これは報われない恋だ。

朝陽天満

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602、新鮮ペスカパフェ

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 鼻歌を歌いながらキッチンのインベントリに果物の箱を突っ込んでいく。そして、手元にはペスカの実。

 今日はこれで新鮮デザートを作ろう。

 魔法陣魔法でペスカの実を凍らせて、薄切りにすると、それを小さなボウル型の皿に盛りつける。その周りに凍ってないペスカの実を切って盛り付けて、キッチンインベントリに入っていたクリームを添える。

 仕上げは「シェゾの実」というトレの森に生えている小さくて赤い実を飾って新鮮ペスカパフェの出来上がり。ちょこっと小さめの葉っぱのハーブを彩りに飾る。美味しそう。

 凍らせた分全部使い切る勢いで次々パフェを作っていると、ピロン、とチャット欄に通知が来た。



「雄太から……?」



 雄太からのニューメッセージに指を伸ばすと、「これから魔大陸の成果を教えるから工房に遊びに行ってもいいか」というメッセージが届いていた。

 丁度いいから雄太たちにもこのパフェを味わわせてやろうかな、と了承の返事をする。

 その後もう一つ作るか作らないかのうちに、工房のドアがノックされた。

 返事をしながらドアを開けると、そこには『高橋と愉快な仲間たち』が勢ぞろいしていた。

 早い。ユイが転移の魔法陣魔法を使えるのって、ほんとにかなりのアドバンテージになるんじゃなかろうか。移動時間皆無だよね。



「こんにちは。おじゃましていい?」

「どうぞー。丁度デザート作ってたんだ。新鮮果実が手に入ったから」



 皆を迎え入れるため、ドアを押さえていると、雄太が俺を見下ろして首を傾げた。

 皆がぞろぞろと工房に入ってくる。

 皆をキッチンのテーブルに案内すると、早速今作ったデザートを出してみた。



「うわあ、美味しそう。いいの? 食べても」

「なんだこの実。桃? 初めて見た」

「この赤いのって、森になってるやつ?」

「懐かしい。この赤い実、トレ付近でレベル上げてる時に食べたよな」



 四人が一斉に手を合わせてスプーンを手にする。俺も、何個かインベントリにしまうと、自分の分を手に、椅子に座った。

 ちらり、と全員の視線が俺に向く。正しくは、俺の頭上に。

 え、もしかして俺、今うさ耳ローブ着てる? と自分の身体を見下ろして、ヴィデロさんプレゼントローブであることを確認してホッとする。

 じゃあ、何で……と皆を見回すと、雄太がまたしても首を傾げた。



「なんだよ」

「いや、うさ耳ついてねえなと思って」

「あ、高橋! それ本人にいっちゃダメなやつ!」



 雄太の言葉にすかさず海里からのツッコミが入る。

 え、待って。何で俺のうさ耳雄太が知ってるんだよ。

 皆の言葉に驚愕していると、ユイまで俺の頭に視線を向けた。



「ちょっと噂になってたから、どんなのかなって思って。でもほら、魔大陸の話しをしに来たのはほんとだよ。その前にこんなおいしい物を出されちゃってそっちに夢中になっちゃったけど」



 にこっとそんなことを言うユイも、パフェに夢中になる前に俺の頭に目を向けてたよね。

 そうかそうか。こいつら、俺のうさ耳を笑いに来たのか。そうかそうか。



「パフェはいらないみたいだね」



 にこやかに雄太の目の前のパフェに手を伸ばすと、雄太が「やめろおおおおおおお!」と悲鳴を上げた。

 必死で俺からパフェを守ろうとして、パフェをパッと消す。

 もしかして、インベントリにしまったのか。

 いきなり目の前から消えてちょっと驚いた。



「悪かった。俺がとりあえず全面的に悪かったからそういう無慈悲はやめてくれ」

「どこ情報だよ、俺の情報」



 じっと雄太を見ていると、海里が諦めたように溜め息を吐いた。



「マックスレ」

「……」



 マジか。あのほんの少し街を歩いただけのあの一瞬で知られるとは。

 がっくりと肩を落として溜め息を吐くと、俺はやけくその様にペスカのパフェにスプーンを刺した。

 そして、大口を開けてそれを口に入れて。



「あ、めっちゃ美味い……」



 ペスカは嫌なことを一瞬で忘れる美味しさだった。

 これはヴィデロさんに沢山食べてもらわないと。三箱分買ってきたから沢山食べさせられるのが嬉しい。



「なんか、桃源郷がここにあった……って感じの美味さだな」



 ブレイブがうっとりとしながらゆっくりとパフェを食べる。

 雄太もインベントリから取り出して、改めて食べ始め、一口食べた瞬間目をカッと見開いていた。雄太桃好きだからね。

 ユイも普段から垂れ目気味の目を更に垂れさせて、最高に幸せそうな顔でちょびちょび食べ、海里はことあるごとにこれどこで売ってるの? どうやって凍らせたの? クリームって……と質問攻めにしてきた。きっと自分でも作りたいんだね。

 でもペスカの実はまだ売りに出されていないはず。俺は厚意で売ってもらえたけど。そういえば王に献上とか、どうなってるのかな。モントさんが上手く誤魔化してくれてるといいんだけど。





「そうそう、魔大陸の話よね。余りのおいしさに忘れるところだったわ。大分進んでみたわよ」

「そうなんだ。どう?」

「一度向かったところに、ユイの転移で向かえばいいだけだから、先に先に進んでみてるんだけど、中央に近付くにつれて魔物の強さがえげつない物になってってるわね」

「えげつない……海里をしてえげつないと言わしめる魔物ってどんだけ強いんだよ……」

「攻撃力とか耐久力とかは、そこまで代わり映えしないんだよ。でもな……あれだ。特殊攻撃がえげつないんだよ」



 ブレイブも遠い目をして、溜め息を吐く。

 どうやら、斬りつけた瞬間状態異常にかかる魔物とか、純粋な物理攻撃は一切効かない魔物とか、特定のスキルでしかダメージを与えられない魔物とか、変わり種が大量にいるらしい。

 ヴィルさんが魔物よけを置いたのは最初の方の村だけで、その先は自分の足で村を探して小さな教会に入り込むか、そこも魔大陸魔素があったらHPはガンガン減り続けるままだとか。諦めてこっちに戻ってくることもよくあるらしい。それに一度行くだけで、ホーリーハイポーション一人当たり数個は当たり前になくなるらしいし。最初にヴィルさんに貰った物はほぼ使い切ったらしい。そして、魔大陸の色々は、ちゃんと全てヴィルさんにチャットで送ってるらしい。画像込みで。頑張ってる。



「じゃあ、ホーリーハイポーション、たくさん持ってく?」

「ぜひ。買い取らせてくれ。魔大陸の魔物のドロップ品で」

「あ、現金はないんだね」



 真顔でドロップ品を差し出して来る雄太についつい突っ込むと、真顔で「ない」と答えられてしまった。そういえば今日の鎧は長光さん作の鎧じゃない初めて見るやつだった。買ったのか。買ったんだな。



「いいよ。この魔物ドロップ品、ちょっと見せて」



 雄太から魔物のドロップ品として差し出された角のようなアイテムを受け取ると、俺は早速鑑定眼を使った。



『キラーブリーズベアの牙:粉にして素材に混ぜ込むことで寒さに強くなる 鍛冶の際に使うことで氷属性の武器が出来る 粉にして使うことで調薬アイテムに氷耐性を付けることが出来る 氷耐性(小)』



 これ、調薬に使ってもいけるやつだ。

 これ買った。と俺は無言で手持ちのホーリーハイポーション10本を雄太に渡した。

 雄太がそれを受け取ると、雄太も無言で次のアイテムを差し出してくる。

 今度は、防御力上昇が付く魔物の爪だった。アクセサリー素材だそうで、ありがたく彫金とかの腕を上げる時に活用させてもらうことにして、俺は無言で調薬室に向かった。

 ついでとばかりに大量にホーリーハイポーションを作ることにする。

 雄太は黙々と素材を山にしていった。



「いくらなんでもアイコンタクトにしては通じすぎでしょあなたたち……」



 俺たちの無言のやり取りを見て、海里が呆れたような声を出した。



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