これは報われない恋だ。

朝陽天満

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476、無意識に新薬作っちゃった

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「おい、兄ちゃん。そっちの酒もくれ」

「はいよ。こっちはそっちより辛いぜ。甘いのがいいなら向こうにあるやつだな」

「お、俺甘いの飲んでみてえ」



 戻ってみると、酒盛りが始まっていた。

 さっきまでは警戒心バリバリだったジャル・ガーさんと赤片喰さんが膝を並べて飲んでいる。

 あの後、ヴィルさんはまたしても用意していた酒を大量に送ってきたらしい。どれだけの量を一気に送れるか、みたいな実験と称して。

 ポカーンと皆を見下ろしていると、ケインさんに手をとられて、あれよあれよという間に隣に座らされた。



「マックも成人だろ? ほら、飲めよ。ほんと美味いなあ。こんな酒があるなら、俺もマック達の世界に行ってみてえ。座標教えてくれねえ?」



 コップを握らされて、酒を注がれて、ケインさんにチン、と乾杯される。

 座標って跳べるわけないと思うんだけど。もしほんとに跳んじゃったら大変なことになりそうだから、座標知らなくてよかった。

 すっかり出来上がってるケインさんに手をとられて、コップを呷らされる。

 流し込まれたのは、辛口日本酒。

 え、待った、これ酒初心者にはきっつい!

 果実酒なんかとは全く違う味と香りに、その一口でうっとなる。

 それをケインさんが陽気に、でも強引に飲ませてくるものだから、結局コップ一杯分俺の腹に入って行った。



「……くらくらする」

「なんだマック、コップ一杯でもうだめか。弱いなあ」

「日本酒、だめ、絶対……」



 気持ち悪くなって、さらに注ごうとするケインさんを手で止める。

 何この日本酒。強い。っていうか美味しいとかわからない。

 それよりもこのくらくらと気持ち悪さを何とかしたい。

 俺は一気に回った酔いを消し去ろうと、インベントリを開いた。

 バッドステータスには『酩酊』としっかりハッキリ表れている。うん。知ってた。



「……ドランクポーション、ない。作る素材も、持ってない……」



 俺はすくっと立ち上がると、魔法陣を描いた。

 どうにもリバース発射準備オッケーなこの気分が我慢できそうもない。

 魔法陣を描き終わった瞬間、俺は工房に跳んだ。

 でもその跳んだのが悪かったのか、気持ち悪さがピークに。

 洗面台に駆け込んで、涙目でリバースしようとしたけど、口からは何も出てこなかった。

 もしかして、これも排泄関係にくくられてたりする……?

 出せないせいで気持ち悪さがピークの状態で、俺はフラフラと工房に向かった。



「ど、どらんくポーション……」



 倉庫のインベントリから必死で探しても、ない。

 どこに置いたんだっけ。作り置きなかったんだっけ……。

 えずきながら涙目で調薬キットを取り出して、くらくらする頭で素材を用意していく。



「素材、なんだっけ」



 レシピを開いてみても、くらくらする頭には文字が入ってこず、必死で記憶を呼び起こす。

 倉庫のインベントリから色々出してきて、気持ち悪さピークと戦いながら、俺は調薬を始めた。



 最初の二個は黒くなり、用意した一つの素材がなくなったので、また倉庫から取り出す。

 グツグツしていると、いい感じでオレンジ色に変化した。

 あれ、これ、こんなオレンジ色だったっけ。



「ここで、さらにグツグツさせると、綺麗な水色に……水色?」



 どう見ても、目の前で変化したのは、赤に近い色だった。



「俺、間違えた……? う……っ、気持ち悪……」



 もうなんでもいい、と出来上がった物を瓶に移す。

 濃いオレンジ色というか赤に近い色の液体は、瓶三本分に収まり、俺は口を押えながら瓶を手に取った。



「か……鑑定が……う」



 鑑定眼を使うと、『倦怠感解除薬ウィジーポーション』と表された。



「ち、違う。新しいの嬉しいけど、俺の欲しいのと違う……!」



 出来上がってしまったものをインベントリにしまって、俺は吐き気と戦いながら、もう一度調薬したのだった。

 吐けたら楽なのに……! スッキリできないのって、辛い……ううう。





「日本酒は飲まない」



 俺は学校で雄太にそう宣言した。

 目の前でご飯を食べている雄太と増田が何だ何だという顔をしている。

 だからと言って日本酒をあっちに送ったとは言えなくて、ただ「飲まされた」とだけ答えた俺に、雄太と増田は真顔で「身長止まってから飲め」と忠告してくれた。

 この身体では飲んでないから! でも成長期終わるまではお酒は飲むのやめとこう、と少しだけ心に誓った俺だった。







 



 その日ログインした俺は、とりあえず『泥酔解除薬ドランクポーション』をわんさか作って、インベントリに常備していることにした。すぐに飲めてこその薬だよね。 

 そして、昨日何の偶然か、新しく作れてしまったアイテムを取り出す。

 グルグルする頭で素材を取り出したから、残り一つしかなかった素材を使っちゃったのは痛い。

 っていうか倦怠感とか感じる時があるのかな。赤い液体をタプンと揺らしながら、俺は新薬をしげしげと見つめた。

 レシピを開いてみると、獣人の村でクエストしたときに偶然手に入った素材が使われていて、どこから採ったかなんて覚えてなかった。



「師匠なら知ってるかな」



 思い立ったが吉日、とばかりに、俺は早速洞窟に跳んだ。

 ジャル・ガーさんの所に入ると、そこにはプレイヤーが数人遊びに来ていた。



「あ、おにいちゃん!」



 ユイルもいる。

 ユイルは女性剣士の腕の中にいたけれど、俺を見た瞬間飛び跳ねてこっちに来た。



「あのね、みんなで僕の村にいこうっていってたの! おとうしゃんがね、案内するんだって!」



 嬉しそうなユイルは、すっかり人族にも慣れたみたいだった。

 俺の腕の中で、おにいちゃんもいくよね、とワクワクした顔をするユイルに「もちろん」と答えると、ケインさんが近付いてきて、「よ」と手を差しだしてきた。



「ほら、ユイル。もうお家帰るから、父ちゃんの所に来な」

「ぼくおにいちゃんの所がいいな。おにいちゃんがなでてくれるととっても気持ちいいの。おとうしゃんもなでてもらってみる? すっごくきもちいいんだよ」



 おにいちゃん、おとうしゃんもなでて、という可愛いお願いを断ることは出来なくて、俺は手を伸ばして、上の方にあるケインさんの頭を撫でた。もし屈辱だったらごめんなさい。

 ユイルにするみたいに、ふわふわの毛を撫でて、耳の付け根辺りをぐりぐりして、毛並みを堪能していると、ケインさんが「マック、もう勘弁してくれ……」と弱り切った声を上げた。



「気持ち良くなかったですか? ごめんなさい」

「いやいや、違う。なんかダメにされちまう手つきだったから」



 俺がしょぼんとすると、ケインさんは慌ててそう言って否定してくれた。



「ごめんなさい、あんまりにも可愛いから、スクショ撮っちゃったわ」



 さっきまでユイルを抱いていた女性剣士さんが声をかけて来たので、送ってくださいと頼む。ユイルとツーショット嬉しい。 

 すぐに送ってもらったスクショにはケインさんの頭を撫でる俺が映っていた。撫でてもらってる時のケインさんがまんまユイルと同じような顔をしていて可愛かったので、俺はありがとうとお礼を言った。



「いいなあ、仲良くて。私もそれくらい仲良くなれるかな」

「ユイルを抱っこできるなら大丈夫ですよ」

「ね。ぼくおねえしゃんだいしゅき」



 にこっと笑うユイルに蕩けた女性剣士は、でもダメ、とユイルに真顔で忠告した。



「ユイルちゃんが好きって言っていいのは、この狼の石像さんだけよ」



 女性剣士の言葉に、ユイルとケインさんが動きを止める。



「え、何で、あんた、何言ってくれてんだよ。そんなこと言ったらもうユイルが『お父さん大好き』って言ってくれなくなるじゃねえか!」

「ぼ、ぼく、だいしゅきなもの、だいしゅきっていっちゃダメなの……?」



 二人に同時攻撃されて、女性騎士は慌てて「え、違う違う、お父さんはいいのよ。でもやっぱりユイルちゃんにはこの狼さんと幸せになって欲しいから!」と弁明していた。

 この人の気持ちは痛いほどわかるんだけどね。



「ぼく、いっぱいだいしゅきだといっぱいしあわせなんだよ。きっとえいゆうもおんなじきもちだよ。えいゆうもきっといっぱいしゅきなものがあるんだよ。ぼくね、それがうれしいの。だからね、おねえちゃん。しゅきって、いっぱいいいたいの。いっぱいしゅきになりたいの。だめ?」

「……だめじゃないわ。お姉ちゃんが間違ってた……ごめんね」



 結局最後はユイルが女性剣士さんを説得して終わっていた。

 さすがユイル。

 その女性剣士も無事獣人の村に連れて行って貰うことが出来て、俺も便乗してケインさんにくっついた。

 村に着いた俺はユイルにお菓子をそっと渡すと、ヒイロさんの所に向かった。

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