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559、長光さんもクエストもらってたらしい
しおりを挟む「では、原石10キロのお代は、黒曜石の剣一振りでお願いできますでしょうか」
「黒曜石の剣ですか。わかりました。今ちょうど手持ちのがあるので、それでも大丈夫ですか?」
「見せていただけますか」
レガロさんの言葉に頷くと、長光さんは懐から一振りの剣を取り出した。
細さは丁度ティソナドスカラスくらいの細さで、そんなに長くない剣だった。
鞘に彫られた装飾が今まで見たことないくらいに綺麗で、芸術品と言っても遜色ない出来栄えの剣だった。でもきっと長光さんが打った剣ってことは実用的な剣なんだよな。
剣に魅入られるように凝視していると、レガロさんは恭しくそれを受け取って、剣を鞘から抜いた。
剣の表面には、何か紋様の様なものが薄っすら彫られていて、それがまた息を呑むほどに綺麗だった。
「合成したから純粋な黒曜石ではないんですが。耐久値と切れ味は折り紙付きです」
「これは……想像以上に素晴らしい物が出てきてしまいました……これを頂いてしまったら過剰料金になってしまいます」
手に剣を持ったまま、レガロさんはムムムと考え込んだ。
「それで過剰ってんだったら、俺が打った剣は全て過剰料金になるんで、出来ればそれで収めて欲しいです」
「それは素晴らしい腕なのですね。わかりました。では、これに釣り合う物を追加でお渡しさせてください」
レガロさんは剣をカウンターの裏に持って行くと、そのまま奥に行ってしまった。
俺の時もそう言われたんだよな。過剰料金だって。それでドイリーなんてすごい物を貰ってしまったんだよ。
今回は何を出してくるのかな、なんてちょっとワクワクしていると、レガロさんは一抱えの岩を持ってきた。
「こちらが『クリゾリートの原石』10キロになります。在庫が少なくて申し訳ありません」
「これだけあったら大分加工できるので大丈夫です。ありがとうございます」
長光さんが嬉しそうに岩を受け取ると、レガロさんは「それと」と胸元のポケットからハンカチに包まれた物を取り出した。
ハンカチを丁寧に開くと、中から一つの宝石が出てきた。まるで岩の裂け目がそのまま宝石にプリントされたかのような模様がとても目を引く。元の色は薄いオレンジ色をしていて、層になっていた。綺麗な宝石だった。
「『サーペンティン』と言います。『爆炎蛇』という魔物からごくまれにドロップする宝石です。が、これを使いこなすのが難しく、職人からは特に嫌われています。何せ独自の魔素を纏っていて、武器及び防具に加工すると失敗率が高いので。お客様はこれを取り扱ったことはおありでしょうか」
「『蛇紋石』……これは珍しい色だが、この世界にもあるのか……ってか魔物のドロップ品とか。取り扱ったことはありません。が……確かに気難しそうだ。でも、とても綺麗に模様が入ってますね」
「ええ。本当に気難しくて、自らの手で壊すよりはと手放す方が多いのですよ。是非お客様の力でこの宝石の力を最大限に活かしてもらえるととても嬉しいです」
「ありがとうございます」
ハンカチごと渡された長光さんは、それをじっと見て、少しだけ顔を綻ばすと、丁寧に包み直して懐にしまった。
長光さん作の黒曜石の剣は早速店に飾られることになった。
なんか、前に見たアーティファクトの魔剣並の存在感がある。でも、欲しいとは思わないのは、この店の売り物だからか。この店では本当に必要だと思うもの以外は買えないから。
「他に欲しい物はございませんか? 隅々まで物色することをお奨めします」
レガロさんに促され、長光さんは頷いて移動開始した。
そんなことを言われるってことはきっと長光さんが買わないといけない物があるんだろうな。
気になるけど店の中でまでぞろぞろついて歩くのは迷惑になるしゆっくり商品を見て回れないだろうから、と俺は俺で自分の買い物をすることにした。
ということで、『耐久値上昇薬』用素材をたんまり買うことにした。
「レガロさん。素材ください」
「はい、お買い上げありがとうございます。マック君も、なかなか順調にその子を育てているのですね」
レガロさんはカウンターで素材を取り出しながら、俺の腰に視線を落とした。
「はい。効率がいい育て方がわかったので。この剣、すごく聖魔法と相性が良くて。聖魔法と組み合わせて魔法を使えば経験値が溜まるんですよ」
「なるほど。良い育て方ですね。まだまだ育ちますから、可愛がってあげてください」
「はい!」
素材の値段を払って受け取った物をしまいながら、笑顔で返事をする。
レガロさんはそんな俺を笑顔で見下ろして、ふふ、と声を出して笑った。
「正直、ここまで歯車が噛み合うとは少し前までは思いもしませんでした。全てが偶然であり、必然。そして、努力と、色々な物を掴み取る力。一つ欠けても歯車は円滑に回らない物です。下手すると、端から端まで動力が伝わらなかったりするというのに。それもこれも、マック君が変わらずまっすぐでいて下さるからです。変わらずに、その気持ちを大切にしてください。何があろうとも」
最後の一言が、胸にズン、と重く響いた。レガロさんはこの先何かが起こるのをわかっているのかな。そして、そのことでもしかしたら俺の気持ちが変わるかもしれない、って言ってるのかな。
何だろう。
ふと、前に少しだけ感じた不安が頭をもたげる。
何が起きるって言うんだろう。それは、俺が手に入れた魔大陸の地図と何かかかわりがあったりする、とか?
俺はレガロさんを見上げて、何か一つでもヒントを貰おうと口を開きかけた。瞬間、長光さんの声が響く。
「これ……! 幻の配合図鑑……! 何でこんなところに!」
何かを訊こうとした思考がその声に霧散する。
レガロさんはくるっと身を翻して、長光さんの方に行ってしまった。
訊きそびれた質問を訊けるような状況は、もうその日に訪れることはなかった。
一度辺境に戻って、そこから解散、という流れになった俺たちは、呪術屋を出るとユイの転移魔法陣で辺境に跳んだ。
「長光、さっき貰ってた宝石ってどんなやつなんだ?」
「ああ『蛇紋石』な。あれ、鉱石加工スキル143の俺でも加工成功率28%っていう難物。でも加工に成功すると、炎の魔力を溜められて、魔法剣に出来る代物だ。ちなみに鎧に付属するよう加工する場合更に成功率が下がるっていうドS仕様の宝石だな。腕が鳴るぜ」
「加工するのか?」
「ああ。クエスト貰っちまったし。加工に成功したら他の店主さんが持ってる難物の鉱石加工依頼が貰えるっていう多分連続クエストだ」
長光さんは、楽しみで仕方ないとでもいうようにニヤリと笑った。
「今日はありがとうございました」
お墓のことの礼を言うと、長光さんはいや、と首を振った。
「なかなか興味深かったぜ。こっちこそ誘ってくれてサンキュ」
「ユキヒラも。魔物を蹴散らしてくれてありがとう」
「あれくらいならマックだって蹴散らせただろ」
「すっごく楽できた」
「楽すんな」
そう言いつつ、お互い拳を合わせる。
ユキヒラはギルドの魔法陣でセィに帰るらしく、そこで解散していった。
長光さんも工房に戻るということで、同じ場所で別れる。
残った俺たちも、解散、という流れで、ブレイブが待ったをかけた。
「俺、マックが残りの端切れ布を地図にするところ見たいんだけど」
「え、でも俺手持ちのやつ全部使っちゃったよ。もう一回入る?」
工房で洗ったものまで混ぜちゃったから、俺たちが持ってる全ての端切れは地図になってるはず、と首を傾げると、ブレイブは首を横に振った。
「もう一回入っても、もうあそこの魔物は端切れを持ってない気がするんだ。だって向こうの大陸から来た人たちの魂は解放しちゃっただろ。だから、持ってる奴から集める。幸い、辺境にはあのダンジョンに挑んでるプレイヤーがかなりいるからな」
ブレイブはそう言って、指を動かし始めた。
「マック、もう少し付き合ってくれないか。そうだな……ギルドがいいか」
「時間は大丈夫だけど。ギルドって」
「端切れを持ってる奴らに声を掛けて、集まってもらうにはギルドが一番だと思って、掲示板フル活用。『アイテム募集掲示板』『ダンジョン攻略掲示板』あとは『薬師マック掲示板』辺りかな」
呟きながらブレイブの指は引っ切り無しに動いている。
そこで海里がポツリと呟いた。
「薬師マック掲示板、本人が書き込んだらどれくらい反響あるかな」
「かなりお祭りになるんじゃないか?」
二人は顔を見合わせて、にっこりと笑った。
え、待って。
俺、掲示板って見る専なんだけど。
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