これは報われない恋だ。

朝陽天満

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355、カイルさんの頼み

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 ネットで検索すると、かなり『限界突破神殿実装』告知はADOユーザーを震撼させたらしい。

 今まではこういうイベントみたいなものが全くなかったから、衝撃だったんだろう。

 だってそうだよ。イベントに出来ないんだから。

 向こうには向こうの生活とか色々あるし、いきなり異邦人がイベントを始めても迷惑なだけなんじゃないかなと思う。

 でも、もともと向こうにあった物を、こうやって運営から告知することで、参加できる人を絞ったり管理するのはいいことだと思う。レベル上限に達してないとそもそも神殿に辿り着けないような雰囲気出てるから、まずはレベル上げを、って流れになるはず。

 検証に参加した人は、おいそれと情報を流したりしないだろうしね。



 佐久間さんたっての希望カレイの煮つけご飯を作ってから帰ってきた俺は、シャワーを浴びてからログインした。

 夜のトレの街はいまだ賑わっており、これから夜の森にレベル上げに行く人も増えたみたいだった。

 神殿告知が効いたのか、クラッシュの店にポーション類を求めるプレイヤーも増えたらしい。

 どうにかして情報を集めようと、クラッシュに「なあ、店主さん、「試練の神殿」とか言うのがあるの知ってるか?」とか訊いてくる人もちらほらいるとか。クラッシュは知ってるから、苦笑して「さあ?」と誤魔化している。そしてそんなクラッシュの首に掛かっているのは、神殿で手に入れた結晶。

 いつもより多めに納品してと頼まれた俺は、今まさに目の前でそのやり取りを見せられて、吹き出しそうになるのを堪えるのが大変だった。 

  ヴィルさんから情報は漏らさないように頼まれてるらしいクラッシュは、微妙な顔つきで接客していた。



「どうしたの一体。異邦人のあの神殿への執着。ちょっと怖いよ」

「限界突破は殆どの人の目標というか夢だからね」



 カウンターの後ろのテーブルで調薬しながらクラッシュに答えると、クラッシュはふうん、と呆れた様な声を出した。

 カウンターで品物の代金を払っていたプレイヤーが、俺の言葉にぶんぶん頷く。



「そうそう、それ! そのうち僕もトッププレイヤーの仲間入りして、限界突破の神殿を見つけて挑戦したいんだ! 薬師さんも限界突破したいよね!」

「俺? まあ、そうだね」



 話を振られて、曖昧に返事をすると、今度はクラッシュが笑いをこらえていた。



「だからさ、レベル上げるついでに各地で情報を手に入れたくて。まだレベル低いから挑戦できないんだけど。だから店主さん、何か知ってたら教えて」

「そんなものがあるなら俺が行きたいよ。逆に何か情報を手に入れたら俺に教えてくれないか?」



 クラッシュは肩を竦めて、笑いながらそんな風に答えていた。プレイヤーは素直にうんと頷くと、「約束するよ!」とハイポーションをしまい込んで出ていった。素直だなあ。まだ中学生かな。

 人のいなくなった店内で、俺とクラッシュは顔を見合わせて苦笑した。



「あんな小さいやつまであの神殿に行きたいんだ。内容とか全然知らなそうだね」

「いいんじゃないのかな。夢なんだし。探すこと自体も楽しいと思うよ」



 でも果たしてあの情報量でどれだけの人が神殿を探し当てることが出来るのかは疑問だけど。

 告知内容の言葉を思い出して、俺は空笑いした。



「ハイポーション出来たよ」

「ありがとう。最近ほんと異邦人のがっつき方が凄いから、すぐ品切れするんだ。こっちも店をやってる者として、品切れってのは申し訳なくて」

「いいよ。俺も腕を磨けるし。聖水とかディスペルハイポーションはどう?」

「皆魔物狩りの方に力を入れてるから、ジャル・ガーの所に行く人は減ったんじゃないかな。在庫はあるよ」

「なるほど」



 見物人が落ち着いたってことは、また実験を再開できるってことかな。

 夏休み中は学生がモフモフを愛でようツアーみたいなことを連日してたらしいから人が多すぎてヤバかったらしいし。俺もユイルに会いたい。抱っこしたい。

 棚をクラッシュと二人で確認して、あと納品して欲しい物をリスト化していたら、また次のお客さんが来た。



「お、なんだマックこんなところにいたのか」

「あれ、カイルさん」



 入ってきたのは、カイルさんだった。

 クラッシュにいつもの奴頼む、と声をかけてから、俺の方を向いて、「いいところで会った」と顔を綻ばせた。



「マックはこの後暇か? ちょっと遅くなるかもしれんが、もし暇なら一緒に来て欲しいんだ。無理にとは言わん。そん時は日を改めるが」



 カイルさんの言葉に、俺はちらりと時間を見た。まだログアウトまでは2時間くらいある。遠出するわけじゃないんだったら、大丈夫かな。



「少しなら時間あるけど、なんかあったの?」

「ああ。ちょっとナスカ村のさらに奥の村に生えてる『破香の木』がかなり老木になっててな。そっちまでは俺も手が回らなかったんだよ。それに最近『破香の木』の香りを嫌がらない魔物が出現したらしくてな。とりあえず老木で香りが落ちたからかもしれないから、行って様子を見ておきたいんだよ。だからマック、細胞活性剤持って付いてきて欲しいんだ」

「うわあ、大事っぽいね」



 カイルさんの話を聞いた瞬間、ピロンとクエストが舞い込んだ。

 でも、エルフの里の周りの強い魔物ですら嫌がった『破香の木』が効かない魔物って、俺とカイルさんだけで何とかなる物なのかな。強い人が一人でもいないとヤバいんじゃ。

 と思っていると、クラッシュが目を輝かせた。



「カイル、マック。ヴィデロを呼ぼうよ。もう仕事も終わったでしょ。ヴィデロがいたら一安心じゃない?」

「でも仕事で疲れてるんじゃ」

「そんな危なげなところにマックだけ連れ出したのが知れたら、俺たちの命の方が危ないよ」



 クラッシュの言葉にカイルさんが大笑いをする。そうと決まれば、とクラッシュは一瞬で魔法陣を描いて消えた。え、はや!

 なんか、クラッシュまで行く気満々なんじゃないかな。

 俺も細胞活性剤を持ってこよう。

 カイルさんにクラッシュの店で待っていてもらって、俺も工房に跳んだ。



『【NEW】小さな村を救おう



 グランデ王国最東の村を守る『破香の木』が次々老木になった

 『破香の木』の効果が上がるよう改善しよう

 『破香の木』の効果が効かない魔物を退治しよう



 タイムリミット:48時間



 クリア報酬:新たなる知識 釣り場解放 正統なる者の選出 魚類各種漁権利

 クエスト失敗:魔物の退治ならず 『破香の木』の機能低下 最東の村縮小』



 細胞活性剤各種を用意しながら、クエスト欄を開いてみた。

 確かにこれはヴィデロさんにいて欲しいクエストだ。

 魔物討伐って。破香が効かない魔物ってヤバいやつじゃないのかな。

 しかもクリアすると手に入る権利が、すごく垂涎。魚好きの俺のためにあるクエストなんじゃなかろうか。

 『感覚機能破壊薬』と回復薬各種も放り込み、聖水とかそこらへんもとりあえずすべて突っ込んで、クラッシュの店に戻ろうとして俺は魔法陣を描き始めた。

 そして途中で手を止める。

 キッチンに急いで、玄関横の鎧をインベントリに入れる。その後、鎧の隣に立て掛けられていた、すっかり耐久値も直っている愛剣を手に取って、自分の腰に下げた。





 クラッシュの店に戻ると、ヴィデロさんとクラッシュも既に店にいた。



「危ないところに行くんだって?」

「危ないかはわからないけど、魔物退治。ヴィデロさん疲れてない? スタミナポーション飲む?」

「大丈夫」



 俺がインベントリから取り出そうとすると、やんわりとヴィデロさんが俺の手を止めた。



「目的はナスカ村先のコースト村だ」

「オッケー。皆掴まって」



 クラッシュの差し出した手に、皆が掴まる。

 次の瞬間、クラッシュの転移の魔法陣で俺たちは夜の平原に立っていた。



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