555 / 830
552、聖短剣レベルアップ
しおりを挟む「ところでその短剣の経験値はどうなったんだ?」
ブレイブにそう言われて思い出した俺。
最後は聖短剣どころじゃなくなったからなあ。
取り出してみてみると、聖短剣の石が薄く発光していた。
『ルミエールダガールーチェ・アルジェント【49/****(-4)】:闇を吸収変換し、聖を吸収しおのれの力とする聖なる短剣。闇属性以外のものを傷つけると少しずつ力を失っていくので注意が必要。祭典儀式用であり、装備したものは特有の聖魔法『サークルレクイエム』が使えるようになる。状態異常回避率+10%』
「あ、なんかレベルが上がったっぽい。名前にアルジェントってくっついてるし、必要経験値が更に増えた」
「アルジェントってことは、『銀』か。ってことはまたレベルを上げたら次は『金』とかになるのかな」
へえ、アルジェントって銀って意味なんだ。するっとそんな答えが出てくるブレイブに尊敬の眼差しを向ける。
でも次のレベルってなんか必要経験値4桁になってるんだけど。いつになるんだろう。
しかもやっぱり必要経験値は見れないようになってるし。前の必要経験値も結局幾つだったのかわからないままレベルが上がってる。もし前の時の経験値が900とかだったら、今回みたいに聖魔法使いまくりのダンジョンに入ったらすぐ上がるっていう証明になるけど、最大値が300とかだったりしたら、今回のあの聖魔法使いまくりでもトータル100とか200とかしか経験値が入らなかったってことだよな。
そこらへんが曖昧だから聖短剣のレベル上げはわからないことばっかりだ。きっとユキヒラの聖剣は魔物を倒せばサクサク上がるんだろうな。そっちの方が単純明快ですごくいいんだけど。
短剣を腰にしまって溜め息を吐くと、ユイが「きっとマック君なら大抵は大丈夫だよ」と謎の慰めをくれた。
ご飯食ってけよと誘われたけれど、そろそろヴィデロさんの仕事が終わる時間だからと辞退してトレに帰ってきた俺は、山のような汚い布を調薬工房のテーブルに載せて頭を捻っていた。
ほんとに汚い。匂いがないのが不思議なくらい汚い布だらけ。しかも『ホロゴースト』と『ホロギガゴースト』の二種類の端切れ布があった。意味が解らない。出てきたゴーストは全部同じに見えたのにどこに違いがあったのか。
あとはよくわからない『ホロゴーストの影』という名前の黒いボール。中にはやっぱり『ホロギガゴーストの影』というものもあって、それは『ホロゴーストの影』より大きかった。それもゴロゴロとテーブルに転がす。
一応錬金レシピ集を開いて探してみると、中間くらいに影を使った錬金物があったので、影は錬金素材の方に分類することにした。
汚い布のほうは特に載ってなかったので、溜め息を吐きながらレシピをしまう。
「聖水で少しだけ汚れが落ちたんだよな……」
ユイが洗っていたのを思い出して、俺は自分でも一回やってみることにした。
桶を取り出して、その中に聖水をドボドボ入れる。
そこに一枚の端切れ布を浸すと、ふわっと汚れが取れた。それはもうみごとに綺麗にとれた。
「嘘、綺麗になったけど」
もしかして、ユイは市販の聖水を使ったから中途半端に汚れが落ちたのかな。市販は確か上限でランクB程度だった気がするから。
すっかり汚れの落ちた布を聖水から持ち上げて、鑑定眼で見てみると『追憶の端切れ』というアイテム名に変わっていた。
桶の聖水はすっかり汚れの染み込んだどす黒い液体に変わっていたので、一回しか洗濯に使えないらしい。
聖水だったものを捨てて、もう一度聖水を入れる。そして布を浸すと、またしても綺麗に汚れが取れた。
一瞬にして布の色が変わるのがなんだか楽しくなってくる。
聖水を5本ほど使ったところで、ふと二枚一緒に入れてその上から聖水を掛けたらどうなるのか、と思った俺は、早速実験してみることにした。
結果、二枚とも中途半端に汚れが落ちていた。もう一本追加するとようやく綺麗な布になっていた。ってことは、やっぱり一枚に一本なのか。しかもランクSじゃないと最後まで汚れは落ちないとか。贅沢な布だ。
結構な枚数あったので、途中でうんざりしてきた俺は、流しに布を山にして、魔法陣魔法で高濃度魔素の雨を降らせて直接祈ってみることにした。
セイジさんが前に神殿で描いていた雨を降らせる魔法陣を必死で再現して、魔法陣から雨が降り始めると、手を組んで『祈り』を唱える。
すると、汚かった布の山は、白い布の山になっていった。でもこれ、いつまで祝詞を唱え続けてないといけないんだろう。祈りをやめると、降ってる水は普通に魔素が濃いだけの水になっちゃうから、祈り続けてないといけないんだ。まだ下の方は黒いから、もう少しかな、というところで、「ただいま」と玄関が開いた。
俺の祝詞が聞こえたらしいヴィデロさんは、玄関の方を振り返った俺に「続けてて」と声を掛けながらこっちに近付いてきた。
そして後ろから覗き込むように、流しの中で山になっている白い布に目を向ける。
下まで綺麗に白くなったのを確認してから祝詞を止めると、俺はくるっと振り向いて後ろにいるヴィデロさんに抱き着いた。
「おかえりヴィデロさん」
「ただいま、マック。これは、なんなんだ? そっちにある黒い球も」
「ちょっと高橋たちと辺境のダンジョンに行ってきたんだけど、その時の魔物のドロップ品」
俺の返事に、ヴィデロさんは目を瞠った。
そして、俺に怪我がないかを確認するように、背中を撫でる。大丈夫だよ。今日はHPそんなに減らなかったから。まともな一撃はあの壁魔物の突進攻撃だけだし。
「危ない所に行ったんだな」
「でもほぼ聖魔法ですぐに消えていくゴースト系ばっかりだったから。高橋の攻撃が全く効かなくて、俺の独壇場だったよ。ヴィデロさんに見せたかった。俺きっとかっこよかったよ」
「マックはいつでもかっこいいよ。マックが大活躍なんて、見たらまた惚れ直しそうだな。さっきの祈りで惚れ直したけど。でもそんなダンジョンだったら俺が行っても何も出来なそうだな。高橋の攻撃が効かないのか」
「壁の向こう側だから、ヴィデロさんは連れて行けないんだ。でもそこ、すごく沢山の墓地があってさ。一番奥のお墓……オランさんの番さんのお墓かもしれなくて。ってそうだった。ちょっと待って。この布片付けたらご飯にしよう」
素敵な胸筋を名残惜しく思いながらヴィデロさんから離れた俺は、流しに山になっている布を絞り始めた。しっかりと絞ると、聖水も回復薬と同じようにすぐ乾くのが助かる。通常の洗濯もこうであって欲しい。
ヴィデロさんは、俺が布を絞り始めたのを見て、手伝うと言って俺の後ろから手を伸ばして、俺を抱え込むようにして一緒に布を絞った。絞りにくくないのかな、と思ったけど、腕の中にいるのが何とも居心地よくて結局最後までそのまま二人で布を絞る。
でも『追憶の端切れ』って何かに使えるのかな。模様の様なものはどれも少しずつ違っているような気がするけど、断片すぎてよくわからなかった。
インベントリにすべての布をしまい込んだ俺は、キッチンに移動して、作り置いていた物を次々取り出してヴィデロさんの前に出した。
俺もとなりに座って二人で夜ご飯を食べる。
ヴィデロさんの話を聞いたり、俺が今日行ってきたダンジョンの話をしたり、2人の夕食はすごく楽しい。
お腹もいっぱいになって片付けをしていると、隣で皿を拭いていたヴィデロさんが、「これが終わったら行こうか」と微笑んだ。
えっと、どこに? と目をぱちくりさせていると、ヴィデロさんが「その顔可愛い」と不意打ちで額にキスを落とした。
「オランの所に行くんだろ」
「一緒に行ってくれるの……?」
「当たり前だろ。俺を置いてくなよ」
すごくかっこいい笑顔でかっこいい答えをくれたヴィデロさんに、俺はドギャンと胸を打ち抜かれた。好き。
940
お気に入りに追加
9,297
あなたにおすすめの小説
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」
授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。
途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。
ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。
駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。
しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。
毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。
翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。
使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった!
一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。
その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。
この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。
次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。
悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。
ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった!
<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18
国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!
古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます!
7/15よりレンタル切り替えとなります。
紙書籍版もよろしくお願いします!
妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。
成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた!
これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。
「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」
「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」
「んもおおおっ!」
どうなる、俺の一人暮らし!
いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど!
※読み直しナッシング書き溜め。
※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます
ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜
名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。
愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に…
「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」
美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。
🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶
応援していただいたみなさまのおかげです。
本当にありがとうございました!
【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので)
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる