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386、魔法も色々
しおりを挟む夜までベッドの上でヴィデロさんとイチャイチャしていた俺は、夜ご飯を一緒に食べてから詰所に帰っていくヴィデロさんを見送った。
すっごく穏やかな顔で、あの壁向こうの魔素を身体に取り込んでしまっていた時の面影は全くなくなっていた。よかった。
スタミナも回復して、噛み跡も治されちゃって、さっきまでの名残が全く残ってない身体は、それでも胸の奥にいまだに熱がくすぶってるような感じがした。
さっきの激しいヴィデロさんは、授業中に思い出しちゃダメなやつだ。絶対。雄太に気付かれる。って思うときっと一番思い出しちゃいけない場所で思い出しちゃってトイレに駆け込むことになるんだろうな。だって、考えただけでじわっと腰が。ダメダメ。
次の日の朝、キッチンのテーブルで1人、俺はインベントリから聖魔法の本を取り出した。ヨシューさんから貰った聖魔法の本、かなりの数の魔法が書かれてる。こんなに聖魔法って種類あったんだ。
普通に聖魔法のレベルを上げて覚えられる聖魔法って何個くらいあるんだろう。
ちょっとユキヒラに訊いてみよう。
『聖魔法ってスキルレベル上げてくと何個くらい覚える?』
チャットを送ってからまた本に目を落とす。
ペラペラと捲っていくと、前にニコロさんが使ったことのある『浄化鎮魂歌ピュリファイレクイエム』も載っていた。でも聖短剣を持った時に使える聖魔法は載ってなかった。あれはあの短剣特有の魔法なのかなやっぱり。
そして気になっていた聖属性の攻撃魔法。あったよ。全部で5個くらいあってちょっとびっくりした。どうもゾンビ系というか死霊系に効くらしい。
中身を読んだり呟いてみたりしていると、ユキヒラからメッセージが届いた。
『俺は今の所聖剣の魔法以外は12個くらい覚えてる。ニコロさんに二つ教えて貰ったんだ』
教えて貰って12個か、と俺は唸った。魔法って実はものすごく奥が深いのかな。
それじゃ多分聖魔法半分も覚えてないってことになるから。
とフレンドリストを見てみると、雄太たちもログインしてたからついでに訊いてみる。
やっぱり魔法の第一人者はこの人だよな。
と俺はユイにチャットを飛ばした。
『いきなりごめん、ユイって魔法どれくらい覚えてる? 一つの属性につきどれくらい覚えるのが普通?』
『おはようマック君。魔法はねえ。一つの属性で私は20個くらい覚えてるから全部数えると100越えるよ。他のこと何も覚えてないくらい魔法しかしてないから』
ユイからはすぐ返ってきて、その内容に思わずため息。
実はユイ、すごい魔導師なんじゃなかろうか。100越えの魔法って。一つで20くらいって……他のやつらがおかしいから陰に隠れてたけど、実はユイが一番おかしいのかも。いい意味で。
『魔法を覚えるコツとかある?』
『ええとね。ありきたりかもしれないけど、楽しんじゃうと覚えが早いよ。索敵とかレベル上げろよとか言われてもあんまり好きじゃなくてさ、だからレベルも上がりにくい気がする』
『そっか。楽しむのか』
確かに調薬錬金はすごく楽しいから思わずたくさんやっちゃってレベルの上りも早いよな。
って、基本に戻れってことかな。聖魔法を楽しいって思えるかな。
でも俺が覚えたら、ヴィデロさんがおかしくなった時に俺が治してあげられる。そう考えると覚えるのも気合いが入る気がする。
頑張ろう、と本に目を落としたところで、もう一度メッセージが届いた。
『あとね、こんなことが出来たらいいなって想像すると、大体その通りの魔法になる気がするよ。でもそれは勇者が言うには、適性がある場合はそれでだいたい何とかなるんだって』
「想像……」
ユイのメッセージを読んで呟く。想像って、聖魔法を想像……。
うん。神様の後光が射すイメージくらいしか想像できない。ダメだ俺。
じゃあユキヒラに後光が射してる所辺りを想像しておこう。神々しい気がして……来ないよ。
『また何か覚えるの? 頑張ってね。あとね、高橋が新しい鎧を買ったとき、ついでに私にもアクセサリーを買ってくれたよ。何かあったのかな』
『買いたかっただけだと思うよ。つけてあげたら無表情で喜ぶから。あいつ結構ツンデレだから』
『ツンデレ、あ、そうかもね。うん。わかった。ありがとう』
その返事を読んでから、俺はユイとのチャット欄を閉じた。
リア充ですね。雄太がアクセサリーを買ってあげるなんて、買いたかったからに決まってるじゃん。あいつ、後ろ暗いことなんて絶対めんどくさがってやらないから。ばれたらその後が酷いことなんて、損するだけだからなんて言って絶対にやらないから。
俺は一言だけユキヒラにチャットを送ってから、ステータス欄を閉じた。
「さてと。やってみますか」
腰にさしてある剣を掴んで、鞘から抜く。
ふとヴィデロさんの黒鎧が目に入ったけど、横にいつもあるはずのティソナドスカラスがないのがちょっとだけ寂しい。昨日辺境で真っ二つに折れて、そのままその場に投げ捨ててきちゃったから。でもあれじゃきっと再生もできないだろうなあ。
溜め息を飲み込みつつ、聖短剣を見下ろした。
「『至高の神よ、その聖なる気で体内の邪なる毒を消し去り給え、解毒キュアポイズン』」
本をチラ見しながら書かれている呪文を唱えると、MPが減った。誰も毒になってないから効いているのかは全く分からないけど、一応使える。
その後、本の上に短剣を置いて手を離してから、もう一度呪文を唱えた。
「至高の神よ、その聖なる気で体内のよこしまな毒を消し去り給え、解毒」
ハイ減らない。そして聖魔法スキルは覚えてない。
これ、短剣を使わなくてもできるようになるのかなあ。
もう一度短剣を手に持ちながら、俺は小さくため息を吐いた。
でもわかったことが一つ。
俺のMPが許す限り、短剣を持っていれば本に書かれている魔法が使えるらしいということ。
後ろの方に載っている呪文を聖剣を持った状態で唱えたら、しっかりとMPが減っていた。しかも結構がっつり。
聖剣が光るから、それが目安と言えば目安。初期魔法なんてほぼ光ってるのかわからない状態だから目での確認は困難かも。
「ってことは、ヴィデロさんを治したヨシュー師匠の魔法も使えるってことかな」
教えて貰ったページを開いて、呪文を口に乗せる。
「『至高にして最上の神よ、その聖なる気でこの者の心の奥の底に眠る邪気を吹き飛ばし給え。ヴァイスブロフ』」
MPが一気に半分くらい減った。ってことは俺でも魔法を発動出来てるかもしれないってことか。
ってことは、壁向こうにもし不可抗力で行っちゃっても、今度こそ俺が治せるってことか。一番は行かないことだから、行く気はないけど。
マジックハイパーポーションで喉を潤していると、いきなりチャット欄がピロンピロンうるさく鳴り始めた。
ユキヒラか。
『聖魔法の魔導書ってなんだよ! 見せろください!』
『つうかどこで手に入れたんだ!』
『気になる! 返事くれ!』
『ニコロさんも見たいって言ってたから! マックの顔も見たいって言ってたからこっちに来いよ。一瞬だろ』
『早く返事!』
俺はチャット欄をそっと閉じた。途端にまたもピロンとメッセージが届く。
チャットの相手はやっぱりユキヒラで、一人大興奮していた。
さっき『聖魔法の魔導書貰った』って送ったからかな。
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