これは報われない恋だ。

朝陽天満

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398、本来の目的って素材集め……じゃなかった

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 洞窟の内部はなかなか広かった。

 さすがに全員は並べないけれど、5人は余裕で横に並べる広さの通路で、途中途中部屋のような物と分かれ道があり、いかにもダンジョン、って感じだった。

 先頭を『マッドライド』が歩き、殿を『高橋と愉快な仲間たち』が担って警戒している。

 真ん中は俺とヴィデロさんとヴィルさんとクラッシュと長光さん。

 でも。



「ここ、素材の宝庫だ……!」



 壁を伝う蔦もそうだし、ちょっと生えている植物はほぼ地上より2ランクくらい高い素材。岩肌のくせに岩の合間から木の根っこが這っていて、そこには芋のような素材がたんまり。



「まさに……っつうかこんな落ちてる石ころまで最高の素材だってのが何とも……くうう、わりい、ちょっと拾ってもいいか?」



 俺とまさに同じテンションで鉱石系の素材を集め始めた人が一人。

 通路はそこまで素材がないのに、ちょっと小部屋に入ると途端に素材だらけ。周りの人たちの呆れたような顔も何のその、俺と長光さんはついつい皆の足止めをしてしまっていた。



「まあ別に何か目的があって入ったわけじゃねえから、いいんじゃねえの?」

「俺たちは周りを警戒しておくか」



 雄太とハルポンさんが半分呆れた目で俺たちを見ていたけど、ごめん、やめられない止まれない。

 ちなみにヴィルさんはかなり採取系のスキルを上げてるみたいなので、一緒にはしゃいで素材をゲットしている。

 ヴィデロさんは俺の採取の助手をしてくれているのが何とも嬉しい。何ここ。当たりダンジョン?

 石の間から飛び出している木の根っこにぶら下がってる素材に届かないとヴィデロさんが俺を持ち上げてくれて素材ゲット。

 たまに魔物が出てくるみたいだけど、雄太たちがさくっと倒してくれるので、俺たちは素直に素材を採取する。

 長光さんは懐からつるはしを取り出して、本格的に壁を掘っているのが何ともおかしい。でも俺はそこらへん素材採取位置じゃないけど、長光さんにはちゃんと素材個所に見えるのかな。面白い。



 ゆっくりした足取りで少しずつ奥に進んでいく俺たち。魔物は今の所、ここにいる戦闘職の人が単独でも倒せるくらいの魔物らしい。もちろん俺単独だと死に戻り必至だけど。



「長光さん刀の切れ味確かめるはずが採取になってるよな」

「そうだっけ?」



 ホクホクしてたところを雄太に突っ込まれ、今まで本来の目的を忘れていた俺。

 そうだった、刀の切れ味披露のはずだったんだっけ。でもここら辺の魔物じゃ、俺には強すぎない?



「そういや刀調整も兼ねて一緒に来たんだった。素材が良過ぎて忘れてたぜ。マック君ちょい前線に来いよ」



 長光さんもハッと我に返り、俺を手招きした。通路の先の曲がり角には魔物がいるのはわかってる。

 おっかなびっくり先頭にいる長光さんの横に並ぶと、「そこにいる魔物切ってみろよ」といい笑顔を向けられた。

 待って。そんな簡単に。

 ヴィデロさんも俺をサポートするためか、すぐ横で剣を構えている。



「じゃあ、ちょっとやられてくるね」



 通路から顔を出した魔物を視認して、皆が応援の声を飛ばす中、俺は魔物に向かって走り出した。横から聞こえてくるヴィデロさんの足音がすごく頼もしい。

 唸りながらこっちに向かってくるゾンビみたいな魔物に、刀を抜いて切りかかる。

 ただただ刀を上から下に振り下ろしただけなのに、ヒットした魔物の腕はスパンとさして抵抗もなく切り落とされた。

 その横からヴィデロさんの剣が腕のなくなった魔物の胴体を真っ二つにして、二発でキラキラと魔物が消えていく。



「やっぱり切れ味が半端ないなぁ……」



 魔物を切った残滓は光になって消えてしまうので、刀も綺麗なまま。耐久値も全然減ってない。



「す……っげえ!」

「流石長光!」

「刀かっこいい!」



 俺が戻ってくると、次々そんな声が飛ぶ。ほんとすごいよ。剣まるでダメダメな俺がここまで魔物を綺麗に切れるんだもん。



「ん、いいみたいだな。耐久値はどうなってる?」

「減りません。でも減っても鞘に入ってたら戻るんですよね」

「ああ。他の剣に魔法陣を付与して試してみたらしっかりと一晩で耐久値が20くらい回復してたから、戻るはずだ」

「すごい。クラッシュ魔法陣の構築ってあんまりしたことないって言ってたのに」



 鞘に入った刀を見ながら長光さんと話をしてると、クラッシュが横から「あれはね」と口を出した。



「俺も教わった魔法陣なんだ。でも教わった人はあんまり剣を使わない人だから、ほとんど使ったことはなかったんだって」

「なるほど……」



 セイジさんに教わったのか。ほんと、セイジさんマジお父さんだよな。



「これでマック君が剣スキルでも覚えりゃ最高なんだけどな」

「そんな無茶言わないで下さいよ」

「無茶なのか?」



 長光さんはその問いを、俺じゃなくてヴィデロさんに向けて放った。

 ヴィデロさんは苦笑しながら「……まあ、な」と言葉を濁している。散々一緒に歩いて俺の剣技術を見てるからなあ。それにヴィデロさんも腕は一流だから、俺のヘロヘロの剣筋はすでに伸びしろがないんじゃないかということも気付いてるはず。



「そうか? あの動画、剣で相手をやっつけてただろ」

「あの動画?」

「ほら、門番さん立ち合いのやつ。トレの門の前で決闘したやつ」



 長光さんの言葉に、後ろのプレイヤーたちから一斉に吹き出す音が聞こえた。ってことは皆その動画を見てるってことかな。えっと。あれかな。スノウグラスさんの時のやつかな。何でそんな動画が出回ってるんだよ……。



「あれは相手が油断した隙にアイテムで戦闘不能にして剣を叩きつけただけですから……」

「ティソナだろ。あれの「衰威」を上手く利用してたなって感心してみてたんだ。あの時使ったアイテムも気になってたんだけどな。躊躇いない手つきだったから感心してたんだよ」



 あれは相手がほんとムカつく奴だったから躊躇いなんてなかったです。と心の中で答える。それにあれをしないとマルクスさんと決闘になるところだったんだよ。

 苦笑でごまかしていると、ヴィデロさんの手が肩に置かれた。



「マックは薬師だからな。俺がマックの剣になるから、マックはこのままでもいいんだ。それに、薬師が剣も使えたら、それこそ俺が足手まといになるからな。それだけは勘弁だ」

「ヴィデロさん……」



 ヴィデロさんが俺の剣になるって。さらっと出てくる言葉がかっこいい。好き。

 大好き、の意を込めてヴィデロさんを見つめると、その視線に気づいたヴィデロさんが俺を見てふわっと微笑んだ。その顔が最高過ぎて胸が高鳴る。好き。



「っと、お二人さんのおかげで骨のある魔物が出てきてくれたみたいだぜ」

「俺たちのおかげってなんですか」



 今度は長光さんが刀に手を添えながら、ニヤリと笑った。

 雄太たちも俺の前に立つようにサッと移動し、通路の先端に陣取る。



「レア魔物が出てきたってことだよ」



 マップ上にも赤い点は点在していて、その一つがこっちに近付いてきていた。

 その魔物は、さっきのゾンビとはレベルの違う物っぽくて、感知を使った瞬間ぞわっと鳥肌が立つ。

 移動スピードは遅く、通路を曲がったさらに先に陣取っているみたいだった。

 待ち伏せなら、と雄太が通路を曲がった瞬間、一気に魔物は距離を詰めてきた。

 雄太はそれを想定していたのか、大剣で第一手を防ぎ、その間にムコウダさんが前に走り出る。ムコウダさんが盾を構えてタン! と鳴らした瞬間四つ足の魔物の視線がムコウダさんを向いた。

 そして、跳躍して一気に距離を詰めてきたその魔物の方に、長光さんが無造作に足を踏み出した。



 ごとり、と音がして、魔物の身体が半分に切れていた。

 え、今、何したの?

 魔物が勝手に半分になるわけないよね。雄太はまだ剣を振るってないし。

 と長光さんを見ると、「ふぅ」と息を吐きながらいつの間にか抜いていた刀を鞘にしまっているところだった。



「居合、すげえ……」



 誰かの唸るような声が聞こえる。

 俺、目で追えなかったよ。っていうか長光さん、強すぎ。生産職でしょ。感知で鳥肌立つくらいの魔物を一撃で。一撃っていうのも合わないくらい静かに。

 キラキラと消えていく魔物を目で追いながら、流石辺境に陣取る生産者だな、なんて、半分現実逃避したことを考えていた。

 俺にはトレくらいが丁度いいってことだよね……、うん。



「お、いいドロップアイテムが貰えた」



 インベントリを操作していた長光さんが、目を輝かせてドロップ品を取り出した。

 炎系の魔石みたいだった。ってことは一瞬で消えたけど、今の魔物は炎属性の魔物だったんだ。攻撃する暇もなく切られたけど。

 俺も何気なくインベントリを開くと、さっきのゾンビの魔物がくれたドロップアイテムが入っていた。「グールの腐肉」だって。そういえば今回は薬師ジョブにしてたんだった。錬金術師にチェンジチェンジ。

 っていうか腐った肉なんていらないんだけど。何に使っても素材が穢れるって。ルミエールダガーのご飯にしかならないよ。



「そうだ。マック君、取り敢えず今のうちにパーティー組んどくか? 誰が魔物を倒しても経験値とアイテムが入るように」

「そうですね。お願いします」



 それに便乗するようにヴィルさんもパーティー加入申請してきたので、許可すると、『高橋と愉快な仲間たち』『マッドライド』がパーティー名で申請してきた。



「え、何で?」

「こうしてパーティー単位で申請するとレイド組めるんだよ。知らなかったのか?」

「知らなかった……単体で混ぜてもらった事しかなかったから」

「ただし、そのパーティーのリーダーが申請しないとだめなんだけどな」



 ハルポンさんが付け足すように教えてくれて、「とりあえずよろしく」と口元を上げた。ちなみにヴィルさんと長光さんと組んだパーティーは、俺がリーダーになっていた。何でだ。



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