰ってみたりもしたけど、結果は惨敗。全く同じ物しか出来上がらなかった。失敗しなかっただけましなのかな。

 『真黒宝石』の入った錬金インベントリにたった今出来上がったばかりのものをコロンと入れると、とうとう数は20になっていた。そろそろ他のプレイヤーが取って来てくれた謎素材も底を尽きようとしている。



「なんで出来ないのかなあ……」



 思わずぼやくと、向かい側で本を見ていたヴィデロさんが顔を上げた。



「気分転換でもするか?」

「気分転換? するする!」



 立ち上がってテーブルをぐるっと回ってヴィデロさんの元に行くと、すかさず腰を捕まえられて、膝の上に座らせられる。

 テーブルの上に投げ出されていた錬金の本を手に取ったヴィデロさんは、それを俺の前に開いた。



「行き詰ったら初心に返れって言うだろ」



 そう言って、俺を膝に乗せたまま、片腕を腰に回してもう片方の手でレシピを繰る。

 肩越しにレシピの本を覗き込んだヴィデロさんは、「これを読めるマックが凄いな」と感心したように耳元で呟いた。

 その耳にかかる息で思わず身体を震わせる。それに気付いたヴィデロさんが、耳元でフフ、と笑う。

 時折耳を唇で食んでみたり、耳にチュッとキスしたり。

 確かに気分転換にはなるけど、イケナイ気分に転換されちゃうよこれ。

 ヴィデロさんの手は、相変わらずレシピを捲っていく。

 そして、もう片方の手は、俺の脇腹を撫で始める。



「……っ」



 オプション傷の部分を敢えて強弱付けて撫でられて、息を呑むと、追い打ちの様に耳に歯を立てられた。



「ヴィデロさ……気分、転換されちゃった、から……っ」



 ページをめくる手を押さえて振り返ると、すぐ間近にあるヴィデロさんの口にキスをする。

 ヴィデロさんも俺のキスに応えるように、唇を割って舌を侵入させてきた。

 気持ちいい。でも、錬金部屋でこんな風に発情するのって、なんかすごく背徳感がある気がして、余計に興奮してちょっと困る。

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