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444、元凶発見!
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一時間ほど森の中を歩いたけれど、それらしい魔物は出なかった。
普通の魔物は普通に出てきてさくっとヴィデロさんウィズ獣人さんズに倒されているんだけど、毒持ちは見当たらない。
こっちには来ていないのかな、という結論に至り、ぐるっと回って村に戻るか、と話をしている横で、俺は初めて見る素材を採取していた。
「マック、なんだそりゃ」
「新しい素材があったから思わず採取してみた。ええと、『リルの実』だって。とても甘く、中毒性がある果実。微毒があり、一度食べたくらいでは体にそれほどの害はないが、中毒症状で食べ続けると常に身体の中に毒が巡り、凶暴化弱体化してしまい理性がなくなる……ってこれ、もしかして毒魔物の元凶!?」
「なんだって!?」
手に持った果実は、このあたり一帯の地面に這った蔦にくっついていた。かなりの量がある。
中毒性があるってことは、一度これを食べて害がないと思った魔物がどんどんこれを食べ続けて毒を持つってことなんじゃないだろうか。
「これ……排除しないとこっちにも毒持ちが出るんじゃないかな……」
採取した素材はとりあえずインベントリに放り込んで、俺は地面の草を分けて覗き込んでる皆を見た。
この草があるから、どこまで広がってるのかよくわからないのが辛い。
「ちょっとここいら一帯を焼くか」
「森に広げるなよ」
ちょっと離れた場所にいた獣人さんも「こっちにもあるぞ!」と自分のいる場所を指し示して、結構な広さに果実が敷き詰められてるということが判明した。
「こっちに実がもがれた跡がある! ってことはもういるんじゃねえ?」
「マジか。とりあえず手っ取り早くこの実を消すぞ! マック、わるい、少しだけ根っこから取ってってヒイロに渡してくれねえ?」
「わかった!」
頼まれた通り、果実と蔦と蔦から生えている根っこを少し採取して、インベントリに突っ込む。『リルの蔦』という名前がインベントリに出てきた。
獣人さんたちが手分けして草を爪で刈り、大分地面が広がると、そこにはまるで血管のように地面を這うリルの蔦が姿を現した。
「うわ、実まで切っちまった……!」
その声と共に、ふわっと甘い匂いがあたりに漂う。余りの匂いのきつさに、俺はちょっとだけ顔を顰めた。
俺とヴィデロさんはそれだけで済んだんだけど。
鼻の利く獣人さんはそれだけじゃすまなかったらしく、「やべえこれくらくらする……」と数人が慌てて鼻を押さえていた。
「やべえな。匂いだけでトびそうになる」
「おい! ソイネ! 何爪舐めようとしてるんだよ!」
実を切ってしまった獣人さんが、恍惚とした目をして爪に舌を這わせようとしたところで、隣に立っていた獣人さんが慌てて止める。
それに気付いた違う獣人さんが素早く魔法陣を描いて、水をぶっかけていた。
その水で爪の果汁が流されたのか、ハッとしたようにソイネと呼ばれた獣人さんが正気に戻っていた。
「なんか、すげえ美味そうな匂いにつられた。これを舐めなきゃってしか今考えられなかったぜ……やべえなこの実。匂いだけでクる」
「やっぱ一気に燃やしちまうか」
「だな」
とりあえず周りに燃え広がらないように草を刈るぞ、と実を傷つけないように細心の注意を払いながら草刈りを始め、三十分後、ようやく蔦が広がっている一帯の草をなくすことが出来た。
でもその範囲が結構広い。
んじゃ焼くか、と話したところで、マップに赤い点が現れた。
魔物がまっすぐこっちに向かって来ていた。
その迷いない足取りは、絶対にリルの実中毒の魔物だ。
ヴィデロさんと俺が真正面に立って、ヴィデロさんは剣を、俺は『感覚機能破壊薬』と起爆剤を手に、魔物が現れるのを待ち構えていた。
でも、この実を踏みつぶしたら獣人さんたちの間で二次被害が出そうで怖いんだけど。
現れた魔物は、大型のイノシシのような魔物だった。
魔物はまっすぐこっちに突き進んできて、ピタッと足を止めた。
そして、目の前に俺たちがいるのに足元にある実をむさぼり始めた。魔物が咀嚼し始めると、辺りに濃厚な甘ったるい匂いが漂う。これ、獣人さんは戦えないやつじゃん。
案の定、獣人さんたちは全員頭を抑えたり鼻を抑えたり頬を叩いたりして正気を保とうと悪戦苦闘し始めている。
魔物は俺たちにかまうことなく実を食べ続けていたので、俺は少し近付いて、実をむさぼるその魔物の口の中に『感覚機能破壊薬』を投げ込んで素早く後ろに下がった。
ガリ、と瓶をかみ砕く異音がした瞬間、魔物がギィィィィィィと咆哮をあげて、暴れ始めた。丸くてデカい身体を転がして、背中が木にブチ当たるのも構わず転がり続け、逆に攻撃がしづらくなってしまった。
それでもお構いなしにヴィデロさんは剣を構えて、魔法剣の技を繰り出していく。
魔物の頭上のHPバーは一撃ごとに少しずつ減っていった。
口元から垂らしている唾液は、透明ではなく何か濁った色をしており、すでにこの魔物は毒持ちなんだということがうかがい知れた。
HPバーが一本分減ると、魔物は正気を取り戻して、濁った眼で辺りを見回した。俺とヴィデロさんを目に入れてるはずなのに反応せず、またも実に近付いて食べ始める。
なんか、この実の中毒性って麻薬並なんじゃないだろうか。ってことはここに獣人さんが長くいたらヤバいってことだよな。
俺はもう片方の手に持った起爆剤を地面に投げつけ、素早く火の魔法陣を描いた。
途端に火に包まれる魔物と実。でも範囲は限定的だから地面中に広がっている実を消滅させることは出来ない。
後ろの方では獣人さんたちが蔦を燃やし始めていて、甘い匂いと焦げ臭いにおいが入り混じった何とも不快な匂いが充満している。
「マック、ちょっと離れていてくれ」
不意にヴィデロさんが俺にそう言って、剣を構えた。
俺が離れると、ヴィデロさんはいまだ火だるまになっている魔物に剣を向け、何かを唱えた。
剣がぶわっと青白い炎を纏い、その炎は刀身の倍の大きさにまで膨れ上がった。
ヴィデロさんが剣を振り降ろすと、剣から炎が伸び、地面を這って魔物まで斬撃を飛ばした。
ザン、という音と共に、魔物の身体に大きな切り傷が出来上がる。
魔物を包んでいた炎が消えると、魔物はまた足元の実を鼻で探した。そして足元に実がないとわかると、咆哮を上げた。
ビリビリする。周りの実が焼けたのがわかったから怒ったんだ。
ヴィデロさんは既に少し下がり、蔦が生えているあたりまで動いている。
鼻息荒くした魔物は、ヴィデロさん目がけて突進し、ぐしゃっと実を自分で踏んだ瞬間足を止めた。
そしてフガフガし始めて、またも実を咀嚼し始める。
こんな状況でも実を食べたくなるんだ。
ぞっとしながら、俺も長光さんの刀を手に魔物に走り寄った。
ヴィデロさんも魔物に近付き、次々剣で攻撃を仕掛けるが、魔物は食べることに夢中で、痛みなんかも感じていないみたいだった。
俺も側面から切れ味抜群の刀で切り刻むけれど、流れ出る血はどす黒く、粘度が高そうな状態だった。うわ、絶対触ったら毒になるって一目でわかる。
でも実がある限り俺たちには構わず食べ続けるなら、食べてる間にひたすら攻撃を仕掛ければいいんじゃなかろうか。下手に『感覚機能破壊薬』を使って嗅覚がなくなったら元も子もないから、HPを減らすためだけに攻撃を。
ヴィデロさんの剣が喉元深くに刺さり、そのままざっくりと抉られ、どろりとした血が垂れる。
普通だったら致命傷なはずのその傷も無視した魔物は、口を動かすたびに首の傷から血が垂れるのもお構いなしに一心不乱に食べ続けている。怖い。
俺もちまちまと剣で切り刻み、頭上のHP減らしに貢献する。さすが長光さんの刀。攻撃力ミニの俺でも大分減らせる。
ヴィデロさんは急所を的確に攻撃して、クリティカルヒットを連発させている。
とうとう魔物がゴロンと倒れた。でも口はまだモグモグしている。目がすごく濁っているのがなんだか怖い。
首を落とされて、呑み込まれようとしていた実がだらりと地面に落ちて、魔物が光になっていく。
返り血を少し浴びてしまっていたヴィデロさんは、魔物が消えた瞬間に膝を着いた。
「ヴィデロさん!」
慌ててヒイロさんから貰っていた毒消しを飲ませると、ヴィデロさんはすぐに顔色が良くなり、返り血ですら猛毒を浴びせる魔物と、その魔物を作り上げるこの実に戦慄した。
獣人さんたちは順調に蔦を焼き消しているらしく、大分蔦は減っている。
「今日はこれを全部焼いてからじゃねえと帰れねえな」
「ああ……」
「ちょ、待ってくれ、気分わりい……」
いつでも元気だった獣人さんたちは、体毛に覆われていて顔色がわからなかったけれど、どうにも動きに精彩を欠いていた。
一人が木陰に移動し、吐き始める。匂いにもヤバい成分が含まれてるのか、それとも燃やした煙にその成分が含まれているのか、どうも作業自体がヤバそうだった。
取り合えず全員に毒消しを飲ませて、少し実から離れたところで休ませると、俺は蔦の所に戻ってひたすら魔法陣で蔦を焼いた。
確かにこの煙がくらくらする。ちらりとステータスを見ると『中毒(軽)』となっていた。やっぱり。
これが重くなるとヤバいんだよな。ヴィデロさんも中毒になりそうだから、状態が常に把握できる俺の仕事だよなこれ。
「ちょっと俺一人で焼くから、ヴィデロさんも皆も手を出さないで。あと、極力この煙の出る範囲に入らないでね。中毒になるから」
そう言い置いてヒイロさんの毒消しを飲むと、バッドステータス欄にあった文字がスッと消えた。
ステータス欄を開いたまま、俺はつぎつぎ魔法陣で焼いていった。
中毒が付くと、回復、そしてMPも回復。それを何度か繰り返して、ようやく一帯の蔦を消すことが出来た。近場の草もかき分けて、他にないか確認して、周りにはもう実がないとわかると、ホッとして思わずその場にしゃがみ込む。
「こんなのがもしかして獣人たちの森の中に育ってきてるっていうのかな。これ、絶対に俺たちみたいな異邦人が消さないと中毒者が出ちゃうよ」
「中毒にかかるとどうなる?」
「多分、この実がないと暴れたりとかするんじゃないかな。そして実にしか目が行かなくなる。痛みとか感じなくなったりもするかもしれない。でも『感覚機能破壊薬』は効いたんだよな。なにが違うんだろ。ま、それは置いといて、軽度だとさっき感じたくらくらと気分が悪くなる感じ。一回中程度の中毒になった時はなんかふわふわした感じになったから、今度は気分が良くなる感じ。重度はわからない。怖くて重度まで体感する気にはならなかった」
焼きながら感じた感覚を教えると、ヴィデロさんにわしっと頭を掻き混ぜられた。
「あんまり無茶するなよ」
「わかってる。でもずっと自分の状況がわかる異邦人じゃないと、危なくて蔦の駆除も出来ないと思う」
「それはそうなんだけど」
不機嫌な顔をするヴィデロさんにごめんなさい、と素直に謝った俺は、ハッとしてステータス欄を開いた。
そして、レシピを繰る。
大分前にカイルさんの所で見た本の中にあった、絶対これ使うことないよな、って思ってたレシピ。
植物を枯らす薬を作るレシピ。
錬金で作るその薬は、散布した一帯の植物を枯らせ、地面の栄養を著しく低下させて二度と生えさせないという怖い物。地面の栄養が低下しちゃったらもう作物も育たないよな、なんてレシピを見つけた時に思ったんだよ。あの時は虫のやつを探すのに夢中でそのまま流し読んで終わったけど。もしかしたら役に立つかも。
表面を焼きはしたけど、もし地面にまだ根っこが残ってたら。だってこの蔦。這っているところほぼ全部に短い根っこが生えているから、残っていても不思議じゃないんだよ。
今は焼けこげた地面になっているけど、また生えてきたらシャレにならない。
普通の魔物は普通に出てきてさくっとヴィデロさんウィズ獣人さんズに倒されているんだけど、毒持ちは見当たらない。
こっちには来ていないのかな、という結論に至り、ぐるっと回って村に戻るか、と話をしている横で、俺は初めて見る素材を採取していた。
「マック、なんだそりゃ」
「新しい素材があったから思わず採取してみた。ええと、『リルの実』だって。とても甘く、中毒性がある果実。微毒があり、一度食べたくらいでは体にそれほどの害はないが、中毒症状で食べ続けると常に身体の中に毒が巡り、凶暴化弱体化してしまい理性がなくなる……ってこれ、もしかして毒魔物の元凶!?」
「なんだって!?」
手に持った果実は、このあたり一帯の地面に這った蔦にくっついていた。かなりの量がある。
中毒性があるってことは、一度これを食べて害がないと思った魔物がどんどんこれを食べ続けて毒を持つってことなんじゃないだろうか。
「これ……排除しないとこっちにも毒持ちが出るんじゃないかな……」
採取した素材はとりあえずインベントリに放り込んで、俺は地面の草を分けて覗き込んでる皆を見た。
この草があるから、どこまで広がってるのかよくわからないのが辛い。
「ちょっとここいら一帯を焼くか」
「森に広げるなよ」
ちょっと離れた場所にいた獣人さんも「こっちにもあるぞ!」と自分のいる場所を指し示して、結構な広さに果実が敷き詰められてるということが判明した。
「こっちに実がもがれた跡がある! ってことはもういるんじゃねえ?」
「マジか。とりあえず手っ取り早くこの実を消すぞ! マック、わるい、少しだけ根っこから取ってってヒイロに渡してくれねえ?」
「わかった!」
頼まれた通り、果実と蔦と蔦から生えている根っこを少し採取して、インベントリに突っ込む。『リルの蔦』という名前がインベントリに出てきた。
獣人さんたちが手分けして草を爪で刈り、大分地面が広がると、そこにはまるで血管のように地面を這うリルの蔦が姿を現した。
「うわ、実まで切っちまった……!」
その声と共に、ふわっと甘い匂いがあたりに漂う。余りの匂いのきつさに、俺はちょっとだけ顔を顰めた。
俺とヴィデロさんはそれだけで済んだんだけど。
鼻の利く獣人さんはそれだけじゃすまなかったらしく、「やべえこれくらくらする……」と数人が慌てて鼻を押さえていた。
「やべえな。匂いだけでトびそうになる」
「おい! ソイネ! 何爪舐めようとしてるんだよ!」
実を切ってしまった獣人さんが、恍惚とした目をして爪に舌を這わせようとしたところで、隣に立っていた獣人さんが慌てて止める。
それに気付いた違う獣人さんが素早く魔法陣を描いて、水をぶっかけていた。
その水で爪の果汁が流されたのか、ハッとしたようにソイネと呼ばれた獣人さんが正気に戻っていた。
「なんか、すげえ美味そうな匂いにつられた。これを舐めなきゃってしか今考えられなかったぜ……やべえなこの実。匂いだけでクる」
「やっぱ一気に燃やしちまうか」
「だな」
とりあえず周りに燃え広がらないように草を刈るぞ、と実を傷つけないように細心の注意を払いながら草刈りを始め、三十分後、ようやく蔦が広がっている一帯の草をなくすことが出来た。
でもその範囲が結構広い。
んじゃ焼くか、と話したところで、マップに赤い点が現れた。
魔物がまっすぐこっちに向かって来ていた。
その迷いない足取りは、絶対にリルの実中毒の魔物だ。
ヴィデロさんと俺が真正面に立って、ヴィデロさんは剣を、俺は『感覚機能破壊薬』と起爆剤を手に、魔物が現れるのを待ち構えていた。
でも、この実を踏みつぶしたら獣人さんたちの間で二次被害が出そうで怖いんだけど。
現れた魔物は、大型のイノシシのような魔物だった。
魔物はまっすぐこっちに突き進んできて、ピタッと足を止めた。
そして、目の前に俺たちがいるのに足元にある実をむさぼり始めた。魔物が咀嚼し始めると、辺りに濃厚な甘ったるい匂いが漂う。これ、獣人さんは戦えないやつじゃん。
案の定、獣人さんたちは全員頭を抑えたり鼻を抑えたり頬を叩いたりして正気を保とうと悪戦苦闘し始めている。
魔物は俺たちにかまうことなく実を食べ続けていたので、俺は少し近付いて、実をむさぼるその魔物の口の中に『感覚機能破壊薬』を投げ込んで素早く後ろに下がった。
ガリ、と瓶をかみ砕く異音がした瞬間、魔物がギィィィィィィと咆哮をあげて、暴れ始めた。丸くてデカい身体を転がして、背中が木にブチ当たるのも構わず転がり続け、逆に攻撃がしづらくなってしまった。
それでもお構いなしにヴィデロさんは剣を構えて、魔法剣の技を繰り出していく。
魔物の頭上のHPバーは一撃ごとに少しずつ減っていった。
口元から垂らしている唾液は、透明ではなく何か濁った色をしており、すでにこの魔物は毒持ちなんだということがうかがい知れた。
HPバーが一本分減ると、魔物は正気を取り戻して、濁った眼で辺りを見回した。俺とヴィデロさんを目に入れてるはずなのに反応せず、またも実に近付いて食べ始める。
なんか、この実の中毒性って麻薬並なんじゃないだろうか。ってことはここに獣人さんが長くいたらヤバいってことだよな。
俺はもう片方の手に持った起爆剤を地面に投げつけ、素早く火の魔法陣を描いた。
途端に火に包まれる魔物と実。でも範囲は限定的だから地面中に広がっている実を消滅させることは出来ない。
後ろの方では獣人さんたちが蔦を燃やし始めていて、甘い匂いと焦げ臭いにおいが入り混じった何とも不快な匂いが充満している。
「マック、ちょっと離れていてくれ」
不意にヴィデロさんが俺にそう言って、剣を構えた。
俺が離れると、ヴィデロさんはいまだ火だるまになっている魔物に剣を向け、何かを唱えた。
剣がぶわっと青白い炎を纏い、その炎は刀身の倍の大きさにまで膨れ上がった。
ヴィデロさんが剣を振り降ろすと、剣から炎が伸び、地面を這って魔物まで斬撃を飛ばした。
ザン、という音と共に、魔物の身体に大きな切り傷が出来上がる。
魔物を包んでいた炎が消えると、魔物はまた足元の実を鼻で探した。そして足元に実がないとわかると、咆哮を上げた。
ビリビリする。周りの実が焼けたのがわかったから怒ったんだ。
ヴィデロさんは既に少し下がり、蔦が生えているあたりまで動いている。
鼻息荒くした魔物は、ヴィデロさん目がけて突進し、ぐしゃっと実を自分で踏んだ瞬間足を止めた。
そしてフガフガし始めて、またも実を咀嚼し始める。
こんな状況でも実を食べたくなるんだ。
ぞっとしながら、俺も長光さんの刀を手に魔物に走り寄った。
ヴィデロさんも魔物に近付き、次々剣で攻撃を仕掛けるが、魔物は食べることに夢中で、痛みなんかも感じていないみたいだった。
俺も側面から切れ味抜群の刀で切り刻むけれど、流れ出る血はどす黒く、粘度が高そうな状態だった。うわ、絶対触ったら毒になるって一目でわかる。
でも実がある限り俺たちには構わず食べ続けるなら、食べてる間にひたすら攻撃を仕掛ければいいんじゃなかろうか。下手に『感覚機能破壊薬』を使って嗅覚がなくなったら元も子もないから、HPを減らすためだけに攻撃を。
ヴィデロさんの剣が喉元深くに刺さり、そのままざっくりと抉られ、どろりとした血が垂れる。
普通だったら致命傷なはずのその傷も無視した魔物は、口を動かすたびに首の傷から血が垂れるのもお構いなしに一心不乱に食べ続けている。怖い。
俺もちまちまと剣で切り刻み、頭上のHP減らしに貢献する。さすが長光さんの刀。攻撃力ミニの俺でも大分減らせる。
ヴィデロさんは急所を的確に攻撃して、クリティカルヒットを連発させている。
とうとう魔物がゴロンと倒れた。でも口はまだモグモグしている。目がすごく濁っているのがなんだか怖い。
首を落とされて、呑み込まれようとしていた実がだらりと地面に落ちて、魔物が光になっていく。
返り血を少し浴びてしまっていたヴィデロさんは、魔物が消えた瞬間に膝を着いた。
「ヴィデロさん!」
慌ててヒイロさんから貰っていた毒消しを飲ませると、ヴィデロさんはすぐに顔色が良くなり、返り血ですら猛毒を浴びせる魔物と、その魔物を作り上げるこの実に戦慄した。
獣人さんたちは順調に蔦を焼き消しているらしく、大分蔦は減っている。
「今日はこれを全部焼いてからじゃねえと帰れねえな」
「ああ……」
「ちょ、待ってくれ、気分わりい……」
いつでも元気だった獣人さんたちは、体毛に覆われていて顔色がわからなかったけれど、どうにも動きに精彩を欠いていた。
一人が木陰に移動し、吐き始める。匂いにもヤバい成分が含まれてるのか、それとも燃やした煙にその成分が含まれているのか、どうも作業自体がヤバそうだった。
取り合えず全員に毒消しを飲ませて、少し実から離れたところで休ませると、俺は蔦の所に戻ってひたすら魔法陣で蔦を焼いた。
確かにこの煙がくらくらする。ちらりとステータスを見ると『中毒(軽)』となっていた。やっぱり。
これが重くなるとヤバいんだよな。ヴィデロさんも中毒になりそうだから、状態が常に把握できる俺の仕事だよなこれ。
「ちょっと俺一人で焼くから、ヴィデロさんも皆も手を出さないで。あと、極力この煙の出る範囲に入らないでね。中毒になるから」
そう言い置いてヒイロさんの毒消しを飲むと、バッドステータス欄にあった文字がスッと消えた。
ステータス欄を開いたまま、俺はつぎつぎ魔法陣で焼いていった。
中毒が付くと、回復、そしてMPも回復。それを何度か繰り返して、ようやく一帯の蔦を消すことが出来た。近場の草もかき分けて、他にないか確認して、周りにはもう実がないとわかると、ホッとして思わずその場にしゃがみ込む。
「こんなのがもしかして獣人たちの森の中に育ってきてるっていうのかな。これ、絶対に俺たちみたいな異邦人が消さないと中毒者が出ちゃうよ」
「中毒にかかるとどうなる?」
「多分、この実がないと暴れたりとかするんじゃないかな。そして実にしか目が行かなくなる。痛みとか感じなくなったりもするかもしれない。でも『感覚機能破壊薬』は効いたんだよな。なにが違うんだろ。ま、それは置いといて、軽度だとさっき感じたくらくらと気分が悪くなる感じ。一回中程度の中毒になった時はなんかふわふわした感じになったから、今度は気分が良くなる感じ。重度はわからない。怖くて重度まで体感する気にはならなかった」
焼きながら感じた感覚を教えると、ヴィデロさんにわしっと頭を掻き混ぜられた。
「あんまり無茶するなよ」
「わかってる。でもずっと自分の状況がわかる異邦人じゃないと、危なくて蔦の駆除も出来ないと思う」
「それはそうなんだけど」
不機嫌な顔をするヴィデロさんにごめんなさい、と素直に謝った俺は、ハッとしてステータス欄を開いた。
そして、レシピを繰る。
大分前にカイルさんの所で見た本の中にあった、絶対これ使うことないよな、って思ってたレシピ。
植物を枯らす薬を作るレシピ。
錬金で作るその薬は、散布した一帯の植物を枯らせ、地面の栄養を著しく低下させて二度と生えさせないという怖い物。地面の栄養が低下しちゃったらもう作物も育たないよな、なんてレシピを見つけた時に思ったんだよ。あの時は虫のやつを探すのに夢中でそのまま流し読んで終わったけど。もしかしたら役に立つかも。
表面を焼きはしたけど、もし地面にまだ根っこが残ってたら。だってこの蔦。這っているところほぼ全部に短い根っこが生えているから、残っていても不思議じゃないんだよ。
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