これは報われない恋だ。

朝陽天満

文字の大きさ
上 下
562 / 830

559、長光さんもクエストもらってたらしい

しおりを挟む

「では、原石10キロのお代は、黒曜石の剣一振りでお願いできますでしょうか」

「黒曜石の剣ですか。わかりました。今ちょうど手持ちのがあるので、それでも大丈夫ですか?」

「見せていただけますか」



 レガロさんの言葉に頷くと、長光さんは懐から一振りの剣を取り出した。

 細さは丁度ティソナドスカラスくらいの細さで、そんなに長くない剣だった。

 鞘に彫られた装飾が今まで見たことないくらいに綺麗で、芸術品と言っても遜色ない出来栄えの剣だった。でもきっと長光さんが打った剣ってことは実用的な剣なんだよな。

 剣に魅入られるように凝視していると、レガロさんは恭しくそれを受け取って、剣を鞘から抜いた。

 剣の表面には、何か紋様の様なものが薄っすら彫られていて、それがまた息を呑むほどに綺麗だった。



「合成したから純粋な黒曜石ではないんですが。耐久値と切れ味は折り紙付きです」

「これは……想像以上に素晴らしい物が出てきてしまいました……これを頂いてしまったら過剰料金になってしまいます」



 手に剣を持ったまま、レガロさんはムムムと考え込んだ。



「それで過剰ってんだったら、俺が打った剣は全て過剰料金になるんで、出来ればそれで収めて欲しいです」

「それは素晴らしい腕なのですね。わかりました。では、これに釣り合う物を追加でお渡しさせてください」



 レガロさんは剣をカウンターの裏に持って行くと、そのまま奥に行ってしまった。

 俺の時もそう言われたんだよな。過剰料金だって。それでドイリーなんてすごい物を貰ってしまったんだよ。

 今回は何を出してくるのかな、なんてちょっとワクワクしていると、レガロさんは一抱えの岩を持ってきた。



「こちらが『クリゾリートの原石』10キロになります。在庫が少なくて申し訳ありません」

「これだけあったら大分加工できるので大丈夫です。ありがとうございます」



 長光さんが嬉しそうに岩を受け取ると、レガロさんは「それと」と胸元のポケットからハンカチに包まれた物を取り出した。

 ハンカチを丁寧に開くと、中から一つの宝石が出てきた。まるで岩の裂け目がそのまま宝石にプリントされたかのような模様がとても目を引く。元の色は薄いオレンジ色をしていて、層になっていた。綺麗な宝石だった。



「『サーペンティン』と言います。『爆炎蛇ブレイズサーペント』という魔物からごくまれにドロップする宝石です。が、これを使いこなすのが難しく、職人からは特に嫌われています。何せ独自の魔素を纏っていて、武器及び防具に加工すると失敗率が高いので。お客様はこれを取り扱ったことはおありでしょうか」

「『蛇紋石』……これは珍しい色だが、この世界にもあるのか……ってか魔物のドロップ品とか。取り扱ったことはありません。が……確かに気難しそうだ。でも、とても綺麗に模様が入ってますね」

「ええ。本当に気難しくて、自らの手で壊すよりはと手放す方が多いのですよ。是非お客様の力でこの宝石の力を最大限に活かしてもらえるととても嬉しいです」

「ありがとうございます」



 ハンカチごと渡された長光さんは、それをじっと見て、少しだけ顔を綻ばすと、丁寧に包み直して懐にしまった。

 長光さん作の黒曜石の剣は早速店に飾られることになった。

 なんか、前に見たアーティファクトの魔剣並の存在感がある。でも、欲しいとは思わないのは、この店の売り物だからか。この店では本当に必要だと思うもの以外は買えないから。



「他に欲しい物はございませんか? 隅々まで物色することをお奨めします」



 レガロさんに促され、長光さんは頷いて移動開始した。

 そんなことを言われるってことはきっと長光さんが買わないといけない物があるんだろうな。

 気になるけど店の中でまでぞろぞろついて歩くのは迷惑になるしゆっくり商品を見て回れないだろうから、と俺は俺で自分の買い物をすることにした。

 ということで、『耐久値上昇薬ディフェンサーポーション』用素材をたんまり買うことにした。



「レガロさん。素材ください」

「はい、お買い上げありがとうございます。マック君も、なかなか順調にその子を育てているのですね」



 レガロさんはカウンターで素材を取り出しながら、俺の腰に視線を落とした。



「はい。効率がいい育て方がわかったので。この剣、すごく聖魔法と相性が良くて。聖魔法と組み合わせて魔法を使えば経験値が溜まるんですよ」

「なるほど。良い育て方ですね。まだまだ育ちますから、可愛がってあげてください」

「はい!」



 素材の値段を払って受け取った物をしまいながら、笑顔で返事をする。

 レガロさんはそんな俺を笑顔で見下ろして、ふふ、と声を出して笑った。



「正直、ここまで歯車が噛み合うとは少し前までは思いもしませんでした。全てが偶然であり、必然。そして、努力と、色々な物を掴み取る力。一つ欠けても歯車は円滑に回らない物です。下手すると、端から端まで動力が伝わらなかったりするというのに。それもこれも、マック君が変わらずまっすぐでいて下さるからです。変わらずに、その気持ちを大切にしてください。何があろうとも」



 最後の一言が、胸にズン、と重く響いた。レガロさんはこの先何かが起こるのをわかっているのかな。そして、そのことでもしかしたら俺の気持ちが変わるかもしれない、って言ってるのかな。

 何だろう。

 ふと、前に少しだけ感じた不安が頭をもたげる。

 何が起きるって言うんだろう。それは、俺が手に入れた魔大陸の地図と何かかかわりがあったりする、とか?

 俺はレガロさんを見上げて、何か一つでもヒントを貰おうと口を開きかけた。瞬間、長光さんの声が響く。



「これ……! 幻の配合図鑑……! 何でこんなところに!」



 何かを訊こうとした思考がその声に霧散する。

 レガロさんはくるっと身を翻して、長光さんの方に行ってしまった。

 訊きそびれた質問を訊けるような状況は、もうその日に訪れることはなかった。







 一度辺境に戻って、そこから解散、という流れになった俺たちは、呪術屋を出るとユイの転移魔法陣で辺境に跳んだ。



「長光、さっき貰ってた宝石ってどんなやつなんだ?」

「ああ『蛇紋石』な。あれ、鉱石加工スキル143の俺でも加工成功率28%っていう難物。でも加工に成功すると、炎の魔力を溜められて、魔法剣に出来る代物だ。ちなみに鎧に付属するよう加工する場合更に成功率が下がるっていうドS仕様の宝石だな。腕が鳴るぜ」

「加工するのか?」

「ああ。クエスト貰っちまったし。加工に成功したら他の店主さんが持ってる難物の鉱石加工依頼が貰えるっていう多分連続クエストだ」



 長光さんは、楽しみで仕方ないとでもいうようにニヤリと笑った。



「今日はありがとうございました」



 お墓のことの礼を言うと、長光さんはいや、と首を振った。



「なかなか興味深かったぜ。こっちこそ誘ってくれてサンキュ」

「ユキヒラも。魔物を蹴散らしてくれてありがとう」

「あれくらいならマックだって蹴散らせただろ」

「すっごく楽できた」

「楽すんな」



 そう言いつつ、お互い拳を合わせる。

 ユキヒラはギルドの魔法陣でセィに帰るらしく、そこで解散していった。

 長光さんも工房に戻るということで、同じ場所で別れる。

 残った俺たちも、解散、という流れで、ブレイブが待ったをかけた。



「俺、マックが残りの端切れ布を地図にするところ見たいんだけど」

「え、でも俺手持ちのやつ全部使っちゃったよ。もう一回入る?」



 工房で洗ったものまで混ぜちゃったから、俺たちが持ってる全ての端切れは地図になってるはず、と首を傾げると、ブレイブは首を横に振った。



「もう一回入っても、もうあそこの魔物は端切れを持ってない気がするんだ。だって向こうの大陸から来た人たちの魂は解放しちゃっただろ。だから、持ってる奴から集める。幸い、辺境にはあのダンジョンに挑んでるプレイヤーがかなりいるからな」



 ブレイブはそう言って、指を動かし始めた。



「マック、もう少し付き合ってくれないか。そうだな……ギルドがいいか」

「時間は大丈夫だけど。ギルドって」

「端切れを持ってる奴らに声を掛けて、集まってもらうにはギルドが一番だと思って、掲示板フル活用。『アイテム募集掲示板』『ダンジョン攻略掲示板』あとは『薬師マック掲示板』辺りかな」



 呟きながらブレイブの指は引っ切り無しに動いている。

 そこで海里がポツリと呟いた。



「薬師マック掲示板、本人が書き込んだらどれくらい反響あるかな」

「かなりお祭りになるんじゃないか?」



 二人は顔を見合わせて、にっこりと笑った。

 え、待って。

 俺、掲示板って見る専なんだけど。



しおりを挟む
感想 508

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~

柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」  テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。  この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。  誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。  しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。  その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。  だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。 「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」 「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」  これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語 2月28日HOTランキング9位! 3月1日HOTランキング6位! 本当にありがとうございます!

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

学園の俺様と、辺境地の僕

そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ? 【全12話になります。よろしくお願いします。】

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

処理中です...