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600、相変わらずのエアインズ工房
しおりを挟む串焼きを食べ終えたエアインさんは、ご満悦な顔をして腹をさすった。
「流石に旨いな、屋台串焼き。俺もたまには買いたいもんだぜ」
「親方はここでなんか作ってるか魔物を倒してるか採掘してるかしかしてねえから会えないじゃん」
「だな」
「だったらお前ら俺を街に休暇で出歩かせられるくらいに仕事しろよ。ちゃあんとお前らの串焼きも見つけたら買ってきてやるからよ」
「無理だな、だって親方が一番仕事中毒だから」
「違いない!」
相変わらずの和気あいあいに一緒になって顔を綻ばす。
俺もちゃんと串焼きを食べたんだけど、本当に美味かった。タレとか絶対秘伝な感じがする。今度見かけたら訊いてみようかな。教えてくれるかはわからないけど。
「んで、マック。今日は直接なんて珍しいな」
「あ、はい。どうしてもアクセサリを作りたいんですけど、自分だけでやって失敗したら泣いても泣けない状態でして」
エアインさんにそう答えると、エアインさんは目をキラリ、と光らせた。
「それほどにレアな素材を使おうってのか。相変わらずだな、マック」
「なんでわかるんですか」
「それ以外ねえだろ。あと、依頼の石持ってきてくれたって? また、クズ石謎石あるから持ってってくれ」
「はい」
属性付与石を取り出して、ざらざらとエアインさんが用意した箱に入れていく。小さいのはこっち、大きめのは長光さんって分けてるせいか、箱に出した石は20個くらいあったはずなのに、あんまり量がある様には見えないのがちょっと残念。
エアインさんはそれでも満足そうに石を見ていた。
「これは……スタミナ回復量増加か。ちょっと自分用になんか作るかな」
「親方これ以上スタミナ付けたらやべえだろ。皆止めろ!」
「おお!」
またしても皆にたかられるエアインさんに思わず吹き出すと、笑うなよ、ともみくちゃにされながらエアインさんも苦笑した。
「作らねえよ。売り物にするに決まってんだろ」
服の埃をパンパンはたきながらエアインさんが立ち上がる。皆が席に戻ると、んじゃ、と前と同じ席を俺に勧めてくれた。
そして、目の前に色んな工具と素材を並べてくれる。講習の時と全く同じだ。
「使いたい素材、出してみろ」
そう言われて、俺はクマの爪を出した。
それを見て、エアインさんが「うわあ……」なんて変な声を出す。
「なん……だこれ。またおっそろしいもんを持ち込みやがったな」
「え、熊の爪ですけど」
「これ、聖痕なんてもんが入ってるだろ。考えてもみろ。魔物に聖痕とか、ありえねえだろ。普通は魔物に聖痕なんて神聖なもん付くわけねえんだよ。これ、どこの魔物をやったやつだ?」
「場所はいまいちわからないですけど、この国の中央山脈のどこかです」
「……」
ジト目で見られて、う、と身を引く。すると、誰かが「あんな所に行けるやついるのかよ」「山自体登れねえだろ」と会話した。すぐ横で会話してるような聞こえの良さに、ハッとする。
俺、スノウイーターラビットのローブのまま!
手を頭の上に持って行くと、ちゃんとあったよ耳!
もしかして、俺、この姿のまま街を歩いて……。
あ、待って恥ずかしすぎる。ちょっと何やってんだよ俺。
エアインさんの視線を無視して、俺はサッとインベントリを開いて手を伸ばした。
すぐさまお着替え。
ヴィデロさんローブに戻すと、エアインさんが「おいおい」と溜め息を吐いた。
「何ローブ変えてんだよ。今のやつ似合ってたのに。しかもかなり性能よさそうだったのに」
「だってうさ耳ですよ」
「いいじゃねえか。そういうアクセサリーだって辺境には売ってるぞ」
「誰が買うんですか……」
最後、きっと俺の声は震えていたと思う。
エアインさんはジト目だったのも忘れて、吹き出していた。
「性能よければ使うやつもいるだろ。どんな性能なのかはわからないけど、風の噂じゃ、ここにマックみたいに講習受けに来た異邦人が作ってるとか。本当だったら面白いんだけどな。もし会ったらたまには遊びに来いって伝えてくれねえか」
「あ、はい。ええと、機会があれば」
「さ、ローブ戻せ戻せ」
「なんでですか。さっきのよりこっちの方が器用さと運が上がるんですよ!」
「そうなのか? 使い分けてんのか。なんだ。あのローブ似合ってたのに。マックが可愛く引き立つぜ」
「そんなこと言われても嬉しくない……」
がっくり落ち込むと、エアインさんがわはははは、と豪快に笑った。
通常のローブのまま、俺はエアインさん指導の元、熊の爪を加工した。
とはいえ、ほぼエアインさんのデザインで、ほぼ主導はエアインさん。俺はここにこれをくっつけろ、とかここにこの紐を通せ、とか言われたのをただただ実行しただけ。
そして出来上がったのは、めちゃくちゃかっこいい熊の爪ペンダントヘッド。魔物の皮を細く切った紐でグルグル装飾して、ドリルみたいな物で爪にちょっと穴をあけて、そこに金具を差し込んで、その金具に鎖と石を装飾して、最後まとまる様に皮の紐でくくる。今回は鎖じゃなくて、そのまま魔物の皮紐を使って、チョーカーみたいなアクセサリーが出来た。もちろん、ばっちり聖痕は見えるようになっているし、つけた石が俺が持ってきたものだったので、ちゃんと補正されている。
『スティグマヘレグリズリーの聖痕爪のチョーカー:世にも珍しい聖痕の浮かんだ爪を使って作ったチョーカー 首用アクセサリー 一度だけ予期せぬ事態を回避することが出来る 素早さ(微) 火耐性(微) 風耐性(微)』
すごい、と鑑定眼で見て、声が出た。
一回予期せぬ事態を回避することが出来るだけじゃなくて、火と風の耐性が微だけど付いてる。ちょっとシャラっと石が動くのがかっこいい。魔物の紐がまたいい味出してる。この紐が、俺のブーツの紐と同じ魔物の紐を使ってるらしい。だから素早さ上昇か。すごい。これ、しかもヴィデロさんに絶対似合う。カッコいい以外ない。好き。
涎を垂らさんばかりに出来上がったチョーカーを見ていると、エアインさんに頭をわしわし撫でられた。
「いい出来じゃねえか」
「はい! ありがとうございます!」
「いいってことよ。また、石の融通頼むぜ」
「もちろん!」
そして、今回のお値段は、素材代すら請求されなかった。
「ちゃんと正規料金請求してください」
「してるさ。マックは俺の工房の銘が入った工具持ってるだろ。ってことは、弟子ってことだ。弟子に請求してどうするんだよ。そんなことしたら、ここで働く奴ら全員金がなくなるだろ。それに師匠は弟子に教えるもんだ。今回のこれも、マックに技術を教えたってこった。さっきの技法、今度は一人でもできんだろ。基礎だしな」
「それは……そうですけど」
「じゃあ、まあ、そういうこった」
親方かっこいい! 親方何かっこつけてんだよ! あとで恥ずかしくなるだろ、やめとけよ! というヤジが飛ぶ中、エアインさんはニヤリと笑った。
俺も弟子ってことかな。ってことは、エアインさん、ここに講習に来る人たち全員弟子にしちゃうのかな。懐広い人だ。
「親方、かっこいい」
俺もついついまたしても親方、と呼ぶと、エアインさんはニヤリ顔のままかあっと顔を赤くした。あ、照れてる。
「じゃあ、弟子からの差し入れを」
料金を受け取って貰えなかった分のスタミナポーションを差し入れると、工房内から盛大な悲鳴が上がった。これ以上仕事に没頭されたらかなわないらしい。でも皆似たようなものだよね。疲れた顔をしながらも、しっかりと手は動いてるし。エアインさんが「別に休んでもいいんだぞお前ら」と呆れた顔して言っても誰一人席を立たないし。なんだかんだで彫金が好きだって顔してるよ皆。でもお休みは必要だと思うけど。
俺はヴィデロさんが休みになったら、デートしよう。今度こそ何もない平和なデートに誘うんだ。休み大事。
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