これは報われない恋だ。

朝陽天満

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500、アクセサリ製作講座

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 アクセサリーが自分で作れるようになったら、錬金で出来たとんでも魔石とかを自分で加工してヴィデロさんにあげたりできるってことかな。

 場所を確認しつつそんなことを考える。

 ノヴェの街で随時募集かあ。まだ今日は時間があるし行ってみようかな。

 ワクワクしながらカウンターに向かい、ギルド職員さんに声を掛けた。



「あの、講習会の申し込みをしたいんですけど」

「はい。どの講習をご希望ですか?」

「『アクセサリ製作講座』です」

「かしこまりました。少々お待ちください」



 職員さんが笑顔で紙を用意してくる。サインをして料金を払ったら申し込み完了。

 俺は名前を書いて、講習無料チケットをスッと差し出した。



「これ、使えますか?」

「大丈夫ですよ。はい。受付完了です。あとはノヴェの街に向かい、ギルドから『エアイン'ズ工房』という場所の地図を受け取って向かってください。行かないままに5日が過ぎてしまうと無効になってしまいますので、もし魔法陣の登録がお済みでなければ、保留としておいて、ノヴェの街に着いてから改めて申し込むこともできますがどうしますか?」

「大丈夫です。ありがとうございます」



 受付済みの判が押された半券を受け取りながら頷くと、職員さんが「楽しんで来てくださいね」といい笑顔を浮かべた。





 転移魔法陣の部屋に逆戻りした俺は、今度はノヴェの街を目指して魔法陣に入った。

 登録しておいてよかった。っていうか本格的に全街の魔法陣を登録しておくとすごく楽なんじゃなかろうか。

 自分で転移で跳べるということをすっかり頭の片隅に追いやって、俺はそんなことを考えながらフロアカウンターに足を進めた。

 無事『エアイン'ズ工房』に向かう地図を貰って、足を進める。

 工房は大通りじゃなくて、本来はプレイヤーは入れない斜線で消された場所にあった。

 でもしっかりと工房までの道は行けるようになっている。 

 迷うこともなく無事工房の場所に着くと、倉庫のような大きめの建物の入り口に『エアイン’ズ工房』と銘打たれた紋章みたいな飾りが小さくくっついていた。シンプルなドアだけに、小さなその紋章がすごく映えてかっこいい。ドアの近くには呼び鈴代わりのベルが着けられていたので、それを鳴らすと、中から「はーい」と返事が来た。ガチャッとドアが開いて、腰に沢山の道具をぶら下げた作業着っぽい恰好の細身の人が顔を出した。



「いらっしゃい。お客様かな? うちは直接は受注してないんだけどなあ」

「いえ、『アクセサリ製作講座』を受講したくて来ました」



 首を傾げた職人さんにそう言うと、ああ、とその人は手を打った。



「そう言えば親方がそんなものをやってみようって言ってた気がする。半券はあるかい?」



 ギルドから受け取った半券を渡すと、職人さんは「確かに。どうぞ」と中に通してくれた。



「親方ー。『アクセサリ講座』受けたいって異邦人が来たんだけどどこに通せばいい?」

「こっちだ。おう坊主。よく来たな」



 職人さんは奥から聞こえてきた声に「はいよー」と返事をして、俺を振り返った。



「野太い声してるけど、親方怖い人じゃないから安心してね。こっちだよ」

「ありがとうございます」



 にっこりされたけど、なんとなく子供扱いされてる気がするのは気のせいかな?

 と思いながら職人さんの後をついていく。

 周りにはこの工房で作られたらしいアクセサリが所狭しと飾られていて、どれもすごく綺麗で繊細だった。

 机の間を縫って奥に進み、ドアのない仕切り板だけが立っている部屋の入り口を通り、奥の部屋に入る。

 そこはまさしく工房だった。

 広い部屋の中に、作業用の武骨なテーブルが何個も置かれていて、部屋の周りの棚には彫金をするときに使うようないろんな道具が所せましと並んでいる。

 作業台一つに一人が陣取り各々が細かい作業をしている。「あれあるー?」「俺が使ってるー少し待て」「待てねえよ」「鎖切れた! 誰か鎖作れー」「お前がなー」という声がひっきりなしに聞こえていて、皆手を止めることなく何かを作っていた。



「すごい……俺の工房とは全然違う……」



 活気ある工房に思わずそう零すと、案内してくれた職人さんが目を輝かせた。



「君も工房に入ってるんだ。何の工房?」

「薬師です」

「薬師! へえ。何人くらいで作業してるんだい? ここまで煩くはないだろうけど、楽しい所かい?」



 にこやかにそんなことを言われて、俺が誰かの下についてやっていると勘違いされていることに気付く。

 

「俺個人の工房なんで、作業はいつも一人です」

「一人!? え、その歳で独り立ち!? 異邦人って噂には聞いてたけど、凄いんだなあ」



 やっぱり。子供だと思われてたよ。何でだ。

 

「いえあの俺、成人してますけど」



 そう言った瞬間、工房内がザワリとした。



「それに、もう婚姻の儀を上げてますし」



 さらにザワリとなって、その後今まであれだけ喧騒に包まれていた工房が一瞬シーンとなった。何でだ。

 目を見開いていた職人さんは、しばらく絶句した後、取り繕う様に、あ、あはは、と笑った。



「そっか……そうかごめんね。見た目がすごく若いから」

「いえ、幼いってハッキリ言ってくれていいです……慣れてますから」

「あはは、慣れちゃってるんだ。ごめんね。そうだ。親方を紹介するね。ちなみに俺はここに弟子入りして4年目のチセっていいます」

「おう、俺がこの工房の親方のエアインだ。うちのバカ弟子が悪かったな」



 チセさんの言う野太い声が近くから聞こえてきたと思ったら、すぐ近くに座っていた髭の人が立ち上がった。

 

「よろしくお願いします。マックといいます」



 エアインさんが差し出した手を握って握手をすると、じゃあ早速アクセサリ作りしてみるか、とエアインさんが空いている机に俺を案内してくれた。



「やることはまあ大まかに二つだ。デザインする、作る。まずはどんなものが作りたいか頭に描いて、描いてみる。それをもとに、作っていく。その時に使う道具はその都度説明するな。まずはデザインだが、自分で考えろってのも酷だから、簡単な練習用デザインを数点用意してあるから、そこから好きな物を選んで作ってくれ」



 目の前に出されたデザインを見て、考えて、ペンダントを選ぶ。

 これだったら鎖を通せば鎧の下にもつけれるんじゃないかな、と思って。

 スッと選んだデザインを差し出すと、エアインさんが「これだな」と頷いた。

 

「それにしても、その指輪と羽根、すげえな。どこの工房から手に入れたんだ? 超一流の彫金師が作ったやつだな」

「これは、クワットロの雑貨屋さんが趣味で作ってるって言ってましたけど」



 レガロさんなんでもできそうだもんな、と思いながら答えると、エアインさんは目を剥いた。



「これが趣味!? そいつ人生舐めてんのか? 彫金師になれって言ってやってくれ」



 そんなにレガロさんの腕って凄かったんだ。確かに滅茶苦茶綺麗でかっこよくて素敵なデザインだけど。一工房の親方を唸らせるなんて、レガロさん凄い。





 エアインさんの後について、アクセサリに必要な土台や装飾用のパーツを選び、それをテーブルに並べて、アクセサリ作りが始まった。

 エアインさんに色々と教わりながら、俺は必死で一つのペンダントトップを作り上げた。真ん中には石を入れることができる穴があって、そこに石を入れたら出来上がり。



「ただアクセサリとして楽しむなら宝石、装備品として使いてえなら魔石だが……魔石の場合は別料金になっちまうんだけどどうする?」

「宝石の場合は料金内なんですか?」

「ああ。それに飾るような小さいもんはそこらへんにゴロゴロしてるからな。持ち込みもやってるんだが、普通はまあ持ち込まねえよな」



 持ち込み、というエアインさんの言葉に目を輝かせた俺は、「持ち込みます!」と即座に答えていた。

 講座の途中で抜けるのはありなのかな。錬金で作ったあの石持ってきたいなあ。ダメもとで聞いてみよう。



「石を取りに行ってきてもいいですか? それを填めてみたいです」

「そりゃ構わねえけど……とりあえず今日はそこら辺の石を入れて、腕をあげてから自分で見つけたやつを入れたっていいんだぞ?」

「でもこれは俺が初めて作ったアクセサリなんで……どうしてもこれに填めたい物があるんです。なので、5分だけ待っていて貰えますか」

「5分?」



 5分という言葉に首をかしげるエアインさん。

 魔法陣魔法で直接工房まで跳んで返って来るだけなら一瞬なんだけど、石を取り出したりしないといけないからね。



「っつうかそんな近くに住んでんのか?」

「いえトレです」



 工房内では本日三度目の動揺が走ったようだった。エアインさんがすっごく困惑した顔をしている。



「ちょっと行ってきます!」

「あ、ああ。気を付けてな」



 困惑したままそう返してくれたエアインさんにいい返事を返して、俺はその場で魔法陣を描いた。

 工房まで跳んで、錬金の部屋のインベントリを開く。

 結構沢山、ちょっとした付与付きの石があるなあ。選べそうもないからとりあえず適当に持って行こう。

 ありったけの錬金魔石を取り出して、一つの袋に入れる。それをインベントリに入れると『錬金魔石袋×1』となったので、枠が圧迫されないことにほくそえみながら、ふとスキル欄にびっくりマークがついているのに気付いた。

 

「なんか覚えた」



 タップしてみると、スキルの中に『彫金』『装飾』というスキルが新しく入っていた。うわあ。夢広がる! これのレベルをあげたら、レガロさんみたいに……うん。無理だ。親方をも唸らせる彫金なんて、無理。

 MPを回復してもう一度魔法陣を描く。ノヴェの工房の入り口付近の部屋に跳んで、そのまま工房の方に入っていくと、またも工房内の職人さんたちがザワリとした。皆驚いた顔をして俺を見ている。魔法陣魔法が珍しかったのかな。



「持ってきました。着け方教えてください」



 さっきまで座っていた机に行くと、エアインさんが気を取り直したように「お、おう」と返事をしてくれた。

 持ってきた袋を取り出して、パーツを置くためのトレイにざらざらと中身をあける。



「……何だこりゃ」

「俺が作った石です」

「……お前さん、マックだったか。薬師って言ってなかったか?」

「薬師です」

「こりゃ……ん、まあいい。詮索はよくねえな」



 すっごく険しい顔をしたエアインさんは、深いため息を吐いて、俺の前の席に座った。

 



-・‐・‐・‐・‐・‐・‐

いつも読んでくださってありがとうございます。
500話なんて長い話なので飽きずに読んでもらえるのとても嬉しいです。
明日からは一日一話更新になりますので、よろしくお願いします(;'∀')
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