これは報われない恋だ。

朝陽天満

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348、呪いのアイテムゲットの代償は

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『冒険者ギルドと手を組もう



 ディスペルハイポーションの取り扱いについて冒険者ギルドが介入してきた

 エミリと話し合い、教会の介入を避けつつディスペルハイポーションランクSを世に送り出そう



 ディスペルハイポーションランクS 1本納品



 クリア報酬:冒険者ギルドランク値上昇 冒険者ギルド優遇権 街人との友好値上昇 『絆』値上昇 ???

 クエスト失敗:教会側にディスペルハイポーションランクS製作者を知られる 街人との友好値下降 『絆』値減少クエスト



【クエストクリア!】



 ディスペルハイポーションランクSを無事納品することが出来た

 複合呪いで苦しんでいる人を助けることが出来た

 ギルドと契約を結んだ



クリアランク:A



 クリア報酬:冒険者ギルドランク値上昇 冒険者ギルド優遇権 街人村人との友好値上昇 『絆』値上昇 ???入手』



 クエスト欄を閉じながら、俺はちょっとだけ首を捻っていた。

 クリアしても報酬欄が???のままだったから。あとで手に入るパターンなのかな。手に入ったらこの???が埋まるってことかな。

 それに気になるのは、ランディさんが触ったっていう複合呪いのついているアイテム。

 今もそれはあの村の外に転がってるってことだろ。

 回収できないかな。そんな物騒な物を放置するなんてちょっと危ない。

 そういえば大きな大陸がまだ人の住める状態だった時は、呪いのアイテムはそこらへんに転がってる物だったんだっけ。

 まさかこの大陸もそろそろ危険だとか。そんなことないよな。



「ちょっと、行ってみようかな……」



 ナスカ村だから、クラッシュでも誘って。

 それとも明日、ヴィデロさんを誘って行ってみるっていう手もあるかな。

 一人で行って複合呪いに掛かって動けなくなったなんてシャレにならないから、一人で行くっていう選択肢は複合呪いの時点で消した。

 こういう時パーティーを組んでたら一緒に行くんだろうけどなあ。でも俺にはヴィデロさんとクラッシュという強い味方がいる。

 と歩いていると、農園の方から荷馬車がこっちに向かって来るのが目に入った。

 手綱を握っていたのは、カイルさんだった。



「あれ、カイルさーん。どうしたんだよ。農園以外で会うのなんて珍しい」

「お、マックじゃねえか。いや、これから手入れに行くんだよ。出張手入れ。ぐるっと回って帰って来るのは明日の昼だから、今日と明日の午前中は農園は休みだ」



 御者台の上からカイルさんが悪いなとにかっと笑う。

 大丈夫。今の所薬草類は足りてるから。



「気を付けて」

「おうよ。ここら辺の魔物にゃ負けねえぜ」



 カイルさんみたいなガタイのいい人がそう言うと本当に負けなそうな安心感が漂う。

 手を振って別れて、俺はクラッシュの店を目指した。



 クラッシュの店に入ると、クラッシュは棚の掃除をしていた。

 俺の姿を見ると、笑顔になって「いらっしゃい」と迎えてくれた。



「納品に来てくれたの? ディスペルハイポーション、そろそろ切れそうなんだけど納品お願いできるかな。ランクはBで」

「いいよ。奥を貸してくれたらすぐ作るよ。それよりもクラッシュ」

「ありがとう。ほんと助かる」



 カウンターの裏に回りながら、俺はエミリさんとナスカ村に行ったことと、気になったことをクラッシュに話した。

 クラッシュは話を聞くにつれ、段々と険しい顔になっていった。



「……あの村の近くにそんなものがあるなんて……回収しないとだめだ。危ないよ」

「そう思って、クラッシュに一緒に行ってもらおうと思ったんだ。もし触っちゃって複合呪いに掛かって、それが身動き取れない系だと詰んじゃうからさ」

「いいよ。一緒に行く。今から行く? 他の人が拾っちゃう前に持ってこないと。でもどうやって拾おうかな」

「俺が拾ってインベントリに入れてから呪いを解くとか、とりあえずそのアイテムにディスペルハイポーションを掛けてみるとか。色々やってみたい。それに、ほんとにまだそんなアイテムがあるかどうかもわからないからさ」

「だね。それにしても、ランディが複合呪いに掛かってたなんて」



 クラッシュが思案気な瞳で、顎に手を添えた。

 クラッシュもランディさんを知ってるんだ。ってそうだよな。この街の衛兵さんだもんな。

 クラッシュはいったんドアを出て入り口にあるプレートをひっくり返してくると、鍵を閉めて施錠の魔法陣を描いた。



「複合呪いを解けるディスペルハイポーションは持ってる?」

「持ってるし、すぐに作れるから大丈夫。すぐ行くの?」

「もちろん。もう10日も経ってるんでしょ、ランディが呪われてから。他にも犠牲が出る前に何とかしないと。こういうのはやっぱりマックの出番だよね」



 何で俺、と思わなくもないけど、薬師の仕事のうちに入るのかな。……いや、これは薬師の仕事じゃないよ。

 でも俺も同じことを思ってたから、クラッシュがすぐさま同意してくれてホッとした。

 クラッシュの手に掴まると、すぐさま景色が変わった。

 トレの街とは違う、のどかな風景。

 クラッシュは迷わずさっき俺が顔を出した村の端の建物のドアを叩いた。



「あれ、クラッシュ。どうしたんだ……って、あんたは」



 さっきもエミリさんを迎えてくれた衛兵の人が出迎えてくれる。

 クラッシュは「ちょっとランディが大変だったって話を聞いてさ」とエミリさんと同じようにずかずかと入って行くと、中の広いところで座っているランディさんに近付いていった。



「ランディ!」

「クラッシュ? どうしたんだ一体」

「どうしたはこっちのセリフ! 呪われたって一体何したの」

「何って……魔物が落とした物を触っただけだけど……」

「だけってランディ……」



 ランディさんがさらっと答えると、クラッシュががっくりと肩を落とした。

 ランディさんはまだ頬がこけていたけど、顔色はよく、物も食べれるみたいだった。っていうか食事中だった。邪魔してごめんなさい。

 黙って見守っていると、クラッシュが腰のカバンから色んなポーション類を取り出してランディさんに渡していた。



「もう復活したから大丈夫だって。それよりヴィデロの恋人と一緒にどうしたんだ」

「ヴィデロの恋人の前に、マックは俺の親友なの。ちょっとまだその呪われるやつが落ちてるなら危ないから回収していこうかと思って、ってマックが」

「へぇ……。それはありがたいけどやめといたほうがいいって。ニコロさんでもお手上げなアイテムらしいから。俺はどうなったのか知らないんだけどな。そこにいるスランに聞いてくれ」

「ニコロさん、呪いを解く魔法、途中で魔力切れしちまって最後まで唱えられなかったらしいから、あの石はそのままになってるぜ。ニコロさんでもダメなら、あそこに人が寄らないようにした方がいいって村長さんと言ってたんだ。やめとけやめとけ」



 俺たちを招き入れてくれたスランさんという人も、顔を顰めて俺たちを止めた。

 確かに、複合呪いを解ける人が教会にいない今、こういう反応が普通なんだろうな。さっき複合呪いを治せたのも、村長からギルドのトップを経由してようやく、みたいな感じになってたし。

 クラッシュもそこは気付いたらしく、苦笑していた。



「だからだよ。危ないじゃん。ここだけの話、母さんから頼まれたんだ」



 俺にウインクをしてから、クラッシュはそんなことを言ってスランさんとランディさんの説得に掛かった。

 そして色々宥めすかして最終手段はそのアイテムを消滅させることを約束して、クラッシュはようやくランディさんたちからアイテムの場所を聞き出した。



 心配そうな二人に手を振って、俺たちは早速村の外に出た。

 村から歩いてそこまでかからない距離に、それはあった。



「これじゃないかな」

「これだね」



 オランさんがバラバラだった時に感じたあの嫌な感じがビンビンするそれが、大きな樹の根元に置かれていた。

 二人はそのアイテムがとても紅いまるで血が固まったような宝石、と言っていたけど、まさにその通りだった。触ってはいけないと樹に札が掛けられていて、そのアイテムが置かれている場所が仕切られていた。

 鑑定をしてみると、それが『禍物の知核』という名前の錬金素材だということと『強い魔素を浴びてしまった魔物の体液が凝固して出来上がった禍々しい気配の魔物の核』だということがわかった。

 触れると強固な呪いに掛かるそれを、俺は何とかしようと試みた。

 まずは聖水を掛ける。ダメだった。次はディスペルハイポーションを掛ける。なんとこれでも呪いの気配は消えなかった。前に教会内部でローブの呪いを解いたときはこれで何とかなったのにどういうことなんだろうと思いながら、俺は顔を上げた。

 最終手段。インベントリに収めちゃって二度と出さない。これに決まりだ。



「クラッシュ、ディスペルハイポーション持った?」

「持った。石が消えた瞬間かければいいんだね」

「飲めるようなら自分で飲むけど、もしもの時はよろしく」



 周りには俺達以外気配はない。破香の成木からもそう離れているわけじゃないから弱い魔物は近寄れない。

 よし、と俺はその宝石に手を伸ばした。

 触れた瞬間背筋を嫌な気配がぞろりと駆け上がる。

 鳥肌を立てながら、そのアイテムをインベントリに放り込んだ。



「……うへぇ、相変わらず呪われるの気持ち悪い……」



 ステータス欄に『獣化』と『体力激減』の呪いがついてるのを確認して、インベントリからディスペルハイポーションを取り出す。その呪いの宝石はしっかりとインベントリに収められていた。

 ……って、待って。『獣化』ってなに。

 ディスペルハイポーションを持つ手を見下ろすと、そこには鋭利な爪がくっついていた。

 もしかして……少しだけ青くなって頭に手を伸ばしてみると……。



「耳がついてる……」



 しかもこれ、ウサギの耳だあ……。

 ショックを受けながらクラッシュの方を見ると、クラッシュは目を見開いて俺を見ていた。口を押えてるってことは、笑うのを我慢してるってことかな。



「マック。お尻の辺り、なんかモコッとしてるよ」

「うん……なんか、違和感がある。ズボンがぎゅうぎゅうしてる……尻尾もあるってこと、かなあ」



 そっとお尻に手を伸ばすと、案の定尻尾らしいものがズボンの中に納まっていた。

 こ、これはダメだ。ちょっと人前に出ちゃいけないやつだ。



「マック。なんか、その格好ヴィデロに見てもらった方がいいんじゃない? すごく可愛いから。ぷぷ……ヴィデロがそんなマックの格好を見たら止まらなくなるんじゃないかな。何とは言わないけど」

「待って、ほんと待って。今呪いを解くから。無理。こんな姿ヴィデロさんに見られたらドン引きされる……」

「ドン引きじゃなくて発情の間違いだと思うけど」

「……俺今、『獣化』の他に『体力激減』っていう呪いに掛かってるんだよ……。スタミナ、いつもの10分の1もないんだよ。今は無理。多分抱かれたら羞恥と体力激減で死ぬ……」



 なあんだ残念、なんていうクラッシュを半眼で見ながら、俺はディスペルハイポーションを呷った。

 光になって霧散する爪にホッとする。目の前がキラキラしてるってことは、頭の耳も光になって消えたってことかな。ん、お尻の違和感もようやく消えた。

 呪い、なんて恐ろしいんだ……。

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