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458、蘇生薬の誤魔化し方
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『セィに切り替わったよ。お疲れ様。あとでもう一度そっちに中継が入るけど、今度はユイル君が獣人の村を紹介してくれるんだよね』
ヒイロさんの笑顔から、映像が切り替わったらしい。
でも俺の心臓はちょっとドキドキしている。
「高橋……どうしよう」
思わず呟くと、耳元で雄太の声が聞こえて来た。
『どうした』
「師匠が蘇生薬作れるよって滅茶苦茶爽やかにカメラの前で……」
俺が教えた瞬間インカムから雄太の大笑いが聞こえて来た。
『それ、アウトワードじゃない?』
「止める間もなく作り上げちゃって」
『それだけ大々的に紹介したなら、もうマックが作れること隠さなくてもいいから逆にラッキーなんじゃないか?』
「……でもそこまで持ってくのが難しいんじゃないかな」
海里とブレイブがそんなことを言うけど、でもさ。ADOって復活のアイテムが今までなかったんだよ。いきなり作れるよなんてなったらどうなるか。
「俺、ヒイロさんを師匠って紹介しちゃったから、下手したら人前に出れなくなるんじゃないかな……」
インカムオンの状態でポツリと呟くと、『任せろ』という声が聞こえた。
ヴィルさんだった。ヴィルさんもオン状態だったんだ。
『そっちの様子はログで流してもらっていたからだいたい把握した。こっちに中継が来たら俺が取り敢えずフォローするから大丈夫』
「ヴィルさん……」
こういう時はヴィルさんの言葉がとてつもなく頼もしい。
本人が目の前にいないのに、俺は「よろしくお願いします」と深々と頭を下げていた。
視界の隅にあるログからは、セィからの中継の様子が文字で流れてきている。街の方は街の方で、プレイヤーが街を紹介していた。
「師匠……なんてことをしてくれちゃったんですか」
調薬道具をしまい始めたヒイロさんに思わずジト目を向けると、ヒイロさんはだってよー、肩を竦めた。
「この間の騒ぎの後、マック達が帰っちまってから草花薬師どもにちょっと教える機会があったんだよ。そん時のあいつらの腕があんまりにも下手くそなもんでな。複合調薬は教えたんだけど、これが出来たら一人前、ってことで最終目標を『蘇生薬』にしたから、今更だろと思って。ちゃんとエミリの目の前でレシピを教えたからいいだろ。人族との友好の証にってことで、俺からの贈り物だ」
「師匠……」
ポン、と肩に手を乗せられて、ヒイロさんを見上げる。そこまで考えていてくれたんだ。
それにしても、レシピを草花薬師たちにすでに公開してたなんて初耳だ。あの時はつられ発情しちゃってさっさと帰っちゃったからなあ。神殿の場所も教えてたって聞いたし、あの獣人の村解放クエスト、どれだけ特典てんこ盛りだったんだよ。
俺なんか新果実も怖くて据え置き状態だっていうのに。
溜め息を吐いていると、ヒイロさんの家のドアがノックされた。
「今帰ったぞー」という仕事帰りの親父かとでも突っ込みたくなる雄太の声が聞こえたので、ヒイロさんと共に外に出ていくと、雄太たちが家の前に立っていた。
「ヒイロさん、とうとう『蘇生薬』発表しちゃったんですね。ってことで、売ってください」
「ヒイロさん、私も欲しいです」
「ヒイロさん、あの、おいくらですか?」
「ヒイロさん、言い値で買います!」
『高橋と愉快な仲間たち』が次々頭を下げていく。
それを見たヒイロさんは、ニヤリと笑って「言い値で買います」と言った雄太の肩に手をポン、と置いた。
「その言葉、偽りねえな?」
「も……もちろん」
雄太今躊躇ったね? 言い値で買うってはっきり言っちゃったね。ヒイロさんすっごい値を付けて売る気なのかな。
ドキドキしながら成り行きを見守っていると、ヒイロさんは4人を見回して「じゃあ」と口を開いた。
「お前らが活動してる辺りにある素材を俺にたくさん納品してくれ。珍しければ珍しいほど歓迎だ。お前ら壁の向こうで色々やってるんだろ? あっちは俺らも行けねえから、お前ら頼みなんだよ。マックじゃどうも頼りねえしな」
「俺ひとりで壁向こうになんか行ったら瞬殺されます」
「だろ。そうだなあ。とりあえず10種類。壁向こうでしか取れない素材を10種類納品してくれたら、『蘇生薬』ランクCを10本やるよ」
雄太たちから歓声が上がる。
早速インベントリから素材を取り出してヒイロさんに見せている雄太たちを横目に、俺はちょっとした不安が沸き上がってきた。
今、師匠ランクCって言ってましたよね。師匠が作る『蘇生薬』って、全部ランクSじゃないんですか? 手抜きでランクCも作れるってことですか?
視線でヒイロさんに問いかけると、それに気付いたヒイロさんは俺にウインクした。滅茶苦茶意味深なウインクなんですけど!?
ヒイロさんは雄太たちが取り出した素材をフムフムと手に取って、「これはいいね」「これも」「あ、今度これもっと取ってきてくれねえ?」とかより分け始めた。
素材を10種類手に持ったヒイロさんは、ニコニコと「ほら、マック」と俺に促した。
「お礼にとっておきのレシピやるから、蘇生薬」
「すぐに」
素材をゲットしたヒイロさんの代わりに、俺のインベントリからランクCの蘇生薬が雄太たちの手に渡った。
そして俺の手には、『脚力上昇薬』のレシピが握られている。
脚の力が一定時間強くなる薬らしく、足が速くなったり、跳ぶ距離が長くなったり、蹴りが強くなったりする物らしい。作ってみよう。
気付けば、雄太たちも俺もヒイロさんもホクホク顔で、しっかりとヒイロさんに丸め込まれていたということに後々気付いた俺。
チョロすぎだろ俺。
「あ、ほら、トレの中継始まったぞ」
雄太に突かれて、俺は慌ててログに視線を向けた。
とりあえずもう一度中継が入るまではやることがないので、そのままヒイロさんの家で寛がせてもらっている俺たち。
ユキヒラはオランさんの家に行ってしまったので、放置で。インカムも外しているらしく、声は聞こえない。何かあればチャットを飛ばしてくれって言ってた。
俺が淹れたランクSの聖水茶を皆で飲みながら、視線がログを追う。
黙り込んで瞳だけ動いている俺たちは、ヒイロさんから見たらきっとおかしいとは思うんだけど。ヒイロさんも気になるらしくて、近くにいたブレイブの瞳を覗き込んでいた。近い近いってブレイブが笑っている。
『さて、色々なところをランダムに紹介してきたけれど、次はトレだ。トレの街もいいところだよ』
会場の司会をしている人の言葉がログになって流れてくる。
きっと画面が切り替わったんだろうなと想像しながら次の言葉を待っていると、まずインカムからヴィルさんの声が聞こえて来た。
『やあ、トレは俺が案内するよ。プレイヤーネームヴィルだ。トレの名物と言えば、皆も知っていると思う、魔王討伐した英雄、エルフのエミリが住んでいる街だ。ここ、冒険者ギルドの二階で執務しているから、運がいい人は会ったことがあるんじゃないか? ちょっと呼んでみようか。統括、皆に紹介したいんですが、よろしいですか?』
ヴィルさんの言葉に少しだけ遅れるようにして、ログが流れてくる。
エミリさんも登場するんだ。知らなかった。もし会場で見ていたらちょっと興奮してたかも。
もちろんエミリさんの声は聞こえないので、ログで確認する。
『もちろんよ。いつも私の冒険者ギルドに貢献してくれてありがとう。あなたたちのおかげで、街は安全に暮らせるし、皆喜んでるわ。そうそう、もう皆はギルドの転移魔法陣を使用してくれたかしら。あれはね、獣人の技術なのよ。とうとう獣人の村への道が開き始めたようだし、これからも皆、この街を、この世界を楽しんで欲しいわ』
『統括、ありがとうございます。こんな具合に色々とアップデートをしたADOだけど、最近は運営が頑張っているらしく、実装されたものが大量にあるのは知ってるか? 転移魔法陣、獣人の村、そして、先ほど獣人の村からの中継で見せた『蘇生薬』もその一つなんだ。そして、限界突破の神殿。あれはもう見つけたか? ヒントは、特定の人、そうだな、俺の隣に立っている人とかから運がよければ貰えるかもしれない。頑張ってみてくれ』
うわあ、ヴィルさん、『蘇生薬』の存在もアップデートされた物の中の一つとしてあっさりと紹介しちゃった。これなら確かにそこまで大騒ぎにならない、かも。神殿でうやむやにしちゃってるし。
『次は統括の息子さんが営んでいる店に行ってみようか。移動の間、他の街の様子を見てくれ』
そこでトレの中継は一旦終わり、ウノの街の中継になった。
俺はホッと息を吐いた。
最近話題の事柄を、サラっとまとめて出したことで、話題を分散した。
「なんか、最近の重要なことをひとまとめで紹介されたな。これで、あとから公式ホームページなんかで蘇生薬の手に入れ方とか書かれたらそれで納得して終わりそうだな」
「ほんとに」
「よかったなマック。ってことで、蘇生薬ランク低くていいから売ってくれ」
スッとテーブル越しに雄太の手が出てきたので、その手をぺしっと叩いてから、俺はヒイロさんに向きなおった。
「師匠、蘇生薬、一本20万ガルくらいで売ってもいいですか?」
「あははは、ぼったくるのな。いいんじゃねえの?」
「ってことで、一本30万ガルで売ろう」
「さっきより上がってんじゃねえかよ! しかもヒイロさんが『ぼったくる』ってはっきりと言ってるし!」
「冗談だよ」
ウノの街のログでは、体験でログインした子供たちが街を歩いている様子が映っているみたいだった。確かにあそこなら間違って街の外に行ってもそれほど苦じゃなく魔物を倒せるしね。
プレイヤーは子供たちを案内した後、ジョブおっさんの紹介をしていた。エミリさんの旦那さんの相棒だというジョブおっさん、その人の特性を見抜くのはもう神業の領域に達してるからなあ。お茶を飲みながらログを見ていると、今度は砂漠都市に移動した。
サボテンが美味しいとか、ここが中心だとか色々紹介されている。サボテン、そろそろ仕入れないとなあ。
『俺は今、トレの雑貨屋さんに来ている』
インカムからヴィルさんの声が流れたので、心持ち背筋を伸ばす。
雑貨屋の紹介をしているヴィルさんの声を聴いていると、ヒイロさんの家のドアが開いて、ユイルとケインさんが入ってきた。
「あのねおにいちゃん、こんどは僕のばんだよね! おとうしゃんと一緒にこの村をあるくの!」
「そっか。ユイルなら絶対にちゃんとできるよ。応援するね」
「うん!」
俺の足に手を掛けて一生懸命話していたユイルは、ぴょこんと俺の膝に乗ると、僕頑張る! と気合を入れた。
「ユイルちゃん、お姉ちゃんの膝においで?」
ユイに誘われて、ユイルは俺の膝からテーブルをジャンプして、ユイの膝の上に落ち着いた。さすがの脚力。ユイの膝に収まったユイルはテーブルに向かって座ると、足をぶらぶらさせて遊び始めた。
「本当にちゃんとできるのか、こんな可愛いユイルを大衆の目に晒して大丈夫なのか、父ちゃんは心配で胃に穴が開きそうだよ……」
げっそりとするケインさんに聖水茶を淹れて差し出すと、ケインさんはそれを一気飲みして「っかー、効くなあ」と呟いた。
ヒイロさんの笑顔から、映像が切り替わったらしい。
でも俺の心臓はちょっとドキドキしている。
「高橋……どうしよう」
思わず呟くと、耳元で雄太の声が聞こえて来た。
『どうした』
「師匠が蘇生薬作れるよって滅茶苦茶爽やかにカメラの前で……」
俺が教えた瞬間インカムから雄太の大笑いが聞こえて来た。
『それ、アウトワードじゃない?』
「止める間もなく作り上げちゃって」
『それだけ大々的に紹介したなら、もうマックが作れること隠さなくてもいいから逆にラッキーなんじゃないか?』
「……でもそこまで持ってくのが難しいんじゃないかな」
海里とブレイブがそんなことを言うけど、でもさ。ADOって復活のアイテムが今までなかったんだよ。いきなり作れるよなんてなったらどうなるか。
「俺、ヒイロさんを師匠って紹介しちゃったから、下手したら人前に出れなくなるんじゃないかな……」
インカムオンの状態でポツリと呟くと、『任せろ』という声が聞こえた。
ヴィルさんだった。ヴィルさんもオン状態だったんだ。
『そっちの様子はログで流してもらっていたからだいたい把握した。こっちに中継が来たら俺が取り敢えずフォローするから大丈夫』
「ヴィルさん……」
こういう時はヴィルさんの言葉がとてつもなく頼もしい。
本人が目の前にいないのに、俺は「よろしくお願いします」と深々と頭を下げていた。
視界の隅にあるログからは、セィからの中継の様子が文字で流れてきている。街の方は街の方で、プレイヤーが街を紹介していた。
「師匠……なんてことをしてくれちゃったんですか」
調薬道具をしまい始めたヒイロさんに思わずジト目を向けると、ヒイロさんはだってよー、肩を竦めた。
「この間の騒ぎの後、マック達が帰っちまってから草花薬師どもにちょっと教える機会があったんだよ。そん時のあいつらの腕があんまりにも下手くそなもんでな。複合調薬は教えたんだけど、これが出来たら一人前、ってことで最終目標を『蘇生薬』にしたから、今更だろと思って。ちゃんとエミリの目の前でレシピを教えたからいいだろ。人族との友好の証にってことで、俺からの贈り物だ」
「師匠……」
ポン、と肩に手を乗せられて、ヒイロさんを見上げる。そこまで考えていてくれたんだ。
それにしても、レシピを草花薬師たちにすでに公開してたなんて初耳だ。あの時はつられ発情しちゃってさっさと帰っちゃったからなあ。神殿の場所も教えてたって聞いたし、あの獣人の村解放クエスト、どれだけ特典てんこ盛りだったんだよ。
俺なんか新果実も怖くて据え置き状態だっていうのに。
溜め息を吐いていると、ヒイロさんの家のドアがノックされた。
「今帰ったぞー」という仕事帰りの親父かとでも突っ込みたくなる雄太の声が聞こえたので、ヒイロさんと共に外に出ていくと、雄太たちが家の前に立っていた。
「ヒイロさん、とうとう『蘇生薬』発表しちゃったんですね。ってことで、売ってください」
「ヒイロさん、私も欲しいです」
「ヒイロさん、あの、おいくらですか?」
「ヒイロさん、言い値で買います!」
『高橋と愉快な仲間たち』が次々頭を下げていく。
それを見たヒイロさんは、ニヤリと笑って「言い値で買います」と言った雄太の肩に手をポン、と置いた。
「その言葉、偽りねえな?」
「も……もちろん」
雄太今躊躇ったね? 言い値で買うってはっきり言っちゃったね。ヒイロさんすっごい値を付けて売る気なのかな。
ドキドキしながら成り行きを見守っていると、ヒイロさんは4人を見回して「じゃあ」と口を開いた。
「お前らが活動してる辺りにある素材を俺にたくさん納品してくれ。珍しければ珍しいほど歓迎だ。お前ら壁の向こうで色々やってるんだろ? あっちは俺らも行けねえから、お前ら頼みなんだよ。マックじゃどうも頼りねえしな」
「俺ひとりで壁向こうになんか行ったら瞬殺されます」
「だろ。そうだなあ。とりあえず10種類。壁向こうでしか取れない素材を10種類納品してくれたら、『蘇生薬』ランクCを10本やるよ」
雄太たちから歓声が上がる。
早速インベントリから素材を取り出してヒイロさんに見せている雄太たちを横目に、俺はちょっとした不安が沸き上がってきた。
今、師匠ランクCって言ってましたよね。師匠が作る『蘇生薬』って、全部ランクSじゃないんですか? 手抜きでランクCも作れるってことですか?
視線でヒイロさんに問いかけると、それに気付いたヒイロさんは俺にウインクした。滅茶苦茶意味深なウインクなんですけど!?
ヒイロさんは雄太たちが取り出した素材をフムフムと手に取って、「これはいいね」「これも」「あ、今度これもっと取ってきてくれねえ?」とかより分け始めた。
素材を10種類手に持ったヒイロさんは、ニコニコと「ほら、マック」と俺に促した。
「お礼にとっておきのレシピやるから、蘇生薬」
「すぐに」
素材をゲットしたヒイロさんの代わりに、俺のインベントリからランクCの蘇生薬が雄太たちの手に渡った。
そして俺の手には、『脚力上昇薬』のレシピが握られている。
脚の力が一定時間強くなる薬らしく、足が速くなったり、跳ぶ距離が長くなったり、蹴りが強くなったりする物らしい。作ってみよう。
気付けば、雄太たちも俺もヒイロさんもホクホク顔で、しっかりとヒイロさんに丸め込まれていたということに後々気付いた俺。
チョロすぎだろ俺。
「あ、ほら、トレの中継始まったぞ」
雄太に突かれて、俺は慌ててログに視線を向けた。
とりあえずもう一度中継が入るまではやることがないので、そのままヒイロさんの家で寛がせてもらっている俺たち。
ユキヒラはオランさんの家に行ってしまったので、放置で。インカムも外しているらしく、声は聞こえない。何かあればチャットを飛ばしてくれって言ってた。
俺が淹れたランクSの聖水茶を皆で飲みながら、視線がログを追う。
黙り込んで瞳だけ動いている俺たちは、ヒイロさんから見たらきっとおかしいとは思うんだけど。ヒイロさんも気になるらしくて、近くにいたブレイブの瞳を覗き込んでいた。近い近いってブレイブが笑っている。
『さて、色々なところをランダムに紹介してきたけれど、次はトレだ。トレの街もいいところだよ』
会場の司会をしている人の言葉がログになって流れてくる。
きっと画面が切り替わったんだろうなと想像しながら次の言葉を待っていると、まずインカムからヴィルさんの声が聞こえて来た。
『やあ、トレは俺が案内するよ。プレイヤーネームヴィルだ。トレの名物と言えば、皆も知っていると思う、魔王討伐した英雄、エルフのエミリが住んでいる街だ。ここ、冒険者ギルドの二階で執務しているから、運がいい人は会ったことがあるんじゃないか? ちょっと呼んでみようか。統括、皆に紹介したいんですが、よろしいですか?』
ヴィルさんの言葉に少しだけ遅れるようにして、ログが流れてくる。
エミリさんも登場するんだ。知らなかった。もし会場で見ていたらちょっと興奮してたかも。
もちろんエミリさんの声は聞こえないので、ログで確認する。
『もちろんよ。いつも私の冒険者ギルドに貢献してくれてありがとう。あなたたちのおかげで、街は安全に暮らせるし、皆喜んでるわ。そうそう、もう皆はギルドの転移魔法陣を使用してくれたかしら。あれはね、獣人の技術なのよ。とうとう獣人の村への道が開き始めたようだし、これからも皆、この街を、この世界を楽しんで欲しいわ』
『統括、ありがとうございます。こんな具合に色々とアップデートをしたADOだけど、最近は運営が頑張っているらしく、実装されたものが大量にあるのは知ってるか? 転移魔法陣、獣人の村、そして、先ほど獣人の村からの中継で見せた『蘇生薬』もその一つなんだ。そして、限界突破の神殿。あれはもう見つけたか? ヒントは、特定の人、そうだな、俺の隣に立っている人とかから運がよければ貰えるかもしれない。頑張ってみてくれ』
うわあ、ヴィルさん、『蘇生薬』の存在もアップデートされた物の中の一つとしてあっさりと紹介しちゃった。これなら確かにそこまで大騒ぎにならない、かも。神殿でうやむやにしちゃってるし。
『次は統括の息子さんが営んでいる店に行ってみようか。移動の間、他の街の様子を見てくれ』
そこでトレの中継は一旦終わり、ウノの街の中継になった。
俺はホッと息を吐いた。
最近話題の事柄を、サラっとまとめて出したことで、話題を分散した。
「なんか、最近の重要なことをひとまとめで紹介されたな。これで、あとから公式ホームページなんかで蘇生薬の手に入れ方とか書かれたらそれで納得して終わりそうだな」
「ほんとに」
「よかったなマック。ってことで、蘇生薬ランク低くていいから売ってくれ」
スッとテーブル越しに雄太の手が出てきたので、その手をぺしっと叩いてから、俺はヒイロさんに向きなおった。
「師匠、蘇生薬、一本20万ガルくらいで売ってもいいですか?」
「あははは、ぼったくるのな。いいんじゃねえの?」
「ってことで、一本30万ガルで売ろう」
「さっきより上がってんじゃねえかよ! しかもヒイロさんが『ぼったくる』ってはっきりと言ってるし!」
「冗談だよ」
ウノの街のログでは、体験でログインした子供たちが街を歩いている様子が映っているみたいだった。確かにあそこなら間違って街の外に行ってもそれほど苦じゃなく魔物を倒せるしね。
プレイヤーは子供たちを案内した後、ジョブおっさんの紹介をしていた。エミリさんの旦那さんの相棒だというジョブおっさん、その人の特性を見抜くのはもう神業の領域に達してるからなあ。お茶を飲みながらログを見ていると、今度は砂漠都市に移動した。
サボテンが美味しいとか、ここが中心だとか色々紹介されている。サボテン、そろそろ仕入れないとなあ。
『俺は今、トレの雑貨屋さんに来ている』
インカムからヴィルさんの声が流れたので、心持ち背筋を伸ばす。
雑貨屋の紹介をしているヴィルさんの声を聴いていると、ヒイロさんの家のドアが開いて、ユイルとケインさんが入ってきた。
「あのねおにいちゃん、こんどは僕のばんだよね! おとうしゃんと一緒にこの村をあるくの!」
「そっか。ユイルなら絶対にちゃんとできるよ。応援するね」
「うん!」
俺の足に手を掛けて一生懸命話していたユイルは、ぴょこんと俺の膝に乗ると、僕頑張る! と気合を入れた。
「ユイルちゃん、お姉ちゃんの膝においで?」
ユイに誘われて、ユイルは俺の膝からテーブルをジャンプして、ユイの膝の上に落ち着いた。さすがの脚力。ユイの膝に収まったユイルはテーブルに向かって座ると、足をぶらぶらさせて遊び始めた。
「本当にちゃんとできるのか、こんな可愛いユイルを大衆の目に晒して大丈夫なのか、父ちゃんは心配で胃に穴が開きそうだよ……」
げっそりとするケインさんに聖水茶を淹れて差し出すと、ケインさんはそれを一気飲みして「っかー、効くなあ」と呟いた。
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