これは報われない恋だ。

朝陽天満

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567、諦めてよ

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 俺に腕枕をしてくれるヴィデロさんを見つめて、俺は改めてこうやって一緒に寝れるようになった奇跡に胸が痛くなった。

 それでも、俺は寝ちゃえば自分の本物の身体が生きてる世界に戻らないといけないし、ヴィデロさんはここでずっと生き続けているわけで。

 ヴィデロさんは諦めちゃったのかな。俺との未来を。

 でも、俺は諦めたくない。

 ヴィデロさんは俺の身を案じてあんなことを言ってるのはわかってる。わかってるけど、やだ。

 胸の中がグルグルして、そのまま寝るなんて出来そうもなかった俺は、抱き着いたヴィデロさんの身体に回す腕に力を込めた。



「ヴィデロさん、前にレガロさんに言われたこと、覚えてる?」

「レガロさんに?」



 小さな声で問うと、ヴィデロさんは考えるように視線を巡らせた。

 色々と意味深なことをたくさん言われたから。どれのことかわからないのかな。



「俺たちは変わっちゃダメだって言われたことあったよね」

「……あ、ああ」

「きっとさ、俺がこっちの世界に来ることを諦めたら、そこでまた未来が変わると思うんだ。今この世界の先が明るいのは、俺が変わらないからだって言われたもん。だから、俺がさっきのヴィデロさんの頼みに、うん、なんて答えちゃったら、きっとこの世界の未来はまたなんかなっちゃうかもしれないよ。だから」



 大好きな人にくっついていられる奇跡は、手放せない。

 だから。



「ヴィデロさんは俺にこっちに来るななんて言わないで、早く来いって言って。早く健吾を抱きたいって言って。辛くてもそう言ってて。そうすれば、俺頑張って魔王倒してくるから。再封印とかそんな甘いことじゃなくて、ブッ倒して消滅させてくるから。大丈夫。魔王退治に行く人たちは皆異邦人だから、魔王が俺たちを殺しても殺してもまた復活していくらでも魔王を攻撃できるから。俺たちはある意味無敵だから。安心して待ってて」



 力の限りヴィデロさんをぎゅうぎゅう抱き締めながらそう言うと、首の下にあったヴィデロさんの腕がぐいっと俺の頭を自分の方に引き寄せた。

 そして、同じようにヴィデロさんも俺をぎゅうぎゅう抱き締める。ちょっと苦しいけど、それがすごく好き。



「何一つ力になれない自分が不甲斐ない。どれだけ強くなっても、それでも何もできないなんて、強さって何なんだろうな、って情けなくなるよ」

「ヴィデロさんは滅茶苦茶強いよ。カッコいいし。大好き。俺がよわよわすぎるからヴィデロさんを不安にさせちゃうんだよね。俺ももっと筋肉ムキムキでヴィデロさんに負けないくらい剣とか使えてめちゃ強かったらヴィデロさんをそこまで心配させることなかったのに。今度課金して筋肉ムキムキのアバターにしようかな……」



 かなり本気で考えていると、ヴィデロさんの身体が震えた。

 震え具合からして、笑ってるみたいだった。



「マックの顔で俺みたいな身体っていうのは違和感しかない……」

「きっとすぐ見慣れるよ」

「俺は、この大きさのマックが一番好きだけど……ガタイのいいマック……見慣れる、と、いいな……」



 声まで震えている。

 そんなにおかしなこと言った覚えはないのになあ。

 首を捻っていると、ぎゅうぎゅうに抱きしめられたまま、おでこにキスされた。



「マックは強いよ。魔大陸の状態を見ても魔王をブッ倒すなんて言えるマックは、最強だ。見た目が可愛くても、中身は強い。だからこそ、その命を大事にして欲しいと思うし、たとえ離れても、マックが元気に楽しく生きていると思えば俺はそれだけで幸せだと思うよ」

「俺はそれじゃ幸せじゃない。俺、結構心狭いんだよ。ヴィデロさんが離れた世界で俺以外の人と幸せになるなんて想像するだけでムキーってなる、気がする」

「……それはないから。俺の心は、一生マックのものだ」

「だったらなおさら。俺はヴィデロさんと離れたら辛いよ。そして、ヴィデロさんが幸せだって思わないと、俺だって幸せになんてなれっこないから。諦めて俺を待ってて」



 さっきの言葉を訂正させようと躍起になる俺に、ヴィデロさんは小さくため息を吐いた。

 きっとずっと沢山考えて考えて言葉を口に出したのはわかる。

 わかりはするけど、だからってそれを納得する気はないよ。

 だって、俺の心だってもう一生ヴィデロさんのものだから。

 それにね、俺の所とここは、ジャル・ガーさんの所にある魔素とかなんかで繋がってるから俺もこうして来れるんだよ。

 でも、何かの要因でそれが途切れたら二度と会えないんだよ。そんなのやだ。だから、来れるんだったらそのチャンスを逃しちゃダメなんだ。そうじゃないと、ずっと一緒にいるなんてできないから。



「だからさ、ヴィデロさんは諦めてここで待っててくれない?」

「待つのは……好きじゃないんだ」



 胸元に頭を押し付けられてしまって、ヴィデロさんがどんな顔をしているのかはわからない。

 きっとアリッサさんがいなくなってから、お父さんの看病をしながらずっと帰って来るのを待ってたんじゃないかな、って思う。

 だからこその今の言葉。

 俺、ヴィデロさんに酷いことをしてるのかな。

 俺が来るまで待ってて、とか。魔王を倒してくるのをここで待ってて、とか。

 待たせてばっかりだ。

 それでも、それ以外はヴィデロさんを失うことになりそうで。



 押し付けられた胸元に頬をぐりぐりすると、ようやくヴィデロさんの腕の力が抜けた。



「ヴィデロさん大好き」

「俺も、マックを愛してる」



 だからこそ、お互いが傷つく言葉を言っちゃうんだっていう矛盾が辛い。

 緩んだ腕の中でもぞもぞと身体を動かして、ヴィデロさんにキスすると、更に深いキスが返された。

 ヴィデロさんの手のひらが優しく背中を撫でるので、俺もお返しにヴィデロさんの腰をなぞる。

 こうやって愛し合えるのが嬉しい。

 離れてる時間が愛を育てるなんて、誰が言ったんだろう。育てるのは、愛なんかじゃない他の感情だと思う。

 逢いたいって思う切ない気持ちとか、会えない辛い気持ちとか、会わない間何してるんだろうっていう懐疑心、とかそういうの。積み重なって、愛情って潰れていく気がする。だから、一緒にいた方が絶対にいいんだよ。



 キスをしながら腰からお尻にかけての筋肉を堪能していると、ヴィデロさんの手の動きも少しずつドキドキする物に変わっていった。

 舌を絡めながら、インナーの下に手を入れて、直に肌を堪能する。



「ん……ふ、んん」



 直に愛撫されるお尻が気持ちいい。

 服の中に手を入れて撫でるヴィデロさんの肌もすごく気持ちいい。

 ちょっとインナーを持ち上げて腹筋に手のひらを這わすと、ヴィデロさんの手は俺のズボンを下げた。





 ヴィデロさんの指に絡みつく潤滑香油がやらしい音を出している。

 それに煽られるようにキスも激しくなって、俺の手はヴィデロさんの肌を堪能するどころじゃなくなっていく。

 指が刺激するたび腰が跳ねて、ヴィデロさんの背中に縋りつくことしかできなくなる。

 自分の声じゃないような声がひっきりなしに漏れて、お互いのブツが擦れ合うのがヤバい。



「あ、あぁ……っ、も、解れたから……っ」



 ゆっくりした手つきで俺の中を解すヴィデロさんに、早く欲しくて訴えると、ヴィデロさんは垂れる唾液を舌で舐めとりながらゆっくりと指を抜いた。

 そして、熱くなったヴィデロさんのヴィデロさんを押し当てる。

 なんかもうそれだけで下腹部がギュウっとなった。

 背中に回した手につい力を入れるのと同時に、熱が身体の中に挿ってくる。



「あああぁ……」



 身体の中に熱を感じると同時に二人の腹を汚した俺に、ヴィデロさんが満足そうに眼を細めた。



「気持ちいい……」



 吐息の様なヴィデロさんの囁きが、更に気持ちを高ぶらせる。

 俺も、俺もイく、と喘ぐように伝えると、ヴィデロさんは少しだけ眉を寄せて、色っぽい吐息を零すと、動き始めた。

 奥を突かれるたびに口から零れる声は、重ねられた唇の中に吸い取られていく。



「マック……手を繋いで、いいか……?」



 ヴィデロさんのお願いに、背中に回していた腕を離すと、指を絡められ、恋人繋ぎでベッドに腕を縫い付けられる。

 お互いの絡み合う手が、離れないって言ってるみたいでなんだか胸がジンとする。

 ヴィデロさんもそう思ったのか、段々と俺を求める動きが早急になっていく。

 気持ちいい。身体の奥も、重ねられた唇も、絡む舌も、繋がり合う手も。全部気持ちいい。

 高ぶる気持ちを堪能しながら、身体の奥に感じる熱と共に、俺も熱を吐き出した。



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