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455、衝撃の事実
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獣人の村に顔を出すと、いつもヴィデロさんが獣人さんたちと一緒に模擬戦をしている広場で、オランさんが身体を動かしていた。
近くにはユキヒラが立っていて、真剣な顔でオランさんを見ている。
オランさんはなくなった筈の手を存分に使い、まるで旋風の様に爪で丸太を切り刻んでいた。たまに動きがふっと掻き消えるのは、動きが早すぎるからか何なのか。俺はただ、その姿に見入っていた。
肩にポンと手が置かれて振り返ると、雄太が立っていた。雄太たちも視線はオランさんに向かっている。
オランさんの動きの一つ一つが、まさに圧巻というほかなかった。
オランさんは大きな丸太がバラバラの薪状になると、フッと息を吐いて動きを止めて、俺たちの方に振り返った。
「すまなかった。待たせたか」
肩を竦めると、オランさんは地面に投げ捨てられていた服を拾って、羽織った。
ついて来い、とオランさんの家に先導され、玄関を潜ると、前はたくさん詰めていた獣人さんたちはすっかりいなくなっていた。もう、手が100%治ったから。
「完全復活ですね」
「ああ。これも、マックのおかげだ。もうベッドにはりつけにされるのはこりごりだ」
肩を竦めながらそんなことを言うオランさんは、今もまだ何か思うところがあるのか、生えた手をワキワキと動かしていた。
爪を出し、引っ込ませて、爪が出てくることに違和感があるのか少しだけ顔を顰めてから顔を上げたオランさんは、ユキヒラの方を見て、フッと目を細めた。
「ゲームフェスタ、と言ったか。マック達の世界にこの村の様子が映し出されるんだったな。案内役はお前たちだけなのか」
「ああ。その予定だ。この企画が決まった当初は、まだここに来れるのが俺たちだけだったからな」
「詳しい話を聞いたのがジャル・ガーだったからな。あいつは大雑把すぎてたまにいい加減だからな。すまないが詳しく教えてくれないか」
「もちろんだ」
ユキヒラがアリッサさんの所で話し合った内容をオランさんに伝えていく。
的確に用件のみを伝えていくユキヒラを見ていると、何で宰相さんがユキヒラを懐に置いて使っているのかというのがわかる気がした。普段はすごく残念なやつなのにこういう時はすごくしっかりしている。
内容を確認し終えたオランさんは、一つ頷くと、行ってはいけない場所、見せてはいけない内容をざっと俺たちに伝えた。森の魔法陣が見える場所はアウト、書物がある場所もよくない。大体は広場か、長老の家。オランさんの家も、この部屋なら快く貸してくれるそうだ。あとは、ヒイロさんの調薬の部屋は本人がいいよと言ったらいいらしい。なので、あとで確認しに行くことにする。
「ところでオラン、今回のことで、何か報酬とかは出ているのか? あの宰相、それを訊いても話を濁しやがるから心配してたんだ」
最後に付け加えるようにユキヒラが確認すると、オランさんはニヤリと笑って「ある」と頷いた。
「俺たちはあの国を逃れた、いわばよそ者だろう。しかしこれを機に国を共にしないかとは言われたな」
「……それが報酬?」
オランさんの言葉にユキヒラが顔を顰める。もちろん、俺もまさか、と驚いた。
しかしその後に続いたオランさんの言葉で、思わず笑みが零れた。
「いや、俺はあの人族の長は気に入らないからそんなものはいらんと突っぱねた。転移魔法陣のことについても、同胞のエルフの頼みとはいえ、恩恵は人族の国だからな。そのことも踏まえて、俺たちは誰一人人族の長には頭を垂れないことを了承させた。もちろん、誰かが人族に不当に扱われたら、相応の報いを受けるということもな。そして何か問題があればこちらの法で裁くことも、人族の代表に首肯させた。そのことは、エルフと異邦人の長にも立会人となってもらって言質を取ったので、昔のようになることはない。俺は、あの人族の長には頭を下げない」
よかった。昔みたいに、何をされてもやられっぱなしじゃないってことは、誰かに殴られたら殴り返していいってことか。じゃあ、もう迫害とかそういうのもなくなるんだ。
王様よく納得したなあ。あの王様が。……ってまさか、宰相さんが独断で頷いてたりして。でも実質国を回してるのは宰相さんだから、大丈夫なのかな。そこらへんはきっとユキヒラの方が詳しいんだろうな。
でもあの王様にはあんまり会いたくないな。あのすごくお茶目で素敵な王女様のお父さんだってことを踏まえても、会いたくない。
「そりゃいいな。あの王様に一度痛い目見せて欲しいくらいだ。あのクソ生意気な王太子にもな」
「王太子? そんなのいるんだ」
「もういい歳のおっさんなんだぜ。でもまだ王様が健在だから、その後継者として城で執務してるんだけどな。王様が魔王を倒した時代の賢王って言われてたせいか、どうも自分も素晴らしいとか勘違いしてるみたいなんだよ。ちょっと宰相も苦労してるぜ、あのおっさんには」
「王太子がおっさんって……」
「王太子ってあれだろ。勇者の奥さんの兄貴。ってことはもういい歳だろ。じゃあおっさんでいいんじゃね?」
おっさんな王太子、という言葉に衝撃を受けていると、さらに雄太が追い打ちをかけてきた。なんか王太子っていうと、キラキラした子供とか俺たちと同年代を彷彿とさせるんだけど、おっさんって言われると全然イメージがわかない。
ユキヒラが言うことには、王太子と奥さんとの間には子供もいなくて、後継ぎがないらしい。王子はその一人だけで、あとは全員王女だったから、特に念入りに育てられたとか。でも鼻持ちならない王様はやだなあ。国が酷くなりそう。
「そういえば前に少しだけ王女様とお話ししたんだけど、後継ぎ問題があるから、勇者とは子供を作る気はないんですって。せっかく子供が生まれても、王宮に取られたら勇者が暴走して国を滅ぼしそうだからって。せっかく子供を産んでもそういう未来しか見えないから、2人で老後まで仲睦まじく暮らすことにしたんですって。私それを聞いて、王女様を尊敬したのよ」
海里が思わぬ情報をもたらす。そして納得する。絶対に王女様が生んだ子供を王宮になんて取られたら、国を亡ぼす。きっとあの勇者なら数日たたずに亡ぼせる。エミリさんも確実に手を貸すだろうから、下手したら一瞬。魔王よりたちが悪い。
思わずうなずいていると、ユイがシュンとした顔をした。
「でも、やっぱり夫婦なんだから一度は自分の子を可愛がりたいよね……私だって結婚したら子供欲しいもん。尊敬はするけど、でも、王女様は今まですごく我慢しすぎだからせめてこれからはちゃんと自分の幸せのために生きて欲しいな」
「ユイ、それは大丈夫よ。王女様、勇者と一緒にいるだけでちゃんと幸せだって言ってたから。実はね、本人に言うとつけ上がって暴走するから言わないらしいけど、王女様もちゃんと勇者に一目惚れしてたらしいのよ。ふふ、嬉しそうに教えてくれたわよ。でも勇者には内緒ね。騎士団に絶対一か月は顔を出さなくなるから」
「わ、わかった……。一か月、そんなに……」
海里に耳打ちされて、ユイがほんのり赤くなる。なにを想像してるんだろう。雄太はしらっとした顔をしてるけど、俺は知っている。目がユイ可愛いと言っているのを。
というかそんな勇者事情を聞くために集まったわけじゃないけどね。打ち合わせはだいたい済んだからいいのかな。
勇者の暴露話で盛り上がり、その場を解散すると、俺はヒイロさんの所に行くことにした。あんまり公開する気はないけど。でももしかしたら何かの拍子にヒイロさんの建物に入っちゃうことがあるかもしれないし。
そのことを言うと、皆楽しそうだとついてくることにしたらしい。今度はぞろぞろとヒイロさんの家に向かった。
途中ユイルとちびっ子たちが遊んでいたので、お菓子をあげる。獣人の村に来るならお菓子必須だよ。だって喜んだ顔を見るのが最高だもん。美味しそうにお菓子を食べる子供たちを愛でてから、俺たちはヒイロさんの家にお邪魔した。
「この家を異邦人たちに見せる? いいよ別に」
「そんな簡単に」
「だって見せるってことは、異邦人たちがマックみたいに薬師の腕をあげるかもしれないだろ。すごくいいことじゃねえか」
ヒイロさんがあっけらかんとそんなことを言ったので、思わず半眼になる。
魂胆はわかっていますよ師匠。
後ろでユイが「マック君のお師匠様すごく心が広いんだね」なんて感動してるけど、わかってますよ。
皆が同じくらいの調薬の腕になれば、師匠の仕事が減るとか思ってるんでしょう。楽できるとか、そんなことを思ってるんでしょ。わかってるから。
ユイの言葉に得意になってる師匠が面白いのでそう突っ込むのはやめておいたけど、こぼれ出る溜め息だけは止めることが出来なかった。
近くにはユキヒラが立っていて、真剣な顔でオランさんを見ている。
オランさんはなくなった筈の手を存分に使い、まるで旋風の様に爪で丸太を切り刻んでいた。たまに動きがふっと掻き消えるのは、動きが早すぎるからか何なのか。俺はただ、その姿に見入っていた。
肩にポンと手が置かれて振り返ると、雄太が立っていた。雄太たちも視線はオランさんに向かっている。
オランさんの動きの一つ一つが、まさに圧巻というほかなかった。
オランさんは大きな丸太がバラバラの薪状になると、フッと息を吐いて動きを止めて、俺たちの方に振り返った。
「すまなかった。待たせたか」
肩を竦めると、オランさんは地面に投げ捨てられていた服を拾って、羽織った。
ついて来い、とオランさんの家に先導され、玄関を潜ると、前はたくさん詰めていた獣人さんたちはすっかりいなくなっていた。もう、手が100%治ったから。
「完全復活ですね」
「ああ。これも、マックのおかげだ。もうベッドにはりつけにされるのはこりごりだ」
肩を竦めながらそんなことを言うオランさんは、今もまだ何か思うところがあるのか、生えた手をワキワキと動かしていた。
爪を出し、引っ込ませて、爪が出てくることに違和感があるのか少しだけ顔を顰めてから顔を上げたオランさんは、ユキヒラの方を見て、フッと目を細めた。
「ゲームフェスタ、と言ったか。マック達の世界にこの村の様子が映し出されるんだったな。案内役はお前たちだけなのか」
「ああ。その予定だ。この企画が決まった当初は、まだここに来れるのが俺たちだけだったからな」
「詳しい話を聞いたのがジャル・ガーだったからな。あいつは大雑把すぎてたまにいい加減だからな。すまないが詳しく教えてくれないか」
「もちろんだ」
ユキヒラがアリッサさんの所で話し合った内容をオランさんに伝えていく。
的確に用件のみを伝えていくユキヒラを見ていると、何で宰相さんがユキヒラを懐に置いて使っているのかというのがわかる気がした。普段はすごく残念なやつなのにこういう時はすごくしっかりしている。
内容を確認し終えたオランさんは、一つ頷くと、行ってはいけない場所、見せてはいけない内容をざっと俺たちに伝えた。森の魔法陣が見える場所はアウト、書物がある場所もよくない。大体は広場か、長老の家。オランさんの家も、この部屋なら快く貸してくれるそうだ。あとは、ヒイロさんの調薬の部屋は本人がいいよと言ったらいいらしい。なので、あとで確認しに行くことにする。
「ところでオラン、今回のことで、何か報酬とかは出ているのか? あの宰相、それを訊いても話を濁しやがるから心配してたんだ」
最後に付け加えるようにユキヒラが確認すると、オランさんはニヤリと笑って「ある」と頷いた。
「俺たちはあの国を逃れた、いわばよそ者だろう。しかしこれを機に国を共にしないかとは言われたな」
「……それが報酬?」
オランさんの言葉にユキヒラが顔を顰める。もちろん、俺もまさか、と驚いた。
しかしその後に続いたオランさんの言葉で、思わず笑みが零れた。
「いや、俺はあの人族の長は気に入らないからそんなものはいらんと突っぱねた。転移魔法陣のことについても、同胞のエルフの頼みとはいえ、恩恵は人族の国だからな。そのことも踏まえて、俺たちは誰一人人族の長には頭を垂れないことを了承させた。もちろん、誰かが人族に不当に扱われたら、相応の報いを受けるということもな。そして何か問題があればこちらの法で裁くことも、人族の代表に首肯させた。そのことは、エルフと異邦人の長にも立会人となってもらって言質を取ったので、昔のようになることはない。俺は、あの人族の長には頭を下げない」
よかった。昔みたいに、何をされてもやられっぱなしじゃないってことは、誰かに殴られたら殴り返していいってことか。じゃあ、もう迫害とかそういうのもなくなるんだ。
王様よく納得したなあ。あの王様が。……ってまさか、宰相さんが独断で頷いてたりして。でも実質国を回してるのは宰相さんだから、大丈夫なのかな。そこらへんはきっとユキヒラの方が詳しいんだろうな。
でもあの王様にはあんまり会いたくないな。あのすごくお茶目で素敵な王女様のお父さんだってことを踏まえても、会いたくない。
「そりゃいいな。あの王様に一度痛い目見せて欲しいくらいだ。あのクソ生意気な王太子にもな」
「王太子? そんなのいるんだ」
「もういい歳のおっさんなんだぜ。でもまだ王様が健在だから、その後継者として城で執務してるんだけどな。王様が魔王を倒した時代の賢王って言われてたせいか、どうも自分も素晴らしいとか勘違いしてるみたいなんだよ。ちょっと宰相も苦労してるぜ、あのおっさんには」
「王太子がおっさんって……」
「王太子ってあれだろ。勇者の奥さんの兄貴。ってことはもういい歳だろ。じゃあおっさんでいいんじゃね?」
おっさんな王太子、という言葉に衝撃を受けていると、さらに雄太が追い打ちをかけてきた。なんか王太子っていうと、キラキラした子供とか俺たちと同年代を彷彿とさせるんだけど、おっさんって言われると全然イメージがわかない。
ユキヒラが言うことには、王太子と奥さんとの間には子供もいなくて、後継ぎがないらしい。王子はその一人だけで、あとは全員王女だったから、特に念入りに育てられたとか。でも鼻持ちならない王様はやだなあ。国が酷くなりそう。
「そういえば前に少しだけ王女様とお話ししたんだけど、後継ぎ問題があるから、勇者とは子供を作る気はないんですって。せっかく子供が生まれても、王宮に取られたら勇者が暴走して国を滅ぼしそうだからって。せっかく子供を産んでもそういう未来しか見えないから、2人で老後まで仲睦まじく暮らすことにしたんですって。私それを聞いて、王女様を尊敬したのよ」
海里が思わぬ情報をもたらす。そして納得する。絶対に王女様が生んだ子供を王宮になんて取られたら、国を亡ぼす。きっとあの勇者なら数日たたずに亡ぼせる。エミリさんも確実に手を貸すだろうから、下手したら一瞬。魔王よりたちが悪い。
思わずうなずいていると、ユイがシュンとした顔をした。
「でも、やっぱり夫婦なんだから一度は自分の子を可愛がりたいよね……私だって結婚したら子供欲しいもん。尊敬はするけど、でも、王女様は今まですごく我慢しすぎだからせめてこれからはちゃんと自分の幸せのために生きて欲しいな」
「ユイ、それは大丈夫よ。王女様、勇者と一緒にいるだけでちゃんと幸せだって言ってたから。実はね、本人に言うとつけ上がって暴走するから言わないらしいけど、王女様もちゃんと勇者に一目惚れしてたらしいのよ。ふふ、嬉しそうに教えてくれたわよ。でも勇者には内緒ね。騎士団に絶対一か月は顔を出さなくなるから」
「わ、わかった……。一か月、そんなに……」
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というかそんな勇者事情を聞くために集まったわけじゃないけどね。打ち合わせはだいたい済んだからいいのかな。
勇者の暴露話で盛り上がり、その場を解散すると、俺はヒイロさんの所に行くことにした。あんまり公開する気はないけど。でももしかしたら何かの拍子にヒイロさんの建物に入っちゃうことがあるかもしれないし。
そのことを言うと、皆楽しそうだとついてくることにしたらしい。今度はぞろぞろとヒイロさんの家に向かった。
途中ユイルとちびっ子たちが遊んでいたので、お菓子をあげる。獣人の村に来るならお菓子必須だよ。だって喜んだ顔を見るのが最高だもん。美味しそうにお菓子を食べる子供たちを愛でてから、俺たちはヒイロさんの家にお邪魔した。
「この家を異邦人たちに見せる? いいよ別に」
「そんな簡単に」
「だって見せるってことは、異邦人たちがマックみたいに薬師の腕をあげるかもしれないだろ。すごくいいことじゃねえか」
ヒイロさんがあっけらかんとそんなことを言ったので、思わず半眼になる。
魂胆はわかっていますよ師匠。
後ろでユイが「マック君のお師匠様すごく心が広いんだね」なんて感動してるけど、わかってますよ。
皆が同じくらいの調薬の腕になれば、師匠の仕事が減るとか思ってるんでしょう。楽できるとか、そんなことを思ってるんでしょ。わかってるから。
ユイの言葉に得意になってる師匠が面白いのでそう突っ込むのはやめておいたけど、こぼれ出る溜め息だけは止めることが出来なかった。
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