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526、ユキヒラとロミーナちゃん、は置いといて
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「ここで会えるとは僥倖! マック殿、お久しぶりでございます」
「お久しぶりです。お元気そうで何よりです」
ウル老師が丁寧に頭を下げるので、俺も深々と返す。この人の薬師という職に対する姿勢はすごいし、尊敬する。けど。
今ばったり会うのはすごく複雑なんだけど。
ユキヒラも詳しいことを聞いた後だからか、複雑な顔をしていた。
「ウル老師は、今日はどうなされたんですか。城下街の方まで出てくるなど、珍しいですね」
ユキヒラがちらりと雑貨屋さんを見てから、ウル老師に話しかけた。
宰相さんにもぞんざいに話すユキヒラにしては、最上級の敬意を払っているのは気のせいか。
「これはユキヒラ殿。今日はちと素材を探していましてな。マック殿には侯爵様から話をすでに聞いているとは思うのですが、人類の夢である薬の精製用の素材が足りませんでな。それを探し出せばきっといいお返事を貰えるだろうと言われまして、お恥ずかしながら初めて聞く素材の名前でしたので、今必死で探しておりました」
ニコニコと話すウル老師は、俺がまだ侯爵に返事をしていないのを知らないようだった。
あれ、モントさんは受けてもらえるかはわからないって伝えているはずって言ってた様な。でも言ってないんだなきっと。
ちらりとユキヒラを見ると、ユキヒラも少しだけ困ったような顔をしていた。
「すいませんウル老師。俺はまだ侯爵様と話もしていません。どのような話になったのか、聞いてもいいですか?」
俺がそう問うと、ウル老師は「そうですな」少しだけ周りを見回した。
ああ、こんな往来でする話でもないのか。やっぱりモントさんの場所を借りるしかないかな、と思っていると、雑貨屋のドアが開いた。
「あ、ロミーナちゃん。今日も綺麗だね。逢えて嬉しいよ」
「ユキヒラさん、こんにちは。あの、恥ずかしいのでそういうことを大声でいうのはちょっと……。老師、お忘れ物ですよ。何かお困りごとですか?」
ロミーナちゃんがユキヒラを牽制しつつ、手に持ったハンカチの様なものをウル老師に渡した。そして、ちらりと俺を見る。
俺に絡まれてるように見えたのかな。
「いえいえ、今偶然にも私の尊敬するマック殿に会えたので、ご挨拶をしていたところですよ。お気にかけていただき、ありがとうございます」
「大丈夫ならいいんですけど。あの、あなたはクラッシュのお友達、ですよね」
「あ、はい。クラッシュがいつもお世話になってます」
ロミーナちゃんは俺のことを覚えていたみたいだった。
俺が頭を下げると、ロミーナちゃんはホッとした様な顔になった。俺の身元が分かったからかな。だから絡んでないって。
笑顔を見せたロミーナちゃんは、「私こそクラッシュにはいつもお世話になっていて」と手をパタパタと振った。
「何かお困りごとなら、うちの中でお話でもどうですか? ここでは通行の妨げになるので」
ロミーナちゃんの言葉に周りを見ると、確かに店の真ん前で立ち話をしている俺たちは通行の、ひいては店の邪魔になるだろうなと思い至った。
「ロミーナちゃんは優しいな。そういうところがすごく好きだよ。でも、もし店の邪魔になるんだったら他の場所に行くよ」
きりっとした顔のユキヒラがロミーナちゃんの手を取ってそんなことを言う。ロミーナちゃんは手を取られるままにユキヒラを見上げて、恥ずかしそうに視線を逸らした。
あれ。
「そんなことはないです。もしかしたらさっきウル老師がお尋ねになられた素材のことの話だとしたら、私もちょっと聞きたいなと思っただけですから。だからもし、外部に漏らしちゃいけないお話でしたら、断ってくれてもいいんです」
「ロミーナちゃん……」
ユキヒラはロミーナちゃんの手を取ったまま、感激したように天を仰いだ。
上を向くユキヒラと、下を向くロミーナちゃん。なんか、進展しているように見えるのは俺だけかな。
ユキヒラ、とうとうロミーナちゃんの異邦人苦手意識を改革したのかな。愛ってすごい。
「素材のことだったら、秘密ではないんで、よければ場所を貸してもらってもいいですか?」
なんとなくユキヒラとロミーナちゃんの仲が気になって、提案に乗ることにすると、ロミーナちゃんはハッとしたようにユキヒラから離れて、顔をちょっと赤くしながらどうぞ、と店のドアを開けてくれた。
ウル老師はお弟子さんたちを先に王宮に戻すことにしたらしく、入り口で別れて一人店に入っていった。
俺はユキヒラの鎧を肘でつつくと、「どうなってるんだよ」とニヤニヤ顔で突っ込んだ。
「ああ、うん。今も毎日フラれてる。でも、なんか最近前以上に可愛い」
「毎日フラれてるのかよ。どう見ても両想いに見えるのに」
「ああ、俺もたまに期待しちまう。でもな、前にロミーナちゃんに言い寄ってたプレイヤーがかなりのクズだったらしくてな、そいつのことがいまだに怖いらしくて、俺らプレイヤーを見ると思い出すらしいんだわ。前にチラッと聞いちまった。ロミーナちゃんの傷を抉るから、これ以上詳しくは言わねえが」
そうか。相談されたんだ。そこまでの信頼はちゃんと勝ち得ていたんだユキヒラ。告白三昧も無意味じゃなかったんだな。
そのクズプレイヤーとロミーナちゃんに何があったのかはわからないけど、頑張れユキヒラ。
応援の気持ちを込めて背中をバンバン叩くと、ユキヒラは「痛えよ」と肩を竦めた。
開いたままのドアから、ロミーナちゃんが顔を出す。
「二人ともどうぞ」
にっこりと笑うその顔は、前に見せていた無表情とはかけ離れていて、それもまたユキヒラの頑張りなのかな、なんて思いながら、俺も店にお邪魔させてもらうことにした。
店の奥には、小さなテーブルが二つ並んでいた。雑貨を置いているスペースとは隔離されているようなその場所は、ユキヒラが言うには、買い取りが沢山ある場合に使う場所として重宝しているという。
なるほど。カウンターが山になるくらい買取の物を納品する人がいるんだ。目の前に。
ウル老師が座ったその正面に俺が座ると、ユキヒラは俺の横に腰を下ろした。
すると、ロミーナちゃんがそっとお茶の入ったカップを皆の前に置いてくれた。
ユキヒラのカップに置かれたスプーンの上にだけ、小さなコロンとした塊が載せられている。
何だろうと見ていると、ユキヒラはそのままスプーンをお茶に入れて、掻き混ぜ始めた。あ、砂糖かな。甘くしたいんだ。何も言わずにユキヒラの好みを出してくれるロミーナちゃん、もうユキヒラに惚れてるんじゃないのかな。俺が口を出すと拗れそうだから何も言わないけど。
ウル老師はお茶を一口飲んで、ホッと顔をほころばせると、ロミーナちゃんにありがとう、とお礼を言った。
俺も「いただきます」とカップに口を付ける。ホッとするような香りと仄かな苦みが癖になりそうなお茶だった。まるでコーヒーの様なそんな感じ。美味しい。
「先ほどの続きですが、マック殿は『リボン草の実』という素材をご存知ですかな?」
ウル老師は、一息つくと早速話を切り出してきた。
その『リボン草の実』っていうのが、獣人の村にしかない蘇生薬に欠かせない素材だった。
そんなの、知ってるどころか工房に大量に所持しているけどさ。
「その前に、ウル老師はあの侯爵様からどんな風に話を聞いているんですか?」
まずは素材よりも大事なことなんだけど。
蘇生薬のレシピが出回ったのは大分前だけど、ヒイロさん直々に指導したのは、王宮の薬師じゃなくて草花薬師だったと思うんだけど。どうやって侯爵の耳に入ったんだろう。
「私の外弟子の一人に、砂漠都市で草花薬師として身を立てている者がいるのです。その者が獣人の村でとんでもない秘薬のレシピを教わったと教えてくれましてな。神の領域の技術を以って、神の領域のアイテムを製作した獣人がいた、と。その獣人は人族でもその神の領域のアイテムを作れるものがいると教えてくださったそうです。それが、マック殿だと。マック殿は神の領域の技術を持ったお方を師匠と仰いでいるのでしょう。前に見せていただいたあの手つき、一瞬で納得いたしました」
確かに、ヒイロさんは調薬に関しては神の領域に達してるかもしれないけど。
その草花薬師のお弟子さん、どんな風に話したんだろう。草花薬師ってことは、前に俺もあったことはあるよね。現地で。どの人だかわからないや。プレイヤーじゃない人もそういえばいたよね。
「そのレシピを私も見せていただきましたが、どうしても作ることが出来ない代物でして。まず素材から手に入りませんでな。まずは前にマック殿にお渡ししたレシピを作ることから始めようと思いましてな。前に見せていただいたマック殿の手つきを何度も何度もなぞり、そちらをようやく完成させることが出来ましたので、今度は神の領域に手を伸ばそうと夢を見てしまいましてな」
お茶を少しずつ飲み、喉を潤しながら、ウル老師は話してくれた。そして、カバンから『魔力増強薬』ランクDを取り出した。
あれ、これ、素材がアレだよね。何度も作ったってことは、この素材をどこかから手に入れたってことだよね。そんなに何度も手に入れられるって、王宮ってやっぱりすごいんだなあ。前にカイルさんに聞いた値段って「嘘だろ!?」って思うような高値だったから。でも、どこであの例のブツを手に入れられるのか、それが問題だよ。お、俺はもういらないけど。
でも、でもだよ。『魔力増強薬』がランクDってことは、上級調薬とか複合調薬としては、まだレベル一桁くらいな状態だよね。
あ。無理だ。
「ウル老師、聞いてください。もちろん、その素材の在処は知ってます。素材自体は揃えるのはそこまで難しくないです。でも、今回のこの話は時期尚早ってことで俺、断ろうと思ってたんです」
「お久しぶりです。お元気そうで何よりです」
ウル老師が丁寧に頭を下げるので、俺も深々と返す。この人の薬師という職に対する姿勢はすごいし、尊敬する。けど。
今ばったり会うのはすごく複雑なんだけど。
ユキヒラも詳しいことを聞いた後だからか、複雑な顔をしていた。
「ウル老師は、今日はどうなされたんですか。城下街の方まで出てくるなど、珍しいですね」
ユキヒラがちらりと雑貨屋さんを見てから、ウル老師に話しかけた。
宰相さんにもぞんざいに話すユキヒラにしては、最上級の敬意を払っているのは気のせいか。
「これはユキヒラ殿。今日はちと素材を探していましてな。マック殿には侯爵様から話をすでに聞いているとは思うのですが、人類の夢である薬の精製用の素材が足りませんでな。それを探し出せばきっといいお返事を貰えるだろうと言われまして、お恥ずかしながら初めて聞く素材の名前でしたので、今必死で探しておりました」
ニコニコと話すウル老師は、俺がまだ侯爵に返事をしていないのを知らないようだった。
あれ、モントさんは受けてもらえるかはわからないって伝えているはずって言ってた様な。でも言ってないんだなきっと。
ちらりとユキヒラを見ると、ユキヒラも少しだけ困ったような顔をしていた。
「すいませんウル老師。俺はまだ侯爵様と話もしていません。どのような話になったのか、聞いてもいいですか?」
俺がそう問うと、ウル老師は「そうですな」少しだけ周りを見回した。
ああ、こんな往来でする話でもないのか。やっぱりモントさんの場所を借りるしかないかな、と思っていると、雑貨屋のドアが開いた。
「あ、ロミーナちゃん。今日も綺麗だね。逢えて嬉しいよ」
「ユキヒラさん、こんにちは。あの、恥ずかしいのでそういうことを大声でいうのはちょっと……。老師、お忘れ物ですよ。何かお困りごとですか?」
ロミーナちゃんがユキヒラを牽制しつつ、手に持ったハンカチの様なものをウル老師に渡した。そして、ちらりと俺を見る。
俺に絡まれてるように見えたのかな。
「いえいえ、今偶然にも私の尊敬するマック殿に会えたので、ご挨拶をしていたところですよ。お気にかけていただき、ありがとうございます」
「大丈夫ならいいんですけど。あの、あなたはクラッシュのお友達、ですよね」
「あ、はい。クラッシュがいつもお世話になってます」
ロミーナちゃんは俺のことを覚えていたみたいだった。
俺が頭を下げると、ロミーナちゃんはホッとした様な顔になった。俺の身元が分かったからかな。だから絡んでないって。
笑顔を見せたロミーナちゃんは、「私こそクラッシュにはいつもお世話になっていて」と手をパタパタと振った。
「何かお困りごとなら、うちの中でお話でもどうですか? ここでは通行の妨げになるので」
ロミーナちゃんの言葉に周りを見ると、確かに店の真ん前で立ち話をしている俺たちは通行の、ひいては店の邪魔になるだろうなと思い至った。
「ロミーナちゃんは優しいな。そういうところがすごく好きだよ。でも、もし店の邪魔になるんだったら他の場所に行くよ」
きりっとした顔のユキヒラがロミーナちゃんの手を取ってそんなことを言う。ロミーナちゃんは手を取られるままにユキヒラを見上げて、恥ずかしそうに視線を逸らした。
あれ。
「そんなことはないです。もしかしたらさっきウル老師がお尋ねになられた素材のことの話だとしたら、私もちょっと聞きたいなと思っただけですから。だからもし、外部に漏らしちゃいけないお話でしたら、断ってくれてもいいんです」
「ロミーナちゃん……」
ユキヒラはロミーナちゃんの手を取ったまま、感激したように天を仰いだ。
上を向くユキヒラと、下を向くロミーナちゃん。なんか、進展しているように見えるのは俺だけかな。
ユキヒラ、とうとうロミーナちゃんの異邦人苦手意識を改革したのかな。愛ってすごい。
「素材のことだったら、秘密ではないんで、よければ場所を貸してもらってもいいですか?」
なんとなくユキヒラとロミーナちゃんの仲が気になって、提案に乗ることにすると、ロミーナちゃんはハッとしたようにユキヒラから離れて、顔をちょっと赤くしながらどうぞ、と店のドアを開けてくれた。
ウル老師はお弟子さんたちを先に王宮に戻すことにしたらしく、入り口で別れて一人店に入っていった。
俺はユキヒラの鎧を肘でつつくと、「どうなってるんだよ」とニヤニヤ顔で突っ込んだ。
「ああ、うん。今も毎日フラれてる。でも、なんか最近前以上に可愛い」
「毎日フラれてるのかよ。どう見ても両想いに見えるのに」
「ああ、俺もたまに期待しちまう。でもな、前にロミーナちゃんに言い寄ってたプレイヤーがかなりのクズだったらしくてな、そいつのことがいまだに怖いらしくて、俺らプレイヤーを見ると思い出すらしいんだわ。前にチラッと聞いちまった。ロミーナちゃんの傷を抉るから、これ以上詳しくは言わねえが」
そうか。相談されたんだ。そこまでの信頼はちゃんと勝ち得ていたんだユキヒラ。告白三昧も無意味じゃなかったんだな。
そのクズプレイヤーとロミーナちゃんに何があったのかはわからないけど、頑張れユキヒラ。
応援の気持ちを込めて背中をバンバン叩くと、ユキヒラは「痛えよ」と肩を竦めた。
開いたままのドアから、ロミーナちゃんが顔を出す。
「二人ともどうぞ」
にっこりと笑うその顔は、前に見せていた無表情とはかけ離れていて、それもまたユキヒラの頑張りなのかな、なんて思いながら、俺も店にお邪魔させてもらうことにした。
店の奥には、小さなテーブルが二つ並んでいた。雑貨を置いているスペースとは隔離されているようなその場所は、ユキヒラが言うには、買い取りが沢山ある場合に使う場所として重宝しているという。
なるほど。カウンターが山になるくらい買取の物を納品する人がいるんだ。目の前に。
ウル老師が座ったその正面に俺が座ると、ユキヒラは俺の横に腰を下ろした。
すると、ロミーナちゃんがそっとお茶の入ったカップを皆の前に置いてくれた。
ユキヒラのカップに置かれたスプーンの上にだけ、小さなコロンとした塊が載せられている。
何だろうと見ていると、ユキヒラはそのままスプーンをお茶に入れて、掻き混ぜ始めた。あ、砂糖かな。甘くしたいんだ。何も言わずにユキヒラの好みを出してくれるロミーナちゃん、もうユキヒラに惚れてるんじゃないのかな。俺が口を出すと拗れそうだから何も言わないけど。
ウル老師はお茶を一口飲んで、ホッと顔をほころばせると、ロミーナちゃんにありがとう、とお礼を言った。
俺も「いただきます」とカップに口を付ける。ホッとするような香りと仄かな苦みが癖になりそうなお茶だった。まるでコーヒーの様なそんな感じ。美味しい。
「先ほどの続きですが、マック殿は『リボン草の実』という素材をご存知ですかな?」
ウル老師は、一息つくと早速話を切り出してきた。
その『リボン草の実』っていうのが、獣人の村にしかない蘇生薬に欠かせない素材だった。
そんなの、知ってるどころか工房に大量に所持しているけどさ。
「その前に、ウル老師はあの侯爵様からどんな風に話を聞いているんですか?」
まずは素材よりも大事なことなんだけど。
蘇生薬のレシピが出回ったのは大分前だけど、ヒイロさん直々に指導したのは、王宮の薬師じゃなくて草花薬師だったと思うんだけど。どうやって侯爵の耳に入ったんだろう。
「私の外弟子の一人に、砂漠都市で草花薬師として身を立てている者がいるのです。その者が獣人の村でとんでもない秘薬のレシピを教わったと教えてくれましてな。神の領域の技術を以って、神の領域のアイテムを製作した獣人がいた、と。その獣人は人族でもその神の領域のアイテムを作れるものがいると教えてくださったそうです。それが、マック殿だと。マック殿は神の領域の技術を持ったお方を師匠と仰いでいるのでしょう。前に見せていただいたあの手つき、一瞬で納得いたしました」
確かに、ヒイロさんは調薬に関しては神の領域に達してるかもしれないけど。
その草花薬師のお弟子さん、どんな風に話したんだろう。草花薬師ってことは、前に俺もあったことはあるよね。現地で。どの人だかわからないや。プレイヤーじゃない人もそういえばいたよね。
「そのレシピを私も見せていただきましたが、どうしても作ることが出来ない代物でして。まず素材から手に入りませんでな。まずは前にマック殿にお渡ししたレシピを作ることから始めようと思いましてな。前に見せていただいたマック殿の手つきを何度も何度もなぞり、そちらをようやく完成させることが出来ましたので、今度は神の領域に手を伸ばそうと夢を見てしまいましてな」
お茶を少しずつ飲み、喉を潤しながら、ウル老師は話してくれた。そして、カバンから『魔力増強薬』ランクDを取り出した。
あれ、これ、素材がアレだよね。何度も作ったってことは、この素材をどこかから手に入れたってことだよね。そんなに何度も手に入れられるって、王宮ってやっぱりすごいんだなあ。前にカイルさんに聞いた値段って「嘘だろ!?」って思うような高値だったから。でも、どこであの例のブツを手に入れられるのか、それが問題だよ。お、俺はもういらないけど。
でも、でもだよ。『魔力増強薬』がランクDってことは、上級調薬とか複合調薬としては、まだレベル一桁くらいな状態だよね。
あ。無理だ。
「ウル老師、聞いてください。もちろん、その素材の在処は知ってます。素材自体は揃えるのはそこまで難しくないです。でも、今回のこの話は時期尚早ってことで俺、断ろうと思ってたんです」
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