これは報われない恋だ。

朝陽天満

文字の大きさ
上 下
603 / 830

600、相変わらずのエアインズ工房

しおりを挟む
 

 串焼きを食べ終えたエアインさんは、ご満悦な顔をして腹をさすった。



「流石に旨いな、屋台串焼き。俺もたまには買いたいもんだぜ」

「親方はここでなんか作ってるか魔物を倒してるか採掘してるかしかしてねえから会えないじゃん」

「だな」

「だったらお前ら俺を街に休暇で出歩かせられるくらいに仕事しろよ。ちゃあんとお前らの串焼きも見つけたら買ってきてやるからよ」

「無理だな、だって親方が一番仕事中毒だから」

「違いない!」



 相変わらずの和気あいあいに一緒になって顔を綻ばす。

 俺もちゃんと串焼きを食べたんだけど、本当に美味かった。タレとか絶対秘伝な感じがする。今度見かけたら訊いてみようかな。教えてくれるかはわからないけど。



「んで、マック。今日は直接なんて珍しいな」

「あ、はい。どうしてもアクセサリを作りたいんですけど、自分だけでやって失敗したら泣いても泣けない状態でして」



 エアインさんにそう答えると、エアインさんは目をキラリ、と光らせた。



「それほどにレアな素材を使おうってのか。相変わらずだな、マック」

「なんでわかるんですか」

「それ以外ねえだろ。あと、依頼の石持ってきてくれたって? また、クズ石謎石あるから持ってってくれ」

「はい」



 属性付与石を取り出して、ざらざらとエアインさんが用意した箱に入れていく。小さいのはこっち、大きめのは長光さんって分けてるせいか、箱に出した石は20個くらいあったはずなのに、あんまり量がある様には見えないのがちょっと残念。

 エアインさんはそれでも満足そうに石を見ていた。



「これは……スタミナ回復量増加か。ちょっと自分用になんか作るかな」

「親方これ以上スタミナ付けたらやべえだろ。皆止めろ!」

「おお!」



 またしても皆にたかられるエアインさんに思わず吹き出すと、笑うなよ、ともみくちゃにされながらエアインさんも苦笑した。



「作らねえよ。売り物にするに決まってんだろ」



 服の埃をパンパンはたきながらエアインさんが立ち上がる。皆が席に戻ると、んじゃ、と前と同じ席を俺に勧めてくれた。

 そして、目の前に色んな工具と素材を並べてくれる。講習の時と全く同じだ。



「使いたい素材、出してみろ」



 そう言われて、俺はクマの爪を出した。

 それを見て、エアインさんが「うわあ……」なんて変な声を出す。



「なん……だこれ。またおっそろしいもんを持ち込みやがったな」

「え、熊の爪ですけど」

「これ、聖痕なんてもんが入ってるだろ。考えてもみろ。魔物に聖痕とか、ありえねえだろ。普通は魔物に聖痕なんて神聖なもん付くわけねえんだよ。これ、どこの魔物をやったやつだ?」

「場所はいまいちわからないですけど、この国の中央山脈のどこかです」

「……」



 ジト目で見られて、う、と身を引く。すると、誰かが「あんな所に行けるやついるのかよ」「山自体登れねえだろ」と会話した。すぐ横で会話してるような聞こえの良さに、ハッとする。

 俺、スノウイーターラビットのローブのまま!

 手を頭の上に持って行くと、ちゃんとあったよ耳!



 もしかして、俺、この姿のまま街を歩いて……。

 あ、待って恥ずかしすぎる。ちょっと何やってんだよ俺。

 エアインさんの視線を無視して、俺はサッとインベントリを開いて手を伸ばした。



 すぐさまお着替え。

 ヴィデロさんローブに戻すと、エアインさんが「おいおい」と溜め息を吐いた。



「何ローブ変えてんだよ。今のやつ似合ってたのに。しかもかなり性能よさそうだったのに」

「だってうさ耳ですよ」

「いいじゃねえか。そういうアクセサリーだって辺境には売ってるぞ」

「誰が買うんですか……」



 最後、きっと俺の声は震えていたと思う。

 エアインさんはジト目だったのも忘れて、吹き出していた。



「性能よければ使うやつもいるだろ。どんな性能なのかはわからないけど、風の噂じゃ、ここにマックみたいに講習受けに来た異邦人が作ってるとか。本当だったら面白いんだけどな。もし会ったらたまには遊びに来いって伝えてくれねえか」

「あ、はい。ええと、機会があれば」

「さ、ローブ戻せ戻せ」

「なんでですか。さっきのよりこっちの方が器用さと運が上がるんですよ!」

「そうなのか? 使い分けてんのか。なんだ。あのローブ似合ってたのに。マックが可愛く引き立つぜ」

「そんなこと言われても嬉しくない……」



 がっくり落ち込むと、エアインさんがわはははは、と豪快に笑った。

 通常のローブのまま、俺はエアインさん指導の元、熊の爪を加工した。

 とはいえ、ほぼエアインさんのデザインで、ほぼ主導はエアインさん。俺はここにこれをくっつけろ、とかここにこの紐を通せ、とか言われたのをただただ実行しただけ。

 そして出来上がったのは、めちゃくちゃかっこいい熊の爪ペンダントヘッド。魔物の皮を細く切った紐でグルグル装飾して、ドリルみたいな物で爪にちょっと穴をあけて、そこに金具を差し込んで、その金具に鎖と石を装飾して、最後まとまる様に皮の紐でくくる。今回は鎖じゃなくて、そのまま魔物の皮紐を使って、チョーカーみたいなアクセサリーが出来た。もちろん、ばっちり聖痕は見えるようになっているし、つけた石が俺が持ってきたものだったので、ちゃんと補正されている。



『スティグマヘレグリズリーの聖痕爪のチョーカー:世にも珍しい聖痕の浮かんだ爪を使って作ったチョーカー 首用アクセサリー 一度だけ予期せぬ事態を回避することが出来る 素早さ(微) 火耐性(微) 風耐性(微)』



 すごい、と鑑定眼で見て、声が出た。

 一回予期せぬ事態を回避することが出来るだけじゃなくて、火と風の耐性が微だけど付いてる。ちょっとシャラっと石が動くのがかっこいい。魔物の紐がまたいい味出してる。この紐が、俺のブーツの紐と同じ魔物の紐を使ってるらしい。だから素早さ上昇か。すごい。これ、しかもヴィデロさんに絶対似合う。カッコいい以外ない。好き。

 涎を垂らさんばかりに出来上がったチョーカーを見ていると、エアインさんに頭をわしわし撫でられた。



「いい出来じゃねえか」

「はい! ありがとうございます!」

「いいってことよ。また、石の融通頼むぜ」

「もちろん!」



 そして、今回のお値段は、素材代すら請求されなかった。



「ちゃんと正規料金請求してください」

「してるさ。マックは俺の工房の銘が入った工具持ってるだろ。ってことは、弟子ってことだ。弟子に請求してどうするんだよ。そんなことしたら、ここで働く奴ら全員金がなくなるだろ。それに師匠は弟子に教えるもんだ。今回のこれも、マックに技術を教えたってこった。さっきの技法、今度は一人でもできんだろ。基礎だしな」

「それは……そうですけど」

「じゃあ、まあ、そういうこった」



 親方かっこいい! 親方何かっこつけてんだよ! あとで恥ずかしくなるだろ、やめとけよ! というヤジが飛ぶ中、エアインさんはニヤリと笑った。

 俺も弟子ってことかな。ってことは、エアインさん、ここに講習に来る人たち全員弟子にしちゃうのかな。懐広い人だ。



「親方、かっこいい」



 俺もついついまたしても親方、と呼ぶと、エアインさんはニヤリ顔のままかあっと顔を赤くした。あ、照れてる。



「じゃあ、弟子からの差し入れを」



 料金を受け取って貰えなかった分のスタミナポーションを差し入れると、工房内から盛大な悲鳴が上がった。これ以上仕事に没頭されたらかなわないらしい。でも皆似たようなものだよね。疲れた顔をしながらも、しっかりと手は動いてるし。エアインさんが「別に休んでもいいんだぞお前ら」と呆れた顔して言っても誰一人席を立たないし。なんだかんだで彫金が好きだって顔してるよ皆。でもお休みは必要だと思うけど。

 俺はヴィデロさんが休みになったら、デートしよう。今度こそ何もない平和なデートに誘うんだ。休み大事。

しおりを挟む
感想 503

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

処理中です...