これは報われない恋だ。

朝陽天満

文字の大きさ
上 下
596 / 830

593、完璧な『ホーリーリラの果実』と『蔦』

しおりを挟む

 素材も手に入れて、預かりものも受け取って、それの報酬としてまたしても『講習無料券』を一枚貰ってしまった。本当は個人で受け渡しするのはとんでもなく危ない物だからこれだと本当は安いんだと言ってたけど、だって隣の建物だし怖くて欲しいとも思わないし、と申し訳ない気分でチケットを受け取った。

 工房に帰って来て、フレンド欄を見ると、ヴィルさんはログインしていなかった。なので、一旦ログアウトして、ヴィルさんに携帯端末からメールを送ることにした。忙しかったらごめんなさい。

 ここでいいや、とキッチンの椅子に座ってログアウトして、ヴィルさんにメールを送って、生理現象を何とかしてからログインする。

 早速奥の錬金部屋に進んで素材を広げていく。この棚は魔石素材、この棚は毛皮素材、この棚は草花素材、と一つ一つ分けていく。大分大量にあるけど、こうやって一つ一つ確認するのは結構好きだったりする。だって謎素材って見た目が凄く可愛いのとか綺麗な物が多いんだもん。

 途中休憩を挟みつつ鑑定眼を駆使して素材を分けていると、錬金部屋のドアがノックされた。



「健吾、ここにいるか?」

「はーいいまーす」



 ヴィルさんの声がドア越しに聞こえてきたので、一旦素材をテーブルに置いて腰を上げる。

 部屋を出ていくと、ヴィルさんが笑顔で手を上げた。



「統括から品物を預かったんだってな。ありがとう」

「ついでですから。でもついでのわりにはかなり物騒な物ですね」



 キッチンの方に移動しながら『魅了』のステータスを思い出してそう言うと、ヴィルさんはあははと笑った。



「どの文献を探しても、一番心地のいい毛皮があれだって記されていたからな」

「そりゃあ心地いいですよ。触った瞬間『魅了』されるんですから。ビビりましたよエミリさんに渡された時」

「そうなのか? 本物は見たことがないんだ」



 椅子に腰を下ろしながら、ヴィルさんがワクワクした顔を見せる。

 俺はインベントリを操作して、触れないように直接テーブルの上に取り出した。

 毛並みの綺麗な白い毛皮は、短剣でくしゃくしゃにインベントリに入れたはずなのに、畳まれた状態でちょこんとテーブルの上に出てきた。



「ほう、確かにこれは……『魅了』されるな」



 楽しそうに手を伸ばす。そして、触ってみて、うっとりとした。



「……確かに、最高の気分を味わえるな。しかもバッドステータス付き。これは面白い。これに寝転がったらさぞ気持ちいいだろうな……」



 うっとりと毛皮を撫でるヴィルさんは、すっごく、すっごく魅了された顔をしていた。なので、そっとキュアポーションをお茶がわりに差し出す。

 それを手に取って飲んだヴィルさんは、フッと目に光が宿り、口元を緩めた。



「なるほど『魅了』か。でも、状態異常を回復する物を使っていれば、魅了にかからない、と」



 そういうヴィルさんの手には、まだ毛皮がある。でもすっかり顔は正気に戻っているみたいだった。



「これは状態異常をどうにかできれば普通に使えるな……健吾、そういうアイテムは何かないか?」

「状態異常……キュアポーション?」

「状態異常をある程度の時間緩和できるものか、この毛皮の状態異常自体をおさえられるもの、だな」

「なんだろう……」



 インベントリを開いて一通り目を通して、特にそういうものはなかったので、次に工房の倉庫インベントリを開く。そして、「あ」と声を上げた。



「そう言えば師匠がリルの実は聖水のランクで性能変わるとか言ってた様な。あれってたしか、状態異常を何とかするんじゃなかったっけ……」



 工房のインベントリをゴソゴソして、封印しようと思っていたリルの実の種を取り出す。

 前の時は、普通の聖水茶に落ちてホーリーリラの実が出来上がったって言ってたから。

 深めの皿を出して、魔法陣で高濃度魔素の水を入れる。

 ヴィルさんに一応リルの実の中和剤を持たせてから、『祈り』を唱えた。

 ドキドキしながらランクSの聖水にリルの種を浸す。

 すると、前にヒイロさんの所で見たように、シュルシュルと蔦が伸び始めた。

 すぐに花が咲いて、実になった。

 実を鑑定眼で見てみると。



『ホーリーリラの果実:甘みの強い果実 状態異常解除確率100% 聖水の成分により中毒性が打ち消されている』

『ホーリーリラの蔦:状態異常解除確率89% 中毒成分3% 聖水の成分により中毒性が緩和されている 装備品に使うと状態異常耐性付加』



 よし、出来た。怖がってたけど、こうなるとどうして今まで放っておいたのか、っていうくらい使える実だった。

 蔦まで装備品として使えるのがお得感があっていいと思う。

 実を回収して、蔦を巻き取る。そしてそれを見せながらヴィルさんに説明すると、ヴィルさんはなるほど、と蔦を手にした。



「この蔦、売ってくれないか?」

「いいですけど、相場がわからない」

「とても珍しい物だろ。健吾の聖水で作るってことは、そこいら辺じゃ絶対に手に入らない物だろうし。そうだな……ちょっと待っていてくれ」



 ヴィルさんはいったん手にした蔦をテーブルに置くと、席を立って自分の家に行ってしまった。

 そして、すぐに戻ってくる。

 手に、俺が見たことない様なものをたくさん抱えて。



「これは天使と共に色々なところを歩いたときに手に入れた物なんだけど、これらと交換してくれないか?」



 そう言ってキッチンテーブルに広げた物は、『聖雹花』『雷伝針』『火炎硬岩』などなど、これどこで手に入るんだよ、と突っ込みたくなるようなものばっかりだった。

 うわあ、欲しい。っていうか鉱石類も何でこんなに取り揃えてるの。これ、全部売ったとしたら、ヴィルさんもう一軒くらい建物買えるんじゃないのかな。

 遠い目で見ていると、ヴィルさんは俺の顔を覗き込んで、「これじゃ足りないか?」と訊いてきた。



「え、待ってください。これ全部? この中の一つかと思ってたけど」

「俺はそんなケチな男じゃない」

「それは知ってますけど。バイト代だって破格だし」

「じゃあ、これでいいか?」

「逆に多すぎる気がしてなりません」



 だって山になってるよ。俺が見たことないアイテムが山になってるんだよ。どれだけクラッシュと一緒に歩き回ったんだよ。

 きっとクラッシュがヴィルさんを探査センサーがわりにするくらいには出歩いてるんだろうな。大変だねクラッシュ。

 かくして俺たちの取引はwinwin-winくらいの比率カッコ当社比で終わった。

 多すぎを指摘したら、ヴィルさんは涼しい顔で「こういうのは双方納得したらそれが理想なんだ。俺はこの蔦にこれだけの価値を見出した。それだけだ」とか言われたらねえ。カッコいい、とか思っちゃうじゃん。くっそさすがヴィデロさんのお兄さんだよ。スマートすぎて丸め込まれちゃうよ。

 ヴィルさんは早速蔦で毛皮をまとめると、特に魅了された様子もなくそれを手にした。蔦の使い方も完璧マスターしてるのがもうなんて言っていいのかわからない。





 錬金素材選り分け作業を再開して、ようやく手元にあった素材があらかたまとまると、結構な時間が経っていた。

 午後まるまる素材選り分けしてた様な状態だ。

 スッキリした気分でキッチンに戻って、ヴィデロさんの夜ご飯作りを始める。

 鍋を火にかけ、材料を煮込みながら、俺はキッチンテーブルにサラさんの錬金レシピと、大陸産錬金レシピを開いた。

 俺の依頼を受けてくれたプレイヤーたちのお陰で、二つともかなり白かったページが埋まって来ている。

 雄太たちが魔大陸からゲットしてきてギルドを通して送ってくれた謎素材も、しっかりと載っていて、思わずにんまりする。自分で魔大陸に行って素材集めてみたいけど、一緒に行けないヴィデロさんはものすごく心配するんだろうなあ。適正レベルとは言い難いし。

 グツグツと鍋の中身が煮込まれている音を聞きながら、すべての素材が集まっているページを確認する。まだ手掛けてないページも結構あって、明日からの課題はこれだな、なんて頁をめくっていると、玄関が開いた。



「ただいま」

「おかえりヴィデロさん!」



 ヴィデロさんが帰ってきたのでレシピをそのままに席を立って玄関に急ぐ。

 そのまま抱き着いておかえりの抱擁をしながらヴィデロさんを見上げると、ヴィデロさんは嬉しそうに目を細めていた。好き。



「いい匂いがする」

「まだ出来上がってはいないけどね。グツグツしてるところ。遅くなっちゃった。ごめんね」

「いや、マックがいてくれるだけでいいよ」

「ヴィデロさん……」



 ギュッとしていた腕にさらに力を込めてくっつく。

 背中を抱き返してもらえて大満足の笑顔を浮かべると、ヴィデロさんの肩が揺れた。

 そのフフッていう笑い方もセクシーで最高。





 サッとテーブルの上を片付けて、急いで仕上げをする。

 買っていたパンを出して、クロスを敷いた上に鍋を移動すると、皿を出してセットする。

 その間、ヴィデロさんはシャワーを浴びに奥に。

 ティーポットに熱湯を魔法陣で淹れて、茶葉をセットしていると、玄関がノックされた。

 返事をすると、ヴィルさんがひょこっと顔を出す。



「おかえりなさい」



 思わずそう言って迎え入れると、ヴィルさんは楽しそうに口元を持ち上げた。
しおりを挟む
感想 503

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

処理中です...