これは報われない恋だ。

朝陽天満

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454、ゲームフェスタ打ち合わせ

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 俺たちは、打ち合わせと称して、ADO運営を行っている会社に連れてこられている。

 メンバーは俺と雄太とユイ、そして増田とブレイブ。その部屋に入ると、見た事のない人たちが数人と、アリッサさんがいた。

 アリッサさんの顔を見てちょっとほっとする。なんか場違いな場所に来ている気がしてたから。

 先導してくれたのは、ヴィルさん。

 獣人の村のクエストがひと段落ついた次の日、バイトに向かったところでヴィルさんに打ち合わせの日程を教えられたんだ。雄太たちにも伝えたいことと、できれば打ち合わせに参加して欲しいことも伝えられて、俺はその場で携帯端末のメッセージにその内容を記して雄太に送った。皆かなり乗り気で、予定があったはずのブレイブも日程をずらしたらしい。強制ではないから無理なときは後日時間を取ると言われたんだけどね。

 ヴィルさんはその当日、佐久間さんの7人乗りの車でやってきた。そして俺達三人を学校前で拾って、その後ユイたちの学校で二人を拾って、高速に乗ってアリッサさんの本拠地へ。本格的だ。



「健吾君たち、いらっしゃい。あなたたちは『高橋と愉快な仲間たち』のメンバーね。紹介するわ。こっちに座って」



 アリッサさんに手招きされて指定された椅子に座ると、途端に見知らぬ人たちの紹介が始まった。

 まずはアリッサさんが総責任者兼技術者だと自己紹介して、中継全般を取り仕切る責任者の人、会場で中継の調整をする人、指示を出す人、そして、俺たちと同じように獣人の村に中継に行く人。



「渡利幸平コウヘイ、ユーザーネームは「ユキヒラ」よ」

「ユキヒラ!」



 アリッサさんの紹介に、俺は思わず声を出してしまった。初めて見るこっちの世界のユキヒラは、ちょっとごつめの体型の黒髪眼鏡男子だった。やっぱりアバターとは全然違う。あっちはチャラい系の見た目だからね。



「今叫んだ子は郷野健吾くん。ユーザーネームは「マック」よ」

「ようマック。現実でもちいせえのな」

「ユキヒラ煩いよ! っていうかユキヒラ断ったんじゃなかったの?」



 前にアリッサさんが言ってた言葉を思い出してそう突っ込むと、ユキヒラが「思うところがあって」とちょっと遠くを見た。

 そんなユキヒラの様子を気にせずに、アリッサさんが次々雄太たちの紹介をしていく。やっぱりというかなんというか、ブレイブと増田の所でユキヒラが目を見開いていた。「マジか」なんて呟いているけど、雄太の紹介の時は思わず吹き出していた。だってまんまなんだもん。見た目も名前も。

 そんな感じで始まった打ち合わせ。内容は、繊細にして細密。何時から何時まで会場で画面を流すので、その間に最低これだけはしてくれ、的なことをこまごまと。俺、出来るかな。

 渡された資料内容も詳しく説明してくれて、最後アリッサさんはでもね、と目を細めた。



「間違えてもいいのよ。硬くならないで紹介してね。無理を通してもらったのはこっちだから、いくらでもフォローはするわ。それと、何かそこでアクシデントが始まったら、それを流すかどうかはこっちで詳細を決めます。なので、秘蔵の物は隠しておいてね。ログインしたらギルド経由で簡易通信の魔道具を送るから、必ず取りに行って欲しいの。中継が終わったら、その魔道具は報酬の一環として好きに使っていいわ。最近ちょっと制作に成功したから、モニター代わりにね」



 よろしくね、と言われてハッと気付く。まだ手に入ってなかったクエストの報酬『魔道具(C)』ってまさかこれのことじゃないよな。

 と考えていると、ユイが「あの魔道具の報酬ってこれかな」とブレイブとこそこそ話していた。あ、雄太たちもクエスト報酬に『魔道具』っていうのがあったのか。じゃあ、多分それだ。



「これが一度きりの打ち合わせになるけれど、質問はありますか。疑問に思ったことならなんでも聞いてね」



 アリッサさんの言葉に、雄太が「はい」と手をあげる。



「さっきのアクシデントの放映関係のことで気になるんですが、いきなり獣人の村でクエストが始まったら、それを運営の一存で放送するってことですか?」

「そうね。もちろんあなたたちの所に流れてくるログを見せるわけじゃなくて、動きを外からカメラで追うような形になるけれど、見せて差し支えない内容であれば、そのまま流させてもらいます」

「もし、差し支えるような内容だったらどうやって知らせればいいですか?」

「こちらからの指示が飛ぶチャットメッセージに見せられない内容である旨を記してくれれば、そこで場面を切り替えて街の中継をするから大丈夫よ」

「わかりました」



 その後も雄太とブレイブが色々と質問をして内容をさらに詰めて行って、打ち合わせは終了になった。

 ヴィルさんも他に打ち合わせがあるらしくて、帰るまで時間があるということで、会議室を待合室代わりにさせてもらった俺たち。

 ユキヒラはこっちの方に住んでいるところがあるらしくて、電車で来たらしい。



「それにしても、この間の獣人解放クエスト、ユキヒラがいなかったのが不思議でならないよ」

「それ、ハルポンにも言われたよ。俺がそれを知ったの、その日の深夜だったんだよ。丁度ログインできない日だったから」



 資格試験だったからすっぽかすわけにはいかないだろ、というユキヒラは、この付近の大学の2年生らしい。年上ですね。

 資格試験とか、俺何も取ってないんだけど。高校最初のころに学校で無理やり受けさせられた英検3級とかそこらへんしか持ってないよ。



「お前ら全員高校三年生なんだろ」



 ユキヒラは俺たちを一通り見回して、「若いっていいねえ」なんてオヤジ臭いことを呟いていた。

 全員で盛大に獣人の村で起こったクエストをユキヒラに伝えると、滅茶苦茶悔しそうな顔をしていた。



「あ、そういえば健吾は知らないかもしれないけど、ギルマスが村に行ったやつら全員に限界突破神殿のヒントを教えてたぞ。俺たちと『白金の獅子』はもう行ったからアレだけど。ドレインさんも実はもう一度入って、今度こそ限界突破したんだってさ。ガンツさんと月都さんも一緒に行って、さらに違う限界を突破したらしい。俺もまた行く予定だけど、健吾はどうする。一緒に行くか?」

「行きたい、けど、クリアできる気がしない……」

「大丈夫だろ。この間だってクリアできたんだ」

「あれは運がよかったっていうか、力を借りたからだと思うし。今回は遠慮しておくよ。俺一人だけレベル段違いだから」

「そっか。ユーリナさんがドレインさんが行ったとき行きそびれてたから一緒に行くって言ってたんだけど」

「ユーリナさんがいたら力強いね」



 そっか。雄太もまた限界突破しに行くんだ。どこまで爆走する気なんだろう。

 俺も色々巻き込まれてレベルは着々と上がってるけど、どっちかというとジョブレベルの方をあげたいんだよなあ。

 あと、ルミエールダガーのレベルも。全然あげてないや。ドロップ品、適当にまとめて倉庫インベントリにぶち込んで終わってるしな。何かいいのがあれば出してダガーの餌にしようかな。でも錬金で使えたりする場合もあるしな、うーん。



「あ、そうだ雄太。もし闇っぽいアイテムがあったら、ランクS聖水と交換しない?」

「闇っぽいってなんだよ」

「前に出てきた骨みたいなものとかそんな感じの。だって神殿に行くんだろ。インベントリ一枠いっぱいになるくらい聖水S渡すから、交換」



 闇っぽい、闇っぽい、と雄太は考え始めた。

 その横から、ユイが「あれは?」とくいくい雄太の袖を引く。



「ほら、真っ黒いゾンビみたいな魔物から出てきたやつ」

「ああ、そういえばそんなもんあったな。よし、取引成立。トレに行けばいいか?」



 簡単に言うけど、雄太たちはトレの魔法陣を登録したってことかな。いつの間に。俺はまだ全然登録して回ってないってのに。だって自分で魔法陣描いたほうが楽だからさ。

 工房に来て貰う約束をしていると、ドアがノックされた。

 音もなくドアが開いて、ヴィルさんが顔を出す。



「待たせたな。こっちの打ち合わせは終わりだ。あとは帰れるんだが……帰りに何か食べて帰ろう。もちろん、幸平も」

「ごちになります!」



 ユキヒラがガッと立ってザッと頭を下げる。あ、もしかして何か体育会系の部活でもやってた人なんだな。ヴィルさんに対する行動がものすごく体育会系。

 そのまま近くの食事処に連れて行ってもらい、俺は海鮮丼、雄太はサバ味噌定食を頼んだ。魚最高。

 食事中はやっぱりというかADO話で盛り上がり、ヴィルさんの「ちょっとノヴェ付近に行きたいところがあるんだが一緒に行きたい人は」という問いに即全員が手を上げてみたりした。



 ユキヒラを最寄り駅まで送ったヴィルさんは、俺たちを乗せた車で高速道路に乗り、一路我が県に帰り着いた。

 ひとりひとりを家に送り届けたヴィルさんは、最後まで残った俺を助手席に乗せると、俺の家へ……行く道じゃなくて、会社に向かう道に進んでいった。アレ、今日はバイトの日だっけ?



「ちゃんと家まで送るから少しだけ会社に顔を出してくれないか」

「大丈夫ですけど。何かあったんですか?」

「ああ……ある、というかなんというか。この車、佐久間のだろう? 貸し出した代わりに、健吾を連れて帰ってこいって言われててな」

「あ、ご飯ですね。俺たち食べてきちゃいましたもんね」

「ああ……この際たまごかけご飯でも納豆ご飯でも何でもいい。目の前に飯が出ればあいつは元気が出るから、よろしく頼むよ」



 ヴィルさん、それは料理じゃありません。決して料理じゃないです。

 真顔でそんなことを言うヴィルさんに思わず真顔でそう返すと、ヴィルさんは衝撃を受けたような顔をした。



「あれも立派な食事だろう?」



 ヴィルさんのその言葉に、今度は俺が衝撃を受けた。そりゃ、立派な食事だけど、食事と料理は違います。



 ご飯は炊かれていたので、冷蔵庫にある肉と野菜を適当にたくさん放り込んで卵とじしたごちゃまぜ丼を作った俺は、ふと目に入ったジャル・ガーさんのスクリーンセイバーに目を取られた。ヴィル鳥が食べられそうになっているやつ。いつ見ても和む。



「そういえば獣人の村が解放になったって知ってますか?」



 優雅にコーヒーを自分で淹れて飲んでいたヴィルさんは、俺の言葉に「ああ」と頷いた。



「すごくタイミングが良かった。この時点で獣人の村解放、となると、ゲームフェスタで最近解放されたマップとして紹介できるからな。当初は幻の村から中継っていうのをメインにすればインパクトが絶大だという話だったんだが、その場合は少なくとも中継をしてくれた健吾と高橋君たちがちょっと悪意に晒されそうでそこをどうするかが課題だったんだが、これなら何の憂いなく中継が出来そうだと喜んでいたんだ」

「そうだったんですね。結構沢山獣人の村に来てたんですよ」

「ああ。ギルドマスター直々の指名依頼だろうから、人柄も実力も折り紙付きだったんだろうな」



 どうしてこの人は直接関係しなかったのにそこまで詳しいんだろう、なんて思いながら頷くと、ヴィルさんがその視線に気づいたらしくてちょっとだけ笑った。



「俺も一度指名が来たんだよ。ギルドマスターから。天使の店に買い物に行っていたときにな。でも、丁度母との打ち合わせがあった日だから、断らせてもらった。ギルドマスターも無理強いはしないし、他にも人材がいるから大丈夫と言ってくれてな」

「なるほど。ちなみにヴィルさんのレベルって今どれくらいになったんですか?」

「健吾の少し上くらいだな」

「うわあ……」



 時間がない中、この人はどうやってレベル上げをしてるんだろう。まるで雄太たちが勇者にパワーレベリングされているのと似たようなレベルアップなんだけど。

 短期間でレベルが上がると聞いても、なんだかちっとも羨ましくないのは気のせいだろうか。俺は俺のペースで行こう。うん、それが一番。



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