これは報われない恋だ。

朝陽天満

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460、トレの街中継の様子に悶えました……

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「皆お疲れ様。会場の様子は見るか? 各街の中継は終わったけどな」



 ヴィルさんの言葉に皆が頷くと、ヴィルさんは手近にあったキーボードを弄って、大きい画面のモニターに会場風景を映し出した。

 やっぱり建造物はセィの街を模している。去年はあのコスプレ司会、ヴィルさんがやったんだよなあ。と懐かしく思いながら見ていると、雄太が「そういえば俺、今年はランキングいくつくらいなんだろう」と呟いた。

 そういえばレベルランキングみたいな物もあったんだっけ。俺はレベルは高くなかったからスルーしたんだった。



「高橋君のレベルは確実に上位に食い込んでいるはずだな。多分トップ10に入ってるんじゃないか? 限界突破の神殿をクリアしたのがそこまで多いわけじゃないし、勇者に鍛えられてるしな」

「ってことは、俺も?」

「私たちもトップランカーなんだね!」



 増田とユイが嬉しそうに声を上げる。えええ、そんなに上位にいたんだ皆。素直に感心するよ。



「ADOの中の人ってレベルっていう概念はないんですよね」



 ブレイブの言葉に、ヴィルさんが頷く。



「それどころか、自分はどんなスキルを持っているか、なんてことも考えも及ばない。鑑定を使える人はいるのに、それは目に魔力を込めると詳細が見えるようになるだけだ、なんて認識だ。剣技を使っても、それは鍛錬したから出来るようになった、ただそれだけ。本当はスキルを体得しているはずなんだけどな。それをスキルとは認識していないし、レベルがいくつ、とか考えもしない。うちの弟なんか絶対に高橋君並のレベルをしている筈なのに、本人はそういうことを考えないんだ。不思議だよな。見たところ、うちの弟はレベル200超え、スラッシュ、魔法剣、索敵は絶対に体得しているはずなんだ。でも自覚はない。強くなったかも、それだけ」

「数値が見えるとかそういうのが関係してるんですかね」

「そうだろうな。俺たちだって、ここで「あなたはレベル15です」とか言われても、何言ってるんだろう、くらいにしかとらないだろ。それと一緒だ」

「そっか。なんか周りの人たち絶対色々なスキルを持ってるはずなのに、なんか勿体ない気がする」



 増田の呟きに、ヴィルさんは大丈夫と笑った。



「きちんと経験は身体に蓄積されているし、ちゃんと強くなる。だから、感覚でわかるんだろ」

「なるほど。どうもADOの中が人の動きと心情含めてすごくリアルすぎて、たまにゲームであることを忘れちゃって」



 増田が苦笑すると、ヴィルさんはフッと笑って「そうだな」と頷いた。



「それでいいんだよ。ゲームだからと好き勝手すると、すぐ垢BANされるから気を付けろよ」

「しません」



 はっきりとそういった増田の顔つきは、なんだかアバターであるはずの海里ととても似ている気がした。







 ようやくゲームフェスタ中継バイトが終わり、俺たちはヴィルさんの会社からの帰り道、いつも行くファーストフード店に寄ることにした。バイト代は手渡しで今日貰ったからね。



「それにしてもさっきの所、健吾君の就職先でしょ。すごいところに就職決まったんだね」

「それを言ったらユイたちだろ。全員同じ大学に受かるんだから。俺は多分同じところ受けても落ちる自信あるし」

「そうかなあ」

「いいじゃない、唯。健吾君だって行先が決まってるんだもん。それにほら、門番さんのお兄さんの会社なんだしね」

「そっか。うん。そうだね。それにしてもヴィルさん、どうして門番さんのお兄さんなの? 確かにそっくりだけど」



 ユイの素朴な疑問に、思わず雄太と二人顔を見合わせる。

 どう答えていいのか戸惑っていると、増田が声を出して笑った。



「あのさ、唯。俺たちだって色々身体を変えて遊んでるだろ。俺が海里として女キャラで、ミサトがブレイブとして男キャラで。話し方もなり切ってるだろ。それとおんなじだと思うよ。顔がそっくりだったから、「生き別れの弟か!」ってやってるんじゃないかな。俺だって俺そっくりの人が出てきたらやるかもしれないもん」

「そっか。そうだね。でも気になるのが、ヴィルさんもアバターの外見を弄ってないってことなんだよね。ここでもやっぱり門番さんそっくりなんだもん。弟とか言ってるの、すごくしっくりくるっていうか」



 二人の会話がすごく居たたまれない。ほぼ事実だから。だってヴィルさん、ヴィデロさんを見た瞬間「弟よ」ってやってたもん。

 無言でバーガーに食いついていると、雄太も何も言わずに三口くらいでバーガーを食べ終わっていた。

 その後二人で無言でポテト早食い選手権に移行するも、僅差で負け、無言のまま雄太はガッツポーズ、俺は項垂れたポーズを披露した。そして、2人のパントマイムは誰にも知られることなく終了した。と思ったらブレイブが俺たちを見て肩を震わせていた。見られてた。



「ほんと息ぴったりだよね、2人」

「まあな」

「まあね」



 返事も同時で息ピッタリなところを披露してしまった俺たちは、無言で見つめ合うと、第二ラウンドジュース早飲み選手権に移行した。





 皆と別れて家に帰って来ると、さっそくパソコンを起動してメールが届いてないか確認することにした。



「来てる! ありがとうございます!」



 ADO運営会社の担当の人の名前で送られてきたメールに深々と頭を下げてから、添付された動画を開く。

 ヴィルさんが紹介するトレの街の様子が、今度こそ音声入りで再生された。



 画面越しに見るエミリさんは、いつ見ても美人で、あとから出てきたクラッシュも画面映えする美形で、溜め息しか出ない。これが一瞬で街を焦土と化すことが出来る英雄さんとその息子なんて信じられない可憐な親子だよこれ。画面って何かのフィルターが掛かるんじゃないかな。そして次の場面を心待ちにしていると、クラッシュが堂々と転移の魔法陣を宙に描いた。瞬間、画面も一瞬で店の中から門の所に変わった。中継鳥、慌ててヴィルさんの肩にとまったよね。



『ようヴィル。今日はどうしたんだ? ほら、お兄様が来たぜ』



 ヴィデロさんと一緒に立っていたのはマルクスさんだった。

 ヴィルさんの姿が現れた瞬間、よ、と腕を上げて、反対の肘でヴィデロさんの鎧を突く。

 ヴィデロさんは面が下がっていたのでどんな顔をしていたのかわからなかったけれど、ヴィルさんが近付いてそっと顔をヴィデロさんの兜に近付けると、ヴィデロさんが兜を脱いでその綺麗な顔を画面に晒した。



「やっぱりかっこよかったよ! ヴィデロさん最高! 芸能人か何かかな!」



 画面越しに見たヴィデロさんは、とてもキラキラと輝いて見えた。っていうかかっこいい。他に言葉がないよカッコいい。好き。

 画面を食い入るように見ていると、ヴィルさんがこっちを指さした。それにつられるようにこっちに視線を向けたヴィデロさんが、照れたようにフッと笑って手を振った。



「あああああああ」



 思わず奇声を発する俺。

 尊いってこういう時に使う言葉ですね。思わず録画された物だというのも忘れて、俺はつられるようにヴィデロさんに手を振り返していた。



『トレの名物と言えば?』

『そりゃあ、こいつらのイチャイチャだろ。それが見れない日は物足りなくなってるっていうかなんて言うか』

『あははは。それはすごいな』

『最近ではこいつも気さくになったとか言われてて、街の人たちがわざわざ揶揄いに来るんだぜ』

『おい!』



 マルクスさんがメインで会話をしていて、ヴィデロさんに時折睨まれる。それを笑顔でかわしてマルクスさんも画面に向かって手を振った。



『トレはいいところだぜ。よろしくな。俺とかこいつとかみたいなかっこいいのが街の入り口を守ってるからよ!』

『自分でかっこいいとか言うなよ』

『だって俺、かっこいいだろ』

『そんなだからフラれるんじゃん』



 最後ズバッとクラッシュに突っ込まれて、マルクスさんは静かにフェードアウトしていった。いじけてヴィデロさんの後ろで座っている。鎧を着てても体育座りできるんだ、なんて変なところで感心しつつ、三人が並んだところで画面が終わった。

 なるほど。佐久間さんがくれた映像の中にマルクスさんが映ってなかったわけがわかったよ。じゃあ早速こっちのも見よう。とカバンの中からディスクを取り出す。

 セットすると、今度は画面にマルクスさんを背景にした三人の姿が映し出された。



『今日はマックは獣人の村に行ってると聞いたんだけど、危ないことはないんだな』

『高橋と愉快な仲間たちもいるし、何なら獣人たちも周りを固めているから大丈夫だろ』

『ならいいが』

『君のそれは過保護すぎじゃないか?』

『ほんとだよ。下手したら買い物すらついていきかねないんじゃないかな。前にマックに聞いたけど、マックが身に付けている装備品、ほぼヴィデロからのプレゼントなんだってさ』

『何。そうなのか。じゃあ君の装備品は俺がプレゼントしようか。結局は婚姻のお祝い品すら決めてないから』

『あいにく装備は間に合ってる』

『そうだよヴィル。ヴィデロね、この間長光に鎧を作ってもらってたよ。マックがデレデレになったから満更じゃないみたいでさ』

『クラッシュ!』

『ほんとのことじゃん』

『長光君はいい仕事するからな。そうか。俺が口を出す隙間すらなかったか。残念』



 二人が声を出して笑う中、ヴィデロさん一人が苦虫をかみつぶしたような顔をしている。これでも一緒に飲みに行くんだから仲いいよね。羨ましい。



『じゃあそろそろ戻るよ。今日はありがとう。天使も、店が開いている時間帯に迷惑かけたね』

『面白いから全然いいよ。宣伝してもらったしね』



 じゃあまた、と手を振って、2人はクラッシュの魔法陣で消えていった。そして映像も終わる。

 はぁ、堪能した。

 それにしてもこんな会話してたのか。

 いつも二人で寄ってたかってヴィデロさんを弄ってたのか。ずるい。俺も混ぜて欲しい。俺もヴィデロさんを弄りたい。

 よし、弄ろう。

 そう決めた俺はディスクを取り出して大事なもの引き出しにしまうと、ギアに手を伸ばした。

 今行けばきっと俺だけがヴィデロさんを弄れるから。

 ヴィルさんとクラッシュがいないから、一人占めしようそうしよう。



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