これは報われない恋だ。

朝陽天満

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590、情報交換と手当て

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『【NEW】錬金しよう



 エルフの里で手に入れた秘蔵のレシピを錬金しよう

 出来上がった物を一つエルフの長老に納品すること



 クリア報酬:更なるクエスト レシピ 守護樹の落ち葉』



 クエスト内容を見て、首を傾げる。これ、クエスト失敗がない。

 出さなくても失敗にはならないものなのかな。でももしつくれたら、ここに一つ納品すればいいってやつなのかな。

 確認してクエスト欄を閉じると、ヴィルさんがじっと守護樹を見ていた。



「この樹は……この世界にはなくてはならない樹ですね。あなたがたが守って育てておられるのですね」

「いいえ、ちょっと違います」



 ヴィルさんの呟きに、長老様は首を振った。



「この子に、私たちが守られているのです。今も、これからも、ずっとこの子は私達の地を守ってくれます。私たちが守るなんていうのは、おこがましい。そうね、私たちは、この子のお手伝いをしているようなものです。お腹が空いたと言えばご飯を出して、疲れたと言えば労わって。だから、護ってください、とお願いする立場です」

「なるほど。その労わる、というのはどうすればいいか、ご存知ですか?」

「いつも感謝を忘れないことです。この子もちゃんと意志がある。この子が守ることを当たり前ととらえて、感謝もしなくなれば、この子の意義すらなくなってしまう。だから、いつもありがとう、と私たちはこの子を手当てするのです」

「手当て……」

「ええ。手当てとは、この手の平で、相手を労わる様に撫でて痛みを抑えることです。優しく、優しく、手に魔力を乗せて」

「手当て、という言葉の由来通り……長老様、お願いがあります」



 ヴィルさんは長老様に真剣な目を向けた。

 長老様は相変わらずニコニコしていて、「何でしょう」とおっとりと訊いている。

 ヴィルさんは、スッと頭を下げた。



「私にも、手当てをさせてください」

「あらあら」



 思わぬ申し出に、長老様は面白そうに目を輝かせた。

 そして、頭を下げたままのヴィルさんを見てから、外の守護樹に向かって「どうする?」と訊いた。

 サワリ、守護樹の葉が揺れる。



「あらあら」



 もう一度、長老様はそう言うと、ヴィルさんに頭を上げるように言った。



「あなたのその知識を分けてくれるのであれば、手当てしてもいいと言っているわ」

「知識を分ける……とはどうすれば」

「そうねえ。手当てしている間、この子の欲しい情報のことを思い浮かべながら手に魔力を乗せてごらんなさい。そうすれば、それを汲み取って自分の知識として吸収できるのです」



 わかりました、とヴィルさんは返事して、中庭の方に行ってしまった。

 見守っていると、ヴィルさんが大木の前に立って、失礼します、と声をかけて、幹に触れる。

 サワリ、とまた葉が揺れた。

 風は止んでいたけれど、守護樹の枝はしばらくの間さわさわと落ち着きなく揺れていた。

 ヴィルさんはただ無言で守護樹の表面を撫でている。



 もう10分は経っただろうか、というところで、ヴィルさんはようやく手を離した。



「ありがとうございます」



 ヴィルさんは守護樹にきっちりとお礼をして、部屋に戻ってきた。

 なんだかすごく楽しそうな顔だった。



「長老様、守護樹との中継ぎ、ありがとうございます」

「この子も沢山の知識をありがとうと言ってるわ。それにしても、あなた、ヴィルフレッドさん、流石デプスシーカーね。ほぼ抜け落ちていた穴が見つかったって。これから先はあんな大きなモノを入れはしないって張り切ってるわ」

「そう言ってもらえると、嬉しいですね。私も、たくさんの情報をいただきました。今日ここに来なければいけない、というのはこれのことだったのかと」

「そうねえ。ここまで入れるのは、マック君か高橋君たち、そして、あなたの弟君がいなければどうにもならなかったわ。それが縁というものですから。でも、あなたはここまで入れた。それがこの世界の運命なんですね。私も、あの子も、見守ることしかできない……って、そういえばあの子はマック君のお陰で干渉できるようになったんでしたっけ。ふふ、面白いわね、繋がりって」



 長老様はとても楽しそうに笑うと、あの子は元気かしら、と視線を動かした。

 あの子って……と首を傾げる。

 俺のお陰で干渉できるようになった人……レガロさん? そういえばレガロさんもハーフエルフだった。



「たまにはあの子の所にも顔を出してあげてね。暇していると思うのよ。でも、あの子が暇なのはとてもいいことなのだけれど」



 長老様にお願いされて、俺は「はい」と頷いた。確かに、あの店は用事がないと開かないらしいし、用事がある場合、結構凄い案件の時とか多いし、だから、暇なのはいいことなのかな。そうなのかも。今度、ヴィデロさんにプレゼントするアクセサリーでも選びに行こうかな。素材も売って欲しい。

 早速『呪術屋』に行く算段を立てていると、長老様が俺を見て満足そうに微笑んだ。





 二人で長老様の所から直で工房に帰って来る。

 ヴィルさんは始終ご機嫌で、早速地図を開いて色々と書き込んでいた。

 チラッと見たけど、なんか知らないところに知らないことがいっぱい書き込まれていて、しかもその字、なんか日本語でも英語でもこっちの言葉でもない言語だったから、俺にはなんて書かれているのかさっぱりだった。この人一体何か国語使えるんだろう。外国に留学してたのは聞いたけど。

 ヴィルさんは所狭しと文字が書かれた地図にさらに何点か書き込むと、よし、とそれをしまった。



「さてと。ホットドッグを持って門に差し入れに行くかな。健吾はさっきのレシピを作ってみるんだろう?」

「う、それを言われると門に行くならついていこう、って言えなくなっちゃうじゃないですか」

「ははは。誰も止めないよ。弟をたっぷり愛してやってくれ。あいつも今まで寂しい想いをしてきていただろうからな」



 目を細めたヴィルさんは、その寂しさを身を以て体験した様な、深い微笑でそんなことを呟いた。

 ヴィルさんも寂しかったのかな。だから、こんなにヴィデロさんを可愛がってるのかな。今までの鬱憤を晴らすように。ちょっと俺が妬けるくらいに。



「あの、ヴィルさん」

「なんだい健吾。お兄ちゃんって呼んでくれてもいいんだよ」



 笑いながら俺をからかって来るヴィルさんに、俺はキッチン備え付けのインベントリから沢山のサンドイッチを取り出して渡した。



「お、お兄ちゃん。俺の分も差し入れよろしくお願いします」



 慣れない言葉は照れるもの。

 お兄ちゃんなんて呼ぶの、本当に照れる。慣れてないから余計に。

 顔が熱くなるのを自覚しながら最後にもう一つ取り出して、「これはお、お兄ちゃんの」とヴィルさんに渡すと、ヴィルさんが固まった。



「よし今のスクショした。佐久間に自慢しよう。健吾がお兄ちゃんってデレてくれたって!」

「うわあああああ! そんなことするならもう二度と言いません! やめてくださいぎゃあああ!」



 サンドイッチを奪い取ってあははははと指を動かすヴィルさんの言葉に、俺は涙目になりながら指を動かすのを阻止すべくかかっていったのだった。

 ほんとやめてええええ! マジ恥ずかしいから! デレってなんだよ! 俺デレてるわけじゃない!



 次のバイト時、盛大に佐久間さんに笑われたのは言うまでもない。

 それの報復として夜ご飯のおかずをミニマムに作ったら、2人とも真顔で俺に「もうからかわない」と謝ってきたのも、言うまでもない。ちゃんとしたおかずは作ってたんだけどね。

 胃袋を掴む者は強いのだ。

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