これは報われない恋だ。

朝陽天満

文字の大きさ
上 下
485 / 830

482、『ミスマッチ』の連携

しおりを挟む

「マック、ヴィデロ、お前ら一体どうしたんだ?」



 マルクスさんが近くに寄ってきて、顔を覗き込みながらそんなことを訊いてくる。



「さっきから様子がおかしいぞ。なんかあったのか。さっき言ってた厄介なやつらがいたのか?」



 俺、そんなに顔に出てたのかな。

 いつの間にやらスノウグラスさんもマルクスさんの隣に立って、心配そうな顔をしていた。



「絡まれたわけじゃないんだ。ただ……」



 言い淀む俺に、スノウグラスさんが「何かあったんだね」と溜め息を吐く。



「ジャル・ガーさんを、面白ずくで壊すプレイヤーがいて……」



 ギュっとヴィデロさんの手を握りながらポツリと零すと、タタンさんが息を呑んだ。



「ジャル・ガーって、石像の?」

「ジャル様は無事だったのか!?」



 タタンさんが身を乗り出すように訊いてくる。その声は半分咆えているような感じだった。



「落ち着けタタン、マックがすぐに治したから」

「そ……か。マック、恩に着る」



 ホッとした顔をしたタタンさんは、でもすぐにまた険しい顔をしてグルグルと威嚇の音を発した。



「それにしてもひでえことをしやがるやつもいたもんだ。そいつら、もう二度と石室に入れねえぜ」

「それならいいけど……ジャル・ガーさんに攻撃されて死に戻ったみたいだから、報復とかしにいったらどうしようって。それに、そのせいで詰所に皆が無事だったこと伝えに行くの忘れちゃって」



 入れないならいいんだけど、だけど。それでも。

 と俯きそうになると、けんたろさんが「任せろ!」と声をあげた。

 そして宙に向かって指を動かし始めた。



「そいつら晒しとくわ。特徴を教えてくれ。それと、誰か運営に通報」

「わかった」



 スノウグラスさんもすぐに指を動かし始め、俺は聞かれるままにあの時の5人の特徴を教えた。



「よっしゃ。獣人スレとレッドカードスレに晒しといたぜ。そいつらのせいで俺らまで獣人の所に行けなくなったらほんと最悪だし。ほんとごめんな。ジャル・ガーってあの狼の石像だろ。俺らも何度か見に行ったよ。本も買ってる。その石像を壊した奴らはきっと本とか見ねえタイプなんだろうな。何にしろ、ギルドにもあとで伝えねえとな」

「運営に通報しておいた。石像とは言っても、生きているんだろう。それならきっと、アウトだから」



 けんたろさんとスノウグラスさんの連携で、すぐに5人は通報された。

 運営からもメッセージが返って来たらしく、スノウグラスさんはすぐに読み上げてくれた。



「運営の話だと、ブラックリスト入りするって。ただ、IDとかは把握できないから、まずは調査をして精査するって。その間にまた何かあったらすぐに知らせて欲しいそうだよ」

「わかりました……ありがとうございます」

「スレの方もなかなか盛況だぜ。トレにそれっぽい5人組がいるって」



 その言葉に、マルクスさんが他の門番さんたちと「あいつらじゃねえか?」「そうかもな」と頷き合っている。

 もしかして、門番さんって結構皆の顔を把握してるのかな。



「俺らの方でも様子見てみるよ。そういうやつって大抵は街の奴を人と思わねえから、何かしでかすんだ。お決まりのパターンだよな、ヴィデロ」

「ああ」



 頷き合う二人に、そういえば俺が初めてヴィデロさんとちゃんとした会話をしたのも、プレイヤーに怪我させられたヴィデロさんを治した時だったなと思い出す。

 その時の怪我した場所をそっと見ると、繋がれた手を持ち上げられて、指先にキスされた。

 途端にスノウグラスさんの仲間たちから歓声が上がる。



「このまま狩をしたらすっげえレアアイテム貰えるんじゃね?」

「だな」



 頷き合っているヨロズさんとけんたろさんに、スノウグラスさんが苦笑する。



「なあなあノワール。ノワールも戦いたいか?」

『眷属となった我は強いぞ。主の魔力をいただくからな』

「え、俺の魔力貰われちゃう系? ってことはすぐ魔力なくなるってことか?」

『主はたまに我に回復魔法を掛けてくれたらそれでいい』

「怪我してなくても?」

『ああ』



 小さなノワールが尻尾を思いっきり振りながら円らな瞳を霧吹さんに向ける。

 ノワールの言葉に、霧吹さんがじゃあ、とすぐに回復魔法を掛ける。途端にノワールが嬉しそうに鳴いた。





 スノウグラスさんたちは今、砂漠都市から先でレベル上げをしていたらしい。

 何でトレの近くまで戻って来たかというと、神殿を探していたんだそうだ。

 ここらへんじゃないか、とヨロズさんが当たりを付けて、山の麓を探していたんだそうだ。その時にノワールを見つけて、助けに入って、でも相手の魔物がユニークボスだったらしく、苦戦していたところでヴィデロさんたちが加勢したということだった。神殿。すぐ近くじゃないか。いいところ突いてるよ。

 というわけで、トレの街じゃなくて、外に置き去りにされたブロッサムさんとブロスさんと合流すべく、洞窟のすぐ外に転移することになった俺。

 10人と1匹にくっつかれて魔法陣を描くと、すぐ近くが目標地点なのに面白いくらいMPが減った。





 森の中に出た俺たちの目の前には、マルクスさんの乗っていた馬がいた。

 俺たちを見た瞬間ヒヒーンと甲高く嘶く。



『この者は賢い。我らの居所を友に伝えている』



 ノワールが目の前の馬を見ながら感心したように目を細める。その顔、眠そうにしか見えないけど。

 馬の声に導かれるように、すぐに遠くから蹄の音が聞こえてくる。



「マルクス! マック!」



 すぐに姿を現したブロッサムさんとブロスさんは、俺たちの姿を見て、破顔した。



 ヴィデロさん、タタンさん、名前を知らない門番さん二人、そしてマルクスさんを次々「無事でよかった」とハグしたブロッサムさんは、怪我がないか調べたみたいだった。



「スノウグラス、久しぶりだな。元気そうで何よりだ」

「はい。その節はお世話になりました」

「俺が世話をしたんじゃねえ。マルクスが休暇中に好きで世話したことだから、俺にはそんなこと言わなくていいぜ」

「はい」



 スノウグラスさんが顔を綻ばせているのを見て、霧吹さんが訝しがる目でスノウグラスさんを見つめた。そして、隣にいたけんたろさんに、「あいつ何者だ?」と声をかけていた。



「あれだ、薬師マックと同類だ。俺ら奇跡とパーティーを組んでるんじゃねえか?」

「門番さんズとあんなに仲いいなんて知らなかったぜ」

「薬師マックじゃなくても仲良くできるってことは、俺らも街の奴と友達になれるってことじゃねえ?」



 やってみる価値あり! と皆の心が一つになったところで、スノウグラスさんの手刀の突っ込みが入った。

 「俺は奇跡じゃないし、普通のプレイヤー」と言ったところで、全員が生暖かい目でスノウグラスさんを見ている。連携バッチリ。



「スノウグラスはいい仲間に巡り合えたんだな」



 マルクスさんがその様子を見ていて、苦笑しながらスノウグラスさんの肩に腕を置く。



「はい。最高の仲間で、毎日楽しいです」

「よかったぜ。お前の笑った顔を見るのもなかなかいいもんだな」



 スノウグラスさんを覗き込むようにしてそんなことを囁くマルクスさんには、普段のふざけた態度からは想像がつかないような大人の色気というものが醸し出されているように見えた。



「マルクスさんって、スノウグラスさんを落とそうとしてる?」



 俺の呟きに、ヴィデロさんが首を横に振る。



「あの距離がマルクスの標準なんだ。その距離に惑わされてマルクスに告白して付き合いを始めても、他の奴にもアレをやるもんだから、浮気者とか私一人じゃないのねとかフラれるんだ、あいつは。でも、本人は決して落とそうとしているわけじゃなく、あれが自然体なんだ」

「うわあ」

「別れてもすぐに次が出来るのは、そのせいだ。マルクスから告白したことは、確か一度もないはずだ」

「それはそれで、難儀だね……不憫というかなんというか」



 でも、わかるなあ。自分の彼氏だと思った人が、あんなに近い距離で他の人と話をするのは、確かに嫌だもん。

 もしヴィデロさんが他の人とああやって話すところを想像したら、絶対俺もやもやしそうだ。



「またトレに来いよ。いつでも歓迎するぜ、仲間共々な」

「はい。ぜひ。マック君のハイポーションもまた買いたいですし」



 マルクスさんの言葉に頷くスノウグラスさんは、マルクスさんの色気なんて全く気付いてないように笑顔で答えていた。

 皆はここから俺たちと反対方向に向かうんだ。

 俺はヴィデロさんにちょっと待ってて、と声をかけて、スノウグラスさんたちに近付いた。



「出張薬師です。最高級の回復薬はいりませんか。フレンド価格で提供します」



 そう言って、霧吹さんたちにフレンド申請を飛ばす。

 驚いた顔をしながら、皆すぐに承認してくれた。



「これは最近ようやく作れるようになったハイパーポーションランクA。回復量はだいたい700~800くらい。マジックハイパーポーションは残念ながらまだランクBなんですけど、MP回復は600くらい」



 俺が次々並べていくと、皆が息を呑んでアイテムを見下ろした。

 蘇生薬ももう解禁かな、と並べていく。そういえば新しいアイテム、ヴィデロさんのカバンに詰め込まないと。

 皆が大騒ぎしながらアイテムを買ってくれたので、満足していると、スノウグラスさんが腕を伸ばしてきた。



「マック君、何度もありがとう。俺も、もし君に何かあったら必ず力になるから、すぐに声をかけてくれ」



 そう言いながら、スノウグラスさんがハグをしてくれたので、俺も背中に腕を回す。

 きっとさっきずっと変な顔をしていたから元気づけてくれているんだな、と心が少しだけ浮上する。

 ヴィデロさんは苦笑しながら俺を見ていた。

しおりを挟む
感想 508

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~

柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」  テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。  この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。  誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。  しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。  その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。  だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。 「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」 「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」  これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語 2月28日HOTランキング9位! 3月1日HOTランキング6位! 本当にありがとうございます!

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

学園の俺様と、辺境地の僕

そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ? 【全12話になります。よろしくお願いします。】

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

処理中です...