これは報われない恋だ。

朝陽天満

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329、先に進む道は楽チン

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 ウツボカズラの前に戻ってきた俺は、早速錬金釜を取り出した。

 皆が興味津々に見守る中、ドイリーの上に置かれた錬金釜にMPを注いで謎液体で満たす。一度MPは回復。

 素材をウツボカズラの欲しがる順番に並べて、その順番で釜に投入していき、掻き混ぜる。

 素材を投入するごとに色の変わっていく液体を見ながら、MPとスタミナをちらっとチェック。よし、まだ余裕。

 最後『紅聖樹の核』を投入して掻き混ぜる。

 途端に釜の中で炎が上がったけれど、ボン! じゃないから失敗じゃないはず。手を止めずにグルグルしていると、炎が少しずつ収まってきた。面白いことに、上がった炎は全然熱くなくて、手がその中にすっぽり入っていてもどこも火傷とかした形跡もなく、ただ炎の映像に手を突っ込んでるような感じしかしなかった。

 炎が収まってくると、掻き混ぜる棒に謎液体が絡みつくように粘度が増していった。ぐいぐいMPを消費しながら腕に力を込めて続けると、釜の中の液体が凝縮されていき、もうすぐMPも尽きる、というところで、コロン、と一つの赤い石が出来上がった。

 鑑定すると、『紅聖樹の輝石:炎の力を凝縮した輝石。特定の場所で使うことによりしるべとなる』と出てきた。あ、今の鑑定でMPが尽きた。回復回復。



「出来た」



 釜の中から赤い石を取り出して、ふと周りを見ると、ユーリナさん以外誰もいなかった。



「魔物をやっつけに行ってるから、マック君は気にせず作業を続けててね」



 きょろきょろする俺にユーリナさんが弓を片手に教えてくれる。すごく集中してて、周りを見てなかった。

 そんなことをしてる間にも、ヴィルさんが木の間から戻ってきた。手にした片手剣にはひびが入っていて、鎧に覆われていない部分のインナーがスパっと切れてたりするから、もしかしたらかなり苦戦しているのかもしれない。

 俺と目が合ったヴィルさんは、「出来たのか?」と目を輝かせて近寄ってきた。ボロボロの剣を新しい剣に持ち替えながら。



「今、一つ目が出来ました。これからウツボカズラに食べさせます」



 興味津々で見ているヴィルさんとユーリナさんの視線を感じながら、赤い石をウツボカズラにポイっと投入する。

 モグモグとウツボカズラが赤い石を食べている。これが違ったらさっきみたいにそっと蔓で排出するんだろうな。

 モグモグが収まると、薄い緑色だったウツボカズラは、下の方から赤く色付いていき、蓋まで赤く染まったと思った瞬間、蓋をパカっと開けて、そこからざああああああと大量の蔓を柱に沿うように天井に向かって伸ばしていった。



「うわ、すごい光景」

「なかなか壮観だな」



 ざざざざと蔓が伸びていく音が響く。

 三人で見上げていると、セイジさんとクラッシュも戻ってきた。

 皆で伸びていく蔓を見上げる。その蔓は天井まで到達すると、そこを突き破る様にしてさらに伸びていった。

 って見惚れてる場合じゃなかった。

 次を作らないと。



 MPを回復しつつ、残りの二つを作る。

 出来上がった物をウツボカズラに投入していくと、さっきと同じように青く、そして黄色く変色したウツボカズラが天井に向かって大量に蔓を伸ばした。



「道は出来たか」



 魔法陣を描いて、セイジさんが宙に向かって問いかける。



『変なもんが天井から伸びて来やがった。これは中に入ればいいのか?』

『植物の柱が目の前にあるわ。それに入り口がついてるから、これに入って上に行けばいいのかしら』

「どうやらその様だぜ」



 青くなったウツボカズラが排出した蔓の束は、一度天井を突き破り、今度はそのすぐ後ろの天井を突き破って降りてきて、俺が2人で手を伸ばしてようやく1周できるほどの蔓の束を地面まで伸ばしていた。

 そして、その勢いのまま地面に突き刺さった蔓の束は、接地している所に俺たちが通れるくらいの隙間を開いた。

中を覗くと、手足を掛けれるようになのか何なのか、まるで梯子の様に横向きに蔓が一定間隔で張られていた。



『お次はどんなもんが出てくるのか楽しみだなっと』

「アルの所は苦戦してるからな」

『エミリとセイジは苦戦してねえってのかよ』

「俺たちもエミリも楽勝だな。そっちに一人でも魔法をまともに使えるやつがいればよかったんだけどな。ま、頑張れ」

『それならもう問題ないぜ。ヴィデロがいるからな』



 勇者の声に俺はバッと宙を見た。

そこにヴィデロさんがいるわけじゃないけど、勇者が見えるわけじゃないんだけど。

 ヴィデロさんが頑張ってるのかな。頑張ってるんだろうな。好き。



『あの鎧面白えなあ。雷を溜め込んで一気にぶっ放せるんだからよ。月都が雷魔法をヴィデロに連発して、溜まった雷をヴィデロが魔物にぶっぱなしゃ、怖いもんなしだぜ。でもって、俺は役立たずだ』



 豪快な勇者の笑い声まで聞こえてきて、俺はホッと息を吐いた。ヴィデロさん、頑張ってるんだ。俺も頑張るからどうか無事でいて。



「アルが役立たずなんて笑い話だな。たまにはお荷物も楽しめよ」

『なになに、アルが役立たずなの? やだ面白い。こっちはなかなか楽しめてるわよ』

「全く物理攻撃が効かねえらしくてよ、お荷物と化してるぜ」

『あはは、お荷物のアル! 目の前で見てみたいわ』

『セイジお前何言ってんだよ……ってもしかしてエミリにチクってんのか? そういうセイジはどうなんだよ。そこの魔物ってのはどんなもんが出てくるんだ?』

「俺の所は普通の雑魚だな。魔法も物理攻撃も結構効くから楽勝だぜ。それ以外では俺がお荷物だけどよ」

『セイジもお荷物って。もうどうなってるのよここ。あなたたちがお荷物とか』

「あいつだったら無双できるだろうよ」

『そういう場所なのか』

『そういう場所なのね』



 セイジさんの言葉に、2人が同時に同じ言葉を返していた。どんな場所って認識したんだろう。すごく気になる。



「とりあえず進もうぜ」

『おう』

『ええ』



 念話を終えたセイジさんは、さてと、と改めて目の前の蔓の回廊を見上げた。

 かなり高い天井まで、この蔓の中を上って行かないといけないのかな。結構骨が折れそうだ。

 溜め息を呑み込んでいると、ヴィルさんが躊躇いなく一番目に蔓の回廊に入って行った。



「ちょ、ヴィルさん?!」

「こんな細い中に魔物が出たとしてもたかが知れてるだろ。先に行くから……なんだ、エレベーターみたいだ」



 ヴィルさんの声がだんだんと離れていく。

 え、待って、最後なんて言った? エレベーターみたいって、一体中はどんな風になってるんだ。

 慌ててヴィルさんの後を追って中に飛び込み上を見上げると、ヴィルさんの周りの蔓がスススス……とヴィルさんの身体を運んでいた。蔓を掴んで足を掛けた瞬間、俺の身体もその蔓に持ち上げられるようにスルスルと上に向かって行く。確かにエレベーターだ。楽チンだ。

 俺の次に入ってきたクラッシュも同じように蔓を掴んだ瞬間身体を持ち上げられて、「わ、なにこれ?!」とちょっと声をひっくり返していたので、なんだか和んだ。



 結構な速さで上の階につれてきてもらった俺は、蔓に追い出されるように回廊から押し出されて、こけそうになったところをヴィルさんに支えられて事なきを得た。

 立ち上がろうとすると、後ろからクラッシュが勢いよく回廊から押し出されて、俺の背中にぶつかって来る。今度はヴィルさんも耐えられなかったらしく、俺とクラッシュに押しつぶされていた。そこにユーリナさんが出てきてさらにクラッシュを押しつぶし、ヴィルさんの口から潰れたような声が洩れる。実際に潰れてるんだけどね。

 ちゃんと入り口で立ち止まったセイジさんに「何やってんだよ」と呆れた声で助け出されるまで、俺はクラッシュとユーリナさんの下敷きになっていた。苦しかった。そしてヴィルさんごめんなさい。でもヴィデロさんだったらきっとあれくらいでは揺るがないんだろうな、なんてヴィルさんの薄めの胸元から立ち上がりつつ思う。ヴィデロさんは雄太に押しつぶされてないかな。雄太くらいだったら普通に横抱きに出来そうだよねヴィデロさん。見てみたいような見たくないような複雑な気分。

 なんとか人間サンドから解放されると、ようやく周りの様子を確認することが出来た。

 最初の所のような神殿内部風廊下。ユーリナさんが何も言わないところを見ると、今度はトラップはないみたいだった。



「どうにも気持ち悪いところだな」



 マップにも魔物のマークは映ってないし、周りも普通にちょっと薄暗い回廊って感じなんだけど、ヴィルさんのその一言で、俺たちの警戒はMAXになった。



 
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