これは報われない恋だ。

朝陽天満

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343、鋭い指摘

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 一緒に入ることになっていた人たちに延期の連絡を入れた赤片喰さんは、俺たちと一緒にトレに滞在することにしたらしい。

 とはいっても、俺の工房じゃなくてトレの宿屋だ。工房に色々あったベッドはもう撤去しちゃったから泊めることが出来ないんだ。

 取り敢えず赤片喰さんのフレンドリストにチェックを入れて工房に入れる設定にして、三人で工房に跳ぶ。

 宿屋に行く前に情報交換をしようと、俺たちはキッチンのテーブルに座った。



 中はこんな感じだったよとザッと説明して、顔を顰めている赤片喰さんにもさっき渡したハイパーポーションを売りつけていたヴィルさんは、そうだ、と顔を上げた。



「マック。聖水はあるか? ランクが高いやつ」

「あ、あの後補充してないです」

「あれも持たせた方がいいんじゃないか?」



 確かに。また罠が発動して複合呪いに掛かったり、黒スライムに追いかけられたりしたら大変だし。



「何本くらい用意すればいいかな」



 最初に入った人たちには持たせてないから申し訳ないけど、と思いながらすぐ隣の工房の作業台の上に空瓶を用意する。

 魔法陣を描いて、高濃度魔素の水を用意すると、俺は手を組んだ。

 そして、祈る。

 最近祈りのレベルが上がったせいか、スタミナの減りが少なくなった気がするのは気のせいかな。

 九本の瓶に聖水ランクSを作ったあとも、まだまだスタミナは残っていた。



 キラキラに光る瓶を腕に抱え、キッチンのテーブルに移動する。

 ヴィルさんは頬杖をついて微笑していて、赤片喰さんはジト目で俺を見ていた。



「……何でそんな変なもんがすぐに出てくるんだよ」

「変なもんって」

「ランクSの聖水なんて初めてお目にかかったよ。それをこんな簡単そうに作るなんてよ」



 赤片喰さんは目の前に差し出された聖水ランクSを持ち上げてしげしげと観察した。

 すかさずヴィルさんが「一本1000ガル。ちゃんと健吾に払えよ」と口を開く。1000ガルって高すぎじゃ、と思っていると、赤片喰さんは何の文句も言わずにスッと9000ガル俺に差し出した。

 「ずいぶん安いランクSだな」なんて言ってる赤片喰さんは、教会で売ってる聖水の値段をしっかりと把握していたみたいだった。って言っても教会ではランクCしか売ってないんだけどね。目の前で作ってるの見てるのにこの値段をスッと出せる赤片喰さんっていい人。

 聖水もインベントリにしまい込んで、赤片喰さんはうーんと伸びをした。



「それにしてもずいぶん立派な工房持ってんのな」

「前はもう少し小さかったんですけどね。増築しました」

「いいだろ。俺の部屋もあるんだ」



 ヴィルさんがニヤリ顔で赤片喰さんに胸を張る。でも狭いんだけどね。なんだかんだで増築してないヴィルさんの部屋は、未だにベッドだけの手狭な状態だった。個人の部屋ってことでその後どうなってるのかはヴィルさん任せなんだけど。



「ヴィルお前、何シェア工房なんてしてるんだよ。間借りか? それとも無理やり上司特権を振りかざして住み始めたのか? 部下のプライベート大事にしろよ」

義兄弟きょうだいが一緒に住むのは普通じゃないのか?」

「兄弟って……お前の弟はこいつじゃなくてもう一人の方だろ。結婚前から小舅になって嫁に逃げられたらどうするんだよ」

「健吾は逃げないから大丈夫だ」

「……おい、本当にこいつの部下になって後悔はないんだな?」



 赤片喰さんは溜め息を吐いて、俺の方を向きながらヴィルさんを指さした。

 その指をヴィルさんがつまんで関節と反対方向に曲げようとする。「痛え!」と抗議する赤片喰さんに、ヴィルさんが「人を指さすのは失礼にあたるんだぞ」なんて注意してるんだけど、これ、コントか何かかな。

 後悔はしないよ。俺の希望を叶えてくれる唯一の人だから。

 そのためなら頑張るよ俺。

 ぐっと手に力を込めて赤片喰さんに視線を向けると、赤片喰さんは俺のその手に視線を向けてから、ジト目をした。



「ほらなヴィル。こいつだって恋人と二人でイチャイチャしたいのに横に小舅がいるから出来ないってよ」

「そんなこと言ってないから!」



 たまに気になるけど!

 と赤片喰さんに突っ込んでいると、ヴィルさんが平然と問題発言をかましてくれた。



「大丈夫、健吾と弟は俺がいようと誰がいようと関係なくイチャイチャしてるから。それに天使に「弟に嫌われたくないなら絶対に邪魔するなよ」とくぎを刺されたからな。可愛い弟に嫌われるのは本意ではないから邪魔する気はないよ」

「ここに住んでる時点ですでに嫌われてるような気がするけどな……」



 何気なく呟いた赤片喰さんの言葉に、ヴィルさんはショックを受けた顔をした。そのリアクションに思わず吹き出す。

 っていうか情報交換してないけどいいのかなこの二人。

 赤片喰さんはヴィルさん弄りに満足したのか、今度は工房内をきょろきょろし始めた。

 今日ももちろんオープンスペースになっている隣の調薬部屋。赤片喰さんは席を立って、「こっち見ていいか?」と工房を指さした。



「あ、はい」



 返事した途端に移動を開始した赤片喰さんは、工房の隅で育てているタルアル草と月光薬草をしゃがみ込んでしげしげと見始めた。



「これ、俺そこら中歩いてるけど見たことねえ」

「外では自生してない素材ですから」

「へえ。なんかここ、俺の知らない変な素材がいっぱい入ってそうだな」

「あはは……」



 赤片喰さんの言葉に、俺は笑うことしかできなかった。だって獣人の村から貰って来た素材が沢山あるんだもん。

 もちろん、奥の錬金工房ではエルフの里からたんまり貰った素材がこれでもかと詰め込まれている。今度はエルフの里に跳べるようになったから、また遊びに行ってもいいかな。

 情報交換もそっちのけ、赤片喰さんは興味津々で工房を見て回り、ヴィルさんが優雅にキッチンでお茶を飲んでいる。

 ふとヴィルさんが顔を上げて、宙に指を這わせた。



「先発メンバー、分かれ道で一人死に戻ったらしくて先に進めなくなって全員外に出て来たらしい」

「おいおいおい、あいつらかなりレベル高い奴らだぜ……」



 ヴィルさんの言葉に、赤片喰さんが呆れた様な顔をした。

 確かに、最初三手に分かれてから、どこかが何かを為さないと他の所が先に進めなかった気がする。



「三人で入ると、一人が脱落しただけで全員が奥まで行けずにアウトになるのか」

「俺らも三人で入る予定だったんだけどな。せめてあと三人欲しいところだぜ……っつうかお前らはどうだったんだよ」

「俺たちは15人で行ったから最初の所は皆が力を合わせてって感じだったな。やっぱりレイドクエストみたいなものだと考えた方がいいのか……」



 確かにあの仕掛け、一人で行ったらまず最初の所でクリアできないで終わるよ。それとも難易度は変わるのかな。なんか職業を重視する神殿みたいだし。

 ちょっとマッドライドにそこらへん伝えておこうかな。



 
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