これは報われない恋だ。

朝陽天満

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595、錬金は力技

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 二人が戻ってきた時には、すでに俺はローブを脱いでいた。

 そして食後のお茶を淹れていた。

 二人を椅子に促して、お茶を勧める。



「どうだ、聞こえたか?」



 ヴィルさんが面白そうに聞いてくるのに頷くと、ヴィデロさんが驚いたような顔をした。

 本当に聴力は獣人並みだった。獣人さんたちってあんな風に聞こえるんだ。近くで内緒話とかしても、耳のそばで普通に話してるように聞こえるってことだな。面白いけどね。あの、耳がね。



「脱いだのか……」



 心なしかヴィデロさんが残念そうな顔をしたけど、あれ、俺似合わないと思うよ。可愛い子が着たらすごく似合う気がするけど。

 でも鑑定眼で見たら、本当に性能は抜群だった。

 ヴィデロさんに買ってもらったローブよりさらに防御力が高くて、素早さ数値が+5になって、状態異常耐性(大)が付いていた。アレを羽織ってる限り状態異常になりにくいってことだよ。しかも聴力が上がってるから、マップに目を移さなくてもある程度の魔物の足音がわかるみたいな感じで、万能なんだ。耳以外は。手触りも本当に抜群だし。流れるような白い光沢のある毛皮がほんとに気持ちよくて。かといってゴテゴテの毛皮じゃないから、見た目もシュッとしてて。耳以外はほんとにすごいんだよ。

 ヴィデロさんと二人で魔物素材集めデートに行くときだけ着よう。そうしよう。

 俺はそう心に決めて、ヴィルさんにお礼を言った。







 ヴィルさんが帰っていくと、ヴィデロさんは貰った毛皮をベッドに敷こう、と俺を寝室に促した。

 一緒に広げて、フワフワのベッドにすると、ヴィデロさんがコロンとその上に転がった。



「ああ……」



 めちゃくちゃいい声を上げたので、俺も恐る恐る手を伸ばす。

 ふわ、と白い毛に手が沈む。

 滑らかでそれでいて柔らかくてふわふわな毛皮は、『魅了』の効果がなくなっても十分魅了される手触りだった。

 ヴィデロさんの隣に転がると、俺の口からも同じような声が洩れる。これは凄くいいね。



「気持ちよすぎてこのまま寝そうだ……」

「ほんとにね」



 コロコロ転がってヴィデロさんにぴったりとくっついた俺は、ヴィデロさんの身体と毛皮のシーツという至福に包まれた。

 くっついてきた俺の身体に腕を回したヴィデロさんは、ちゅ、ちゅ、と俺の顔にキスを降らせる。



「水洗いしてもまたこの状態に戻るってことは、たくさんこれの上でマックと愛し合えっていうことかな」

「深い意味はないと思いたいけど、でも、それもいいね」



 うさ耳はアレだけど、このシーツは素直に感謝して、俺はヴィデロさんと極上のプレゼントの上で愛し合うことにした。









「やっぱりあと一つが揃わないんだよなあ」



 ヴィデロさんと一緒に錬金工房に引きこもった俺は、長老様にもらったレシピを睨みつけていた。

『真秘黒宝石』ってなんだよ。めちゃくちゃレアっぽい名前だけど。宝石ってことはやっぱり鉱石っぽい物だよな。

 はぁ、と小さくため息を吐いて、レシピをそっとしまう。他の素材は、ヴィルさんに貰ったものの中と、ギルドから渡された依頼品の中に揃っていて快哉を叫んだんだけど。

 これだけがまだないんだよなぁ。そして、ヴィルさんから貰ったものっていったら、きっとこれから先も入手困難な物だと思うし。どれだけ長老様のレシピが難易度高いかわかるってもんだ。

 パタッと机に突っ伏すと、隣で本を読んでいたヴィデロさんが「大丈夫か?」と声を掛けてきた。



「素材採りなら付き合うぞ」

「どこにあるのかもわからない素材なんだ」



 机からちらりと顔を上げてそう言うと、ヴィデロさんが俺の頭をそっと撫でてくれた。



「きっとマックなら手に入る」



 目を細めながらそう言ってくれるヴィデロさんがカッコよすぎて、胸を打ち抜かれた俺は、へにゃっと笑った。



「ヴィデロさんがそう言ってくれたら手に入る気がしてきた。俺、頑張るね」

「無茶はするなよ。何なら、手伝うから」



 うん、と頷いて頭を上げた俺は、気を取り直して他のレシピを消化することにした。

 出来上がった面白アイテムは全部で20種類くらい。全てプレイヤーさんたちがくれた謎素材で作ったものだ。 

 サラさんの方じゃないレシピの物は、案外宝石みたいな物が多くできていて、装備品に付けられるような感じだった。

 サラさんのレシピも大分埋まって、そっちは結構恐ろしい系の攻撃アイテムや、攻撃補助アイテムが多かった。サラさん、これで皆をサポートしてたのかな。なんていうか……チョイスが不穏すぎる! 時限式爆弾みたいな物もあったし、魔法攻撃を一点集中させるようなドラッグもあった。これ、俺が飲んで聖攻撃魔法唱えたら効くかな。レーザーとかそういうのを思い浮かべちゃうんだけど。怖い。

 中には、飲んだら攻撃特化になる狂戦士変化薬バーサーカードラッグなる物もあって、かなり青くなった。サラさん、これを誰に飲ませたんだろう。セイジさん……は魔法特化だからありえないとして、あの勇者に飲ませてバーサク状態にしたとしたら、なんていう恐ろしいことをするんだろう。あれ以上に攻撃特化になる勇者なんて、考えなくても人間じゃなくなってる気がする。はっ、それともエミリさんが……勇者と同じような感じだった。うん。怖い。一回雄太に試しに飲んで貰おう。攻撃特化が更に攻撃特化になるってことだよな。見てみたい。理性がなくなって周り全部を攻撃したりしたら笑えないけど。

 マジックハイパーポーションの空になった瓶を寄せて、おれはクラクラする頭を元に戻すため、またしてもマジックハイパーポーションを取り出した。錬金って一回で滅茶苦茶魔力を食うからほんと辛い。これだけ飲んでも水っぱらになってないのが救いだよね。下っ腹出てポチャンなんて歩くたびに音がしたらちょっとどうかと思うよ。ネタキャラじゃないんだし。



 あらかた作り終わった俺は、肩を回しながら他にも何かできるものはないかな、とレシピ本を捲った。



「あれ、これ、さっき作れなかったやつ……」



 出来上がった錬金アイテムを更に使って作る物があったらしく、新たにページが埋まっている場所があった。

 これをやったら終わろうかな、と素材を用意して、錬金釜に謎液体を満たす。

 上から書かれている順番に素材を投下して行って、掻き混ぜる。

 上腕二頭筋を意識して、硬くなる液体をひたすら力のかぎりまわし続けると、そろそろ筋肉の悲鳴が聞こえる、というところでコロンと石になった。

 黒い宝石みたいな石で、名前は『偽黒宝石』。思わずおお! と声を出してしまった。名前が似てるだけかもしれないけど、偽物が出来上がった。

 それを手に、更にレシピの頁をめくる。

 すると今度は今の偽物とさらにさっき作ってた宝石と、エルフの里で手に入る素材で作れるレシピの素材が揃っていた。

 なんか、もしかして。

 ワクワクしながらまたも錬金開始する。

 素材を全部投入して、掻き混ぜると、さっきよりもさらに抵抗を増した液体に顔を顰めた。

 ぐぬぬ、と変な声が出る。お、重い……重すぎるよこれ。すっごいの出来るのかな。

 フンヌー……と変な掛け声で必死で棒を回していると、ヴィデロさんがそっと本を閉じて、釜を掻き混ぜる棒に手を添えてくれた。

 ヴィデロさんが一緒に回してくれる棒は、さっきの抵抗なんてなかったんじゃないのかってくらいすんなりグルグル回り、さっきよりも早い時間でコロンと宝石になった。ヴィデロさんの力はやっぱり素晴らしい。好き。



「ありがとうヴィデロさん」

「どういたしまして。それにしても、いつも思うけど、錬金術っていうのは大分力技なんだな。薬師のあの緻密な作業とは違うな」

「ほんとにね。サラさんって、あの細腕でこれを回してたのかなって思うとさ……」



 どれだけ俺非力なんだろう、って遠い目しちゃうよね。とは口に出して言えない情けない。腕立て伏せ頑張る。

 遠い目をした俺に苦笑したヴィデロさんは、後ろから俺を包み込むように立って、つむじにキスをした。

 二人で力を合わせて作った錬金アイテムは『真黒宝石』。一文字足りない。今みたいにまた違うレシピ出てこないかな、とページをめくっても、残っていたのはまだ素材の揃わない錬金レシピのみ。これをどうにかすれば『真秘黒宝石』出来るのかな。そしたら今度こそ長老様のレシピに手を付けることが出来るのかな。でも出来上がったうちの一つを納品、ってなってたから、もっとたくさん作った方がいいってことだよな。どうやって作るんだよ。

 こうして、またしてもスタート地点に戻ったのだった。すごろくで『スタートに戻る』っていうコマにとまった気分だよ。



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