これは報われない恋だ。

朝陽天満

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358、魔素溜まり

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 寝不足で学校に行き、船を漕ぎながら授業を受け、こっそりと午後の授業で仮眠を取った俺は、急いで家に帰った。

 ログインして昨日の肥料を作らないといけない。そして火力を何とかしないといけないから。

 爆弾系の殺傷能力高い物を、とサラさんのレシピを探す。

 でも作ったことがないからそもそも素材しか載ってないんだよな。

 とりあえずそれっぽい素材が載ってるレシピを見て一つ作ってみようと錬金部屋に移動する。

 素材を取り出してドイリーを敷いた釜に謎液体を満たして錬金開始。

 普通に錬金をする分にはそこまでMPもスタミナも減らないから、補給もなく何個も作れる。

 MPが激減りする錬金の方がおかしいんだよ。素材のどれかが変質するのにすごく魔力を使うみたいなんだよな。

 グルグルしていると、段々と粘度が増してきて、黒くドロっとした液体が出来上がった。泡がぼこっと出たから多分出来上がり。

 釜を持ってその液体を瓶に流し入れて鑑定眼を使うと、『起爆剤:単体では何も起きないが、これに魔法をぶつけると、その魔力に反応し様々な爆発を起こす。火;火炎爆発。水:水柱放射。風:竜巻。氷:氷塊裂破。雷:放電拡散。闇:汚穢おわい散乱。光:発光刺芯。聖:聖光爆射』となった。うん。ヤバいやつだ。



「でもこれ、使えるかも」



 とりあえず素材があるだけ『起爆剤』を作り、インベントリに放り込む。その後、上級調薬セットと素材をインベントリに入れて、カイルさんの農園に移動した。昨日の素材は使い果たしたんだ。





「カイルさーん。肥料の素材売って」



 農園で作業していたカイルさんに声を掛けると、カイルさんは顔を上げてサムズアップした。

 すぐに昨日と同じ素材を集めて持ってきてくれたので、作業場所を借りて早速肥料を作る。

 その間、カイルさんは通常の農作業をしていた。

 昨日と同じくらいの量を作ってインベントリに突っ込んだ俺は、外に出てカイルさんに声を掛けた。

 空は薄っすらオレンジ色になっている。もうすぐ陽が落ちるから、待ち合わせ時間なんだ。

 カイルさんと並んでトレの街を歩き、クラッシュの店を目指す。途中のT字路で門の方からヴィデロさんが歩いてきたのが見えたので、俺はその場でぶんぶん手を振った。ヴィデロさんの苦笑顔も可愛い。

 俺をまんなかにして三人で並んで歩く。ものすごい凹凸ができてる気がする。そっと端っこに移動しようかな。それとも一歩後ろを歩こうかな。たまにはヴィデロさんの背中を堪能するのもいいかも。

 と、そっと両横の壁から逃れようとすると、2人とも俺の歩調に合わせて足を止めてしまい、逃げ出すことに失敗した。

 凹凸を気にしながらクラッシュの店に着くと、店の外でドアに『クローズ』の札をかけていたクラッシュが俺たちを見つけて、盛大に笑っていた。



「どこの迷子が保護されたのかと思ったよ」

「失礼な! クラッシュだって二人の間に立ったらそうなるよ!」

「残念ながら俺、最近身長伸びてきたんだ。エルフの血が混じってるからね。まだまだ成長期なんだよ。マック達人族と違ってね。人族はだいたい成人の儀までに成長が止まるんだろ?」

「まだまだ成長期だよ!」



 くそう、クラッシュ最近視線がなかなか合わないと思ったら、身体が伸びていたのか。悔しいから今度課金して身長を変えてみようかな。皆を見下ろすくらいに。

 そんなことを思って気分が良くなって、ログアウトした時の気持ちをふと考えた。

 高い視線にいい気になって、現実に立ち戻ると、近い地面。ダメだ。立ち直れないやつだ。課金やめよう。自力で身長伸ばそう……。でもアバターって成長しない、よな……。

 がっくりと首を落とすと、ヴィデロさんがそっと俺の肩を抱き寄せた。



「どんなマックでも俺は好きだから。それじゃダメか?」



 そんな一言で浮上する俺って、世間じゃチョロいっていうんだろうな。でも嬉しい。好き。

 外野が大笑いしてるけど、気にしない。





 昨日と同じ場所まで跳んだ俺たちは、またも作業を開始した。

 魔物は昨日より数がかなり減ったらしい。通常の魔物は『破香の木』で近寄ってこないからか、あの首のない魔物しか出てこないのがかなり楽。しかもヴィデロさんとクラッシュの連携で瞬殺状態。

 もしかして、起爆剤をクラッシュに渡したら、ここら辺一体焼け野原か何かになりそう。魔力強すぎて。

 戦う二人に時折視線を向けながら、俺は地道にカイルさんと土いじりをし続けた。

 村周りの『破香の木』を、老木含め何とか処置し終わった俺たちは、一休みで夜ご飯をその場で食べた後、今度は漁場まで続く道の周りに生えた『破香の木』を処置するために移動を開始した。





 漁のために均された道は、思った以上に広く、歩きやすかった。まるで街と街を繋ぐ道みたいだ。

 大きな網を抱えて道を歩く人や、大きな代車を引っ張って帰って来る人がその道を歩く中、俺たちは『破香の木』の若木を育て、土壌改良し、たまに出てくる魔物を倒し、ひたすら作業しまくった。

 潮の香りはしてこないのが不思議でならない。

 たまに俺たちの作業を見物に来る人もいたり、一緒に魔物と戦う村人もいたりして、作業は結構楽しかった。

 村人は大抵銛を背負っていて、魔物が出た瞬間それを構えて戦闘態勢に入っている。銛の一撃は見ている限り俺のへなちょこ剣なんか目じゃないくらい魔物のHPを削っていた。

 そして、皆一様に「首無しは向こうの方から現れるんだ」と同じ方向を指さした。

 土壌改良を終えたらそっちに行ってみよう、ということに決めて、俺たちは漁をする場所に向かって作業を進めていった。



 そして、ようやく着いた、漁場。

 海だと思ったら、違った。

 海からの水が引き込まれてはいるものの、だだっ広い湖が漁場だった。そうだよな。カイルさんに説明を受けた限り、海まで遠かったからな、村。ちょっとだけがっかりしていると、カイルさんが呆れたように「外海の魚なんて穢れてて食えるわけねえじゃねえか」と呟いた。

 この国の周りを囲んでいる海の成分は、穢れが多分に含まれている水らしい。

 じゃあこの湖もヤバいんじゃないのかなと思ったけど、鑑定眼で見たところ、湖の水は穢れを含んではいなかった。どこかで浄化されてるとか濾過されてるとか色々あるらしいけど、そこらへんで漁をしている人に訊いたところ、「魚が食えるんなら何でもいいんじゃねえか?」という何ともおおらかな答えが返って来た。



 岸には小さな船と、幅はそんなでもないけど長い船が数隻着けられている。

 遠くに明かりが見えるから、今も漁に出てる人がいるらしい。

 夜だからか、昼間でもそうなのか、向こう岸は全く見えない。

 覗き込んでも中に魚がいるかどうかもわからなかった。

 ちょっと湖水を指にとって舐めてみると、少しだけしょっぱかった。



「よし、ここいら一帯でおしまいだ。っても定期的に撒かねえとまた元に戻っちまうけどな」

「じゃあ作り置きしておいた方がいい?」

「その肥料がどれくらい持つかによるが、次撒くのはだいたい2、3年後くらいだから、今からだと劣化しちまうかもしれねえ」

「じゃあ、その時にまた作ればいいね」



 土だらけの手を水魔法で洗い流した俺たちは、立ち上がって膝部分の土を払い落すと、周辺の警戒をしてくれていた二人に声を掛けた。 



「次は魔物が現れるって方に行ってみよう」

「あっちって言ってたね」



 村人が教えてくれた方に足を進める俺たちは、ポツンポツンとしか生えてない木の間を抜けて、湖を迂回するようにして魔物を探した。

 進むにつれて魔物が多くなってくる。時には集団で来ることもあるけれど、なぜか普通の魔物と首無し魔物は同時に出てくることはなかった。っていうか首無しが出てくると普通の魔物が逃げるみたいなんだよな。確かに強さは段違いだったけど。

 ひっきりなしに戦闘をしながら進んでいくと、少しずつ空気に嫌な感じが混ざり始めた。

 感知を使ってみると、一気にズン、と空気が重くなる。かといって、大物のボス的な魔物がいる気配とも違う圧迫に、俺は首を傾げた。



「何かすごく嫌なものがあるっぽい」

「確かにな」



 俺の呟きに、ヴィデロさんが合意する。

 ヴィデロさんもこの圧迫を感じてるのかな。

 これって何だろう。



「魔素溜まりがでかくなったような感じだ」



 ヴィデロさんの呟きに、納得する。

 小さいのしか見たことなかったけど、それが大きくなるとこんな変な感覚になるかも。

 前に辺境付近で見た魔素溜まりを思い出しながらヴィデロさんたちの後ろを付いていくと、あった。

 黒い蜃気楼のような変な塊が。

 大きさは俺の胸元ぐらいまである。デカい。

 そこから、さっきから感じていた嫌な空気が流れ込んできているようなそんな感じがした。



「これ……でっかいし、なんか、違う」

「確かに、普通はこんな風に黒ずんではいないな……しかも、今まで見た事のないデカさだ」



 ヴィデロさんはそう言って顔を顰めると、剣を構えた。

 攻撃して消すつもりらしい。

 ブン、ヴィデロさんが剣を振ると、そこから斬撃が飛んだ。

 次の瞬間。



 魔素から今まさに生まれ出たと思われる魔物が、真っ二つになるのが目に飛び込んできた。

 にゅっと出て来たよ、魔物。あのもやもやから、にゅっと。

 初めて魔物がポップするところを見たよ俺。

 それはヴィデロさんもクラッシュもカイルさんも同じだったらしく、皆目を見開いて魔素溜まりを凝視していた。
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