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377、ブレイブ、残念だったね
しおりを挟む「ねえねえマック。私も骨出てきたから、買い取ってくれない? さっきの爆弾とブレイブ用の目潰し5個くらいずつと交換で」
「それでいいならもちろん。ありがとう」
「あ、私も骨あげるよ。ええと、ええと、私はさっきの魔法攻撃力上がるやつがいいな」
「いいよ。でもあれ、もう素材が手に入らないからそんなにないけどそれでもいい?」
「いいよ。他では買えないレアアイテムだもん」
海里とユイも手に骨を持って俺に交渉してきたから、快諾する。二人ともお金には困ってなさそうだからアイテムか。でもすごくありがたい。聖短剣のレベル、戦闘じゃ上がらないしなあ。ユキヒラの聖剣は魔物を倒していけば着実に上がるんだよな。それを考えると、俺の聖短剣のレベル上げって難しい。
大分減った手持ちの現金を見ながら、そのうち本のお金がどれくらいになってるのか確認しに行かないとな、と俺は遠くを見た。前に獣人の村からもう金は要らないって言われてから、放置してたギルドの口座、勇者からも振り込まれて、トレの団長さんからも振り込まれてるんだった。俺の手持ちは主にクラッシュに売って現金でもらうものだから。
うん、俺、ちょっとしたお金持ちっぽい。
「また変なアイテムゲットしたら売って欲しいんだけど。もちろん割高で買い取るからさ」
雄太にそう言うと、雄太は「そりゃ構わないけど、でももう金はいい」と渋い顔をしていた。俺にほいっと大金出されたのが地味にショックだったのかな。
でも俺、装備品はすべてヴィデロさんからのプレゼントだし。お金かかってないから。使い道があんまりないんだよね。今度辺境の鍛冶師の鎧でも買ってきてヴィデロさんにプレゼントしようかな。こんどこそ、白い鎧。それもアリかも。帰りに鍛冶屋さんに行ってみよう。
取り敢えず俺は素材確保のために海里とユイにも同じことを言うと、海里が「それだったら」とポンと手を打った。
「確かギルドに個人売買系の依頼掲示板とかもあるわよ。安い手数料でそこに何が欲しい何を売りますって依頼書出せるのよ」
「へえ、それいいね。ダメもとで出してみようかな」
「いいんじゃない? 『謎素材』買い取りますとか出せば、売ってくれる人もいるんじゃないかしら。詳しい値段は出さないで、その場で交渉。マックなら移動もすぐでしょ」
「確かに移動は難しくないけど。掲示板とか、自分で活用するなんて思いつかなかった」
「ウノの街辺りでは、結構個人掲示板活用されてるわよ。店で買えない人が、薬草取ってきたのでポーション下さいとか。もう使わない剣を安く売ってくださいとか」
「なるほど」
確かに、始めたばっかりの時見た事ある気がする。ギルドじゃなくて、ギルド前の広場に大きな掲示板があって、そこに個人売買用の依頼書が所狭しと貼ってあったような。あれもギルド管轄の掲示板なのかな。
それにしてもいいことを訊いたな。貼ってみよう。
ワクワクしながら三人から受け取った骨をルミエールダガーの糧にする。手に入れた『無垢の灰塵』を零さないように紙に包んでインベントリにしまうと、俺は全員を見回した。
「そろそろ帰ろうか」
俺がそう声を掛けると、皆が頷いた。
辺境に着くと、雄太は早速鎧を見に行くとユイを伴って行ってしまった。
のこった海里は、2人の後姿を見て苦笑している。
「マックから貰ったお金、一瞬でなくなりそうね」
「いいんじゃないかな。あいつは鎧を実際に着たくて始めた様なものだし。昔っから変なところでこだわるやつだったからさ」
「そっか、2人とも小学校からの付き合いだっけ?」
「ううん、幼稚園の年少組からだから、そろそろ付き合いも15年目に突入だよ」
「ふふ、どおりで阿吽の呼吸ね」
学校でも俺たちのやり取りを同じような目で見ていた海里は、楽しそうに笑った。
「でも今日はブレイブ、残念だったね。一緒にユニークボス倒せなくて」
「ブレイブは今日は習い事よ。学校の部活には入っていないんだけど、外の道場で弓道を続けているから、今の時間もまだ弓を引いているかも。すっごくかっこいいのよ」
そう言えば前にブレイブはリアルでも弓道をしてるって聞いたことがあるけど。確かに、あの美人がキリッと弓を引く姿はすごくかっこいいと思う。
うっとりと手を合わせて頬を染める海里は、どこからどう見ても恋する女の子だった。
「来週の土曜日大会があって、それに道場代表で出場する予定なのよ。マックも一緒に応援に行く? 高橋とユイも応援に行ってくれるのよ」
「大会。代表ってことはかなり実力があるってことか。ブレイブすごいなあ。でもごめん、その日はアルバイトが入ってるから行けそうもないかも。でも心では応援してる」
ちょうどバイトの日が大会と重なっていて、応援に行けないのは悔しい。ちょっと見てみたかったな、と思いながら断ると、海里は「ありがとう」と笑顔で言った。そのままブレイブに伝えるね、と。
海里が宿屋に消えていくと、俺とロウさんはエルフの里に戻ることにした。
ロウさんの手を取って魔法陣を描こうとした瞬間、ロウさんが何か呪文を唱え始め、その一瞬後に俺の身体は目を瞑りたくなるような眩しい光に包まれていた。
咄嗟に目を閉じても、瞼の裏側まで眩しい光が差し込んでくる。ううう、目が、目があああ。
ようやく光が収まって、そっと目を開けると、そこは。
「あれ、エルフの里……?」
エルフの里の広場だった。
来た時と違って、周りにはエルフの人たちがいて、俺たちを注目している。
今のが光魔法の移動方法……眩しすぎて俺にはちょっと難ありだよ。
「ロウ! あの魔物は……?」
一人の体格のいいエルフさんが近付いてくると、ロウさんは俺の手を離してから、しっかりと頷いた。
「高橋殿たちと、マック殿が消し去ってくれた」
ロウさんの言葉と共に、エルフさんたちの表情が一斉に緩む。
中には顔を覆って座り込んでしまうエルフさんもいた。皆、さっきまで戦っていて撤退を余儀なくされた人たちだったらしい。
ロウさんがさっきの戦いの状況を説明してくれてる中、俺はようやくクエスト欄を開いていた。
『【NEW】ユニークボスを討て!
ディエテ辺境街北東の森に魔王の残滓が出現した!
エルフ族と力を合わせて残滓を討て!
クリア報酬:『破壊戦士の狂骨』 地脈の安定
クエスト失敗:ディエテ辺境街の地脈異常化 残滓の安定出現 エルフ人口の減少
【クエストクリア!】
無事魔王の残滓を討ち取ることが出来た
辺境の魔王残滓消滅
クリアランク:B
クリア報酬:『破壊戦士の狂骨』 地脈の安定 』
あそこであの骨が倒せなかったら、また傷を治したエルフさんたちが再戦してたってことか。人口減少ってかなりヤバかったってことだよな。よかった。倒せて。
報酬も、前の骸骨剣士と変わりないし。でもあの時はクエストにならなかったなあ。門番さんたちが頑張って倒したからいいけど。ヴィデロさんかっこよかった。
それにしても骨。もっと骨欲しいけど、魔王の塵芥はアレだけだったって言ってたし、最後倒してクエストには「残滓消滅」ってなってたからもう骨は出てこないのかな。他の物を探さないと。もう直接魔素を切りつけたらレベル上がらないかな。戦闘としてカウントされちゃうのかな。ムズカシイ。戦闘じゃないレベル上げ、難しいよ。
溜め息を吐きつつクエスト欄を閉じていると、ふと周りから視線を感じた。その方向に目を向けると、エルフさんたちが俺を見ていた。
いやいや、活躍したのは雄太たちだから。俺は安全圏の後ろからちょこちょこ手を出してただけだから。だからそんなキラキラした目で見ないでください。
ロウさんの説明全然聞いてなかったんだけど、どんな説明したんだよ。もう。
手を握られたりハグされたりものを貰ったりしながらなんとか長老様の所に戻ると、よれよれになった俺の姿を長老様が目を細めてコロコロと笑った。
「ありがとうね、あなたのおかげで今回取り零してしまった魔王の塵芥がいなくなったわ。この子ももっとしっかり頑張るって気合いを入れてるみたい。あなたのおかげね」
「いいえ、魔物の討伐ならいつでも。高橋たちが請け負いますので」
俺が、とは言わないでおこう。一人で行ったらひとたまりもないから。
そんな気持ちが長老様に気付かれたのか、長老様はさらに笑みを深くした。
お礼と称して、エルフの里からたくさんの『守護樹の落ち葉』を貰った俺は、今度こそ素材もたんまりと採取してから工房に帰った。
あの大きな樹から落ちてきたこの葉。鑑定眼を使ってみると、錬金アイテムだっていうのがわかった。
でもどんな錬金アイテムが出来るのかはわからない。たくさん作ったら雄太たちにたんまり持って行こう。だってこれ、魔物討伐のお礼だし。だったら、俺だけじゃなくて雄太たちも貰わないとだよな。何が出来上がるのかなあ。
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