これは報われない恋だ。

朝陽天満

文字の大きさ
上 下
474 / 830

471、聖短剣スキル

しおりを挟む

 ペラペラとページをめくって中を確認しても、ほとんどが白紙で、もしかしたらこれの素材は大陸でしか手に入らないのかな、なんて思ったりした。誰の魔力で作られた本なのかは滅茶苦茶気になるけど、でも凄い物が手に入ったなあ。



「それにしても、クリア報酬の『聖短剣スキル』ってなんだろ」



 ポツリと呟くと、経典を開いていたニコロさんが顔を上げた。



「そういえばマックさんも聖剣を持っていたんでしたね。後ほど教会の方に顔を出していただいてもよろしいですか? 最近ようやく建物の中を片付けることが出来まして。地下にあった隠し部屋から色々な物が出てきたのですよ。もしかしたら前の方は処分しようとして地下にまとめていたのかもしれないですが、捨てていい様な内容の物ではなくて」

「はい。ぜひうかがわせてください」



 ニコロさんの言葉を聞いて、俺はすぐさま返事をした。

 なんかすっごいお宝とかありそうでわくわくする。

 でも、と一瞬で思い直す。あいつは金の亡者っぽかったから、きっと金目の物じゃなくて、古書とか古びた何とかとかそんなのが出てくるのかも。あ、やっぱりワクワクする。



「高橋たちはこれからどうする。俺たちはまだ騎士団の方の用事があるから残るが。クラッシュが先見の魔導士に連れていかれてしまったので、帰るとしたらギルドの転移魔法陣か?」

「ついでだからここら辺歩いてみるっていうのもいいかもな。たまにはゆるーい戦闘もありだろ」



 雄太が鼻歌を歌いだしそうな勢いで言うと、勇者がニヤリと笑った。



「そのゆるーい戦闘で腕が鈍ったら、どうなるかわかってるだろうな?」

「勇者無双の始まりだろ。それはそれでおもしれえよな。でも古い鎧の時に頼むな。さすがにさっき貰った鎧がボロボロになったら俺泣くわ」



 勇者の脅しにも全くビビらずににこやかに言い返す雄太に、勇者はニヤリ笑いを苦笑に変えて、雄太の頭をガシガシと手で搔き回した。



「ほんっとお前は可愛くねえ弟子だよ」



 うわあ、勇者って本当に雄太たちを可愛がってるんだなあ、と俺は勇者の苦笑を凝視した。なんていうか、歳の離れたお兄さんって感じがして。

 すっごくいい師弟関係が築けているんだろうなっていうのが、こういうところで見て取れるのがなんか微笑ましいというか。



「ニコロ導師、宰相のおっさんに返事を催促してくれって頼まれてたんですけど」

「こらこらユキヒラさん、おっさんじゃないでしょう。わかりましたと伝えてください。手が空き次第かかりますから」

「了解です。助かります」

「私も、ユキヒラさんに色々してもらえて、とても助かります」



 うん。こっちも師弟関係がっつり築いてる。

 なんか俺もヒイロさんの顔見たくなっちゃったな。ってかヨシュー師匠は元気なのかな。村が違うと全然顔を見れないよなあ。

 ちょっと羨ましいなんて思いながら本をインベントリにしまっていると、ニコロさんに「行きましょうか」と促された。



「最近では私も美味しい聖水茶を淹れられるようになったのですよ。ごちそうさせてくれませんか。茶葉はモントさんが特別に栽培したものだそうです」

「師匠ありがとうございます!」

「ふふ、師匠ってマックさん、すごく懐かしい気がしますね。最近時間が経つのがとても早くて」



 ニコロさんは俺にとっても師匠だった。立場が上になっても変わらず俺に優しくしてくれるニコロ師匠最高です。



「じゃあ俺は教会に行くから」



 雄太たちに声を掛けると、勇者が返事をくれた。雄太たちは「またねー」と気軽に手を振っている。



「これからは支払いはエミリを通して行うことで話はまとまったぞ。あと、ギルドに品物を持って行けばギルドの方でこっちに届けてくれるそうだ」

「そうなんですか。エミリさん、ありがとうございます」

「いいのよこれくらい。感謝はケインにね。こんな風に簡単に約束できるようになったのも、ケインのおかげだから」

「はい」



 皆に手を振って、騎士団の人たちに頭を下げてニコロさんの後ろについていこうとすると、後ろの方に立っていたソルブさんが「マック殿」と声を掛けて来た。



「恩に着る」



 いきなりそんなことを言われて、俺は「へ?」と変な声を出してしまった。



「ソルブさん?」

「マック殿が先見の魔術師を連れてきてくれなかったら、何も変わらなかった。勇者の言葉にすら王は渋い顔をしていたからな。ここに立っている騎士団は皆、マック殿に感謝している」

「でも、たまたまあの人を知っていただけで、もとはと言えばあの人を紹介してくれたのはヴィデロさんですよ。ヴィデロさんも、トレの門番になったばっかりの時に誰かに気晴らしにって連れて行ってもらって知り合ったって言ってたし。なので、特別感謝されるようなことって俺は何もしてないですよ」

「……そうか。では、ヴィデロにも感謝するとしよう」



 ソルブさんは少しだけ考えたあと、そんなことを言った。

 その言葉に嬉しくなって「ぜひ!」と盛大に頷くと、ソルブさんが小さく笑いを零した。







 鼻歌を歌いだしそうな軽い足取りで教会に向かう。

 隣を歩いていたユキヒラが鬱陶しそうな顔でこっちを見ているけど、気にしない。

 ヴィデロさんが認められるとほんとに嬉しいよね。顔も緩むよ。



「鬱陶しい」

「ありがとう」



 とうとうユキヒラが口に出してたけど、それすら誉め言葉に感じるよね。

 王様はアレだけレガロさんに言われて、どうなるのかな。夢ってほんとに見るのかな。どんな夢を見るんだろう。

 それとも先見をしちゃったから夢は相殺されたのかな。肝心なところを何も説明しないでレガロさんは帰っちゃったな。あとどうしてクラッシュの手にクリアオーブみたいなものが握られてたのかとか。

 わけわかんないから、あとで直接訊きに行ってみよう。



 バラの迷宮を抜けて教会の建物に入る。

 この道をユキヒラはひたすら往復したのか。結構謁見の間から距離があるよな。

 内部を歩いている信者に頭を下げつつ伸びをしながら歩いているユキヒラをチラ見する。

 そういえば最近ユキヒラの口からロミーナちゃんのこと全然聞かないけど、どうしたんだろう。諦めたのかな。

 流石にこれは聞けないよな。





 ニコロさんは教皇の間ではなく、隣の私室に俺たちを招いてくれた。

 お茶も自ら淹れてくれて、自ら祈って。教皇の手ずからのお茶って実はすごい物なんじゃないかな、なんて祈るニコロさんを見ながらちょっと思ったりした。



「どうぞ、マックさんのお茶のおいしさには到底敵いませんが、悪くはないと思いますよ」



 ニコロさんは俺たちにお茶を勧めると、自分は開きっぱなしの隠し扉の方へ歩いて行ってしまった。

 まあ、何もなくてだだっ広い部屋だったから、自室と繋がりの部屋として使うなら使い勝手もいいのかもしれない。

 茶器に口を付けながら隠れてない扉の方を見ていると、ニコロさんが数冊の古書を手に戻ってきた。



「あろうことか、聖典を捨てようとしていたようなのですよ。『廃棄』と書かれた一画に無造作に置かれていて、埃をかぶっていました。青くなって全てこの部屋に移したのですが、その中に聖剣にまつわる物が一冊ありまして。でも読んでみると、ユキヒラさんの剣ではありえないような表現をされていたりするんです」



 ほら、と一冊を開いて見てみると、そこには刃の長さが20センチほどの短剣を構えた人の絵が描かれていた。

 この大陸の文字で「刀身に魔力を集めて熱が発せられたら詠唱をする」と書かれている。



「これ、聖短剣スキルの本……?」



 ちょっといいですか、と他のページを捲ると、同じように短剣を構えた人の絵が描かれていて、やっぱり横に説明が載っている。詠唱がすべて聖魔法の言葉っぽい。

 これ、聖短剣用スキルの本だ。でもちゃんと戦闘できる聖短剣用だから、俺のルミエールダガーに使えるかはわからないけど。



「これを、マックさんに差し上げます。ぜひ活用してください」

「え、そんな、いいんですか? だって俺」

「何も返せていないのが、ずっと心苦しかったのです。またこういった物が出てきましたらお譲りしますので、たまにはここにも顔を出してくださいね」



 ニコニコと、でもちょっとだけ強引に、ニコロさんが俺の手にその聖典を乗せた。

 でもこれ、と口を開くと、ニコロさんは笑みを深くして、「役立ててもらえると、私が喜びます」と話を締めくくってしまった。



「ありがとうございます」



 返品は受け付けてくれなそうだったので、俺はお礼を言ってその本をインベントリにしまった。あとでじっくり読んで使えるスキルがないか調べよう。



しおりを挟む
感想 503

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

処理中です...