これは報われない恋だ。

朝陽天満

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519、ミニさんと赤い蔦

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 他の皆はいったんサウ村に戻ることにしたらしい。

 LLさんたちたっての希望でフレンド登録をする。

 皆はこの後獣人さんに付いて魔法陣魔法の特訓をするんだとか。

 俺はまたヴィデロさんと素材集めデートを敢行することにした。



「そうだ、ヴィデロさんさっき牙が掠ってなかった? 腕、怪我してない?」

「鎧が防いだから怪我は全然していないんだ。それよりマックは」

「俺はだって逃げてるだけだったし。全然大丈夫」



 よかったと微笑むヴィデロさんがとても可愛いです。好き。でもヴィデロさんも怪我してなくてよかった。

 一旦赤い蔓と宙に浮いてとどまっている魔法陣は放置することにした。さっきの獣人さんが魔法陣の方の管理はしてくれるらしい。ちなみに、西の洞窟から村に跳ぼうとすると、さっきの獣人さんが迎えに来てくれるらしい。とはさっきのプレイヤーさんたち情報だけど。

 その後もう少しだけ森を歩き回って、魔物を倒して素材を採取してヒイロさんたちの村に戻ると、ヒイロさんと大きな白熊の獣人さんが並んで森に入ろうとしているところだった。



「師匠」



 声を掛けると、ヒイロさんがこっちを向く。



「ようマック。遊びに来たのか? すまねえ。ちょいと用事が出来ちまって今構ってやれねえんだ」



 わりいな、と顔の前で手を合わせたヒイロさんは、どこかソワソワウキウキした様な雰囲気だった。

 もしかして、さっきのやつを調査しに行くのかな、なんてふと思う。新素材を前にした時と同じような雰囲気だったから。さっき名前も挙がってたもんね。



「もしかしてサウ村に行くんですか?」

「なんで知ってんのマック。心読まれた?」

「読めません」



 心臓を手で押さえるヒイロさんにとりあえず突っ込んで、俺はインベントリからさっきの実を一つ取り出した。



「それ!」



 素材を見た瞬間、ヒイロさんの尻尾がブワッと膨れた。



「なんでマックが持ってんの!? ってか何だその匂い、鼻がツンとして痛くなりそうだな」

「俺、これが生えたところに居合わせましたから」

「マックが。ってことはヴィデロもか。なるほどな」



 ヒイロさんはうんうん頷いて、ニヤリと笑った。そして隣に立っていた白熊の獣人さんの腕をポンポン叩いた。



「なあなあミニ。これはマックも連れて行った方がいいんじゃねえ? 師匠の勘がそう告げている」

「ヒイロよ。その師匠の勘ってのは当てになるもんなのか? あの人族たちの迷惑になるんじゃないのか? 勝手に巻き込んでいいのか?」

「俺の弟子だから大丈夫なんだよ。な、マック」



 とこっちを向いてニパっと笑うヒイロさんの言葉に、俺は衝撃を受けていた。俺よりデカいヒイロさんのさらに頭二つ分くらい大きい白熊さんの名前が、ミニ、だと……!? 

 俺の本名が健やかに育たず名前負けに近い様な状態だとすると、ミニさんは名前勝ち、ということか……! なんて羨ましい。



「ほら、返事できないだろ。師匠ってのは弟子を慮ってやるのも大事なことだろ。番同士の邪魔なんて最たるものだろ」

「はあ、全くミニはかたっ苦しいんだから。でもまあ、発情の時期は邪魔なんかしねえしそこらへんはわきまえてるよ。んじゃマック連れてくのは諦めるかな。せっかく一緒に調薬レシピ考えられると思ったのになあ」



 ヒイロさんが残念そうに溜め息を吐く。その言葉に俺はピクッと反応してしまった。

 そしてその反応はヴィデロさんにしっかりと見られていたらしい。

 苦笑しながら、「ついていきたいなら行くか? もともと予定はないんだし」と俺の背中を押してくれる。

 ヒイロさんが口に手を当ててシシシと笑ってるのは見えたし、手のひらで転がされてるのもわかったけど。

 俺はヴィデロさんの手を取って、ヒイロさんの後ろをついていった。



「お前が噂のヴィデロかあ。タタンは俺の村出身なんだ。あいつ元気にやってるか?」

「ああ。タタンにはすごく世話になってる。ガレンも元気だ」

「そうかあ。ガレンとタタンはほんと無鉄砲だから、たまに考えなしに動いて物事を拗らせちまうんだよ。気を付けてやってな」

「わかった。確かにたまに無鉄砲だな。でもそこもまたあいつらのいいところだよ」

「そう言ってもらえると嬉しいなあ」



 ミニさんはニコニコとヴィデロさんと話をしている。その横で、俺はヒイロさんにあの赤い蔓が出てきた経緯を詳しく教えていた。

 ヒイロさんはそれを訊きながら、俺が渡した実をじっくりと観察している。





 サウ村に着くと、さっきの豹の獣人さんが待っていた。



「なんだ、ヴィデロとマックまで来たのか。ヒイロに捕まったんだな」



 俺とヒイロさんのやり取りを結構見ているらしく、豹の獣人さんはヒイロさんを見て苦笑した。

 皆でさっきの蔓が生えたところに向かう。

 魔法陣を絡め取っている蔦を見ると、ヒイロさんとミニさんが驚愕の声を上げた。



「すごいなあこの蔓。固定化されてるな魔法陣」

「実は生ってねえな。それにしても、なんだこの蔓。普通は魔法陣をこんな風に固定化なんて出来ねえのに」

「蔓の表面が魔素に覆われてるみたいだぞ。それで固定されてるんじゃないかな。ふむ。種を魔力水で植えたらさらに増えるのか。危なくはなさそうだな。どれ、さらに育ててみるか」



 ミニさんはそう呟くと、何か魔法陣を描いた。中に「成長促進」とか描かれてるのが見て取れて、蔓を成長させるための魔法陣を描いたみたいだった。

 成長が落ち着いていたはずの蔓は、跳んできた魔法陣を、シュルっと伸びて捕獲した。そしてまたしてもぐいぐい伸びて魔法陣を全て覆い尽くす勢いで絡まっていく。



「面白いなあこれ。もっと食うか?」



 さらに「栄養補給」とかも入れて、わけのわからない魔法陣を飛ばしたミニさんは、さらに絡まり付いていく蔓を見て、満足そうに頷いた。



「これ、攻撃系の魔法陣を飛ばしたらどうなるんだろうな」



 ヒイロさんの呟きに、ミニさんはガウ! と咆えた。



「そんなこと絶対にしないでくれ。これがダメになったらどうするんだ。新種だから余計に大事に育てないといけないのに」

「悪かったって」



 ミニさんの正論には、ヒイロさんも弱いらしかった。素直に謝ると、ミニさんも「わかればいいんだ」とにこやかになった。

 そんなこんなをしている間に、またも薄水色の花が咲いて、花弁が散り落ちた。

 ぐいぐい実が生っていく。



「くわあ、鼻に来る匂いだ」



 ヒイロさんは片手で鼻を押さえつつ、生った実に手を伸ばした。途端にその手の上にポロリと実が落ちる。

 赤い実に鼻を近づけたり、指で撫でてみたり、表面を舐めてみたりしてから、爪をにゅっと出して実を割った。

 途端に香辛料特有のにおいが漂う。ヒイロさんはそれだけで尻尾をボワッと膨らませた。ヒイロさん、鼻が利くから。



「流石に舐めるのは怖いなあこれ。キッツい匂いだ。これの種を、魔素たっぷり入った大量の水が撒かれた地面に植えると生えるのか」

「今土を作るから待ってろ」



 ミニさんが四つん這いになって、蔓が生えている少し横の土を薄く掘っていく。

 土は一瞬でふわっとし、畑みたいになった。そこに水の魔法陣魔法で雨を降らせて、ミニさんが爪で種大の大きさの穴を掘る。

 ヒイロさんが持っていた実の中に入っている種をコロンと掘ったばかりの穴に落として、最後もう一度水を撒いた。

 途端ににょきにょきと芽が生えて、さらに伸びていく。

 ミニさんがすかさず飛ばした小さな魔法陣をまず捕まえて、その後行く先を探すように蔓を震わせた。



「おお、増えた。これはいいな。何より、魔物たちによって他の地に運ばれても条件が揃わないと生えないというのもいいな。しばらくはサウに住んでこれの世話をするか。ヒイロはどうする?」

「俺は物だけ持って帰るよ。これ、薬に出来ないかやってみないとな」

「わかった。ここいら一帯、耕さないとな」



 腕が鳴る、とモフモフの白い腕にかかっていた服の袖をまくり上げたミニさんは、早速畑を作り始めた。

 ヒイロさんは新素材の匂いにビビりながらも、新素材ゲットに目をキラッキラさせていた。



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