これは報われない恋だ。

朝陽天満

文字の大きさ
上 下
352 / 830

349、頽れるヴィデロさん

しおりを挟む
 ゲームセンターの後、一行は行き先が無くなってしまった。
 ファミレスも、百貨店も、クェーサーを見るなり退店するよう言われてしまったのだ。仕方なくコンビニで軽食を買い、4人は肩を落とした。

「人もあやかしも同じ反応かよ、いいじゃねぇかロボットが店に入ったって」
「まぁ店側の対応も分からなくはないよ、クェーサーは良くも悪くも目立つし、トラブルに繋がりかねないしね」
「すみません、私のせいでご迷惑を」
「クェーサーは何も悪くないじゃろう。謝る必要はないぞ」

 サヨリヒメはクェーサーを撫で、おにぎりの封を開けた。
 御堂と救も同様に、軽食に手を付けた。クェーサーはそれを眺めるしか出来ない。

「見慣れたもんだけど、本当に人とあやかしって共存してるんだな。街を見渡す限り、あやかしと人が半々くらいで歩いてら。なんだって急にあやかしが見えるようになったんだか」
「羽山の者達は、わらわ達を認知したからの。わらわ達の擬態は、あやかしの存在を認知している者には通じぬのじゃ」
「じゃあ今、私と先輩の親を見たら、本当の姿が分かるって事か」

 御堂と救は人とあやかしのハーフだ。それを教えられた時、多少は驚いたものの、2人ともすんなりと受け入れてしまった。

「親があやかしと知っても、落ち着いているのですね」
「んーまぁ、親は親だしな。ガキの頃ならともかく、30手前になって聞いても動じやしないさ」
「むしろ自分のルーツを知るいいきっかけになったよ。この天才的な頭脳があやかし由来ならば納得だ」
「強いのですね」
「まぁ、この程度なんて可愛い位の目に遭い続けたからね。それに比べれば軽いさ」

 羽山工業の社員たちも、2人がハーフだと知っても「あっそ」程度の反応しかなかった。羽山のおおらかな社風もあるのだろうが、懐の深い者達である。

「あの、ちょっといいですか?」

 子供連れの主婦が声をかけてきた。男の子はキラキラした目でクェーサーを見上げ、そわそわしている。
「この子と写真を撮ってもいいですか? あと、もしよければTwitterに上げたいんですけど」
「構いません。ボク、おいで」

 クェーサーは男の子を抱き上げた。ちょっとしたサービスでヒーローっぽいポーズを取ってあげると、彼は興奮した様子でお礼を言ってくれた。

「物凄く喜んでたな、よかったじゃねぇか」
「彼の服がヒーローシリーズでしたから、その着ぐるみと勘違いしたのでしょう。喜んでくれたのなら幸いです」
「行動はいいけど、発言は気を付けようね。着ぐるみは夢壊すよ」
「気を付けます。それで、どうでしょうか。私は彼の心に、寄り添えたでしょうか」
「出来たと思うぞ。わらわ達が保証する、自信を持て」

 サヨリヒメから太鼓判を押され、嬉しくはある。一部出禁はあったものの、人やあやかし達からもそれなりに受け入れられただろう。
 それなのに、疎外感がぬぐえない。
 むしろ時間が経つごとに、皆との距離が離れていくような気がした。
 なぜ自分はこんなにも孤独を感じている、機械の手を握りしめ、クェーサーはかぶりを振った。

「……体が、重いです。出力、大幅に低下」
「おっと、稼働限界か。そろそろ羽山に戻らないと」

 クェーサーのバッテリーは、羽山工業でなければ充電できない。一行は大急ぎでバスへ向かった。
しおりを挟む
感想 507

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…

こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』  ある日、教室中に響いた声だ。  ……この言い方には語弊があった。  正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。  テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。  問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。 *当作品はカクヨム様でも掲載しております。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

αからΩになった俺が幸せを掴むまで

なの
BL
柴田海、本名大嶋海里、21歳、今はオメガ、職業……オメガの出張風俗店勤務。 10年前、父が亡くなって新しいお義父さんと義兄貴ができた。 義兄貴は俺に優しくて、俺は大好きだった。 アルファと言われていた俺だったがある日熱を出してしまった。 義兄貴に看病されるうちにヒートのような症状が… 義兄貴と一線を超えてしまって逃げ出した。そんな海里は生きていくためにオメガの出張風俗店で働くようになった。 そんな海里が本当の幸せを掴むまで…

処理中です...