これは報われない恋だ。

朝陽天満

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361、成人扱いして貰っちゃったよ

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 魚のレシピをゲットして、ついでに捕れたて魚も売ってもらって、俺たちはトレの街に帰ってきた。

 またしても真夜中。明日はバイトもあるから、寝不足だけがちょっと心配だ。

 でも、と俺はヴィデロさんの手に握られた釣り竿を見てにんまりした。

 これからは釣りデートなんていうのもアリかな。ノヴェ北東の湖を二人で探しに行くっていう手もあるし。

 思わずくすくす笑ってしまうと、ヴィデロさんがつられるように顔を綻ばせた。好き。



「あーあー。マックの脳内深夜モードに突入しちゃってるよ。カイル、もう解散しようか。そろそろ寝とかないと明日に響くしね」

「だな。全く、マックもヴィデロも前よりも重症になってねえか? あれか、呪いのせいか?」

「呪いもはじけ飛ぶよこの二人に掛かったら」

「違いねえ」



 そんなに俺たちの仲が羨ましいのかな。いいだろう。

 二人にドヤ顔を見せると、2人ともそんな俺の顔を見て吹き出した。





 カイルさんはまっすぐ農園に帰っていって、俺もヴィデロさんに送ってもらって工房に帰り着くと、インベントリの中身もそのままに寝室に向かった。

 とっくにログアウト時間は過ぎていたから。

 ログアウトして深夜のご飯とシャワーを終えて即ベッドに潜った俺は、次の日もまた授業中に睡魔に襲われるのだった。どうして授業中に出てくる睡魔ってあんなに手ごわいんだろ。HP高いのかな。





 お昼休み、眠い目を擦りながら屋上に向かった俺は、爽やかな風と日光を浴びて、ようやく身体が起きた気がした。

 伸びをしてから座って、弁当を開く。

 雄太と増田もお弁当を開けて、そろっていただきますをした。



「そういえば最近変な魔素溜まりを見つけたんだけど、辺境の方ではそういうのない?」



 二人に訊くと、2人とも首を捻った。ないのかな、と思ったら。



「魔素溜まりなんてありすぎてよくわからねえ」

「変な魔素溜まりってどんなやつ? 普通のなら沢山あるよ」



 次元が違った。

 辺境は魔素溜まりがあるのが普通らしい。

 辺境恐ろしい。



「えっと、昨日消したのは俺の胸くらいまであったでっかいやつ。頭のない魔物が出てきたし、魔素溜まりを攻撃すると魔物ポップが激しくなった」

「何だそりゃ。俺らの所は、一番デカいので俺の腹くらいだったか?」

「もう少し小さくなかった?」

「だったか? で、その周りにボス級の肉食獣系魔物がいた」

「強かったよね、あれ。前に郷野が戦った雷のやつくらい強いのがすでに雑魚」

「辺境こわい」



 二人の話を聞いて震えながらも、やっぱり違うのかな、と頭を捻った。



「魔素溜まりを消した後、何かそこに落ちてたりしない?」

「ねえな」

「魔物は落としてくれるけどね」

「じゃあやっぱり普通の魔素溜まりなんだ」



 もしかしたらと思って話題に出してみたけど、どうも俺たちが消した魔素溜まりとはやっぱり違ったみたいだ。

 呪われる宝石とか落ちないんだったらきっとヴィデロさんがいつも森で潰してる魔素溜まりの巨大化版って感じなのかな。



「なになに、郷野の所の魔素溜まり、何か落としたの?」

「うん。結構危ないやつ。複合呪いに掛かっちゃうやつを落としてた」



 拾ったら幼児になった、とは絶対に言わない。

 拾ったらうさ耳が生えたとは、死んでも言わない。



「複合呪いか。今、ギルドでは複合呪いを解くことを始めたみたいだから、そこまで怖くはないんじゃないの?」



 あ、それ、俺の仕事です。

 遠い目をしながら「ギルドもなかなか便利だよな」なんて言ってる二人の話を聞く。

 複合呪い、解けるとしたら、MPがアップしたニコロさんくらいなんだよな、候補者。

 ニコロさん元気かな。俺の祈りの師匠。

 今度王宮にニコロさんが元気か確認しに行こうかな。

 二人が「危ない魔素溜まりを探しに行くか」と意気投合しているのを見ながら、俺は残った弁当を掻き込んだ。





 週末、朝からログインした俺は、クワットロのレガロさんの所に跳んだ。

 相変わらず店は情緒たっぷりの趣で、見ているだけで楽しくなってくる。

 店のドアをノックすると、中から「どうぞお入りください」とレガロさんの声がした。



「いらっしゃい、マック君」

「おはようございます。今日はちょっとお願いがありまして」

「お願いですか」



 俺の言葉に、レガロさんは面白そうに口元を緩めた。

 こちらへ、と店の奥に誘われて、テーブルスペースの椅子を勧められる。

 少しだけお待ちください、と言って奥に消えていったレガロさんは、すぐに手にグラスを持って戻ってきた。



「長くなりそうですので、こちらでもどうぞ。今年出来立ての若い果実酒です。とても美味しいのですよ。成人のお祝いも兼ねて」



 差し出された薄い緑色の飲み物と、レガロさんの言葉に、俺はちょっとだけ感動した。

 何も言わずに成人扱いしてもらったの、初めてだよ。成人だって言っても冗談だと思われて終わるのに。



「あの、ありがとうございます。いただきます」

「美味しかったら、当店で取り扱っておりますので、ぜひご購入を」

「はい」



 しかもすんなり酒を売ってもらえるって、なんか大人になったみたいで、すごく嬉しい。

 思わず顔を緩ませながらグラスに手を伸ばす。

 一口飲むと、マスカットの味と香りが口の中に広がった。うわ、美味しい。

 そのマスカットの味の中に、ほんのり苦みが混じっていて、それがまた一層果実の甘みを引き出してるみたいな感じだった。美味しい。



「これが何年か時を経ると、さらに濃厚で豊潤な味わいになるのですが、それはもっとアルコールの味が身体に馴染むようになってからじゃないと本来の美味しさを味わえませんので、今日は若い果実酒をご堪能下さい」

「美味しいです。なんか大人になった気分」

「マック君はもう成人した男性じゃありませんか」



 驚いたような顔をするレガロさんに、苦笑する。成人として扱ってもらえるのって、なんかすごく気合いが入る。

 レガロさんは、「では、マック君の依頼を訊きましょうか」とトレイをカウンターの隅に置いた。



「実は、マジックセーブドイリーをもう一つ作ってもらえないかと思って」

「マジックセーブドイリーを作るのはやぶさかではないのですが、魔力を込められた糸が非常に高価なのです。とても高額になってしまいますが、それでもよろしいですか?」



 どうしても、ニコロさんに渡したかったマジックセーブドイリー。

 俺が使ってるものはレガロさんから俺が貰ったものだから、渡すのはためらわれるけど、もしもう一つ作ってもらえるなら、それをニコロさんに渡したくてここに来たんだ。

 お金ならまだ余裕があるから、多少高額でも何とかなるのかな。



「大丈夫です。お願いします」

「わかりました。では、一時間ほどお待ちいただけますか?」



 頷くと、レガロさんはカウンター下から本を一冊取り出して、俺の前に置いた。

 暇にならないようにとの配慮らしい。ありがたく読ませてもらうことにした。





 レガロさんから借りた本には、色々な素材の群生地が描かれていた。こ、これは。売りものかな。これも欲しいやつだ。特に西側の素材はあんまり把握してないから、こういう風にまとまっていると本当に嬉しい。素材の簡単な絵も載っていて、分かり易い。その素材が何に必要でどんな効果があるのかとかそういう物は載っていないんだけど、この分布図だけでかなり素材集めが楽になりそう。

 夢中で本を繰って中を見ていると、いつの間にやらレガロさんが横に立っていた。



「その本もお気に召していただけましたか。それは昔、名もなきエルフがこの国を隈なく歩いたときに書き記した物なんですよ。そうですね、お値段は、『起爆剤』3つほどで」

「買います」



 即座に答えて、持っていた『起爆剤』をレガロさんに渡した。何で俺がこのアイテムを持ってることを知ってるのか、なんて突っ込みはもうしない。レガロさんはそういう人だ。



「毎度ありがとうございます。とても貴重な物をいただいてしまいました。それと、マジックセーブドイリーなのですが」



 そう言ってレガロさんが差し出してきた物は、かなり大きめの三角形のレース編みだった。



「ドイリーとしてではなく、ショールの方が使いやすいかと思い、勝手ながらこの形にさせてもらいました」



 申し訳ありませんと頭を下げるレガロさんに、俺は戦慄した。

 え、待って。この大きさの物を一時間で編んだの? そっちが凄いよ!



「これは、羽織る様に使うことで魔力を補助することが出来るような形にしてみました。両手が開きますし、きっと教会のローブにはとても似合うと思いますよ」

「……」



 なんていうか、やっぱり、という感じだった。

 俺が使うんじゃないっていうのは気付かれてるとは思ったけど、ピンポイントで教会のローブに合わせて来るなんて。

 感心を通り越して、ちょっと呆れる。

 と思った瞬間、レガロさんがプッとこらえきれないように吹き出した。



「失礼しました。このマジックセーブショールのお代なのですが」



 取り繕うように空咳をしたレガロさんは、そのショールを畳みながら、ためらいなく口を開いた。



「『滅呪の輝石』がお代ということでいかがでしょう」







 動きを止めた俺をいつもと変わりない表情で見下ろすレガロさんは、ただ黙って俺の返事を待っていた。

 これを手放していいのかな。でも『禍物の知核』はもう一つあるし、『穢れた魔物の核』も一応持ってるから、もう一つ作れるし。



「わかりました。ありがとうございます」



 インベントリから、ヒイロさんとオランさんの力を借りて作られた『滅呪の輝石』を取り出すと、俺は躊躇いつつもそれをレガロさんに渡した。

 レガロさんは白い手袋の上でムーンストーンのようなそれを転がすと、小さくほぅ……と息を吐いた。



「美しい。まるでこの小さな石の中から聖なる気が溢れてきているようですね……ありがとうございます。それにしても」



 胸ポケットから取り出したハンカチで丁寧に『滅呪の輝石』を包むと、レガロさんはカウンターの所にあったすごく豪華そうな小さな箱に『滅呪の輝石』をハンカチごとしまった。かちんと音がしたから、きっと鍵を閉めたんだと思う。丁寧に扱ってくれることにホッとした俺は、残りの果実酒を口に含んだ。



「とうとう刻ときは満ち、欠けていた者が揃うのですね」



 独り言のように呟いたレガロさんの言葉が、やけに耳に残った。

 刻は満ちる。それはいい方に? 悪い方に? レガロさんの表情からそれを読み解こうと思っても、レガロさんの表情はいつもとまるで変わりなかった。



 グラスが空になると、レガロさんはもう一杯、と果実酒の瓶をどこからか持ち出した。

 サッと半分ほど注いでくれたので、ありがたくいただく。ほんと美味しい、このお酒。



「マック君の知り合いに、聖騎士はいらっしゃいませんか?」



 果実酒をチビチビと味わっていると、レガロさんがいきなりそんなことを訊いてきた。

 聖騎士? ユキヒラの事かな。



「います」

「でしたら、お願いがあるのです」

「何ですか?」



 俺が答えた瞬間、クエスト欄にピロンとビックリマークが付いた。

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