これは報われない恋だ。

朝陽天満

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565、獣人の村で

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「ただし、口出しは厳禁な」

「わかった」



 頷いたヴィデロさんの背中をポンポンと叩くと、ヴィルさんは俺に「さ、行こうか」と声をかけて来た。

 躊躇いがちにヴィデロさんに手を伸ばすと、ヴィデロさんがその手をギュッと握りしめて来た。そして、ふわっと笑った。その顔はまるで、「大丈夫」って言ってるみたいで、なんだか胸が締め付けられる。





 二人を連れてジャル・ガーさんの所に跳ぶと、そこには分厚い封筒が数個落ちていた。



「無事届いてたな」



 ヴィルさんが封筒の中身を確認するように中を見ていると、ケインさんが現れた。



「ジャル様が侵入者がいるって言ってたから、お前らだろって当たりを付けて迎えに来たよ」

「それは助かる。これを見てもらいたかったんだ」



 そう言うとヴィルさんは早速ケインさんにくっついた。

 俺たちもくっつくと、ケインさんはすぐに村に跳んでくれた。





 オランさんの家で、ヴィルさんが封筒の中身を取り出す。

 そこには、写真が何枚も入っていた。



「これは……」

「すげえな。鮮明に写ってる。なんて魔道具だ?」



 守護者たちが手に取って、目を丸くしたり感嘆の声を上げたりする中、オランさんが廃村らしきものが写った写真を手に取って、表情を険しくした。

 写っているのは、黒い空と、灰色の地面、焼けたような色をした草と木。そして、地面からたつ蜃気楼の様なもやもや。

 独特な雰囲気を持った風景が切り取られて、写真に納まっていた。



「鳥を魔大陸に送って、どこに出るか、それと状態異常にはなるか、体力は減るか、周りの状態はどうなっているのかを見てみた。その結果がこれだ」



 更に手に持っていた封筒から分厚い紙を取り出して、それも見せる。

 俺も覗き込んでみると、色んな数字とグラフが印刷されていた。

 アキちゃん鳥のHP移行グラフを見ると、分単位で下降を辿っていて、およそ3分後にはHPが0になっている。最初のHPが100くらいなところを見ると、魔大陸はいるだけで1分に30くらいHPが減るってことか。地味に痛い。

 ヴィデロさんも一枚の写真を手に取って、じっとそれを見ていた。



「この写真の場所がどこか特定できるなら教えて欲しい」



 ヴィルさんはそう言うと、封筒から魔大陸の地図を凝縮した紙を取り出して、手にペンを持った。



「これは、この辺だ」



 オランさんがスッと地図の北西の方を指さす。

 ヴィルさんは指さされた場所をすぐにチェックした。



「ここは俺が生まれ育った村があった場所だ。山麓に位置し、人族の街とそう遠くない国の境目だ」

「ありがとう。ということは、魔大陸に行く場合、ここに出るということか。ちなみに、魔王が発生した場所はここでいいのか?」



 ヴィルさんが中央の大きな国を指さすと、4人は一斉に頷いた。



「そうか、あの丘に眠る者は、ここに帰りたかったということか……」



 ヴィルさんがポツリと呟く。

 その言葉に、オランさんの喉がグル……と鳴った。



「ここに住んでいる時はとても、とても……幸せだったからな……」



 その日々を思い出すかのように、オランさんは目を閉じた。隣に座っていたジャル・ガーさんがオランさんの肩に腕を乗せる。



「もう魂が輪廻の輪に戻ったからこそ、ここに行けるようになったんじゃねえのかよ。マックがなんかかっこいいこと考えてくれてよ。皆が楽しくなるような文章を刻んでくれたんじゃねえのか」

「そうだな……すべてをマックに委ねたんだったな」



 目を開いたオランさんは、横に避けていたグラスを持つと、ジャル・ガーさんの手のグラスにキン、とぶつけた。



「あの石碑の文章はマックから聞いてないのか?」



 ヴィルさんが不思議そうに首を傾げる。

 教えてないよ。あの文章で本当によかったのか、未だに疑問だから。

 オランさんも訊いて来ないから、自分から言い出すのもなんかタイミングがつかめなくて。



「あれは全て、マックに託した。それが全てだからな」



 グラスを傾げて酒を舐めながら、オランさんが呟く。だからこそ、結果を訊かない、ということらしい。

 すべてを任されちゃったからこそ、結構悩んだんだよ。

 一応クエストクリアしたから、合格ラインだったとは思うけど。

 ちょっとだけドキドキしながら目の前の写真を見ていると、ヴィルさんが封筒の中から写真を一枚取り出して、オランさんに渡した。



「魂よ 愛しき者の元へ還れ 身体は故郷に寄り添い、魂は愛しい者に寄り添え」



 オランさんの口が、墓碑に刻んだ文字を読む。

 「く……」セイレンさんの口からも声が洩れ、モロウさんが盛大に息を吐いている。

 だめ……だったかな。オランさんみたいな、本当に皆を想うとても綺麗な文章が浮かばなくて。

 ドキドキしながら固まっていると、オランさんの目からつつつ……と涙がこぼれた。 



「この上ない言葉だ……マックよ、心からの感謝を贈らせて欲しい……」



 涙をぬぐうこともせず、オランさんが深々と俺に向かって頭を下げる。



「俺はただ、頼まれたことをしただけで」

「でもよマック。俺らのことをちゃんと考えてくれてなけりゃ、こんな言葉は紡げねえよ」



 戸惑いながら答えると、ジャル・ガーさんがニヤリと笑いながら肩を竦めた。



「これで、イメルダとフィアの魂も縛られることがなくなった。私も是非礼を言わせてくれ。本当に、ありがとう」



 セイレンさんも涙を流しながら俺に頭を下げる。もしかして、セイレンさんの奥さんもあのお墓に眠ってたのかな。訊けないけど。 

 セイレンさんのお礼を受け止めながらホッとしていると、椅子の後ろからがしっと羽交い絞めにされた。

 思わず「うわ!」と声を上げてしまうけど、顔に当たるのはモフモフの腕。

 ちらりと見上げると、モロウさんの顔が間近にあった。

 羽交い絞めのまま頭をぐりぐりと撫でられる。



「マックお前よ、お前ほんと、やべえすげえな!」



 いつの間に後ろに回ってたんだ? なんて考える間もなく、ぐりぐりと頭を撫でまわされて目が回る。



「西の守護者、マックが辛そうだから手を放してくれ」



 ヴィデロさんの助け舟で解放されたけど、グリグリされた頭は鳥の巣の様に凄いことになって、泣いていた二人も俺の頭を見て笑顔を浮かべた。

 俺を解放したモロウさんは、鼻歌を歌いながら自分の椅子に戻り、「乾杯だ!」と新しいお酒を開けてそのまま瓶を高らかと上げた。







 魔大陸情報を仕入れる時は、ヴィデロさんはじっと黙ってテーブルの上の資料を見ていて、ヴィルさんが最初に言った通り、口出しすることはなかった。

 今回わかったことと言えば、あの転移魔法陣から跳べるのは、北の方の国境近くの村であること。そして、いるだけでHPが減ること。死に戻りすると、リスポーン地点がその村であること。まだ道は残っていること。出発地点が魔王がいる場所から徒歩の旅で10日程かかる場所だということ。でもこの日数は獣人の足なので、人族が行く場合はもう少しかかるかもしれないということ。魔大陸からこっちに帰ってくる方法はまだわからないということ。

 ヴィルさんはそう言ったもろもろの情報を全て印刷された地図の上に書き込んだ。出来上がっていた布の地図は今回一度も出してない。

 もしかしたら魔法陣が向こうに固定されて、それに乗ればこっちに帰ってこれるかもしれない、なんて思ってたけど、それだと魔物とかまで魔法陣からあの洞窟に跳んできちゃうよな、と思うと、残ってなくてよかった、なんて思ったりして。でもそうなると帰ってくる方法が現状ない、ってこと。アキちゃん鳥はリスポーン場所からそんなに離れられなかったらしく、すでに身体を消滅させてるらしい。今度はもう少し基礎体力の多い何かを使うらしい。

 帰ってこれる算段が付けば、マックが言っていたプレイヤーたちの魔物蹂躙も出来なくないんだろうけどな、なんてヴィルさんが呟いてたのを聞いてしまって、一緒になって残念だなと肩を下げた。



 事細かに文字の書き込まれた地図を手に、俺たちはトレに帰ってきた。

 今日は守護者たち4人は昔を懐かしんで酒盛りをするらしい。

 魔大陸の写真はヴィルさんのインベントリの中。こっちに送っちゃったからもう写真は「unknown」としてインベントリに収納らしい。向こうから送ってきたこっちの世界にとっての異物は、アンノウン扱いだとか。インベントリにはしまったことなかったから品物の名前がどう表示されるのかは気にしてなかったよ。

 ちょっとだけ時間を貰ってヴィデロさんにご飯を出すと、俺とヴィルさんはログアウトした。

 佐久間さんが不満顔でお弁当を食べていたのが笑いを誘う。俺たちの弁当も注文してたらしく、キッチンの方のテーブルに重なっていた。



「まだまだ色々と手に付かないことが多くて困るな」

「すぐにささっと出来たらそれは奇跡ですよ」

「健吾は案外それをささっとやっちゃってる気がするけどな」

「そんなことないです」



 弁当を食べながら言われた言葉に反論すると、ヴィルさんは肩をすくめて、苦笑した。

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