544 / 830
541、リザの生態?
しおりを挟む「すげえな……一体どんな体のつくりをしてるんだ……」
リザの一連の行動を見ていたセイジさんは、感嘆の声を上げた。
「リザは聖地で生まれた聖獣の赤ちゃんだって言われたぜ。そのうち育てば話し出すって言われたけど、ついさっきから話し始めたんだ。可愛いだろ」
「可愛いどころか……あの硬い魔物を喰っちまうなんて、逆に怖いぜ」
「確かに言われてみれば。俺らの手なんてバリバリ食いそうだよな。でもまあ、食わねえし」
「ほう、確信してるみてえだな」
「ああ。普通の魔物は絶対に口にいれねえのは今まででわかってる。食うのは、花とか鉱石とかあとはさっきの茶ばっかりだ」
なるほど、と皆が頷く。
ってことは、石っぽい魔物じゃないと食べないんだ。
でも花を食べるのは、もしかして嗜好品?
ますます生態がわからなくなってくるね。そのうちしっかりと話せるようになったら教えてくれたりするのかな。
自分のことが話題にのぼってることに気付いたのか、リザはエリモさんの首に巻き付いて、チロチロと舌を出した。
「なあリザ。さっきの、何で食っちまったんだ?」
『ゴハン』
「ご飯? いつもくってる花とか石とか茶とかは?」
『オイシイノ』
オイシイノ、と応えながら、ちらりとこっちを向くリザ。
えっと、もしかして、俺は美味しいものを出す人って認識かな。そうかな。知らない間に餌付けしてたってことか。リザは可愛いから否やはないけど。
「魔物はご飯で美味しいのは嗜好品か何かなのか?」
『ワカラナイ』
「そっかわからねえか。じゃあ、理解したら教えてくれな」
リザの喉を指で擽りながら、エリモさんがにっこりと笑う。それにつられるように、リザの目も細くなった。
なんてやってる間に、次の魔物が顔を出した。今度は昆虫の魔物だ。立派な角がカブトムシを彷彿とさせるけれど、大きさが俺くらいでかなり見た目的にヤバい。ユイがいたなら瞬殺されそうな魔物だった。すぐさまヴィデロさんが剣を抜き去り、一撃で魔物を半分にする。魔物はキラキラと光になった。ユイじゃなくても瞬殺だった。
セイジさんが口笛を吹く。
「すげえな。ここまで鮮やかとは思わなかった。さすがアルが指名するだけある」
「魔物が弱いだけです」
キリッとヴィデロさんが返すけど、今の魔物、HPバー黄色だったよ。二本分のHPを一撃で刈り取ったんだよ。俺から考えるともう別次元の強さと言っても過言じゃないよ。
その後は魔物に襲い掛かられ、囲まれたりしながらも、誰一人致命傷を負うことなく先に進むことが出来た。
俺なんかとは比べ物にならないくらいのバフがつくセイジさんの魔法陣魔法を密かに参考にさせて貰ったり、短剣を構えて聖魔法を唱えたり。
でも聖魔法を唱えると、攻撃をしていたはずのリザがこっちに来ちゃうのがちょっと困る。
一度攻撃の聖魔法を唱えた時、リザが飛び出して一緒になって魔法を受けちゃって、めちゃくちゃ焦った。けれど、リザは満たされたような顔をして、全くダメージを受けていないことが判明した。聖魔法は吸収する子なのかな。
それからは躊躇いなく聖魔法を打つようにしたんだけど。
後方で魔法使いさんとセイジさんと並んで魔法攻撃を繰り返す。
前衛は崩れることなく、後ろに攻撃を通すこともなく、安定の強さで魔物を屠っていく。
リザもちゃっかり前に陣取っていて、岩系の物が出て来た瞬間噛みついていた。他の人たちが攻撃を仕掛ける前にものすごいスピードで食いついていくので、リザの獲物は手を出さないという暗黙の了解が出来上がってきているくらいだ。
そしてリザは、魔物を食べると必ず聖水茶を所望した。もしかして不味いから口直しとか。だったら食べなきゃいいのに。と思ったら、エリモさんも思ったらしく、リザに「腹壊さないか?」と訊いていた。いやならぺっしなさいとか。
そんなエリモさんに、リザは一言。
『ゴハン』
やっぱり意味が解らなかった。
魔物を蹴散らしながら進んでいくと、とうとうボス部屋に付いた。
明らかに今までとは違う雰囲気の岩場があり、感知で向こう側からビンビンに強い魔物がいることが伺える。
「さあてと。ここまでは順調すぎるくらい順調だったな。ほんとお前ら強すぎだろ。俺の出番ほぼなかったぜ」
コキコキと首を鳴らしながら、セイジさんが視線を一巡させた。
ちょっとした怪我を自前のハイポーションで治していた皆は、セイジさんの言葉に苦笑した。
確かに。俺は聖魔法オンリーでほぼハイパーポーションを出さなかった。聖魔法は回復する魔法もあるからね。それを使ったらすぐ治るような怪我しかする人がいなかった。
魔物はきっと強かったんだと思う。壁の色が青から緑に変わった辺りで魔物のHPが一段階高くなったから。それでも前衛組4人プラス一匹でほとんどの魔物を倒しちゃったし。確かに後衛組はほぼ出番はなかった。
前衛組と言えば、クラッシュもしっかりと前衛組として善戦していた。
剣に魔法を纏わせて、魔法剣として魔物をザクザク切っていたのを見た時は、皆が手を止めてびっくりした顔をしていた。
普段のクラッシュからは想像もつかない攻撃力だったから。しかも魔物の弱点を即座に見抜き、それに合った魔法を剣に掛けていたから、魔物に対する知識もさらに増えたと思われる。まるでヴィルさんみたい。
そう呟いたら、こういうのを覚えたのは、ヴィルさんと一緒に色々歩いた恩恵なんだそうだ。
魔物が出てくるたびにその魔物の特性と弱点を説明してもらっていたら、いつの間にやら魔物の弱点が見えてくるようになったとか。うわあ、って感じだ。普通だったら毎回の説明がまだるっこしいとか感じるのかもしれないけど、クラッシュはそれを面白いと感じたらしい。さすが知を求めただけはある。実は頭いいんだよね。赤ちゃんの時から記憶が鮮明だっていうし。
「とりあえず皆の力を底上げしとくか」
セイジさんは無造作に魔法陣を描いた。それがそれぞれに飛び、ステータスに補正が付く。
体力、魔力、器用さ、防御力にかなりの補正が付いて、皆の口から歓声が上がる。
「今の魔法陣、右下のワードってなんて描いたんですか?」
「右下……『対外魔力吸収』だな」
「ありがとうございます。俺も使えるかな」
今必死で覚えた魔法陣を描くと、魔法陣は途中で霧散した。難しい。どこかのワードが間違えたのかな。セイジさんって古代魔道語に精通してるよね。俺が知らない単語をバンバン使ってるから、見ただけじゃ覚えきれないよ。
「今のは左外側の言葉が間違えてたな。『屈折割合減少』ってのが『折衝割合』なんていう変な言葉になってた。確かに単語は似てるんだけどな」
「まだまだ勉強しないとですね……」
間違えた文字を指摘されて、思わずため息が出る。
すると、セイジさんがポン、と肩に手を置いた。
「これだけ書けりゃ上出来だ。これからいくらでも学べるんだ。応援するぜ」
「ありがとうございます」
「それよりも俺はマックの聖魔法の方が気になるんだけどな。かなりすげえ聖魔法使ってなかったか?」
ちらり、と腰の剣に視線を向けられる。
「あの時貰った短剣に聖剣の宝玉を付けて貰ったら聖短剣になっちゃったんですけど。俺もともとあんまり魔法の才能がないみたいで、これがないと聖魔法が発動しないんです」
剣を抜いて見せると、セイジさんはほう、と息を吐いた。
「手にしてみてもいいか訊こうかと思ったけど、どうも拒否られてるみてえだな。持ち主を選ぶ剣だな」
「わかるんですか? これ『ルミエールダガールーチェ』っていう名前なんです。希望の光を意味するらしくて」
「ルーチェ……」
セイジさんは短剣の名前を聞いて、口を噤んだ。そして、ボス部屋の方に視線を向ける。
もう一つで透明なオーブは揃うわけで。でも本当は一つクラッシュが持ってるわけで。たとえ今回のボスが落としたのが違うオーブだとしても、セイジさんの望んでいた全ては揃うわけで。
ちらりとクラッシュの方を見ると、クラッシュもセイジさんと同じような顔つきでボス部屋を見つめていた。
960
お気に入りに追加
9,297
あなたにおすすめの小説
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」
授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。
途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。
ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。
駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。
しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。
毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。
翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。
使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった!
一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。
その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。
この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。
次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。
悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。
ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった!
<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18
国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!
古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます!
7/15よりレンタル切り替えとなります。
紙書籍版もよろしくお願いします!
妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。
成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた!
これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。
「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」
「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」
「んもおおおっ!」
どうなる、俺の一人暮らし!
いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど!
※読み直しナッシング書き溜め。
※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます
ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜
名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。
愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に…
「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」
美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。
🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶
応援していただいたみなさまのおかげです。
本当にありがとうございました!
【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので)
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる