これは報われない恋だ。

朝陽天満

文字の大きさ
上 下
402 / 830

399、白状しちゃった

しおりを挟む

 

 ステータス欄を見ると、パーティーメンバーが載る一覧の他に、レイドを組んでいる一覧が現れた。

 開いてみると、そこには、レイドを組んだメンバーの名前とレベルが載っている。



「うわ、高橋もうレベル230まで上がったんだ……」

「そういうマックはレベル98? すっげえ中途半端だから取り合えず切りのいい100までは上げねえ?」

「そう簡単には上がらないんだって。……ってヴィルさんのレベル俺と同じくらいになってる……」



 一覧の中に入っているヴィルさんのレベルが、すでに90近くなっているのに驚いて、次いで長光さんのレベルが140とかいう生産組としては信じられないレベルをしていることに驚く。

 一方、長光さんもメンバー欄を開いていたらしく、目を見開いていた。



「ADOってレベル上限199じゃなかったっけか? ほぼ全員200超えじゃねえか……」

「エルフの里までの道が一番効率がいいから、結構往復してたんだよな」

「エルフの里? 待ってくれハルポン君。なんだそこは。あ、もしかしてあの公式の眉唾もんの限界突破神殿、お前ら全員そこを突破したってことか……?」

「それそれ。俺らは第二陣だったけどな。長光も……って、神殿に行ったやつから場所を教えるのはホントはタブーなんだけど、俺らが同行しようか? まだあと三週間近く入れねえから待って貰うようになるけどな」

「申し出はありがたいが俺はまだレベル限界値に達してねえから入れねえんだよ」



 悔しそうにハルポンさんに零す長光さんの言葉で、そういえばそんなことを運営は告知してたんだった、と思い出す。

 ちらりとヴィルさんを見ると、ヴィルさんは俺と目が合った瞬間口元をくいっと上げてウインクした。

 クラッシュが呆れたようにヴィルさんを小突く。



「ヴィル、あれって誰でも入れる神殿でしょ。じゃなかったら俺とかマックとか入れないじゃん」

「クラッシュ君もクリアしたのか?!」

「したよ。あとそこにいるヴィデロも。そっちにいる人たちはわからないけど、高橋たちも一緒に入ったんだよ。母さんから位置特定できる場所は信頼できる人にしか教えるなって言われたけどさ、長光は信頼できそうじゃん。ヴィル、教えたっていいんじゃないの?」

「……まあ、天使クラッシュがそこまで言うなら」



 呆然としている長光さんに、クラッシュが近付いて、神殿の大まかな場所を教える。

 そして首もとに光る水晶を見せた。



「これが、戦利品。父さんの形見なんだ」

「形見か……そうか。教えてくれてありがとな」



 使わないのか、とは長光さんは訊かなかった。

 頷いて、場所を教えてくれたことへの礼を言っただけだった。

 って、よく考えたら、ここにいるメンバーって、長光さん以外は全員神殿クリア済みだったんだ。

「神殿、そのうち行って来てみるかな」なんて呟く長光さんにエールを贈ることにした俺は、そっと聖水ランクSを差しだした。「はなむけの品です」と。皆の話を聞いても、絶対にあの黒いスライムは出てくるみたいだから。聖水を見てそのスライムを思い出したのか、『マッドライド』の面々が身震いした。雄太も一緒になって。そうだよね。雄太、大事な鎧を溶かされてたもんね。









 採取をしつつ順調に進む。レイドを組んだからか、小部屋の外で雄太たちが魔物を倒しても、ドロップ品が俺のインベントリに入るようになった。経験値も。

 これって俺何もしてないのにいいのかな、と思っていると、長光さんも「依頼の金も渡してねえのにおんぶ抱っこ採取は性に合わねえんだよ」と言って隙を見て皆の武器の手入れをし始めた。

 俺も何か貢献しないとだよなあ、と溜め息を吐きながら、新しいアイテムを採取する。初めて見る素材も多いから、あとから色々と調薬が捗りそう。でも素材がなくなったらここまで取りに来るのが大変そうだけどね。

 今回は回復魔法に特化したミネさんがいるから、俺の出番はなさそうなので、『感覚機能破壊薬センスブレイクドラッグ』をたんまりとブレイブに渡して、採取に専念する。

 垂れ下がった蔓から葉を採取していると、壁を掘っていた長光さんが「また出やがった」と声を上げた。



「なんなんだこの『謎素材』っての。気になって仕方ねえ」

「謎素材?!」



 考えていたこともすっ飛んで、俺は思わず長光さんの所に駆け寄った。

 長光さんの手には、綺麗な青い宝石みたいな石が握られていた。



「見せてもらってもいいですか?」

「ああ。でもその手の奴はどう頑張って鑑定しても「謎素材」ってしかでないんだよ」

「『謎素材』! 長光も持ってたのか。俺らもその素材気になってたんだよ。エルフの里でわんさか見つけてさ。でも持ち出し禁止とか言われるんだよ」

「俺はそのエルフの里ってのもかなり気になるんだけどな。今度連れてってくれないか?」

「いいよー。でもそのレベルじゃちとキツイかも」



 乙さんが長光さんの肩越しに俺たちの手の石を覗き込んでくる。

 エルフの里常連さんになってるからなあ、『マッドライド』。乙さん、エルフさんを口説くのやめたのかな。

 苦笑しながらそっと手の中の石を鑑定すると、『水玄光石:錬金素材 水属性を付与する石』と出てきた。すごい。



「見た感じ鉱石だからなんかに使えるかと結構溜め込んでいるんだけど、未だにそれの使い方がわからないんだよな」

「じゃあ沢山持ってるんですか?!」

「ああ、結構持ってる」



 長光さんの答えに、俺は思わずガッツポーズをした。



「『謎素材』、俺に全部売ってください」

「は?」



 詰め寄ると、長光さんは怪訝な表情で俺を見下ろした。



「売ってください。お金に糸目は付けません」

「売るって、そりゃあいいけど……」



 考え込んだ長光さんは、ふと顔を上げて、そうだなと呟いた。



「その『謎素材』の使い道を俺に教えてくれるなら、やるよ。どうせ使えねえからって寝かしてた素材だ」

「使い道、ですか」



 これは錬金術のことは言わないといけない流れかな。雄太たちは知ってるけど、『マッドライド』は実は俺が錬金術師ジョブを持ってるってことは知らないんだよな。知ったらエルフの里辺りに連行されそうな気がしてならない。けど、ここにいる人は全員信頼できる人たちだし。

 俺は一通り皆の顔を見回してから、うん、と頷いた。



「俺、実は副業に『錬金術師』っていうジョブを持ってるんです。今はメインにセットしてるんですけど。その錬金術でこの『謎素材』が必要なんです」

「マック、いいのか?」



 白状した瞬間、ヴィデロさんが心配そうに声をかけてくれた。その気遣いが嬉しい。好き。

 でも、この人たちなら大丈夫だよ。俺が頷くと、ヴィデロさんが「そうか」フッと顔を綻ばせた。



「錬金術? まぁたレアジョブ来た。どっからそんなレアジョブ探し出してくるんだよマックは」

「クラッシュに怪しげな釜を売りつけられて」



 ハルポンさんの呆れたような突っ込みに、俺は真実を明かした。

 途端に周りがどっと沸く。



「ちょっとマック。それじゃ俺の店が怪しいヤバい店っぽく聞こえるじゃん」

「でもほんとのことだろ」

「ほんとだけどさあ」

「ほんとなのかよ!」



 乙さんに突っ込まれて、クラッシュが「だってなんかマックなら買い取ってくれそうだったから」とかわけのわからない理屈を述べ、さらに突っ込まれている。

 いや、大活用してるけどね。ありがたいしね。これのおかげで色々と助かってるけどね。

 買ったときのことを言うと、どうしてこうも怪しい押し売りに買わされた感が漂うんだろう。面白い。

 乙さんはクラッシュに「もっと怪しげな釜ないの? 俺にも売りつけてー」と迫ってミネさんに「店主さんに絡むな!」と回し蹴りを食らっている。限定一個だったんだよ、錬金釜。残念。



「うっわ見てみてえ。錬金するところ。なあ、今度俺の工房に来てくれないか? そん時に『謎素材』ごっそりマック君に渡すから。あ、俺がそっちに行ってもいい。マック君の名前は工房に登録しておくから。な、頼む!」

「え、本当ですか?! じゃあ俺も工房に長光さんを登録しておこう」

「これで工房行き来自由だな! よっしゃ!」



 ガッツポーズをする長光さんのフレンドリストに、チェックを入れる。あ、でもヴィデロさんと愛し合ってる時には入れないようにしとかないと。ドアを開けたらいました、なんていう状態は気まずいからね。ヴィルさんは気にしないみたいだけど。

 長光さんは、ためらいなくインベントリに入っていた『謎素材』を全て俺に渡してくれた。

 それを受け取って、今度はゆっくりとヴィデロさんと二人で長光さんの工房に行こう、と心に決めた俺。ヴィデロさんの鎧も注文したいしね。







 さらに先に進むと、今までの歩きやすさが嘘のようにがたがたした足場の道が出てきた。

 さらに、壁には大きな穴が沢山あいている。崩れたような跡もあるし、中には小部屋の壁が崩れて埋もれてるところもあった。



「これは……もしかして、ワーム系の巣穴がここら辺に重なってるんじゃないか?」



 ヴィデロさんが横穴を見て呟く。

 ワーム? ってあのヴィデロさんを丸のみした?

 巣穴って?!

 でもそう言われるとその穴がワームの通った後にしか見えなくなってくる。

 いきなりぐわわっと出て来るってこと?

 感知には今の所何も引っかかってないけど。



「ワームか。ってことは穴に入ればワームを狩れるってことか」

「ちょっと高橋。あなたその大剣は穴の中じゃ振り回せないわよ」



 いきなり穴に飛び込もうとした雄太を海里が呆れたように止める。



「でもワームの素材は結構高値で売れるんだぞ?!」

「それでも。生き埋めなんていやよ私。それにユイも。火力の大きい魔法はこういう巣穴にはタブーだからね。崩れるから」

「そっか。じゃあ私と高橋は役立たずだね。残念」



 ユイが無邪気に雄太の心をえぐり取る。そしてすぐさま雄太にこめかみぐりぐり攻撃を受けていた。男の子に「役立たず」って言葉はタブーだよユイ。心折れるから。



「巣穴探索するかダンジョン探索するか。どっちがいい?」



 皆が巣穴を覗き込んでいる時に、クラッシュがヴィルさんの袖を引いてそんなことを訊いた。

 ヴィルさんは苦笑しながらダンジョンの先に目を向ける。



「ダンジョンだな」

「じゃあ先に進もっか」



 二人のやり取りに思わず吹き出す。

 クラッシュ、完璧ヴィルさんをダウジングの棒扱い。確かにヴィルさんの感知能力はなんかおかしいレベルで性能抜群だけど。



「クラッシュがあいつの扱いうまくなってきてるな……」



 ぽつり呟いたヴィデロさんの言葉に、俺はもう一度吹き出した。



しおりを挟む
感想 508

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!

古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます! 7/15よりレンタル切り替えとなります。 紙書籍版もよろしくお願いします! 妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。 成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた! これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。 「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」 「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」 「んもおおおっ!」 どうなる、俺の一人暮らし! いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど! ※読み直しナッシング書き溜め。 ※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。  

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます

ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜 名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。 愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に… 「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」 美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。 🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶 応援していただいたみなさまのおかげです。 本当にありがとうございました!

【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する

SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので) ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

処理中です...