これは報われない恋だ。

朝陽天満

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490、リザの飼い主さんたちと一緒にご飯

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『香りのいい石を納品しよう



 トレ雑貨屋店主が『香石』を欲しがっている

 『香石』を10個作って期日までに納品しよう



 タイムリミット:14時間12分



 クリア報酬:5万ガル 魔獣使いテイマーのヒント

 クエスト失敗:時間内に規定数納品できなかった 魔獣使いテイマーのヒント入手不可



【クエストクリア!】



 時間内に『香石』を納品することが出来た

 過剰納品することで店主に利益を発生させ且つ『香石』を必要なものに渡すことが出来た



 クリアランクS



 クリア報酬:15万ガル 称号【魔獣使いテイマー】の獲得方法』







 ということで、雄太たちは留守にするってことで、お祝いを送ることに決めた俺。

 ヴィルさんたちにブリの照り焼きを大量に作ってから、家に帰ってログインした。くるくるお麩を入れた油揚げの味噌汁も作りましたとも。日暮さんは「五臓六腑に染みわたる」と言いながらおかわりまでしていたけど、それって味噌汁に使う言葉なのかな。



 昨日まとめた荷物をインベントリにしまい込んだ俺は、急いでギルドに向かった。

 バイトの日はログイン遅くなるからな。ヴィデロさんの顔も見たいけど、遅い時間に行くのは迷惑じゃないかなと思うと躊躇う。仕事が体力使うものだからゆっくり休んでほしい。

 プレイヤーって夜の方が多いなあ、と思いながら人ごみを抜けてギルドの中に入る。

 まっすぐ受付のあるフロアに行って、列に並ぶ。このフロアの隣にある食堂では宴会が始まっていたりとかなかなか賑やかな声が聞こえてくる。楽しそう。

 並んで順番を待っていると、その食堂の方から、「あ、マック!」と声を掛けられた。

 視線をそっちに向けると、昨日助けてくれた人が手を振っていた。双剣の人の肩にはしっかりとリザが乗っている。そして気付く。皆がリザに注目してるせいか、その人たちに声を掛けられた俺にも視線が集まっている。



「用事が終わったら一緒に飯食わねえ?」

「喜んで」



 ご飯を誘われてしまって、俺は一も二もなく頷いた。こういうところで皆で食べるご飯も楽しいよね。

 わくわくしながら待っていると、すぐに俺の番になった。

 俺はカウンターに荷物を載せて、「辺境の『高橋と愉快な仲間たち』まで送ってください」と頼む。

 お金を払って紙を書いて、それから「依頼書についてなんですけど」と話を切り出した。



「追加のアイテム補充に来たのと、金額支払い、あとは納品物の受け取りに来ました」

「かしこまりました」



 受付の人はすぐに計算をしてくれて、俺は無事追加のお金とアイテムをギルドに渡すことが出来た。皆頑張って『謎素材』集めてください。楽しみにしてます。

 そして納品物はたくさんあるからあとで倉庫に取りに行ってくださいと整理券みたいなのを渡された。それを受け取っていそいそと食堂に向かう。

 三人が座っていた席は4人掛けで、丁度一人分椅子が空いていた。すでに皆の前には酒が置かれていて、食べかけのつまみのような肉の山が載っている。



「好きな物頼めよ。奢ってやる。ついでにフレ登録してくれると嬉しい。門番さんにほんと感謝」

「え、ヴィデロさんがどうしたの?」



 剣士さんの言葉に首を傾げると、今日もう少しだけ詳しく場所を教えて貰ったらしく、とうとう試練の神殿の場所を見つけたらしい。今日は一旦街に戻って、装備を整えて後日挑戦するんだとか。



「ホント門番さんには感謝しかねえし、マックにも感謝。俺ら名乗ってなかったよな。『リターンズ』っていうパーティーのリーダー、陽炎かげろうだ」

「『リターンズ』って聞いたことある……! ランキング上位陣に名前を連ねてるよね。え、俺、そんな有名人とフレンドになっていいの?」



 陽炎さんが名乗ってくれた名前が、俺でも知ってる上位ランクのプレイヤーだったということに驚いていると、陽炎さんは「俺はそこまで有名人じゃねえよ」と苦笑した。

 そこから次々名乗ってくれる。



「俺はエリモっていうんだ。襟裳岬から取ったの? っていつも聞かれるんだけど、その通り、襟裳岬のエリモだ」

「俺は魔法使い。ユーザーネームが魔法使いだから間違えるなよ。職業も魔導士だけど。名乗るといつも「だから職業じゃなくて名前を教えて」とか言われるけど、「魔法使い」っていう名前だから」

「『リターンズ』っていう名前も、あんまりにも俺らが死に戻りするから、それから付けてみた。もちろん今は全然しないけどな」



 あれかな。何かに跳びぬけてる人ってどこかセンスがおかしいのかな。何でそんな面白い名前を付けるんだ。

 ちょっとした興奮は皆の言葉で笑いに変わった。



「門番さんも神殿クリアしてきたんだろ。もしかして門番さんってレベル200越えてるのか?」

「こっちの世界の人たちにレベル概念はないよ。でも、『高橋と愉快な仲間たち』と同じくらい強いから、強いと思う」

「そういえばマックはあいつらのフレなんだっけ。あいつら強いよな。もう神殿もクリアしたって言ってたし。ってことは門番さん相当強いってことか……」



 もちろん大強おおつよです。最強と言ってもいい。

 すべてにおいて最高だよ。

 思わず顔をにやけさせると、三人が苦笑した。

 その後リザの話で盛り上がり、フレ登録もして、宿に戻るという『リターンズ』と別れた。

 俺が食べた分は本当に奢ってもらってしまったので、リザの好きそうないい香りのする聖水茶のセットをティーポットごと渡してみた。リザお茶は飲むかな。でも『香石』並みにいい香りなんだよあのお茶。聖水はもちろんランクSのやつ。





 ギルドの裏手に回って倉庫から『謎素材』を受け取って表通りに戻ってくると、丁度ヴィルさんたちがギルドに向かうところだった。

 ご飯の後にログインしてだろうから、これから皆でクエストでも受けるのかな、と思ってそっとフードを被ると、赤片喰さんが中学生の一人の頭をわしわしと搔き回したのが目に入った。



「だあから、あの連携はもっとゆずが素早く攻撃しないと成功しないんだって」

「だって装備が重くて動きが遅くなるんだよ」

「適正筋力に合ってない鎧なんだろ。買い替えろ」

「でもこれかっこいいじゃん?」

「じゃあ筋力付けろ」

「赤ちん無茶苦茶言うじゃん」

「赤ちん呼ぶな! っつうかてめえも魔法おっせーよ。詠唱覚えろ」

「うわ、こっちに飛び火した」

「赤ちん、ちょっと口うるさいぞ」

「ヴィルてめえ!」

「あはは、赤ちん何中坊に本気になってんのよ」

「あけびさんはもっと本気になった方がいいとおもうー」

「ちょっとミルク生意気ー」



 なんだか和やかに話し合いながらギルドに入っていた7人を見て、俺は狐につままれたような気分になりながらギルドを後にした。

 前に見た冷たいようなギスギスしてるようなそんな空気はほぼなかった。

 あれが運営マジックかな。

 それとも赤片喰さんってああして誰とでも馴染める人だから中に入って色々調べたりしてるとか。

 ヴィルさんも物怖じしないし人当たりはすごくいいからなあ。

 とりあえず心の中で頑張れ、と応援しながら工房に帰り着いた。







 さらっと読んだだけだったけど、クラッシュからのクエスト、クリア報酬がなんだかおかしかった。

 称号【魔獣使いテイマー】って。なんかあれかな。諧調薬師と同じようなものかな。ジョブ枠二つ埋まってるのに諧調が出た時驚いたけど、レベルがそもそもないし何が何だかわからなくて結局レガロさんに教えて貰っちゃったし。今度エリモさんと霧吹さんに聞いてみよう。

 小さくてチロチロと舌を出すリザを思い出して顔を緩めながら、俺は手元の素材が黒くなっていることにようやく気付いた。そろそろたまりにたまった失敗作の使い道を考えないとな。

 失敗作を片付けながら溜め息を吐くと、気合を入れ直してもう一度調薬を再開した。







 ランクが一つだけ上がった蘇生薬をひたすら作って、インベントリにしまい込む。

 そういえばヴィデロさん、結構薬を使ってくれてるみたいだから補充しとかないと。あとは前にヒイロさんにもらったレシピも作ってみたいし。

 頂き物の上級調薬キットが三個になってからは、ハイポーションが更に大量に作れるようになったおかげで、調薬時間がかなり短縮された。まだヒイロさんレベルには全然届かないけど、大分レベルも上がったし。

 順調に上がっているジョブレベルを見て、その後パーソナルレベルを見て、まだ三桁に届いたばっかりの自分のレベルに溜め息を吐く。ほんとはもっとパーソナルレベルを上げた方がいいのは知ってるし、自分の強さでレベル100超えになること自体が凄いってこともわかってる。でも一人ではもう上げられる状態じゃないし、そろそろ本気で火力を求めた方がいいのかも。

 調薬キットをしまい込んだ俺は、ニコロさんにもらった短剣スキルの本を取り出した。

 前は覗いた程度じゃ覚えもしなかった数個のスキル攻撃がしっかりとスキル欄に並んでいる。これがもしかして伴侶補正なのかな。ってことはヴィデロさんも俺のスキルの何かを使えるようになってるってことかな。調薬かな、それとも感知とか採取系とか。色々スキルがありすぎて全然見当がつかないよ。

 それに俺がここまでレベルを上げられたのは、ヴィデロさんが一緒に歩いてくれて魔物を倒してくれたからなんだよな。一緒に歩いているだけでパーティーを組んでいる状態になってるみたいで、しっかりと経験値を貰えるのがありがたいやら申し訳ないやら。

 その気持ちを行動で表すために、おれは出来立てほやほやの蘇生薬をヴィデロさんのカバンに詰め込みに行くことにした。

 何てのは建前。

 本当は会いたかっただけ。

 ログアウト直前の夜中に近い時間だけど、行ってもいいかな。



 
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