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399、白状しちゃった
しおりを挟むステータス欄を見ると、パーティーメンバーが載る一覧の他に、レイドを組んでいる一覧が現れた。
開いてみると、そこには、レイドを組んだメンバーの名前とレベルが載っている。
「うわ、高橋もうレベル230まで上がったんだ……」
「そういうマックはレベル98? すっげえ中途半端だから取り合えず切りのいい100までは上げねえ?」
「そう簡単には上がらないんだって。……ってヴィルさんのレベル俺と同じくらいになってる……」
一覧の中に入っているヴィルさんのレベルが、すでに90近くなっているのに驚いて、次いで長光さんのレベルが140とかいう生産組としては信じられないレベルをしていることに驚く。
一方、長光さんもメンバー欄を開いていたらしく、目を見開いていた。
「ADOってレベル上限199じゃなかったっけか? ほぼ全員200超えじゃねえか……」
「エルフの里までの道が一番効率がいいから、結構往復してたんだよな」
「エルフの里? 待ってくれハルポン君。なんだそこは。あ、もしかしてあの公式の眉唾もんの限界突破神殿、お前ら全員そこを突破したってことか……?」
「それそれ。俺らは第二陣だったけどな。長光も……って、神殿に行ったやつから場所を教えるのはホントはタブーなんだけど、俺らが同行しようか? まだあと三週間近く入れねえから待って貰うようになるけどな」
「申し出はありがたいが俺はまだレベル限界値に達してねえから入れねえんだよ」
悔しそうにハルポンさんに零す長光さんの言葉で、そういえばそんなことを運営は告知してたんだった、と思い出す。
ちらりとヴィルさんを見ると、ヴィルさんは俺と目が合った瞬間口元をくいっと上げてウインクした。
クラッシュが呆れたようにヴィルさんを小突く。
「ヴィル、あれって誰でも入れる神殿でしょ。じゃなかったら俺とかマックとか入れないじゃん」
「クラッシュ君もクリアしたのか?!」
「したよ。あとそこにいるヴィデロも。そっちにいる人たちはわからないけど、高橋たちも一緒に入ったんだよ。母さんから位置特定できる場所は信頼できる人にしか教えるなって言われたけどさ、長光は信頼できそうじゃん。ヴィル、教えたっていいんじゃないの?」
「……まあ、天使クラッシュがそこまで言うなら」
呆然としている長光さんに、クラッシュが近付いて、神殿の大まかな場所を教える。
そして首もとに光る水晶を見せた。
「これが、戦利品。父さんの形見なんだ」
「形見か……そうか。教えてくれてありがとな」
使わないのか、とは長光さんは訊かなかった。
頷いて、場所を教えてくれたことへの礼を言っただけだった。
って、よく考えたら、ここにいるメンバーって、長光さん以外は全員神殿クリア済みだったんだ。
「神殿、そのうち行って来てみるかな」なんて呟く長光さんにエールを贈ることにした俺は、そっと聖水ランクSを差しだした。「はなむけの品です」と。皆の話を聞いても、絶対にあの黒いスライムは出てくるみたいだから。聖水を見てそのスライムを思い出したのか、『マッドライド』の面々が身震いした。雄太も一緒になって。そうだよね。雄太、大事な鎧を溶かされてたもんね。
採取をしつつ順調に進む。レイドを組んだからか、小部屋の外で雄太たちが魔物を倒しても、ドロップ品が俺のインベントリに入るようになった。経験値も。
これって俺何もしてないのにいいのかな、と思っていると、長光さんも「依頼の金も渡してねえのにおんぶ抱っこ採取は性に合わねえんだよ」と言って隙を見て皆の武器の手入れをし始めた。
俺も何か貢献しないとだよなあ、と溜め息を吐きながら、新しいアイテムを採取する。初めて見る素材も多いから、あとから色々と調薬が捗りそう。でも素材がなくなったらここまで取りに来るのが大変そうだけどね。
今回は回復魔法に特化したミネさんがいるから、俺の出番はなさそうなので、『感覚機能破壊薬センスブレイクドラッグ』をたんまりとブレイブに渡して、採取に専念する。
垂れ下がった蔓から葉を採取していると、壁を掘っていた長光さんが「また出やがった」と声を上げた。
「なんなんだこの『謎素材』っての。気になって仕方ねえ」
「謎素材?!」
考えていたこともすっ飛んで、俺は思わず長光さんの所に駆け寄った。
長光さんの手には、綺麗な青い宝石みたいな石が握られていた。
「見せてもらってもいいですか?」
「ああ。でもその手の奴はどう頑張って鑑定しても「謎素材」ってしかでないんだよ」
「『謎素材』! 長光も持ってたのか。俺らもその素材気になってたんだよ。エルフの里でわんさか見つけてさ。でも持ち出し禁止とか言われるんだよ」
「俺はそのエルフの里ってのもかなり気になるんだけどな。今度連れてってくれないか?」
「いいよー。でもそのレベルじゃちとキツイかも」
乙さんが長光さんの肩越しに俺たちの手の石を覗き込んでくる。
エルフの里常連さんになってるからなあ、『マッドライド』。乙さん、エルフさんを口説くのやめたのかな。
苦笑しながらそっと手の中の石を鑑定すると、『水玄光石:錬金素材 水属性を付与する石』と出てきた。すごい。
「見た感じ鉱石だからなんかに使えるかと結構溜め込んでいるんだけど、未だにそれの使い方がわからないんだよな」
「じゃあ沢山持ってるんですか?!」
「ああ、結構持ってる」
長光さんの答えに、俺は思わずガッツポーズをした。
「『謎素材』、俺に全部売ってください」
「は?」
詰め寄ると、長光さんは怪訝な表情で俺を見下ろした。
「売ってください。お金に糸目は付けません」
「売るって、そりゃあいいけど……」
考え込んだ長光さんは、ふと顔を上げて、そうだなと呟いた。
「その『謎素材』の使い道を俺に教えてくれるなら、やるよ。どうせ使えねえからって寝かしてた素材だ」
「使い道、ですか」
これは錬金術のことは言わないといけない流れかな。雄太たちは知ってるけど、『マッドライド』は実は俺が錬金術師ジョブを持ってるってことは知らないんだよな。知ったらエルフの里辺りに連行されそうな気がしてならない。けど、ここにいる人は全員信頼できる人たちだし。
俺は一通り皆の顔を見回してから、うん、と頷いた。
「俺、実は副業に『錬金術師』っていうジョブを持ってるんです。今はメインにセットしてるんですけど。その錬金術でこの『謎素材』が必要なんです」
「マック、いいのか?」
白状した瞬間、ヴィデロさんが心配そうに声をかけてくれた。その気遣いが嬉しい。好き。
でも、この人たちなら大丈夫だよ。俺が頷くと、ヴィデロさんが「そうか」フッと顔を綻ばせた。
「錬金術? まぁたレアジョブ来た。どっからそんなレアジョブ探し出してくるんだよマックは」
「クラッシュに怪しげな釜を売りつけられて」
ハルポンさんの呆れたような突っ込みに、俺は真実を明かした。
途端に周りがどっと沸く。
「ちょっとマック。それじゃ俺の店が怪しいヤバい店っぽく聞こえるじゃん」
「でもほんとのことだろ」
「ほんとだけどさあ」
「ほんとなのかよ!」
乙さんに突っ込まれて、クラッシュが「だってなんかマックなら買い取ってくれそうだったから」とかわけのわからない理屈を述べ、さらに突っ込まれている。
いや、大活用してるけどね。ありがたいしね。これのおかげで色々と助かってるけどね。
買ったときのことを言うと、どうしてこうも怪しい押し売りに買わされた感が漂うんだろう。面白い。
乙さんはクラッシュに「もっと怪しげな釜ないの? 俺にも売りつけてー」と迫ってミネさんに「店主さんに絡むな!」と回し蹴りを食らっている。限定一個だったんだよ、錬金釜。残念。
「うっわ見てみてえ。錬金するところ。なあ、今度俺の工房に来てくれないか? そん時に『謎素材』ごっそりマック君に渡すから。あ、俺がそっちに行ってもいい。マック君の名前は工房に登録しておくから。な、頼む!」
「え、本当ですか?! じゃあ俺も工房に長光さんを登録しておこう」
「これで工房行き来自由だな! よっしゃ!」
ガッツポーズをする長光さんのフレンドリストに、チェックを入れる。あ、でもヴィデロさんと愛し合ってる時には入れないようにしとかないと。ドアを開けたらいました、なんていう状態は気まずいからね。ヴィルさんは気にしないみたいだけど。
長光さんは、ためらいなくインベントリに入っていた『謎素材』を全て俺に渡してくれた。
それを受け取って、今度はゆっくりとヴィデロさんと二人で長光さんの工房に行こう、と心に決めた俺。ヴィデロさんの鎧も注文したいしね。
さらに先に進むと、今までの歩きやすさが嘘のようにがたがたした足場の道が出てきた。
さらに、壁には大きな穴が沢山あいている。崩れたような跡もあるし、中には小部屋の壁が崩れて埋もれてるところもあった。
「これは……もしかして、ワーム系の巣穴がここら辺に重なってるんじゃないか?」
ヴィデロさんが横穴を見て呟く。
ワーム? ってあのヴィデロさんを丸のみした?
巣穴って?!
でもそう言われるとその穴がワームの通った後にしか見えなくなってくる。
いきなりぐわわっと出て来るってこと?
感知には今の所何も引っかかってないけど。
「ワームか。ってことは穴に入ればワームを狩れるってことか」
「ちょっと高橋。あなたその大剣は穴の中じゃ振り回せないわよ」
いきなり穴に飛び込もうとした雄太を海里が呆れたように止める。
「でもワームの素材は結構高値で売れるんだぞ?!」
「それでも。生き埋めなんていやよ私。それにユイも。火力の大きい魔法はこういう巣穴にはタブーだからね。崩れるから」
「そっか。じゃあ私と高橋は役立たずだね。残念」
ユイが無邪気に雄太の心をえぐり取る。そしてすぐさま雄太にこめかみぐりぐり攻撃を受けていた。男の子に「役立たず」って言葉はタブーだよユイ。心折れるから。
「巣穴探索するかダンジョン探索するか。どっちがいい?」
皆が巣穴を覗き込んでいる時に、クラッシュがヴィルさんの袖を引いてそんなことを訊いた。
ヴィルさんは苦笑しながらダンジョンの先に目を向ける。
「ダンジョンだな」
「じゃあ先に進もっか」
二人のやり取りに思わず吹き出す。
クラッシュ、完璧ヴィルさんをダウジングの棒扱い。確かにヴィルさんの感知能力はなんかおかしいレベルで性能抜群だけど。
「クラッシュがあいつの扱いうまくなってきてるな……」
ぽつり呟いたヴィデロさんの言葉に、俺はもう一度吹き出した。
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