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334、次々帰ってきた、けど……
しおりを挟む「なかなか誰も帰ってこないね」
「苦戦してるのかな」
二人で座りながら、そんなことを呟く。
ステータス欄に表示された時間を見ると、すでに夜になっていた。そこまで体感してないんだけど。
やっぱりあの闇の中の時間はこことは流れが違うのかな。すごく短かった気がするんだけど。
「なあクラッシュ。お腹空かない?」
「空いたけど、俺保存食しか持ってないよ」
「俺、サンドイッチ作ってきたんだけど、食べる?」
「食べる」
待ってる間にこんな風にするのもどうかとも思ったけど、何かあった時に空腹だとバッドステータスついちゃうから。
ゴソゴソとインベントリからサンドイッチを取り出してクラッシュに渡していると、目の前にまた一人フッと人が現れた。
ユイだった。
ユイは肩で息を吐きながらも、俺たちが目に入った瞬間には笑顔を見せていた。
「ユイも食べる?」
「食べる! でもその前にMP回復しないともうないんだ」
「やっぱり魔法系の試練だった?」
俺がつい気になって聞くと、ユイは笑顔でうん! と答えた。
「あのね、射撃の人型の的ってあるでしょ。あんな感じの物に、私の周りの人の写真がついててさ。それを魔法で撃ち落とせって。落とせなかったら試練失格だって声が聞こえて。面白かったよ」
楽しそうにそういうユイに、俺は戦慄した。
周りの人の写真って、もしかして大事な人のこと? それがくっついた的をガンガン魔法で撃ち落としたってこと? 非情や、この子、怖い!
「高橋の顔が多かったかな? でもお父さんとお母さんもいて、たまにお姉ちゃんも出てきてたかな。シューティングゲームみたいだったよ」
「躊躇いとか……」
思わずそう突っ込むと、ユイはあはは、と笑った。朗らかな笑いだった。
「本人たちが出てきてたならさすがに躊躇ったけど、的に写真だよ?」
うん。多分俺だったらたとえ写真でも躊躇うよ。絶対に躊躇う自信ある。雄太よ、君は恐ろしい子に恋をしてるんだね。応援するよ!
ぐっと手を握ると、俺はユイの勇気ある行動をたたえるべく、サンドイッチを取り出してユイに渡した。
三人で食べるサンドイッチは、まるでピクニックのようだった。
和んじゃいけないんだけど、和む。
すっかり食べ終わった俺は、改めてクエスト欄を覗いてみることにした。
クエスト欄にはビックリマークが付いている。ってことはクリアってことかな。あとはここから出るだけ、なんだろうけど。出口、どこなんだろう。もしかして全員が試練を終えたら出口が開くスタイルの神殿なのかな。
「誰も来ないね……」
しゃがみ込みながら、ユイがポツリと呟く。ユイが戻ってきてから、すでに20分が経っていた。
俺は2人に試練内容を教えつつも、サラさんが出てきたことは言えずにいた。だって内緒よって言われたから。俺に出てくるはずだった誰かを押しのけてサラさんが来てくれたんだから。でももしヴィデロさんが出てきて「俺を倒せ」とか言ってきたら、多分俺試練は失敗する気しかしない。心が弱いのかな。もしヴィデロさんの試練の中に俺が出てきてたなら、思いっきり倒して試練をクリアしてね、ヴィデロさん。何せ俺は死に戻り出来るから。
膝を抱えながらそんなことを思っていると、誰かがまた現れた。でも倒れ伏してる。
「ドレインさん!」
思わず三人で駆け寄ると、ドレインさんが目を薄っすらと開けた。
「試練……ちょっと失敗しちゃった……リベンジは……絶……」
言い終わるか終わらないかのうちに、ドレインさんがさらさらと光になって消えていく。え、これ、試練失敗すると死に戻るの?! ってことは、ヴィデロさんとか勇者とかエミリさんとかセイジさん、もし失敗したら大変なんじゃ……!
今までののんびり気分はすっかりなくなって、俺はいてもたってもいられなくなった。
待ってるだけって辛い! ってこれほど思ったことはなかった。
心臓がどきどきする。
じっとしていられなくて、落ち着かない。
そんな俺をユイとクラッシュが心配そうに見ていた。
「マック、ちょっと落ち着けよ」
「落ち着いていられるなら落ち着いてるよ……!」
「マック君すでにその言葉がおかしいよ。お茶でも飲む? 私、一応喉が渇いた時用に持ってきたよ」
「飲める気がしない……! だって、試練失敗したドレインさんが死に戻っちゃったんだよ?! ヴィデロさん、大丈夫かな。何で俺一緒にいないんだろう。一番大事な時に一緒にいれないなんて……!」
ついついブツブツと呟いて、自分の言葉にハッとする。
もしかして、魔大陸に行くって言ったときのヴィデロさんも、こんな気分だったのかな。焦燥感に駆られて、でも何も出来ない自分の無力さに打ちひしがれて、でもどうしてもその身を案じることをやめれなくて。
それをあの少しだけ寂しそうな顔で抑えたヴィデロさんは、やっぱり俺なんかより全然大人だったんだな、なんて思ってギュッと目を瞑る。
大きく深呼吸をした俺は、クラッシュの隣に腰を下ろして、ギュッと手を握った。
その手にクラッシュが拳をこつんとぶつけてくる。
クラッシュのその手も、俺同様少しだけ震えていた。
そうだった。クラッシュも、大事な人が試練を受けてるんだった。
エミリさんと、セイジさんと、勇者が。
どうしてこんなに落ち着いてられるんだろう。クラッシュの行動に、さらに自分の弱さを実感した。
「大丈夫だよ。絶対に笑顔で帰って来るよ。何せヴィデロだよ? ここで俺がマックにいたずらでもしたら、すっごい形相で一瞬で現れそうだよ」
「ふふ、そうかも。だって門番さんとマック君、すごくラブラブだもんね」
「もうほんと目の前でイチャイチャとさ、たまに店の外に放り出したくなるもん」
「え、でも二人を見てると私までつられて笑顔になっちゃうよ。だってほんとに門番さんもマック君も幸せそうなんだもん」
「だからそれが行き過ぎるとうざいっていうかね。わかるかな」
ヴィデロさんの安否を気にしつつ、2人の会話を聞くとはなしに聞く。
そうだね、ヴィデロさんと一緒にいると俺、頬が緩みっぱなしになるよ。自覚してる。それにヴィデロさんも笑ってくれているのがすごく好き。
あの笑顔が見たいなあ。早く帰ってきてくれないかな。
ユイが気を利かせて出してくれた水筒から一口お茶を貰うと、俺はホッと息を吐いた。
大丈夫。ヴィデロさんなら、絶対に大丈夫。
言い聞かせつつユイの惚気話を聞くこと数分、今度は堂々たる風格で、勇者が現れた。
しっかりと自分の足で立っている。纏っている鎧はボロボロになっていたけれども、勇者の表情はなかなかに晴れやかだった。
「魔王をぶっ倒してきた」
そう呟いた勇者は、揺るぎのない足取りで、こっちに近付いてきた。
辺りを見回してから、俺たちに視線を落とす。
「他の奴らはまだか」
「ドレインさんだけ失敗して死に戻りました。でも他の人はまだです」
「そうか。じゃあ、待つか」
勇者もドカリとそこに座り、腰のカバンからハイパーポーションを取り出して一気に呷った。勇者もやっぱりHPはかなりぎりぎりだったのかな。さらにもう一本取り出して飲んでいたから。
「ふん、大分回復したな」
二本で大分回復とか、どれだけHP高いんだよ。俺はハイポーションでも十分なくらいなのに。
感心して見ていると、今度はユーリナさんが現れた。
「あっぶな、最後の、あっぶな!」
胸に手を当てて、吐き捨てる。ギリギリだったのかな。でも身体に怪我は見受けられない。ユーリナさんも俺同様MPとかスタミナにダメージが来るタイプの試練だったのかな。
「ほんっとギリギリだった! 何あの試練、大学入試の時より神経使うっつの! 試験嫌いなんだからねあたし!」
ぶつぶつ文句を言いつつも、きっと普通に立ってるってことはクリアしたってことだ。
ユイの持っている水筒を視界に収めて、ユーリナさんが駈け寄ってきた。
「ユイー、お茶、一口飲ませて」
「どうぞ。あ、マック君と間接キスだけどいいですか?」
無邪気にそんなことを言うユイにユーリナさんが大爆笑を始めた瞬間、近くで誰かが現れた気配がした。
「ヴィデロさん!」
そこには、待ち焦がれたヴィデロさんが、全身傷だらけで立っていた。
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