560 / 830
557、追憶の地の標
しおりを挟む「なるほど『追憶の詳細』ね」
感心したように長光さんが呟いて、皆が地図を覗き込む。
「マック、今何枚使った?」
「わからないけど、多分150枚くらいだと思う。残り端切れ数枚だし」
「ってことは全部の地図が揃うのは何枚くらいでだと思う?」
「だいたい400くらい?」
「今何枚持ってる?」
「汚い布はまだ200くらいあるよ。さっきプレイヤーさんたちにもらったから」
「よし、全部キレイにするぞ」
雄太に出せ、と言われて、つい勢いで全部出す。さっきよりもカオスな山になってる。布がハンカチにも満たないような小さい物でほんとよかった。これ、一枚タオルくらいあったら恐ろしい山になってたよ絶対。
あとは工房に綺麗にした端切れがやっぱり数十枚くらいあったから、それも混ぜるとかなりの地図になるんじゃないだろうか。
雄太と一緒にワクワクしながらMPを回復して魔法陣を描く。
さっきよりも多い布を洗うためにひたすら祈りを唱えて、何とか布を白くする。さすがに息切れしそう。
下まで綺麗になると、またしても布が光ってひと塊になった。さっきの大きくなった布が、更に大きくなった。
「右上がないくらいか。大分地図っぽくなったな」
長光さんが感心したように呟く。
確かに。
グランデに掛かる辺りの右上部分が欠けているだけで、あとはほぼ地図が埋まっていた。そしてようやくわかった。布に描かれていた模様のようなもの。それは地形を表すものだったようだ。
地図を見ると、どこが山だったのか、どこが湖だったのか、それがわかるし、しっかりと国と国との間に境界線が描かれている。
「広かったんだな、この世界」
ユキヒラが地図を見て唸る。
そうだね。全体を見るとグランデは小さいよね。国としての土地は大きいけど、島国だよね。実際、島国だったからこそ魔の手から逃れることが出来たっていうことだろ。今は段々と侵食されて来てるみたいだけど。そうじゃなかったら壁なんか出来ないから。
「ってことはだ。もしかして、そのうち俺らもこっちの大陸に行くことが出来るってことか。すげえな。これ、メインストーリーじゃねえだろ。ADOってストーリーとか設定してないもんな」
朗らかに言う長光さんの言葉に、俺と雄太とユキヒラは顔を合わせた。
ユイたちにはどう説明してるのかわからないけど、雄太にはもう、ここはゲーム世界じゃないってことは伝えている。ユキヒラも、立場上、知ってる。
だからこそ、長光さんの言葉に何も言えない。ちょっとだけ苦い物が胸に込み上げてくるのは気のせい気のせい。
「まあ、俺たちは行くよな、大陸」
雄太がニヤリと笑って長光さんにそう返した。
「クエストでも貰ったのか?」
「ああ。勇者クエストだ。マックも似たようなもんで賢者クエスト貰ってるから行くんじゃねえ?」
「俺も刻の輔翼者クエストで行くことになると思う」
ユキヒラも便乗するようにそう言うと、長光さんが驚いたように目を見開いた。
「すげえなあお前ら。俺、細かいクエストは色々入ってくるけど、そういうデカいクエストってあんまり入ったことねえんだよな。どうすりゃそういうクエスト舞い込んでくるんだ?」
「仲良くなることが第一条件。長光はどっちかって言うと鍛冶のおっちゃんとか職人たちと仲良くなってるだろ。だからそっちの依頼が来るんだよ」
「なるほどなあ。高橋君たちは勇者の弟子してるしな。どうやって弟子になったか、ってのは秘密なんだろ?」
俺もメインに食い込んでみてえ、なんて呟く長光さんに、ユキヒラが呆れたような顔を向ける。
「別に内緒ではないんだけど、皆同じ道筋で勇者の弟子になれるかって言うとそれは疑問よね」
「うん。私たちはほんとに訳わからないまま勇者の弟子になっちゃったからね」
「もとを正せば、クワットロの雑貨屋からじゃなかったか?」
「そうだっけ」
雄太たちの会話に、長光さんの目がキラリと光る。
クワットロの雑貨屋に食いついたみたいだった。
まあ、そうだよね。あそこに刻の輔翼者がいるからね。店主さんやってるからね。でも刻の輔翼者なんていう大業な名前が付いてる人がのほほんと店番してるのって、なんかよく考えるとシュールだよな。
それを言ったら英雄の息子が店番してるってのもそれに当て嵌まる気がするけど。クラッシュは根っからの商人だから仕方ないか。
「そこってクワットロのどこら辺にあるんだ?」
「裏通りの、普段じゃ絶対に入れない区域」
「どうしてそんなところに行けるんだ君たちは」
雄太の返答に長光さんは笑いながら突っ込んできた。
それは、ヴィデロさんが案内してくれたからだよ。初めての馬車デートだったんだよ。
思い出して顔がにんまりする。馬車のデートも楽しかった。最近では魔法陣の転移を使って移動してたから、デートって感じじゃなかったんだよね。またゆっくりデートしたいな。
あ、でもお家デートもそれはそれで全然いいけどね!
ヴィデロさんを思い出していると、雄太が俺の頭にチョップした。
「何旦那のことを考えてるんだよ」
「なんでわかるんだよ」
「顔が緩みまくってるんだよ」
「え、マジ!?」
思わずハッと顔を押さえると、周りから笑い声が起きた。仕方ないだろ。ヴィデロさんのことを考えると自然に顔がにやけちゃうんだから。
「とりあえず、クエストはクリアしたわけだし、そろそろここを出るか」
「そうだな。それにしても、このダンジョン、次に入った時にはどうなるんだろうな。ラスボスはさっき成仏したわけだし」
「ここが崩れるわけじゃないし、墓地自体はここにあるんだから、通常通りダンジョンとして機能するんじゃねえ?」
「ちょっと面白いからまた今度来てみるかな」
長光さんとユキヒラが先に進みながらそんなことを話しているのを聞いて、ハッとする。
確かに墓地自体がなくなるわけじゃないし、きっと骨は今もこの下に埋まってるはず。でも、オランさんたちの同胞たちは既にいないんだよな。俺も気になるからまた来てみよう。雄太たちを誘って。
進んでいくと、前の時と同じ文字が壁に描かれていた。
そして、すでにユキヒラと長光さんはいなくなってる。ってことは先に外に出たのかな。
俺たちも追い付こうと足を速め、壁に魔力を込めると、そこに違う文字が浮き上がった。
『追憶の地の標を持つ者 追憶の地の標を開くか否か』
その文字を読んで、ドキッとした。
ええと、待って。
追憶の地の標って……どういうことなんだよ。
「マック? ほら、行くぞ」
立ち止まって呆然としている俺に雄太が声をかける。
いたって通常通りな顔つきに、その文字は俺にしか見えてないんだってことがわかった。
これ、行くって選択したら、もしかして、追憶の地に跳ぶってこと……?
「……高橋」
その文字の見える壁を見据えながら雄太を呼ぶと、雄太は俺に何かがあったんだと瞬時に察して、背中の剣に手を伸ばした。
「どうした」
「目の前に『追憶の地の標を開くか否か』って書かれた文字が見える」
「は?」
雄太も他の仲間たちもハッと視線を俺が見ている方向に向ける。
そして、首を傾げたり、視線を動かしたりして、何かを探す。
「俺たちには見えないが」
もしかして、あの端切れの地図を持ってるからかな、と思って、俺はインベントリから追憶の地の詳細地図を取り出した。
雄太がこれを持ったら、もしかしたら文字が見えるかもしれない。そう思って雄太に持たせてみると。
「うわマジか。ほんとに書かれてる」
なになに、と三人が地図に手を伸ばして、その後驚愕の声を上げる。
地図が標の鍵、なのかな。
「ねえ、行ってみる?」
「帰って来れなくなったらどうする? 死に戻っても転移したところにポータル置かれちゃったらこっちに戻ってこれなくなるけど」
「大陸のどこに出るのかもわからないから、転移魔法陣魔法でも帰ってこれるかわからないのか。これは……行ってみたい気もするけど、ちょっと怖いな」
地図を握ったまま皆が話をしてるのを聞いていた雄太が、一言ポツリと呟く。
「今は行かない」
本来だったら、一番最初に飛び出していきそうな雄太が、険しい顔をしてそう断言した。
「俺はADOをゲームとして楽しみたいんだ。でも、ここから先に行ったら、戻ってこれない気がする。一度時間を置いて冷静になるべきだ。マック」
「何」
雄太は俺をちらりと見下ろして、地図から手を離した。
「今度、ヴィルさん連れてここに来るぞ。都合がいい日を訊いておいてくれ」
「わかった」
「あの人だったら、何かわかるかもしれない。何か気付くかもしれない。ゲームとして、そうじゃなかったとして、あの人に訊くのが一番いい気がする」
雄太はやけに確信をもってそう言った。それはヴィルさんを信頼してるのかな。でも、確かにヴィルさんに訊くのは悪くない気がする。
それにしても、雄太はやっぱり、ちゃんとこの世界がゲームの世界じゃないって、理解してくれてたんだ。そのことがなんだかすごく安心した。
1,000
お気に入りに追加
9,297
あなたにおすすめの小説
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」
授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。
途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。
ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。
駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。
しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。
毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。
翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。
使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった!
一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。
その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。
この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。
次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。
悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。
ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった!
<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18
国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!
古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます!
7/15よりレンタル切り替えとなります。
紙書籍版もよろしくお願いします!
妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。
成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた!
これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。
「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」
「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」
「んもおおおっ!」
どうなる、俺の一人暮らし!
いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど!
※読み直しナッシング書き溜め。
※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます
ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜
名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。
愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に…
「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」
美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。
🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶
応援していただいたみなさまのおかげです。
本当にありがとうございました!
【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので)
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる